第8話 ノーブラ

 ピンチとチャンスは紙一重である。

 自分が追い詰められている場合でも、そのどこかに一発逆転のチャンスが潜んでいるのである。

 自分がピンチだと思っていても視点を変えるとチャンスであることなど大いにある。

 もしかすると、僕が今まで迎えてきたピンチは見方を変えるとチャンスだったのかもしれない。


 その日もいつもと変わらず、僕は素晴らしく平穏な朝を迎えていた。

 小鳥のさえずりが気持ちいい。

 僕の目覚めを祝福しているかのようだ。

 僕は別に学校が嫌いというわけではない。平和な平穏な日常が好きだから学校へ行くことも苦にはならないのである。


 学校への道のりを歩く。


 嗚呼、今日もいい天気だ。昼休憩は日向ぼっこをしながら昼寝するのもいいかもしれない。

 そんな素晴らしく平和なこれからを想像しながら歩いていた。


 しかし、平和な時代とは長くは続かないものである。


「貴志〜!!おはよ〜!!」


 どこからともなく聞こえる朝っぱらから元気で底抜けに明るい声。


 我が宿敵、姫川沙耶に見つかった。


「お、おはよう。」


 動揺を見せることなく僕はあいさつを返す。

 戦いはもう始まっているのである。

 何を仕掛けてくるのかわからない。貴志!!警戒を怠るな!!


 姫川さんをチラチラと見て、警戒をしていると、何か違和感が生じた。


 あれ?なんかいつもと違うぞ?なんだ?なんなんだ??どこが違うんだ??あっ、わかったぞ!!


 姫川さんがカーディガンを着ている!!


 いつも姫川さんはカーディガンを腰に巻いているはずなのだが、今日はYシャツの上に着ているようだ。

 だが、別に今日は寒いわけではないし、どちらかといえば少し暑いほうである。


 どうしてだ??なんの心境の変化なんだ!!き、気になる。よ、よし!聞いてみよう!!


「ひ、姫川さん。今日はどうしてカーディガン着てるの?いつもは腰に巻いてるのに。」


「あ〜、やっぱり気づいちゃった〜?実はね、今日、ブラつけてくるの忘れたんだよね〜!笑笑 もう学校の近くまで来ちゃったし、もうこのまま行っちゃおって思って!!」


 ん?それってどういうこと?


「と、ということは、今、ぶ、ブラ、つ、つけてないってことですか?」


「うん!そだよ〜!!ノーブラだよ〜!笑笑」


 な、な、ななななんですとーーーーーーーーーーーーーーー!!!!


『ノーブラ』


 もちろんブラジャーを見ることも我々男は大好きであるが、結局はその奥を拝見したいため、最大の障壁となっているブラジャーがないという状況はゴールキーパーのいないサッカーゴールと同じく防御力皆無と言えるであろう。

 さらに服越しでもその生感が伝わってくるため、ノーブラ状態の最大の利益とは、おっぱいの生々しい揺れにあると言ってよいだろう。

 もしも服越しに触れることができたなら、その感触はまさにおっぱいそのものであり、その柔らかさ、弾力に血湧き肉躍ることだろう。


 ごくりっ。


 僕はあまりの驚きと急に漂い始めた緊張感から唾を飲み込んだ。


 姫川さんはノーブラ。

 つまり、ブラをつけていないということ。

 つまり、そのカーディガンを超えて、Yシャツを抜ければ、生のおっぱいが存在しているということ。


 ふぅ〜、一旦深呼吸しよう。

 落ち着くんだ貴志。

 もちろんじっくりとその揺れを観察し、レポートを書きたいところではあるが、待つんだ。

 ここで僕がもし血眼になって姫川さんのおっぱいを見まくっていたらどうなる?

 またおっぱい星人と言われ、大いなる敗北感を味わってしまうことになるだろう。

 それは避けなければならない。

 僕は姫川さんに勝ちたいのだ!!ノーブラなんて誘惑に負けてたまるか!!


