第4話 おでこ合わせ
こんなことがあってたまるのだろうか。
フィクションだけの世界だと思っていた。
鍛錬が足りないだけだと思っていた。
主人公がか弱いザコだからだと思っていた。
そのあとのケアをしっかりしていないからだと思っていた。
僕、風邪をひきました。
昨日、姫川さんに傘を渡してからびしょ濡れになりながらも走って帰り、すぐにお風呂に入って身体を温め、ご飯もしっかり食べて、万全を期して夜の9時には寝たはずだ。
僕はよくいるか弱い主人公とは違う。普通そんな簡単に風邪なんて引かない。そう思っていたのが懐かしい。
すみません。調子に乗っていました。
運動部ように普段から身体を鍛えていないクソ陰キャの僕が雨に打たれたら風邪をひきます。免疫力0です。ザコです。すみません。
そうして僕は風邪をひき、しっかり熱を出して今日はずっといい子して家で寝ていたのであった。
僕の両親は共働きなので夜にならないと帰ってこない。
つまり、ひとりぼっちである。
ぼっちは得意中の得意であるが、なんでだろう、身体が弱っているからか知らないが、今日はなぜが少し寂しい。
まあ、寝てたら治るし、変な寂しさも紛れるだろうと思い、ひたすら寝続けていたらもう夕方になっていた。
身体の調子もだいぶよくなり、明日から学校に行けてしまうな、それはそれで残念だと思っていたら、いきなりインターホンが鳴った。
誰だこんな時間に。親か?と思ったが、まず親がインターホンを鳴らすわけがない。可能性としては、宅配の可能性が1番高いだろう。
僕はだるい身体を起こして、玄関に向かい、扉を開けた。
「やっほ〜!貴志!元気〜??」
僕は扉を閉める。
ん?今、僕は何を見た?我が宿敵がいたような気がしたが、気のせいであろう。
HAHAHA!まだ熱が残ってるようだな!こんな幻覚を見てしまうなんて!悪夢にもほどがあるぜ!!
なんだかインターホンが鳴りまくっているので、とりあえずもう一度だけ扉を開けてみることにした。
「ちょっと貴志!ひどくない?なんで閉めるの〜!!お見舞いに来たんだよーー!!」
嗚呼、夢でも幻覚でもなく、リアルだったようだ。
僕の目の前には我が宿敵にして、この風邪の元凶である姫川沙耶がいた。
***
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
いつも通りの僕の部屋には、僕と姫川沙耶がいた。
「わぁ〜!貴志の部屋すご〜い!マンガがたくさんあるじゃん!!」
姫川さんが無邪気に僕の部屋を散策している。
よし、整理しよう。勢いに押されたのとびっくりしすぎたのとでそのまま自分の部屋まで来てしまったのだが、我に帰ると、どうしてこんな危機的状況になっているのだろうか。
まずどうして姫川さんが僕の家を知っているのだろうか?
「姫川さん、どうして僕の家を知ってるの?」
「ん〜と、お見舞いに行きたいからって先生に聞いたらすぐ教えてくれた〜!」
この高度情報社会でこんなにプライベートな情報を簡単に教えるなんて何を考えているんだ!!
まあ、それはいい。今議論しても仕方のないことだ。
次だ、どうして姫川さんが僕のお見舞いに来ているのかということだ!
ま、まさか!ひ、姫川さん、僕のこと好きとか!?隣の席で話してたら好きになっちゃったとか!?やばくない?やばくない?
「そ、それで、ど、どうして姫川さんは僕のお見舞いに来てくれたの?」
「え〜!そんなん決まってんじゃん!」
「き、決まってるの??」
「だって、」
「だって?」
「貴志、あたしのせいで風邪ひいたじゃん。」
責任感!!なるほど!責任感ですね!!
