第12話 パンツの色

 人生にはターニングポイントというものがある。

 転換期とも呼ばれ、いわゆる人生の重要な分岐点である。

 そこの選択結果によってその後の人生が変わってくるというものである。

 つまり、人生が変わるきっかけである。


 断言しよう。

 ここが僕の人生のターニングポイントであると!!!!

 姫川さんのパンツの色を当てられるか、当てられないか。

 この結果によってこれからの僕の人生は変わるであろう!

 もし当てることができれば、僕は自分自身に自信を持つことができ、これからは勝ち組として生きていくことだろう。

 しかし、もし当てることができなければ、僕は一生負け犬として負け続ける人生を送ることになるだろう。

 絶対に負けられないゲームがここにある!!!!


 絶対に絶対に絶対に僕は姫川さんのパンツの色を当ててみせるんだ!!!!


『パンツの色』


 至極当たり前のことであるが、女性の下着にはさまざまな色がある。

 男性のものと比べたら、その色の種類は豊富であると言えるだろう。

 清楚さをもたらす白、大人っぽさを際立たせる黒、情熱的な赤、扇情的なピンク、色気を醸し出す紫など、それぞれの色によって相手に与える印象は異なる。

 それぞれの色にそれぞれの良さがあり、どのような色の女性の下着が好きかという討論だけで、我々男たちは、夜を越すことができるのである。


 さて、推理を始めようではないか。


 まず前提条件として、姫川さんはギャル。

 つまり、派手な色を履いている可能性も十分にあり得るということである。

 さらに言えば、以前、僕が見たのはピンクのブラであることから、ピンクのパンツも所持していることが推察される。

 だがしかし、所持していることが僕にバレている色のパンツを姫川さんが履いてくるだろうか?

 いや、逆に姫川さんの性格的に履いてきそうな気配もある!!

 そして、そのほかの色も十分にあり得る。

 姫川さんは白を履かないかと少し考えたが、姫川さんは正直、あの見た目だが、いい人なのである。

 なので、清純を表す白という可能性も捨てきれない!!


 わ、わからない。

 全く見当がつかない。

 昨日は勢いで了承したが、こんなに難しいゲームだとは。

 こんなの完全に僕が不利ではないか!!

 いや、こんなゲームをしていただけているだけで本当にありがたいのだ。

 パンツの色を当てたら、見せてくれるなんて、そんな仏のような女子は姫川さんの他に存在しないだろう。

 たとえ難しくても、このゲームに挑戦する価値しかない!!!!


「貴志!おはよ〜!!」


 めちゃくちゃ早めに登校し、学校で考えまくっていた僕のもとについに姫川さんが登校してきた。


「お、おはよう。」


 話したいが、それどころではない。僕は考えに考えを重ねて重ねて重ねなければ!!!!


「貴志〜、昨日も言ったけど、質問もしていいんだよ〜??笑笑」


 あいさつを返したあと、また頭を悩ませ始めた僕に姫川さんがニヤニヤしながら言ってきた。


 そ、そうだ!!そういえば、質問もありだったんだ!!

 これで選択肢を狭めることができるぞ!!

 な、何を聞こう。

 と、とりあえず好きな色でも聞いておくか!!


「ひ、姫川さんは、どんな色が好きなの?」


「ん〜と、そうだなぁ〜!ピンクかなぁ〜!貴志に見られちゃった、ピ・ン・ク!笑笑」


 く、くそーーーーーーーー!!!!

 やっぱり覚えていた!!

 これでピンクの線はほぼ無くなったと言えるだろう。

 さすがに見られている上に今日履いてきている人がこんな発言しないだろう。

 ぎゃ、逆に絞れたかもしれない!!

 ピンクはないってことだから!少しは狭まったはずだ!!

 いや、ちょっと待て!逆に履いてきているという可能性も捨てきれないだろ!!

 あ〜もう!わかんない!!

 質問を聞いてもさらに混乱してしまう!!


 そんなことを考えていたら、もう昼休憩である。

 と、とりあえずご飯を食べないと思考が回らないな。

 そう思って僕はお弁当を出す。


「貴志〜!一緒に食べよ〜!!」


 普段は友達たちと食べることが多い姫川さん。たまに僕とも一緒に食べてくれるが、今日は食べてくれるらしい。


「う、うん!」


 まあ、ここではヒントも見つけられないと思うが、姫川さんと一緒にいたら、何か見つかるかも。


 あっ!そうだ!!!!姫川さんの弁当の色合いだ!!

