最終話 デート
「ラブストーリーは突然に」という曲は誰もが知っている有名曲である。
このタイトルにもあるように、人が恋に落ちるのは一瞬のことであると言える。
好きという感情に瞬間的に気づくのである。
しかし、それは2パターンあるとも言える。
何かしらのイベントが発生し、初対面の人と瞬間的に恋に落ちるか、これまでを振り返るともう恋に落ちていたとも言えるがその瞬間、完全に恋に落ちたと気づくという2パターンあると考えられる。
いずれにしろ、「恋に落ちる」というものは、瞬間的に発生するのである。
日曜日の朝6時。
僕はある駅の前に立っていた。
待ち合わせ時間は9時であるが、緊張しすぎて全く眠れなかった僕はいつのまにかもう待ち合わせ場所に来てしまっていた。
そう!今日は姫川さんとの、で、ででで、デートなのである!!!!
『デート』
幸せの象徴の1つであると言われている行為である。
主にカップルで行うものであるが、友達などの親しき仲にある者たちもよく行なっているという。
デートを行っている男女は羨望され、嫉妬され、憎悪される。
嫉妬し、憎悪に狂った独り身が稀に、親しく密接しながら前から歩いてきたカップルを避けることなくその間を通り、一時的にだがカップルの距離を離すことで自分の理性を保つこともあるという。
デートとはそれだけ強力な力を持っているのである。
僕は今日姫川さんとデートをする。
人生初のデートをする。
女の子とデートをする。
それも気になっている女の子とデートをする。
めちゃくちゃかわいい子とデートをする。
これでクソ陰キャ童貞チキン野郎の僕が緊張しないわけがないだろう。
ど、どどど、どうすんの??
そして今日なにすんの??
集合時間と場所しか伝えられておらずそれ以外はなにも知らない僕は正直混乱していた。
あわわわわわわわわわわわ。
そんなこんなでもうすぐ9時である。
あわあわそわそわしてたらもうこんな時間である。
やばいまた緊張してきた。
しっかりしろ貴志!!今日は男らしいところを姫川さんに見せてやるんだ!!
肩をいきなりポンポンと叩かれる。
僕が反射的に振り向くと、頬に刺激が来た。
指で僕の頬を押されている。
「あはは〜!笑笑 ひっかかった〜!!笑笑 おはよ〜!!貴志〜!!お待たせ〜!!」
そこには天使がいた。
僕は言葉を失う。
私服というのは破壊力がえげつない。
いつも制服をゆるく着崩したギャルの姫川さんのことだから、私服も派手で露出多めな感じかと思っていた。もちろんそれも最高なのだが。
しかし僕の予想は全く外れていた。
綺麗に下された明るめの髪、ナチュラルなメイク、白い肌、そしてそれらに完全にマッチしている桃色のワンピース。
や、やられた。
いつものギャルさも少しだけ残ってはいるが、完全に明るいスーパー美少女である。もちろん元々美少女なのだが。
正直、どのどのどのどストライクである。
「ねえ〜貴志〜!!なに固まってんの〜!!もしかして、あたしに見惚れちゃってた〜??笑笑」
僕がずっと固まっていると姫川さんがニヤニヤしながらからかってきた。
「う、うん。正直、見惚れてた。服すごい似合ってる。め、めちゃくちゃかわいいと思う。」
呆けていた僕は正直に答えてしまう。
や、やばい。めちゃくちゃ正直に答えてしまった。
ひ、引かれないよね?大丈夫だよね??
「そ、そっか。じゃ、じゃあそろそろ行こうか!」
顔を少し赤らめた姫川さんがそう言ってきた。
よ、よかった。引かれても怒ってもないみたいだ。
ん、そういえばどこに行くんだ?
「姫川さん、今日はどこに行くの?」
「それは着いてからのお楽しみ〜!!」
僕は姫川さんに連れられ、そのまま電車に乗る。
電車に30分以上揺られ、着いたのは、
「ゆ、遊園地??」
「そう!今日はここでめちゃくちゃ遊ぶよ〜!!笑笑」
遊園地か。正直、これまで全く来たことがなかった。
インドアで陰キャの僕には全く縁のない場所だと思っていたのだが、遂に来てしまうとは。
し、しかもデートで!!!!
チケットを買い、ゲートをくぐって遊園地に入る。
そこはとても眩しい世界で、人も多く、立ちくらみをしてしまいそうだった。
すると、腕をいきなり掴まれる。
右腕に柔らかな感触が伝わる。
姫川さんが腕を組んできたのだ!!
お、おおおおぱいが、おっぱいが当たってる!!!!
「あ、あの、当たってるのですが。」
僕がそう言うとニヤニヤする姫川さん。
「当たってるんじゃなくて、あ・て・て・る・の!!笑笑」
な、ななな、なんですとーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
どーいうことーーーーー!!!!
こ、これがデートか!!
僕の反応を見て、ニヤニヤしまくっている姫川さんを見ると、からかわれているのがわかるが、致し方なし!!