「ちょっと貴志〜!あたしのおっぱい見過ぎだって〜!!目、血走ってんじゃん!笑笑 ほんとにおっぱい星人すぎるって〜!!笑笑」


 な、なにーーーーーーー!!!!

 もう血眼になっておっぱいを見つめまくってしまっていただと!?

 なんたる不覚。

 自分の中では空を見上げてると思っていたが、おっぱいに吸い寄せられていたらしい。

 くそう!!結局、からかわれてしまったじゃないか!!まだだ!まだあがけるはずだ!貴志!!


「ちゃ、ちゃうし!!お、おっぱいなんて見てないし!!か、カーディガン!!カーディガン珍しいから見てただけだし!!」


「うそだ〜!!ほらほら!!別に見てもいいんだよ〜!!笑笑 ほらほら〜!!ノーブラだからすごい揺れるよ〜!!笑笑」


 姫川さんはそう言いながら、少し自分のおっぱいを揺らす。


 も、ものすごい揺れだ。

 こ、これがノーブラの威力なのか。

 くそう!!視線を逸らしても、その揺れに吸い寄せられてまた見てしまう!!

 ど、どうすればいいんだーーー!!!


「ウケる〜!!貴志、ほんとにおっぱい好きだね〜!!笑笑 どうする?少し触ってみる??笑笑」


 な、ななななんですとーーー!!!!

 なんなんだその悪魔的なお誘いは!!

 ダメだ!!貴志!!自分をしっかり持て!!自我を保つんだ!!

 ここで触ってしまったらもう一生姫川さんに勝てない気がする!!

 我慢するんだ!!


 そんな僕の意識とは裏腹に僕の右手が姫川さんのおっぱいへと伸びていく。

 ダメだ!待つんだ!!僕の右手!!


 止まれ!!止まれ!!止まれーーーーーーーーーーーーー!!!!


 願いが通じたのか僕の右手は姫川さんのおっぱいに触れるギリギリで止まった。


「貴志どうしたの??触らないの??笑笑」


「い、いや、僕は触らない。そ、そういうのは付き合ってからすることだ。だ、だから僕は触らない。」


 僕は精一杯強がってそう言った。


「ふぅ〜ん、それならいいけど〜。」


 ふう、なんとか乗り切ったみたいだ。危なかった。もうあとに戻れないところまでいってしまうとこだったぜ。


「えいっ!!」


 僕が油断した時だった。

 姫川さんが僕の腕に抱きついてきた。


「これならいいでしょ〜!!笑笑」


 や、やられた。腕に抱きついてくるとは。想定外だった。


 姫川さんはしてやったりといった満足そうな顔をしている。


 あれ?ちょっと待てよ?これはピンチなのか??

 ピンチとチャンスは紙一重。

 もちろんからかわれるというピンチではあるが、見方を変えれば先ほど泣く泣く断念したおっぱいの感触を腕で味わえるではないか!!!!


 僕の腕を挟む。2つの大きな膨らみ。

 服越しでもしっかりと伝わってくるその圧倒的な柔らかさととてつもない弾力とボリューム感。天にも上るような心地よさ。


 これがノーブラか。


 僕はこの右腕の感触を一生忘れないだろう。


 気づけば僕は涙を流していた。

 止めどなく溢れてくる。

 止まる気配がない。


 本当に素晴らしいものを体験した時、人は涙するんだ。


「ど、どうしたの貴志??大丈夫??あ、あたしからかいすぎた??」


 姫川さんが心配そうにこちらを見てくる。


「いや、大丈夫だ。姫川さん。いや、姫川沙耶さん。」


「は、はい!」


「僕は君という存在を一生忘れない。本当にありがとう。」


 僕はそう言って涙を拭いながら、また歩き始めた。


 いきなり貴志が見せた賢者のような凛々しさに、名前を呼ばれたことも含めて、そのギャップに当てられ、姫川沙耶が顔を赤くしていることに、小森貴志はもちろん気付いていない。



ーーーーーーーーーー


今回も読んでくださってありがとうございます!!そしてフォローや評価をしてくださって本当にありがとうございます!!!もしおもしろいと思ってくだされば、フォローと評価していただけると泣いて喜びます!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る