クリスマス
街がカラフルに色めいている。
人々が何か浮き足立っている。
どこかから楽しげな音も聞こえてくる。
そう、今日はクリスマスである。
『クリスマス』
聖なる夜、子供たちがこの日を待ち侘び、サンタクロースという偶像を愚直に崇めることで、大人たちからプレゼントをせしめる行事である。
聖なる夜は、性なる夜とも呼ばれ、この日に交わることで授かるカップルも多いという。
街には幸せに溢れたリア充共に溢れるため、独り身一人暮らしたちは部屋に籠り、そのまま年が明けるまでじっとこたつの中に潜み続けるという。
僕といえば、もちのロンで、浮き足立ちまくっていた。
飛べるかと思うぐらい足取りが軽い。
街ですれ違う子供たちといきなりハイタッチするぐらいである。
なぜかというと、僕は今、沙耶の家へと向かっているからである!
沙耶からお誘いがあり、クリスマスパーティーを2人きりで沙耶の家ですることになったのだ!
重要な部分を繰り返そう。
2人きりで沙耶の家で、だ!
そう、「性なる夜への誘い」である。
お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、今日は小森貴志は、立派な大人になります!
さらに、トナカイのコスプレを持ってきてとのご要望である。
つまりだ、僕がトナカイということは、もちろん、もちのろんで、沙耶はサンタさんのコスプレをすることになるのである!
ヒャッホウ!!ヒャッホウ!!ヒャッッッッホウ!!!!
興奮しすぎて、トナカイのコスプレをもう着てしまっているが、それは些細なことである。
だからこそ子供たちとハイタッチしまくってても、あまり不思議がられず、何かのイベントか?と思われている現在である。
トナカイになれってことは、草食ではあるが、今日は獣になってほしいという沙耶からの暗示ではないだろうか?
よし、いつもは情けない僕だけど、今日こそは獰猛なトナカイになってやるぜ!!
そんなことを考えていたら、もう沙耶の家へと着いてしまった。
今日は最初から親御さんが居ないことはわかっているので、さらっとインターホンを押す。
ガチャリ、扉が開く。
「え?貴志なんでもうトナカイなの!?笑笑 その格好でここまで来たの!?笑笑」
そこには私服姿の沙耶がいた。
あったかそうなちょいとおっきめのニットで萌え袖がなんとも言えないかわいさを生み出している。
てか、まだサンタコスプレちゃうんかい!!恥ずかしっ!
「えっと、なんかテンション上がっちゃって。」
「ふ〜ん、そんなに楽しみだったんだ〜!笑笑 まあ、とりあえず早く入って〜!」
「お、お邪魔します。」
くぅ〜浮き足立ちすぎてた〜!恥ずい!でも普通に私服姿の沙耶もかわいい!!
リビングに入ると、部屋の飾り付け、クリスマスツリー、さらにテーブルの上には半端なく美味しそうな料理がずらりと並んでいた。
「こ、これ全部沙耶が作ったの??」
「うん!ちょっと張り切りすぎて、たくさん作りすぎちゃったんだけどね〜笑」
最高に素晴らしき彼女すぎる。僕泣いちゃうよ。かわいいし、優しいし、料理上手だし、意外と照れ屋だし、すぐ顔赤くなってかわいいし、一緒にいるだけでめちゃくちゃ楽しいし、あと、
「も、もういいから!!や、やめて!!」
おっと、また心の声が漏れていたようだ。
「ご、ごめん、本音が全部漏れちゃった。」
「もうわざとでしょ!それ!ほんとに言い過ぎなんだから!!もう!」
沙耶が照れて赤くなってまたかわいくなってる。
「そうだ!あたしも着替えないとだね〜!
あっ!いいこと考えた!笑笑 ちょっと待っててね〜!笑笑」
そう言うと、沙耶はニヤニヤしながら、部屋から出て行った。
なんだあのニヤニヤ顔は?
あれは僕をからかおうとしている時の顔だ!
でも大丈夫だ!コスプレへの耐性はできている!
サンタクロースだろ?絶対かわいいはずだが、動揺せずクールに「かわいいね」って言ってやるぜ!!
僕だって成長してるんだ!!
そう思っていると結構すぐに沙耶が帰ってきた。
服装はそのままだ。
あれ?どうしたんだろう?
待てよ、よく見ると手にサンタの服を持っている。どういうことだ?
「貴志〜!笑笑 あたしちょっとここで着替えるから〜、ちょっと後ろ向いてて〜!笑笑」
な、ななな、なんですとーーーーーーーーーー!!!!
生着替えですとーーーーー!!!!
僕のすぐそばで沙耶があられもない姿になるってこと????
後ろを振り返ればそこには着替えてる沙耶がいるってこと????
なんなんだ!その悪魔的状況は!!
「ちょっと〜!笑笑 早く後ろ向いてよ〜!!笑笑 まあ、貴志がじっとあたしの着替えを見たいなら見せてあげてもいいかな〜!笑笑」
「す、すみません!!小森貴志!後ろ向きます!!」
僕は反射的にそう答え、一瞬で後ろを向いた。
「貴志、焦りすぎ〜!笑笑」
くそう、からかわれモードに入ってしまっている!
だが、今の僕には沙耶の着替えをじっと見るなんてことをしたら、心臓が破裂してしまうだろう。
賢明な判断だったはずだ。
すると後ろから布が擦れるような音が聞こえてきた。
ほ、本当に着替えてる。
すぐ後ろで沙耶が着替えてる。
ふ、振り向きたい。
ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、見たい!!