まあ、そんなとこだろうと思ってだけどね〜。別に期待なんかしてないもんね〜。別に姫川さんがかわいいことはめちゃくちゃ認めてるけどタイプとかじゃないもんね〜。残念がってなんかないもんね〜。
でも別に気にしなくていいのにね。義理堅いところもあるんだな。
「昨日、僕が勝手に傘渡したんだから別に気にしなくていいのに。」
「で、でも!貴志のおかげで昨日助かったし。今日、お礼言おうと思ったら学校に来てないし。風邪ひいたって聞いたから、お見舞い来たくて。」
ちょっとーーーーー!!!!
な、なななんかちょっと姫川さん?キャラいつもと違いませんか?
最初はいつも通りかと思ったけど、徐々にしおらしくなっていって、これはなんかこう、うん!めちゃくちゃかわいいぞ!!
て、ていうか、今、この家で、この部屋で、僕と姫川さんがふ、2人っきりなことに今さら気づいちゃったぞ??
ど、どどど、どうしよ!!
普通でも緊張するのに、今日の姫川さん、なんかいつもと雰囲気違うからさらに緊張しちゃうぞ!!
「あれ?貴志、なんか顔赤くない?」
「え?そ、そうかな??熱は下がってるはずなんだけど。」
「また熱上がっちゃったんじゃない?ちょっと熱計るからおでこ出して!」
姫川さんにそう言われたので、僕は大人しく前髪を上げておでこを出した。
すると、なぜか姫川さんも前髪を上げておでこを出し、こちらへ近づいてきた。
「ちょ、ちょっと待って姫川さん!ど、どうやって計る気なの?」
「え?おでことおでこをくっつけてだけど?」
「いや!体温計あるから!それで計るから!」
「こっちのほうが早いって!はい!おでこ出して!!」
『おでこ合わせ』
太古、人間は互いの額と額と合わせることで体温を計っていたという資料が残されている。
現代では、体温計の登場により、熱を計るという意味でのおでこを合わせるという行為は廃れたとされているが、一部のカップルの間ではなんの目的もなく、ただただ密接したいという理由だけで、この行為を行なっているという。
大衆の場である駅でもそのような行為を見つけることあるというのでご注意を。
やばいやばいやばいやばい!!
髪を上げておでこを出した姫川さんが近づいてくる!!
逃げたいけど逃げられない!!なぜなら身体が完全に固まってしまっているから!!蛇に睨まれたカエルはこんな気持ちなのか。身体が全く動かない。姫川さんのおでこに吸い込まれていきそうだ。
姫川さんの顔が近づいてくる。
本当に綺麗な顔をしている。こんな美少女を間近で見られるなんて一生で一度あるだろうか?普通はないだろう。僕は今である!
姫川さんのおでこと僕のおでこが当たった。
本当に目の前に姫川さんがいる。
もう少し顔を前に出したらキスができてしまいそうな距離だ。
姫川さんは真面目な顔で僕を見ている。
多分、僕の顔は真っ赤になっていることだろう。そして、熱も上がっていることだろう。
もうこれは仕方ない。僕の負けです。無理です。降参です。無理無理!!こんな状況耐えれるわけがない!!
時間にして3秒も経っていないところで僕は姫川さんから離れた。
顔が熱い。違う熱で、風邪の熱もぶり返してしまったようだ。
「まだ熱が高いね〜。貴志はベットで横になっといて!あとはあたしが全部やるから!」
言われた通り、僕はベットに横になる。目を閉じていると、おでこと頭にひんやりとした感覚がきた。
「冷えピタと氷枕持ってきたから!これでちょっと寝といて!あたしは今からちょっとおかゆ作るから!貴志、今日何も食べてないでしょ??」
そういえば、今日ずっと寝てたから何も食べてないな。
「うん。」
「そうだと思った!じゃあちょっと待ってて!台所借りるから!」
そう言って姫川さんは部屋から出ていった。
ひんやりした感覚が気持ちいい。これなら寝れそうだ。
僕はまた夢の中に入っていった。
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