 これはここまで僕が姫川さんと過ごしてきた経験からの予測だが、姫川さんは多分自分のお弁当を自分で作っている!!

 姫川さんに以前、姫川さんのお弁当をあ〜んしてもらった時、めちゃくちゃ褒めてまくった心の声が出てしまったのだが、姫川さんは顔を赤くしていた。

 ほめすぎだとも言っていたはずである。

 その時は僕が気持ち悪くて怒っていると思ったが、もしかすると、自分の料理を褒められて照れていた可能性もある!!

 姫川さんのお弁当の色合い、これは多分チャンスである!!!!


 チラッと、姫川さんのお弁当の様子を伺う。

 しかし、黄色、緑、茶色、白などさまざまな色合いが鮮やかで全くわからない。

 いや、待てよ。

 よく見てみろ。

 白ごはんの部分が多くないか?

 ということは、ま、まさか!?

 白色のパンツを履いているという暗示!?

 姫川さんが意味もなく僕と一緒に昼ごはんを食べるはずがない!!

 そして姫川さんはワンサイドなゲームなどつまらないと思っていることだろう。

 だからここでヒントを出した!!

 つまり、答えは白!!

 わかってしまったな。

 まあ、一応、質問権を行使させてもらうか。


「姫川さん。質問権を行使させてもらうけど、今日はどうしてそんなに白ごはんの割合が多いの??」


「あ!これ〜!バレちゃったか!実は今日、少し寝坊しちゃって!!おかずを少ししか作れなかったんだ〜!!」


 ふむふむ、言い訳にしてはやりますな。

 でも、バラしましたね?あなた?

 自分でお弁当を作っていることをな!!!!


「へぇ〜、姫川さんって自分でお弁当作ってるんだ〜。」


「うん!そうだよ〜!!料理とか結構好きだからね〜!!」


 はい、勝ちました。

 僕の勝ちです。

 多分、姫川さんは僕のことをなめている。

 些細な変化すら気づかないザコ童貞男だとな!!

 フーハッハッハッハッ!!!!

 ぬかったな!小娘よ!!!!

 ヒントを出しすぎだのだよ!!己は!!!!


 嗚呼、放課後が待ち遠しいぜ。


 なんて考えていたら、放課後になっていた。

 僕は教室にそのまま残っていた。

 姫川さんもそのまま隣の席にいる。


 そして、教室には僕と姫川さん以外に誰もいなくなった。


 さあ、答え合わせの時間だ!!!!


「貴志〜!今日ずっと真剣に考えてたけど、わかった〜??笑笑」


「わかりましたともさ。完璧に姫川さんの暗号を解読してね!!」


「暗号??よくわかんないけどまあいいや〜!じゃあ、答え、教えて??笑笑」


 心臓が高鳴る。

 自分が緊張してしまっていることがわかる。

 だが、ここで正解すれば、姫川さんのパンツについにたどり着くのだ!!

 ここまでの道は険しくとても長いものだった。

 諦めたことすらあった。

 だが、僕の不屈の闘志がそれを許さなかった!!

 だからこそ僕は今ここにいる!!

 今こそ勝負を決める時だ!!!!


「姫川さんの、パンツの色は、し、白だ!!!!!!」


 姫川さんはびっくりしたような顔をする。これはきた。勝った。僕の勝ちだ!!


「ぶっぶーーーーーー!!!!笑笑 白じゃありませーーーーん!!!!笑笑」


 僕は膝から崩れ落ちた。


 ま、間違えた。


 僕の推理は完璧だったはずだ。


 いったいどこで間違えたんだ!!


「だから、言ったじゃ〜ん!笑笑 ピンクが好きだって!!笑笑」


 さ、最初に切り捨てたピンクだと!?

 そ、そんな、まさか。

 姫川さんがそんな勝負に出ていたとは。

 いや、多分僕が、ピンクを捨てることをわかってピンクにしたのだろう。

 完璧の僕の敗北だ。

 姫川さんに僕は一生勝つことなんてできないんだ。


 僕は正直、打ちひしがれていた。


 人生のターニングポイントで、大敗北を喫してしまったのだから。


「まあでも!貴志がなんかかわいそうだから〜!特別に見せちゃおっかなぁ〜!!笑笑」


「え??」


「なに〜??やっぱり見たいの〜??笑笑」


 これ以上行ってしまったら僕はもう本当にダメになってしまう!そう思ったが、もう僕は一生負け犬な人生である。

 ここで意地を張ったところで後悔するだけである。

 ぜひ、この提案に食いつこうではないか!!!!