いやダメだ!!
沙耶は僕を信用しているんだ!
そんな真似はできない!!
いやいや、今日僕は獰猛なトナカイになるって決めたろ?
ここで行かなきゃダメだ!!
理性と本能がわかりやすく戦っている。
その戦いの結果はお察しの通り、僕は童貞だったということである。
「貴志!もう振り向いていいよ〜!」
永遠とも感じられる戦いに理性が勝ったあと、沙耶から声がかかった。
言葉のまま僕は振り向く。
なんと言葉で表現したらいいかわからないが、魅惑のサンタさんがいた。
スカートの丈は短く、ミニスカと呼べるような長さ、細い腰つき、肩が出るような衣装、目を惹きつける綺麗な鎖骨、チラッと見える谷間、その何もかもが僕を誘惑してきた。
こんなかわいくて、エッチなサンタさんは見たことがない!!
「ちょっと貴志!見惚れてないで感想言ってよ〜!笑笑」
案の定、僕が固まっていると痺れを切らした沙耶からそう言われてしまった。
「ご、ごめん、本当に見惚れてた。めちゃくちゃかわいい!超似合ってる!!大好き!!!!」
「あ、ありがとう。じゃ、じゃあ、料理食べよっか!」
沙耶は少しだけ顔を赤らめていた。やっぱりかわいい。
それから僕は、料理を食べまくった。食べて食べて食べまくった。
豪華すぎて美味しすぎて沙耶はプロのシェフではないかと本当に疑ったほどである。
最後の手作りケーキなんてやばかった!
沙耶にあ〜んされて食べさせてもらったのだが、もう元々おいしいのにあ〜んでまたおいしくなってやばかった!
そして食事が終わり、お待ちかねのプレゼント交換である。
「じゃあ、プレゼント交換ね!!じゃあはい!あたしのから!」
「ありがとう!」
僕はドキドキしながら、袋を開ける。そこには紺色っぽいマフラーが入っていた。
「それ手作りなんだ〜!」
「ほんとに!?すごい!!めちゃくちゃ嬉しい!!じゃあ、僕も、はい!どうぞ!」
「さてさて、なにかな〜、あっ、マフラーだ!!かわいい!!」
僕の選んだプレゼントも沙耶と同じでマフラーだ。
「僕は手作りできないから買ったやつだけど。」
「ううん!嬉しい!!似合うの選んだくれたんでしょ?ありがと!というかあたしたち、同じプレゼントとかすごいね〜!笑笑」
「僕もびっくりしたよ!笑」
「でもあたしはもう一つプレゼントあるんだ〜!笑笑 ちょっと貴志、後ろ向いてて〜!笑笑」
言われた通りに後ろを向く。もう一つあるのか!なんだろう??楽しみすぎる!!
「貴志〜!いいよ〜!」
期待しながら、僕は振り向く。
そこには床に座り、髪にかわいくリボンを結んだ沙耶が居た。
「もう一つのプレゼントは、あ・た・し♡」
その瞬間、僕の理性のか細い糸が完全に切れてしまったのがわかった。
「きゃっ!」
僕はソファーから離れ、床に座っている沙耶を押し倒す。
沙耶が顔を赤くして動揺しているのがわかる。少し涙目になっている。
「えっと、あの、た、貴志?」
「僕はいつもヘタレでチキンだけど、僕だって男になる時があるんだよ!」
そう言って沙耶に顔を近づける。
「へ?あ、えっと、あの」
沙耶は混乱し、目を閉じる。
僕は沙耶の唇と自分の唇を合わせた。
フレンチキスはさすがに何度かしている。
ここからは初めてだ。
僕はそっと沙耶の唇から中へと舌を入れる。
初めてのディープキスである。
沙耶が目を開けて驚く。
僕はやめずに舌を入れ続ける。
すると沙耶がさらに顔を真っ赤にして、目を回し始め、プシューという音を出しながら、気を失ってしまった。
や、やらかしてしまった。
やっぱり強引だったかな?
いやでもあれは沙耶も悪いと思う!
あんなことをされて襲わない男がいるだろうか!いやいないだろう!
沙耶はそこらへんちゃんとわかって僕をからかってきているのだろうか?
僕はチキンだが、やるときはやる男である!
沙耶が起きたらそこんとこ話しておかないとね!
すると僕の太ももの上で寝ていた沙耶が起きた。
沙耶は起きると、僕と目が合い、状況を確認して顔を赤くした後、さらに何があったかを思い出して真っ赤になった。
「えっと、えっと、あの」
「沙耶、ごめんね。いきなりキスしちゃって。でも沙耶も悪いんだからね!あんな風に誘われたらさすがの僕も狼になるからね!!」
「う、うん。で、でも嫌じゃないから。」
ん?ということはもしやその先もいけたのか??
「も、もしかしてその先も?」
沙耶はコクリと頷く。
「え、えっと、じゃ、じゃあ」
また頭が悪くなってきた僕は沙耶に近づく。
「で、でも、ま、まだダメ!あ、あたしの心の準備ができてから!だ、だから今日はキスまで!」
僕はまたすぐに沙耶にキスをする。
そんなこんなで僕たちのクリスマスは過ぎていった。
姫川沙耶が攻めに弱いことを改めて思い知った夜だった。
小森貴志の童貞卒業への道は近くて遠いようである。
だが、2人はとても幸せである。
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