今日はめちゃくちゃからかわれるだろうが、全て楽しんでやるぞ!!
「やっぱり貴志の反応はおもしろすぎるな〜!笑笑 今考えてることも大体わかるし〜!笑 まあ、今日はデートだから許してあげる〜!!笑笑」
ぼ、僕がこのエッチなイタズラを抗うことなく楽しもうとしているのが完全にバレているだと!?
ま、まあ、想定の範囲内である!!
許しも得たことだし、今日は姫川さんの手のひらでコロコロと転がされるのも仕方なし!
僕はこの思い出を胸にこれからの一生を過ごす勢いなのだ!!
もう誰も僕を止めることなどできないだろう!!
「じゃあ貴志〜!!最初はあれ乗ろ〜!!」
姫川さんが指差したのはめちゃくちゃ怖そうなジェットコースターだった。
僕は乗ったことはないが超絶怖いということは見ていればわかる。
あ、あんなものに乗って命は落とさないのか?本当に安全なのか?
「ひ、姫川さん、べ、別のやつにしない??」
「あれ〜??貴志、びびってんの〜??笑笑 かわいいね〜!!笑笑 貴志が怖いならまあしょーがないか〜!笑笑」
「は!?び、びびってんねえし!!余裕だし!!乗れるし!!乗ってやろうじゃんか!!」
「あはは〜!!笑笑 やっぱ貴志は単純だな〜!!笑笑 よーし!じゃあ乗ろ〜!!」
「余裕だし!!!!」
先ほどの自分自身を呪ってやりたい。
正直に言えばよかったのだ。
びびっていると。怖がっていると。
あんなの乗ったら泣いちゃうと。
め、めちゃくちゃ怖かった。
あんなものもう一生乗ってたまるか!
僕は命が惜しいのだ!!
戦略的撤退である!!
「やっぱり貴志びびってたね〜!!笑笑 あ〜おもしろかった!!笑笑 乗ってた時の貴志のあの顔!!笑笑 思い出しただけでもお腹痛い!!笑笑」
「う、うるさい!!ほんとに死ぬと思ったんだぞ!!」
「ごめんごめん!笑笑 じゃあ、次は貴志どこ行きたい??」
「そうだなぁ〜。あれとかどう??」
僕が指差したのはお化け屋敷である。
お化けとは少し違うが、僕はバイオハザードとか超好きなのでお化け屋敷は行ってみたい部類のものだったのである。
ふと隣の姫川さんを見るとわかりやすいほど顔が青くなっていた。
「あ、あれ?姫川さん、もしかしてお化け屋敷苦手??」
「ち、違うし!!こ、怖くなんてないし!!ホラー映画見た後は夜1人でトイレに行けなくなったことなんてないし!!」
あ、これはめちゃくちゃ苦手だな。
さっき僕も煽られたし、ここは煽り返すとしますか!!
「あれ〜??笑笑 姫川さんちょっと震えてるけど大丈夫〜??笑笑 お化け屋敷怖いならやめとく〜??笑笑」
「ぜ、全然大丈夫だし!!余裕だし!!行ってやるし!!」
煽った僕がバカだった。
結果から言うと姫川さんはめちゃくちゃ怖がり、僕は理性と性欲の間でもがき苦しんでいた。
姫川さんはお化け屋敷の中ではずっと僕にぴったりとくっついていた。
それだけでも柔らかい感触が伝わってきてヤバかったのに、驚かされると抱きついてきたのだ!!
目をウルウルとさせた上目遣いはかわいいし、めちゃくちゃいい匂いはするし、おっぱいは当たりまくるしでもう本当に大変だった。
こんなに怖がっている女の子を前に変なこと考えるのは流石にダメだと思い、意識しないようにしていても意識しまくってしまい、本当に悶々としていたらいつのまにか終わっていた。
そして、姫川さんはすぐに復活してもう次にどこへ行くか考えている。
「貴志〜!!次はここ行こ〜!!」
女の子とはたくましい生き物だと思った瞬間だった。
その後、僕と姫川さんはさまざまな乗り物に乗ったり、お昼ごはんを食べたり、姫川さんがソフトクリームをあ〜んで食べさせてきたりと遊園地をめちゃくちゃ満喫していた。
もうすぐ夕方という時だった。
僕がトイレから帰ると、チャラついたイカつい男2人組に姫川さんが話しかけられ、嫌そうにしていた。
すると、男の1人が姫川さんの腕を掴んだ。
その瞬間、僕はもう走り出していた。
「僕の彼女に手を出すな!!これ以上騒ぐなら大声で叫んで警察沙汰にするぞ!」
姫川さんを抱き寄せ、僕は男たちに宣言する。
「ちっ、なんだ、彼氏持ちかよ。」
そう言うと、男たちは離れていった。
よ、よかった。
めちゃくちゃ怖かった〜。
安心して顔を下に向けると、僕に抱きしめられ、ぷしゅーという音が聞こえるくらいにめちゃくちゃ顔を真っ赤にした姫川さんがいた。
そ、そうだ!勢いで姫川さんを抱き寄せたんだった!!
