第10話 ハグ

 人間の心理とは、まさに複雑怪奇であり、自分の心理であっても、解き明かすことは難解である。

 深層心理という言葉も存在しているように、気づいていないだけで自分の中には確かに存在している気持ちもあるのである。

 自分の心理でさえ複雑で解明できていないのに他人の心理など尚更理解することはできないだろう。


 カップ数事件から三日三晩、僕は答えを考え続けていた。


 姫川さんのことをどう思っているのか?


 その疑問の答えを見つけるため、僕は寝食を忘れるほどではなかったが、真剣に考え続けた。

 カップ数事件が起こったのが、金曜日だったということもあり、その金曜日から土曜日、日曜日も使って僕は姫川さんのことを考えていた。


 そして答えは一応出た。


 僕は姫川さんのことを好きなのかもしれない。


 これが僕の出した答えである。

 曖昧で中途半端だと思われるだろうが、これが僕の精一杯であるから許してほしい。

 もちろん姫川さんは僕をいつもからかって笑ってくる悪魔であり、我が宿敵ではあるが、あれだけさまざまなエッチなイタズラをされて、童貞の僕が姫川さんのことを気にならないはずがないのである。

 だが僕がそうなることも姫川さんの計算であり、バレればさらにからかいが増すという危険性もある。

 さらに僕はまだ好きとは断言できていない。気になってはいるのは事実だが、これが恋愛的な意味での好きなのかまだ解明できていない。ただただエッチな目で姫川さんを見ているだけという可能性もある。

 僕は慎重な男なのである。

 まだ慌てる時間じゃない。

 今のところは「好きかもしれない」この結論で良いだろう。


 そんなこんなで悩みが解決し、晴れ晴れしく僕は学校へと向かっていた。

 嗚呼、今日は素晴らしい天気だ。

 世界が僕を祝福してくれているような気がする。

 昼休憩はまた日向ぼっこでもして、地球の息吹を感じるか。


 ざわざわざわざわざわざわ


 な、なんだこの予感は!?

 僕の心の平穏を脅かすなにかが近づいてくる。そんな予感がしてきた。

 僕はゆっくりと後ろを振り向く。

 や、やはりか。


「貴志〜!!おはよ〜〜!!」


 姫川沙耶と遭遇した。


「お、おおお、おはよう。」


 な、なんだ?なんだかいつもよりめちゃくちゃ緊張するのだが!

 あ、あれだ、金曜、土曜、日曜とずっと姫川さんのことを考えていたからだ!

 ずっと考えていた当人を目の前にしたらなんか緊張きたぞ!!

 そして好きかもしれないとか思ってるからさらに緊張するぞ!!

 やばいぞ!!


「あれ〜??笑笑 貴志なんかいつもよりキョドってない??笑笑 顔も赤いし〜!!どうしたの〜??笑笑」


 ニヤニヤしながら、僕を覗き込んでくる姫川さん。

 く、くそう!!こんな落とし穴があったなんて!!

 は、早く通常モードに戻らなければ!!

 ステイクールだ貴志。落ち着け、落ち着くんだ。


「い、いや、べ、別になんでもないよ。」


 よし!完璧なポーカーフェイスだ!!


「ふ〜ん。なんかまだおかしいけど、まあいいや〜!」


 ふぅ〜、危なかったぜ。ごまかせてよかった〜。

 危機は去ったか。もう大丈夫だろう。


「じゃあ貴志!はい!」


 姫川さんが両手をに広げてそんなことを言ってきた。

 ん?どういうことだ??はい!ってなんだ??


「え、えっと姫川さん、どういうこと?」


「え〜!貴志知らないの〜??外国ではあいさつした時にそのままハグするところもあるんだってさ〜!!昨日洋画で見てやってみたかったんだ〜!!あたしたちもしてみよ〜よ〜!!」


 な、ななななんですとーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

 は、ハグですとーーーーーー!!!!


