第7話 ひざまくら
平穏が崩れるのは一瞬である。
平和な世の中も何かたったひとつのきっかけでそこは戦場と化す。
この世は無常なのである。
僕は1人で校舎の外の木陰にあるベンチで優雅にお母さんが作ったお弁当を食べていた。
お母さんが作るお弁当は今日も絶品で、1人で丁寧に食レポしながら食べていたその時、我が宿敵が現れた。
そう、姫川沙耶である。
「はろはろ〜!貴志〜!!隣座ってもいい〜??」
なんなんだその挨拶は!!もっと和を重んじるべきだ君は!!
そしてどうしてここにお前がいるのだ!!
「ど、どうしてここに?」
「ん〜と〜、気まぐれ??」
なんなんだその理由は!!
くそ、やはりこやつは侮れない!!
僕がずっと1人で素晴らしい時間を過ごしてきたこの癒しのスポットまで侵入を許すなんて!!
不覚の至りじゃ。
さあ、今日は何をする気だ!!
またあ〜んか?それはもう僕には効かないぞ!!もう攻略済みだ!!
こちらの準備は万全だ!!さあ!かかってきやがれ!!
「いただきまーーす!!」
姫川さんは普通に自分のお弁当を食べ始めた。
チラチラと隣を見て、様子を確認したが、攻撃を仕掛けてくる様子もなく、ただ普通にお弁当を食べているだけである。
ど、どうなってるんだ!!何が目的だ!!何をしようとしてるんだ!!
その後も警戒をしながら、僕はお弁当を食べ進めたが、姫川さんからは何のアクションもなく、お互いにお弁当を食べ終えてしまった。
「ごちそうさまでした!あ〜、美味しかった〜!!」
まだ動きを見せない。もしや本当にただご飯を食べるだけなのか??
僕の考えすぎなのか??
たまには休戦ということか。ふむ、悪くないだろう。
そちらから来ないのであれば、僕も今日は手出しをしないでおこうじゃないか。
命拾いしたな姫川さんよ。
おっと、警戒状態から解放されたし、ご飯食べたあとだからか、ちょっと眠くなってきたな。
ここは木陰で気持ちいいしな。ちょっと休むとしようかな。
うとうとしてきた僕は少し目を閉じようとした。
「あれ〜?貴志、眠たいの〜??じゃあ、あたしがひざまくらしてあげようか〜??」
『ひざまくら』
永久に滅びることはないと確信されているほど多くの人々に愛されている文化であり、古くからイチャイチャの定番とされてきた、女性のひざ上、正確には太ももの上に男が頭をのせるという行為である。
ひざまくらをした状態で、耳掃除を行うのが定番であり、次点としては頭を撫でるという行為もひざまくらに付随して行われている。
女性の太ももの上は大変気持ち良いと言われており、大概の男はそこで眠ってしまい、ベンチやソファーなどなら良いが、床であれば、何時間も女性に正座状態を強いるという苦行になってしまうこともしばしばあるという。
な、ななな、なんですとぉーーー!!!!
一気に目覚めましたよ!!眠気なんて吹き飛びましたよ!!
えっえっえっ!!ひ、ひひひひざまくらだって!!!
このおなご、ひざまくらをすると申したか???
やってほしい!!いや、やっていただきたい!!いや、やってくださいお願いします!いや、小生のような下等生物ですが、ひざまくらをしていただきたいと存じ上げます、よろしくお願い致します。
ここは僕のあってないようなちんけなプライドなんか全て捨ててひざまくらをしてもらうべきだ!!
いや、でもちょっと待てよ。今日は休戦だと勘違いしていたが、これが姫川さんの狙っていたことではないのか??
フハハハハ!!姫川さんよ!!貴様の狙いはこの天才が看破してしまったようだ!!どうせ、ひざまくらで照れる僕を眺めてからかいまくる算段だったのだろう!甘い、甘いぞ姫川さん!!ここまで看破しておいて僕がその誘いに乗るわけなかろうが!!フハハハハ!!この勝負、僕の圧倒的勝利だ!!
「で、どうするの〜??ひざまくらしてほしいの〜??」
「はい、してほしいです。小生のような下等生物ですが、ひざまくらをしていただきたいと存じ上げます。よろしくお願い致します。」
み、ミスったーーーーーー!!!!