「み、見たいです!!お願いします!!」


 僕はもちろん土下座する。


「しょうがないなぁ〜。じゃあ、見ててね?笑」


 姫川さんがゆっくりとスカートを上げていく。

 も、もう少し。もう少しで、我のエデンの園が見える。

 楽園が待っているのである!!

 僕は血眼になって姫川さんのスカートが上がっていく様子を見守る。


 す、すると、何か見えた。


 つ、ついにきたのか!!!


 瞬きを忘れていた目に一度瞬きをすることで潤いを与える。


 そこで見えてきたのは!!


 黒。


 黒色だった。


 ま、まさか、パンツ色、嘘をついたのか!!


 と思ったが、よく見ると、ただの短パンだった。


 要するに僕はやられたのだ。


 完膚なきまでに。


 完全なるからかいをされて。


「ぷぷぷ〜!!!!マジでウケるんですけど!!!!笑笑 ほんとに見せると思ったの〜!!!!笑笑 正解したならわかるけど、間違えたのに〜!!笑笑 短パン見たときの貴志の顔、ほんとにおもしろかった〜!!!!笑笑」


 僕は瀕死という言葉が最も適しているほどの状態になった。


 もうダメだ。


 僕はもう本当にどうしようもない負け犬だ。


「ひ、ひどい」


 僕は思わず呟いてしまう。

 それだけ期待値が高かったのだ。


「だって〜!貴志、あたしに話しかけもしないし〜、ずっと下のほうばっかり見てるし〜!!あいさつくらいしか返してくれないし〜!!それも2週間も!!あたしだって結構寂しかったんだからね!!」


 ぼ、僕は間違っていたようだ。

 僕は集中すると周りが見えなくなってしまう。

 それで昔から孤立して、今までぼっちになっていた。

 そうだ。僕には今、姫川さんがいるんだ。

 唯一僕に話しかけてくれる存在すらも昔からの癖で無視していたなんて本当にダメなやつだ僕は。

 こんな僕とも関わってくれる姫川さんだけは絶対に裏切らないようにしよう。


「ご、ごめん。」


 僕はしっかりと謝った。


「別にいいよ〜!!貴志がそーいうやつだってことはわかってたし〜!!でも、忘れてないよね〜??このゲームにあたしが勝ったら、貴志の1日を自由にできるって!!笑笑」


 わ、忘れてたーーーーーーー!!!!

 許していただけたのは本当に嬉しいけど、この罰を忘れていた!!

 ど、どんなえぐい罰が来るのか??

 パンツ1枚で公園に磔の刑か??

 町内をパンツ1枚でうさぎ跳びで一周か??

 な、なにが来るんだ!!

 覚悟を決めるんだ貴志!!これによって、自分の強欲と罪を償うのだ!!


「う、うん。な、なんでも言って?」


「ん〜と、そうだなぁ〜!じゃあ、今週の日曜、あたしとデートしよ!!笑」


 え???????

 な、なんて言った????

 で、デート??

 デートって言った??

 ふむふむ、デートか。

 で、ででで、デートだとぉーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


 ど、どういう罰??

 どういう意味??

 なにが起こってるの??

 僕と?姫川さんが??デート??

 どういうこと??

 えっと、確か今日が金曜日でしょ??

 ということは、明後日ーーーー!!!!

 やばいてやばいてやばいてやばいて!!


「じゃあ、そーいうことでよろしく〜!!また日曜日ね〜!!集合場所とかはLINEで送るね〜!!」


 そう言って姫川さんは帰っていった。

 僕と姫川さんはLINEを交換していないが、僕も一応このクラスのグループLINEには入らせていただいているので、そこから追加するのだろう。


 と、というか、どうなんのーーーー!!!!!!日曜日!!!!


 小森貴志は、今日、人生のターニングポイントだった。彼はそこでミスをしてしまったと考えているが、本当は最高でこの道に決まっていたくらいのルートに進んでいることをもちろん気づいていない。





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今回も読んでくださってありがとうございます!!そしてフォローや評価をしてくださって本当にありがとうございます!!!もしおもしろいと思ってくだされば、フォローと評価していただけると泣いて喜びます!!

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