『ハグ』


 人と人が密接する究極の形であり、親愛の表現として最もポピュラーなものである。

 海外ではあいさつの一環であり、初対面であっても、友好を示すために行なっているという。

 さらにハグに加えて、頬に軽くキスをするという文化も信じられないが存在しているという。

 そのような素晴らしき文化はどんどん取り入れるべきであり、決して下心などないが、日本は見習わなければならないだろう。決して下心などないが。


 は、ははは、ハグ??

 ぼ、僕と姫川さんがハグ??

 僕がかわいい女の子とハグできる世界線なんて存在したのか。

 ほ、本当にいいのか??

 あの柔らかそうな身体に触れるのか??

 あの巨大な双丘が僕にぶつかるのか??


 汗が首筋を流れる。

 鼓動が早くなっているのがわかる。

 覚悟を決めるんだ貴志!!

 そう!これはあいさつだ!!ただのあいさつなんだ!!


「貴志〜!なにしてるの〜??笑笑 早く早く〜!!笑笑」


 くっ、くそう!!ニヤニヤしやがって!!

 これはいよいよ本当に行くしかないようだな!!

 貴志!いっきまーーーーす!!


「い、いきます。」


「はいどーぞ!」


 僕は腕を広げ、姫川さんに一歩一歩しっかりと近づいていく。

 ち、近い。

 姫川さんがもう目と鼻の先くらいの近さにいる。

 僕は姫川さんの背中へと腕を回す。

 て、手がふるえる。


 僕は手を震わせながら、ゆっくりとゆっくりと姫川の背中に触ろうとしたその瞬間のことだった。


「えい!!」


 僕の遅さに痺れを切らした姫川さんが抱きついてきたのだ!!


「貴志が遅いからあたしから抱きついちゃったじゃーん!!笑笑」


 や、やられた。

 びっくりしすぎて心臓の音がエグいことになってる。

 今日も攻められてばかりだ。防戦一方である。な、情けなし。


 少し落ち着き、思考ができるようになってきた。


 姫川さんから伝わってくる温かい体温、香る素晴らしき匂い、僕を包む細い腕、僕に当たり形を変える大きな2つの膨らみ、そして女の子特有の柔らかさ。


 は、ハグとはこんなに素晴らしいものだったのか!!!!


 ポカポカと温かい感情が僕の中に湧いてくる。


 ま、まさか、これが愛情というものなのか!?


 やっぱり僕は姫川さんのことが好きなのではないだろうか??


 温かな感情が僕の身体を駆け巡り、完全に落ち着きを取り戻し、また自分の気持ちについて思考しようとしたその時、あることに気づいた。


 早いリズムで刻まれている僕ではない鼓動が伝わってきたのだ。


 ま、まさかこれは姫川さんの??

 もしかして姫川さんもドキドキしているのか??

 き、気になる!!!


「も、もしかして、姫川さんもドキドキしてる?心臓の音が伝わってくるんだけど。」


 僕がそう言うと、姫川さんは目にも留まらぬ早さで僕から離れた。


「ち、違うし!!違うから!!あたしがハグくらいで緊張するなんてないから!!」


「えっ、でもだって、心臓の音、伝わってきたよ??」


 顔を赤らめていた姫川さんの顔がさらに赤くなった。


「あ、あたし先に行ってるから!!」


 そう言うと姫川さんは猛スピードで学校へと行ってしまった。


 ど、どうしよう。また姫川さんを怒らせてしまったようだ。

 今日はいつもより怒ってたなぁ〜。

 土下座で許してくれるかな??


 でも、姫川さん、なんでドキドキしてたんだろ??

 また謎が増えたようだ。


 姫川沙耶が攻めには強いが、滅法守りに弱いことを小森貴志はもちろん理解していない。



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今回も読んでくださってありがとうございます!!そしてフォローや評価をしてくださって本当にありがとうございます!!!もしおもしろいと思ってくだされば、フォローと評価していただけると泣いて喜びます!!

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