バレンタイン
ソワソワ。
そわそわ。
そわそわ・・・気持ちや態度が落ち着かないさま。
僕はずっとそわそわしている。
朝起きた瞬間からそわそわしている。
登校している今もそわそわしている。
だって今日は1年で最も男子がそわそわする日、そう、バレンタインなのだから!!
『バレンタイン』
基本的には、女子が気になる男子へとチョコを渡すというドキドキキュンキュン恋愛イベントである。
しかし、近年では、好きではないが仲のいい男子にあげる義理チョコや女子から女子への友チョコであったり、優しい女子がクラスの全員に配ったりとバレンタインチョコの多様化が進んでいる。
だからこそ、だからこそである。チョコの多様化が進み、チョコをもらうことが比較的容易くなったからこそ、義理チョコや友チョコはもちろん、クラス皆に配るチョコすらもらえない真の陰キャが浮き彫りになってしまうのである。
ちょうど配る時にトイレに行っていたり、そもそも存在を忘れられていたりと、悲惨な運命が待っているのである。
バレンタインとは、陰キャたちに地獄の所業を強いる残酷な日なのである。
僕は今まで、正直言って、中学生以降、お母さん以外からチョコをもらったことはない。
小学生の頃は、心優しき女の子からもらったが、思春期を超えてからすっぱりなくなってしまった。
だが、今年の僕はひと味違う!!
なんてったって、僕は「彼女持ち」なのである!
ただのチョコではない、本命チョコがもらえるのである!!
フハハハ、フーハッハッハッ!!!!
世の男どもよ、ひれ伏せ!!
我こそがこの世界の覇者、「本命チョコをもらえるやつ」である!!
羨ましかろう!!!!
さて、沙耶はいつ僕にチョコくれるんだろうなぁ〜。
朝、下駄箱の中に入ってたりして!いや、机の中?それとも、お昼ごはん食べる時??それともそれとも放課後に2人で??
くぅ〜、いつもらっても、理想のチョコシチュエーションじゃん!!
そんなわけで僕は、そわそわしていた。
学校に着く。
まずは、最初のシチュエーション、下駄箱の中である。
意を決して開ける。
中は僕の上履きだけだ。
まあ、最初はこんなものだろう。別に最初から下駄箱ではないよなって思ってたしね!
次は机の中である。
沙耶はもう学校に来ている。
いつもは一緒に登校してるのに、今日は別々に行こうってLINE来たしな〜。
もしや、僕より早く来て、机の中に入れるためでは??
僕は急いで、机の中を探る。
しかし、チョコらしいものは発見できなかった。
ま、まあ、まだ朝だしね。
朝にもらっても、あっけないってもんよ!
それから、刻々と時間は過ぎた。
お昼ごはんを沙耶と一緒に食べようと思ったら、今日は友達と食べるらしい。
まあ、僕とだけじゃなくて、たまには友達と食べるのも大切だしね!
それから、沙耶と少しでも話そうとしたが、今日の沙耶は機嫌が悪いのか、一言二言交わしただけで会話が終わってしまう。
そして、放課後が来た。
正直、放課後にもらえる確率が1番高い!
そう思いながら、沙耶と一緒に帰ろうと声をかけようとした。
「さ、沙耶」
「ごめん、貴志!今日、友達と遊ぶから!別々に帰ろ!じゃあ、また明日!!」
「ま、また明日。」
そう言って、沙耶は教室をすぐに出て行ってしまった。
僕はそのまま1時間ほどその場で呆然としていた。
な、なにか僕は悪いことをしただろうか?
倦怠期というやつなのだろうか?
友達と遊ぶのはもちろん良いことなのだが、沙耶はこういうイベントごとをとても楽しむタイプなのだ。
だから、今日も何かすると思ってたのに。
最近、浮かれ過ぎてたのかな。調子に乗ってたのかな。
はぁ、今年も結局、バレンタインチョコはゼロか。
彼女ができても何も変わらなかったな。
そんなことを考えていたら、気づくと僕は教室を出て、帰り道をとぼとぼと歩いていた。
これほど、「とぼとぼ」という言葉が似合う人はそうそういないだろう。
僕は自分の悪いところを考えてリストアップし、自己嫌悪しながら帰っていた。
「た〜かし!そんな暗い顔して、どーしたの??笑」
下を向いて歩いていると、なんだか明るい沙耶の声が聞こえたような気がした。
僕も末期だな。チョコをもらえなかったのが相当ショックだったのか。
いるはずもない沙耶の声が聞こえるなんて。
「ちょっと貴志!!大丈夫!?あたしだよ!!沙耶だよ!!」
また沙耶の声が聞こえてきた。
え?ほんとに沙耶がいるのか?
