第6話 だ〜れだ?

 危機とは突然やってくるもの、それはもうわかってる。

 正直、危機の訪れを予期して回避するなんてことはもうできないと悟っている。

 だからこそ、そこで何が大事かと言うと、その危機に動じない不動の心を持つことである。

 あたふたするなんて、下っ端の三下のザコ中のザコがすることだ。

 僕はもう何が起きても動じない。

 この世の全てを平常心で乗り越えてみせる!!


 そんな戯言をほざいていた時代が僕にもありました。

 正直に言おう。

 僕は下っ端の三下のザコ中のザコでした。

 不動の心なんて持ち合わせておりません。

 平常心なんて知りません。なんです?それ?食べれます??


 僕の偽りの不動心があっという間に崩れ去ったのは、朝、学校に登校している時だった。


 僕がいつものように1つの石ころを大事に大事に無くさないように変なところへ飛ばさないように蹴飛ばしながら、学校へと向かっていると、突然、僕の視界がブラックアウトした。


「だ〜れだ??」


 そんなかわいい女の子の声が耳元から聞こえ、僕の目はその子の柔らかな手で包まれた。

 こ、これは、もしや、で、伝説の!?


『だ〜れだ?』


 古くから伝わる伝統の文化であり、一般的に女性が男を驚かすために後ろから忍び寄り、男の視界を塞ぐことで、その慌てる様を楽しむと同時に、声だけで自分のことがわかるのか確認するという意味合いもあるというものである。

 女性側は、声だけで男が考えていると勘違いしているが、男は声だけでなく、抱きつくほど密接しているために当たってしまっている背中に伝わるおっぱいの感触を味わった上で答えている。もしも答えるまでに時間がかかっているとすれば、それはわかっていないのではなく、背中に当たるおっぱいの感触をずっと楽しみたいがためにわざと答えを遅らせていると考えられる。


 やばいやばいやばいやばい!!

 なんだこの感覚は!?

 目隠しされて、視界からの情報がなくなると、他の感覚が次第に鋭敏になっていくことがわかる。


 耳元から聞こえる小さな息遣い、女の子特有の謎の柔らかさがある目元の手、どうしていつもこんなにいい匂いなのかわからないけどわけわからんほどめちゃくちゃいい匂いがする女の子の香り、そしてなにより!!!背中に当たっている大きな2つの膨らみ!!!!


 こ、これがまさか、お、おおおおっぱい!!!!


 背中越しでもわかるそのボリューム感と立派さ!そして神々しさ!!!!

 密接して押し付けられているためその2つの膨らみが苦しそうに押しつぶされているが、それだけにより弾力を感じる!!


 あ、当たってるよ!なんて無粋なことを言う必要はないだろう!!僕は策士なのだ!!この幸運を味方につけ、おっぱいをじっくりと堪能しようではないか!!


 おっぱいとはどうしてこんなに神々しいのだろうか。その実態を見ることは叶わないが、背中の触覚が最大限まで鋭敏になっている今の僕なら関係ない。おっぱいの全てを味わうことができているという自負がある。


 嗚呼、時よ、永遠に。


「ちょっと〜!貴志〜!!早く答えてよ〜!!」


 おっとっと。この目隠しをしてきているのは誰なのかを当てるクイズの途中だったことをすっかり忘れていたぜ。

 ふうむ。答えはもちろん一瞬でわかっているが、この素晴らしき時をもっと味わうためにもはぐらかすとしようか。


「ご、ごめん、ちょっ、ちょっとまだわからないかなぁ〜、な、なんて。へへへ。」


 よし!完璧にごまかせたぞ!!これであと15分は堪能できるはずだ!!


「あれ〜?なんか貴志の様子がおかしいぞ〜??あ〜!わかった〜!!貴志の背中に当たってるあたしのおっぱいの感触楽しんでるでしょ〜??笑笑」


「ぎ、ぎくぅーーーーーーー!!」


 な、なぜだ!!なぜバレたのだ!!僕の偽装は完璧だったはずだ!!姫川さんはやはりエスパーなのか!?いや、ノストラダムスの生まれ変わりなのかもしれない!!


「ほら〜!やっぱり〜!!貴志ってほんとにおっぱい好きだよね〜!!おっぱい星人だ〜!!」


「ちゃ、ちゃうし!!お、おおおおっぱいの感触とか楽しんでないし!!誰かわからなかっただけだし!!今、わかったし!!ひ、姫川さん!!」


「まあ、そういうことにしといてあげる〜!!せいか〜い!!笑笑」


 ついに視界が開け、僕の背中からおっぱいも去り、後ろを振り向くと、やはりニヤニヤしている姫川さんがいた。


「おはよ〜!!おっぱい星人の、た、か、し、くん?笑笑」


「ちゃ、ちゃうし!!ふ、普通くらいだし!!」


 く、くそ〜!!この女〜!!朝っぱらから、からかってきやがって〜!!

 しかも、事実だし、あんまり言い返せないのが腹立つ〜!!!!


「朝からよかったね〜!あたしのおっぱいの感触味わえて〜!笑笑」


 く、くそう、言い返せない!!


 だけど、おっぱいだけと違うわい!!

 姫川さんの柔らかい手も、耳元の息遣いも、わけわからんほどのめちゃくちゃないい匂いも全部はちゃめちゃ堪能しまくったわい!!あれ?でも匂い、なんか前とちょっと違ったような。前もめちゃくちゃいい匂いだったけど、今回はもっと柔らかくていい匂いになった感じがするなぁ〜。シャンプーでも変えたのかな??


 あれ?なんか姫川さんの顔が赤くなってる??

 あれ?僕、またなんか変なこと言った?


「しゃ、シャンプー変えたのわかったんだ。」


 ん?シャンプー?どゆこと??

 ま、まさか、またかよーー!!!!

 僕の心の声はどうなってんだよーーーー!!!!

 心の声を名乗るならしっかり心の中にいろよ!!!全部出てんだよ!!!!

 そして匂いの話は気持ち悪すぎるだろーーーー!!!!

 やばいやばいやばいやばい!!

 どうしようどうしよう!!

 ここはまた土下座するしか!


「あ、あたし、先に学校行ってるから!」


 そう言うと姫川さんは小走りで先に行ってしまった。


 はあ、また怒らせちゃったし、からかわれた仕返しもできてないぜ。

 大敗北だよ。はあ。


 姫川沙耶がシャンプーを変えたことに気づいてもらって喜んでいることを小森貴志は知る由もない。



ーーーーーーーーーー


今回も読んでくださってありがとうございます!!そしてフォローや評価をしてくださって本当にありがとうございます!!!もしおもしろいと思ってくだされば、フォローと評価していただけると泣いて喜びます!!

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