や、やばい!!
僕は一目散に姫川さんを離した。
「ご、ごめんね。」
「い、いや大丈夫。」
僕らはお互いに顔を赤くして俯く。
き、気まずい。
そ、そうだ!
「ひ、姫川さん!最後にあれ乗らない?」
僕は観覧車を指差す。帰る前に乗ってみたかったのだ。
姫川さんはうなずき、僕の服の端を少し掴んで歩き出す。
ひ、姫川さんの様子がなんかおかしい。
ぜ、全然喋らないし。
観覧車に乗ってもどちらも一言も発さないというそんな気まずい空気が流れていた。
やっぱり相当怖かったのかな。
申し訳ないな。僕がトイレに行って目を離してしまったからだ。
「姫川さん、ごめんね。さっき怖かったよね?僕が目を離したからあんなことになっちゃって。」
「ううん。貴志は悪くない。でも助けてくれて嬉しかった。ありがとう。」
そう言うと、姫川さんは顔を上げて涙を少し目に溜めながら笑った。
そんな姫川さんを見て、僕に衝撃が走った。
綺麗だと思った。
こんなに美しい人がこの世にいるのかと思った。
自分が、小森貴志が、姫川沙耶のことが好きであるということを確信した。
好きで好きでたまらないことがわかった。
僕は姫川さんに恋をしていたのだ。
その事実に気づいた。
そう思うと、急に顔が赤くなる。姫川さんを意識せずにはいられない。
僕は人生で初めて恋をした。そんな初恋の相手が今目の前にいる。
これほど自分の好きという感情を意識したことはない。
僕は戸惑っていた。
「そうだ!あれ嬉しかったな〜!笑笑 『僕の彼女に手を出すな!』ってやつ!!いつからあたしは貴志の彼女になったの〜??笑笑」
すると、やっといつもの調子を取り戻してきた姫川さんがからかってきた。
そ、そうだ!あの時、僕は咄嗟にそんなことを言ってしまっていたんだった!!
や、やばい、ど、どうしよう、ごまかさないと!
「えっと、いや、あの、あれは助けようと思ったら、あの、いきなり言っちゃったというか。僕と姫川さんがそんな関係じゃないっていうのはわかってるんだけど!ご、ごめん!」
「まあ、わかってるけどね〜!笑 あたしと貴志は付き合ってないしね〜!咄嗟にいい嘘ついたね!」
そう言うと、姫川さんは少しだけ寂しそうな顔をした。
「う、うん。」
よ、よかった。あんな嘘ついちゃったけど許してもらえたようだ。
これでまたいつも通りの関係に戻れる。
いつもの姫川さんとの仲に。
いや、違うだろ貴志!!!!
僕は姫川さんが好きなんだろ!!
いつも通りの関係??僕と姫川さんはそんな関係じゃない??
違うだろ!!
僕はもっと姫川さんとの関係を進めたいんだろ!!
こんなチャンス二度と来ないだろう!!
こんな素晴らしい人が僕とデート行ってくれるなんてチャンス絶対に来ない!!
僕は姫川さんが好きだ!!!!付き合いたい!!!!
さっきの嘘を、本当にするんだ!!
「い、いや、嘘にしたくない。」
「えっ」
「ぼ、僕は姫川さんが好きだ!!姫川沙耶が大好きだ!!いつもからかってくれるところもそれで笑ってくれるのも優しいところも純粋なところも怖がりなところも全部全部大好きだ!!だからさっきの嘘を本当にしたい!!姫川さん!僕の彼女になってください!!!!」
その瞬間、姫川さんが僕に抱きついてきた。
「えっ、えっと、あの。」
いきなりで戸惑う僕。
「大好き。」
「えっ?」
「あたしも貴志のこと大好き!!だから貴志の彼女になる!!」
え?
ま、マジですか??
ほ、ほんとに??
ほんとのほんとに??
姫川さんも僕のことが好き??
姫川さんが僕の彼女になる??
や、
「やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
僕は勝利の雄叫びをあげる。
「もう貴志!喜びすぎ〜笑笑」
その後の帰り道。
「てかさ〜、貴志、告白してくるの遅すぎ。あれだけあたしがアピールしてたのにさ〜。ほんとにへたれ、陰キャ、童貞、チキン。」
「ぐはっ!す、すみません。」
「まあいいけどね〜!結局、告白してくれたし!貴志は〜、あたしの全部全部大好きなんでしょ??笑笑」
「うぐっ、は、はい、そうです。」
「あたしも貴志の全部全部大好きだよ〜!!」
これから先も小森貴志は一生、姫川沙耶にからかわれ続けていくが、それが何にも変えがたい幸せであることを小森貴志はもちろん知っている。
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ここまでこの作品を読んでくださってありがとうございます!!そしてフォローや評価をしてくださって本当にありがとうございます!!!もしおもしろいと思ってくだされば、評価していただけると泣いて喜びます!!読んでくださったたくさんの方々、本当ありがとうございました!!
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