僕は顔をあげる。
するとそこには、僕の大好きな彼女、姫川沙耶がいた。
「さ、沙耶、ほんとに沙耶?」
「うん!沙耶だよ〜!!サプライズで登場しようと思ってたんだけど、貴志がこんなに落ち込んでるって思わなくて!ごめんね!」
ほんとに沙耶だ!!
よかった〜!僕は嫌われたりしてなかった!!
でもどうしてサプライズを?
「よかった。何か僕が悪いことしたって思ったよ。でもどうしてサプライズ?」
「ん〜と、最近、なんか貴志にばっかり攻められてるって思って〜、あたしもからかいたいって思ったから!でも今回は趣向を変えて、焦らし作戦してみた!!」
そういうことか〜!よかった〜!!
でも焦らし作戦の力、やばすぎるな!
てか、沙耶がいないとダメな身体になってるってことじゃないか!!
「なるほど、ほんとに寂しかったよ!こんなに、沙耶がいないとダメな身体になっているのかって思った!」
沙耶は顔を少し赤くする。
「そ、そんなこと言ったって、今日は負けないからね!じゃあ、近くの公園いこ〜!」
僕らは近くにある大きめの公園に行き、人気のないところのベンチに座った。
「じゃあ、これからポッキーゲームしまーす!!パチパチパチ!!」
ぽ、ぽぽぽ、ポッキーゲームだと!!!!
これほどエチエチなゲームはないだろう。
2人でポッキーの端と端から食べ進め、どんどん距離が近くなり、片方が断念するまで続く。
そして僕たちはカップル!!絶対にそのままキスすることになる!!
つまり、ポッキーゲームしようということイコール、キスしようということなのである!!
「わ、わかった。」
僕はドキドキしながら、了承する。
「じゃあ、やろっか!笑 はい!こっちから食べてね!」
沙耶が持ってるポッキーの端っこに僕は口をつける。
「よーい、スタート!!」
始まった。
沙耶の顔がとてつもなく近い。
そしてお互いにゆっくりと食べ進めるたびにさらに近くなっていく。
ずっと目が合っている。
こんな至近距離で見ても、本当に沙耶はかわいい。
こんな子が彼女だなんて、今でも夢みたいだ。
僕は彼女と釣り合うような男になれてるのかな?
いや、釣り合う釣り合わないとかじゃない!
沙耶が僕を選んでくれたんだ!!
僕の命を、人生を懸けて沙耶を幸せにしよう!!
残り少なくなったポッキー。
2人とも顔を赤らめながら、そのまま長いキスをした。
2人で歩く帰り道。
幸せを感じながら、僕は歩く。
沙耶の家に着いた。
「じゃあ、沙耶!また明日ね!」
そう言って帰ろうとする僕の手を沙耶が掴む。
「ま、待って!」
そう言われ、振り返ると、沙耶がカバンの中から1つの包装された四角の箱を取り出す。
「これ、本命チョコ!絶対帰ってから開けてね!!」
顔を赤くして沙耶がチョコを渡してきた。
こんな最高の彼女、僕は絶対に幸せにしなければならない!
いや、絶対に幸せにする!!
絶対だ!!!!
「た、貴志、声が大きいよ。」
そんな決心をしていたら、また心の声が漏れまくっていたようだ。
顔をさらに真っ赤にした沙耶が目の前にいる。
「ご、ごめん、で、でも本心だから。」
「う、うん。じゃ、じゃあ、また明日!!」
沙耶はそう言って小走りで家の中に入っていった。
そんな沙耶を見送ったあと、僕はもちろん思った。
チョコ気になりすぎる!!!!
帰ってから開けてってなんだろう?
僕は気になりすぎて、全速力で家に帰った。
もうすぐ光になれたかもしれないくらいの速さだ。
家に帰り、自分の部屋に行き、渡されたチョコの包装を外し、箱を開ける。
そこには綺麗でめちゃくちゃ美味しそうなハート型のチョコと小さい紙が入っていた。
紙には文字が書いてある。
読んでみる。
『貴志へ
貴志の前だといつも照れちゃうから、言えないけど、貴志のこと、ほんとに大好き!!これからもずっと一緒にいよ!! 沙耶より』
こんなにかわいくて最高な彼女、この世にいるのだろうか?
そう思いながら、貴志はチョコを号泣しながら、しっかり味わって食べたのであった。
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