完璧に誘惑に負けてしまったーー!!!!何やってるんだ僕は!!これじゃ、姫川さんの思う壺じゃないか!!
「へぇ〜!笑笑 そんなにしてほしいんだ〜!!笑笑 ど〜しよっかなぁ〜??笑笑」
ほら見てみろ!!案の定、めちゃくちゃニヤニヤしてからかってきてるじゃないか!!どうする?今からでもやめるか??
「はい、姫川様にひざまくらを本当にしていただきたいです。どうか小生にひざまくらを恵んでくださいませ。」
「う、うん、わかった〜。」
おいーーーーーーー!!!!なに言っちゃってんの僕ーーーー!!!!
なにもかも捨てすぎだって!!
誘ってきた姫川さんもちょっと引いてるじゃん!!
まあ、もう仕方ない。旅の恥はかき捨てと言うし、ひざまくらの恥はかき捨てて行くか!!!!
でもプライドを捨てたおかげで楽しくなってきたぞ!!!!
ビバ!ひざまくら!!!!
「それではお願い致す!!」
「なんなのさっきからその喋り方。わかったよ、はい、じゃあ、ここに頭のせて〜。」
若干姫川さんに呆れられているが僕には関係ない!!ついについにひざまくらだーーーーーーー!!!!
僕はゆっくりと頭を姫川さんの太ももに乗せる。乗った!!今乗った!!
僕は自然と目を閉じる。
なんだこれは。
ものすごい温かみを感じる。
ふるさとのような温かみだ。
なんだろう、大地の息吹を感じる。
広やかな草原にいるみたいだ。
ここが僕の理想郷、ユートピアなのか。
こ、これがひざまくら!!!!
す、すごい、すごすぎる!!!
こうしてはいられない!!この素晴らしさを伝えるために、感想やこの経験を早く4000字のレポートでまとめなければ!!
僕は、かっと目を開き、急いで顔をあげようとする。
すると、とてつもなく大きい何かに行手を阻まれた。
「な、なんだ、この壁は!!ウォールマリアより断然強固だぞ!!」
その壁の弾力に押され、僕がまた太ももに落ち着き、そのまま前を見ると、2つの大きい膨らみが僕を見下ろしていた。
「貴志〜!!いきなりどうしたの〜!!笑笑 おっぱいにいきなり突撃してくるなんてやっぱり貴志はおっぱい大好きなおっぱい星人だね〜!!笑笑」
姫川さんの顔は見えないが、絶対に半端ないほどニヤニヤしているのがわかる!!
く、くそーーーーーーーー!!!!完璧に僕のミスだーーーー!!!!やらかしてしもたーーーーー!!!!レポートを書きたくて焦りすぎて、おっぱいと衝突してしまったーーー!!!!またおっぱい星人をいじられる要素が増えてしまったーーーー!!!まあ、間違いではないのだけれど。
僕の顔は真っ赤を超えるほど真っ赤になっていることだろう。
穴があったら入ってそこで一生を過ごしたい。
正直、もうかましすぎてわけがわからなくなった僕は照れまくったまま、すぐにひざまくらから脱出し、姫川さんの前に立った。
「姫川さんの太もも!!超絶柔らかくて、もう本当に最高でした!!!!本当に落ち着く場所で、一生この太ももの上で寝ていたいと思いました!!以上です!!」
テンパりすぎてわけもわからず心の奥の深層心理にあった感想を告げてしまった小森貴志は、一目散にどこかへ走り去っていった。
「え?それってどういう意味??け、けけけ結婚したいってこと??」
残された姫川沙耶は言葉の意味を考え、顔を赤らめながら小森貴志の意図しない方向で妄想するのであった。
もちろん小森貴志はこの言葉を言ったことも覚えておらず、ましてやこの言葉によってまた姫川沙耶にやり返していることを知る由もないのであった。
ーーーーーーーーーー
今回も読んでくださってありがとうございます!!そしてフォローや評価をしてくださって本当にありがとうございます!!!もしおもしろいと思ってくだされば、フォローと評価していただけると泣いて喜びます!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます