第3話 スケスケ雨
僕は知っている。いつ危機がやってきてもおかしくないことを。
でもそれは学校で気をつければいいだけの話だと思っていた。
それはただの僕の油断だった。
帰り道、事件は起こった。
その日の放課後、急に雨が降り出した。いや、急とは呼ばないかもしれない。なぜなら僕はしっかりと天気予報を見て、夕方くらいから雨が降ることをしっかり確認して傘を持ってきていたのだ。
傘を持ってきていない、天気予報を見ておけばよかった、などと後悔の声が聞こえてくる。
僕が僕こそが勝ち組だ!目の前しか見えていない高校生の猿たちとは違う。
僕は未来を見ることができると言っても過言ではないだろう。
そんな失意に溢れている者たちを横目に僕は雨の中、しっかりと傘をさし、上機嫌で帰っていた。
すると、帰り道の途中で、絶対に会いたくない人物を見つけてしまった。
そう、姫川沙耶である。
彼女はびしょ濡れで少しだけ屋根のある場所で雨宿りしていた。
うわぁ、会いたくないやつを見つけてしまった。最初は僕もそう思った。
だがしかし、よく考えてみよう。
僕は傘を持っている勝ち組。姫川さんは傘を持っていない負け組。
完全なる優劣がもうはっきりしているのである!
これはもらった!!いつもは姫川さんにからかわれているが、今日こそはやり返せる!!
僕は自信満々になり、ニヤニヤし、勝ち誇った顔で姫川さんに近づけていった。
「やあ、姫川さん、そんなにびしょ濡れでどうしたのかな?」
「わっ、びっくりした〜!なんだ貴志か〜!そうそう!急に雨が降ってきてびしょ濡れになっちゃった〜!」
姫川さんはいきなり現れた僕にびっくりしながらもそう答えてきた。
はい勝ち確!もらいましたこの勝負!からかいまくってやるぜ!!
「へぇ〜、姫川さん、今日の天気予報見てなかったんだ〜!僕は見てたからほら!傘持ってきてるよ!姫川さんって、ドジなところもあるんだねぇ〜!」
完璧だ!完璧にしてやったりだ!!いつもの借りを絶対にかえしてやるぞ!!
「そうなんだよね〜!あたしって結構ドジなんだよね〜!」
な、なに?き、効いていないだと?ど、どうする?もっとからかわないと!で、でもまだまだ僕が優勢なんだ!なにかさ、が、さ、な、い、と。
僕の思考は完全に停止した。
ピンク色のブラ。
びしょ濡れになってるから透けて見えてしまっている。
『スケスケ雨』
さまざまな場所で見受けられるラッキースケベの一種である。世の中の男の大半が雨の日はこれを狙って生きていると言っても過言ではない。
肌に張り付くシャツ、透けるブラ、首筋を流れる水滴、濡れた髪、ここで女の子の新たな魅力に気づく男も多いことだろう。
僕は吸い寄せられるように無言でその様子を眺めていた。
それが美少女の姫川さんであるから、尚更、色気はものすごい目が離せなかった。
「貴志どうしたの?急に黙っちゃって!あ〜!今、あたしのブラ見てたでしょ〜?笑笑」
や、やばいバレた!!
「み、みみみ見てないっす!」
「いや、バレバレだし!笑笑 正直に言ったほうがいいよ〜!笑笑」
「申し訳ありません。めちゃくちゃ見てました。」
僕は0.12秒で土下座の形となり、謝罪をした。日々、土下座をしてる甲斐があったぜ!
「いや、貴志!そんな謝らなくていいって!笑笑 別に気にしてないし!なんなら別に見てもいいよ!笑笑」
「えっ!ほんと!!」
「はい!変態確定!!」
や、やられた。さ、策士だ。童貞が反射的にそう答えてしまうのをわかって騙してきやがる!本当に悪魔のような女だ!!
すると、急に真面目な顔になった姫川さんがとんでもないことを言ってきた。
「本当に見たいなら、10秒だけ見せてあげるけど、どうする?」
な、なにーーーーー!!!やばいやばい!!こんなことってあるのか??10秒もあるならこれを脳内シャッターで保存して記憶しまくることも可能だぞ!!これはかますしか!
いや、待てよ。これも罠なのかもしれない。はい気づきましたーーー!!僕にはバレバレです!姫川さん!これでまた僕をからかおうとしていることは明白です!絶対また変態扱いしてくるんですよ!ここは断るが吉!!
「い、いや、べ、別に見たくないし。」
「え〜!ほんとに〜!」
「ほ、ほんとだし!!」
「今だけ、ここだけのチャンスだよ〜!!」
このチャンスを逃せば、僕は一生こんなエッチなチャンスに巡り合うことはできないかもしれない!覚悟を決めろ!小森貴志!からかわれてもいい!僕は自分の欲に正直になる!!
「すみません!見たいです!!見せてください!お願いします!!」
「や〜っと、正直になったね〜!笑笑 はい!いいよ!顔上げて!10秒だけ見せてあげる!」
僕は彼女の声のまま顔をあげる。
そこには言葉で形容できないほど美しい女性がいた。
正直、話しかけてたときは、からかってやるということに気が回ってしっかりと見ていなかったが、これは本当に素晴らしい。
芸術と言ってもいいかもしれない。
茶髪が濡れて、色香を帯び、首筋を流れる水滴がさらに色香を扇情し、張り付いたシャツが女性の肌に恋しさを覚えさせ、透けたブラは淡いピンク色で、かわいさとエロさを共存させ、僕の心をかき乱した。
端的に言うと、僕は目を奪われたのだ。姫川さんに。
「はい!10秒終わり〜!!てか、貴志マジで見過ぎだって〜!笑笑」
からかわれてもなんとも思わない。
嗚呼、これが無我の境地か。
美しいと思ったものを美しいと思って何が悪いのだ!!
これは性欲ではない!断じて性欲ではない!!芸術だ!!
だがしかし、これだけの芸術作品を見せてくれた姫川さんに何もしないのは失礼であろう。
よし!ちゃんと、お返しをして帰ろうか!
「姫川さん、今日はありがとう。はい!この傘、貸してあげる!なんならそのままあげるよ!それくらい僕は素晴らしいものが見れたから!じゃあ、また明日!!」
僕は唖然としている姫川さんに傘を押しつけ、雨の中、家に向かって走っていった。
「な、え?は?ど、どういうこと?あ、ありがたいけど。」
そう言ったあと、少し顔を赤らめて傘を大事そうに持つ姫川沙耶。
もちろん小森貴志がこの出来事に気づくはずもないのである。
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