初詣

 時、過ぎ去ることいと早し。


 古事記とかに載っていそうな言葉である。


 年末になると大半の人が、「今年も早かったなぁ」とつぶやくのが恒例行事である。


 そしてうとうとしているといつのまにか年が明けているものである。


 あけましておめでとう。


 正月である。


 そして僕は今、神社の前で彼女を待っているという素晴らしい時間を過ごしている途中である。


 そう、初詣である。


『初詣』


 宗教観念の薄い日本人が何故かこの日だけは誰もが神に祈りに行くという不可思議な行事である。

 学業やスポーツ、安全、良縁などを懸命に祈り、おみくじというどんな占いよりもインチキくさいものに興じて一喜一憂するという。

 行く意味を見出すとするならば、美人な巫女さんがいるかもしれない可能性だけはあるという点だけであろう。


 僕は9時には集合場所に到着し、約束の10時まで、彼女を待っているという今でも信じられないような状況を楽しんでいた。


 もちろん1月1日の朝であり、深夜の12時ちょうどに神社で新年を迎えるなんて無謀なことはしていない。

 自論であるが、新年とはこたつの中でぬくぬくうとうとしていたらいつのまにかなっているものである。

 決してカウントダウンしてはならない。


 そんなこんな10時である。


「貴志〜!!」


 左のほうから沙耶の声が聞こえてきた。

 僕は声がした方向へと目を向ける。


 そこには、和美人がいた。


 着物を着て、髪をまとめ、清楚にゆっくりにこやかにこちらへ歩いてくる和美人がいた。


 僕はもちろん見惚れていた。


 クリスマスでエッチな格好をしていた沙耶を見ていたからか、ギャップがものすごい。

 この格好で京都を歩いていたら、僕は142度見くらいする自信がある。

 そして清楚でお淑やかな雰囲気が出ているはずなのに、大人の色気がすごすぎる。

 逆にこちらのほうがエッチなのかもしれない。

 特にうなじだ。うなじがすごくエチエチな感じだ。もっと見たい。今はちょっと見えづらい。後ろに回らなきゃ。うなじうなじうなじうなじうなじ。


「ちょっと!貴志!!笑笑 どこ見てんの!?笑笑」


 いつのまにか沙耶は僕の目の前にいた。


「え、えっと、その、少しばかりうなじを。」


「ほんとに貴志は新年になってもスケベだね〜笑笑」


 くっ、恥ずかしいが、うなじしか頭になかったから仕方ない。


「す、すみません。」


「まあ、いいけどさ!笑笑 ということで、あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!!」


「あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!」


 今年もよろしくかぁ〜。ずっと付き合ってたいよね〜。そして今年こそは、よろしくしたいよね〜、な〜んて!


「貴志、またエッチなこと考えてない??笑 そんなにあたしの着物姿いいの??笑笑」


 な、なぜバレた!?

 でも、よろしくという単語だけで妄想してたとはバレてないようだ。

 危ないぜ。


「う、うん!めちゃくちゃ似合ってるよ!!ほんとにずっと見惚れちゃった!!最高に美人さんだよ!!」


「あ、ありがとう。」


 そう言うと、沙耶は顔を少し赤くした。

 照れ屋なところは今年も相変わらずみたいだ。

 ここは変わってほしくないけどね!

 だってかわいいから!!


「じゃあ、行こっか!」


 僕はそう言って歩き始める。

 すると、やはり沙耶は少し歩きづらそうにしている。

 そこで僕はすっと手を差し伸べる。


「はい!手、繋ぎたいから繋いでもいい??」


「う、うん。貴志、ありがと。」


 顔を赤らめたまま沙耶が手を繋いでくる。

 僕も男として、成長しているようだ。

 今年は沙耶をリードする男になるぞ!!

 がんばるぞ!貴志!!


 そんな決意をしながら、僕たちは階段を登り始めた。



 お参りの列に並び、少し経つと、僕たちの順番になった。


 五円玉を賽銭箱に投げ入れ、二礼ニ拍手し、お祈りする。

 僕の願いは1つだけである。


 沙耶とこれからもずっと一緒にいられますように。


 そう願い、一礼し、僕らは隣の階段から降りようとした。


 その瞬間、きゃっ、という小さな悲鳴と共に、隣に居た沙耶が滑った。


 僕は咄嗟に左手を沙耶の左腕へと回し、抱き抱えるような体勢になった。


 閉じていた目を開けた沙耶と至近距離で目が合う。


 すると、沙耶は顔を真っ赤に染めた後、すぐに自分の足で立ち、僕から少し距離をとった。


「あ、ありがと。」


 真っ赤な顔で俯いたままの沙耶がこちらをちらりと見る。


 とてもかわいい。


「ううん、沙耶がケガしなくてよかったよ!」


 すると、沙耶は顔を背けた。

 耳が真っ赤になっているのがわかった。



 それから無言になってしまった沙耶と僕はゆっくりと歩いていた。

 そこで僕が口を開く。


「沙耶はどんなことお願いしたの??」


「……貴志が怖いオオカミさんになりませんようにって言った。」


 沙耶は少し考えた後、そう答えた。


 さっきの顔が近かったから、クリスマスのこと思い出したってことか!

 あれはちょっと強引だったって反省してるからなぁ。仕方ない。


「大丈夫!僕は沙耶が嫌がることはしないから!でもオオカミにはなりたいから、優しいオオカミになるね!!」


「〜〜!?貴志のバカ!」


 そう言うと、また沙耶が黙ってしまった。


 付き合ってからというものの、僕がからかわれる回数はもちろん多いけど、エッチなイタズラを仕掛けてくる割にはめちゃくちゃウブで攻められるとめちゃくちゃ照れ屋な沙耶を僕がからかうことも増えているなぁ〜。


 正直、最高に楽しいです。


 そんなことを考えていたら、沙耶が口を開いた。


「貴志は、どんなお願いしたの?」


 う〜ん、恥ずかしいけど、ここは正直に言ってしまうか!

 言霊ってあるしね!言ってたら叶うみたいな!!


「僕はね、沙耶とこれからもずっと一緒にいられますように、だよ!!」


 すると沙耶はまた顔を真っ赤にして、俯く。


 ほんとに攻められるのに弱いなぁ、沙耶は!

 そこがかわいすぎるんだけど!!


「……あたしと同じこと願ってる。」


 そんな呟きは、もちろんバカの小森貴志には聞こえているはずかないのであった。






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