こうして、ぬきうたは作られた――かも知れない

 かつて自由に性行為を謳歌出来ると一世を風靡した島、青藍島

しかしながら裏風俗問題や反交尾勢力によるクーデターなど、様々な事件が起こり、今の青藍島――真・ドスケベ条例制定から20年の月日が経とうとしていた、ある日のこと――


 ――SHO本社ビル・最上階、県知事の椅子に、その男は未だ鎮座していた

仁浦「……うぅむ」

光姫「ですので、仁浦様。今のままでは緩やかに衰退の道を辿ることになります。何か、早急に手を打たなければなりません」

仁浦「あぁ…そうだな」

 今、青藍島はある問題に直面していた――

「高齢化」、である

 真・ドスケベ条例は、性に悩む多くの人にとって真のユートピアとなり得た――

しかし、この地に流れ着いた者の多くが、外の世界へ戻ることが困難だったのだ

やがて彼らはこの地に住まい、伴侶を得、変わらず島での生活を謳歌することになる

即ち人の流れが滞り、島に住まう多くの人が30代・40代と、齢を重ねることになり……今では中年を過ぎたオッサン・オバサンとの性行為をしたい物好きが寄り付く島、「壮年島」「姥捨て島」とまで揶揄されるような事態になりつつあったのだ


礼「失礼します、仁浦様。SHO戦闘部教育顧問の糺川礼です。SHOの新兵への教育、完了致しました。」

仁浦「うむ。ご苦労……ん?そうか――。」

礼「いかがなさいましたか、仁浦様?」

仁浦「いや、うむ…なに、追って連絡する。」

礼「?…かしこまりました。それでは、引き続き私はパトロールへ向かいます。」

仁浦「あぁ、よろしく頼む」

光姫「どうなされたのですか、仁浦様?」

礼が部屋を去ったのを見て、光姫が尋ねる

仁浦「いやなに、”彼ら”の人気は未だ一部で健在だということを失念していたようだ――。」


光姫「と、いうワケで、淳之介くん。あなたからも皆に声を掛けて貰えないかしら?」

淳之介「――はぁ。」

 日曜日の昼下がり―

たまの休みに久しぶりに新たな芸術作品の制作に取り掛かろうとした矢先、チャイムが鳴ったと思えばこれである


――この島の新たな観光名物として、”鋼鉄の6人”並びにSSBIG3と精鋭たち、をアイドルとして売り出そう――


淳之介「いやもう20年も前の話じゃないですか」

光姫「でも、未だにカルト的な人気があるのよね、アタナ達って」

仁浦「それに、青藍島がこうなってしまった責任の一端は君にもあるだろう、青年」

淳之介「ぐっ――」

それを言われると弱い。

 そう、確かに旧・ドスケベ条例の元では人の流れは極めて流動的であり、結果としてこのような事態を招くことは無かった

しかしながら、真・ドスケベ条例下では、許容されることの喜びが住みやすさに変わり、人が出て行かなくなってしまった

20年近くの歳月、まともな次手を打たなかった県政が悪いのだが、やはりコチラにも非があると言われると痛い――

淳之介「……わかりました。ただし、一度だけでいいでしょう?」

こうしてYukakuTubeでの配信やCD販売を、一度だけという条件の元、飲むこととなった――


桐香「あらあら。なんだか賑やかで楽しいことになりそうね」

霧香「何にも出来ないママにアイドルなんてムリに決まってるじゃないというかまた始まったよこのバカ夫婦はいい加減毎日コーラより甘ったるい夫婦漫才見せられる娘の身にもなってよもうパパー!」

淳之介「大丈夫だ、霧香。お前のママは世界一可愛いからな。」

桐香「あら。ふふっ、あなたが側で支えてくださるのなら、喜んで挑戦いたしましょう」

霧香「あぁもうそれじゃなにも答えになってないし何が大丈夫なのか意味わかんないんですけど!というかやっぱダメだこのママいっそこのまま上手いことやっちゃってあたしがパパを助けてあげなくちゃ」

淳之介「こらこら、物騒なこと言っちゃめーでしょ」


奈々瀬「えぇ……いや、今更アイドルなんて年齢じゃないでしょアタシたち。というか、若かったとしてもやりたくないんですけど」

淳之介「そこをなんとかっ――」

奈々瀬「はぁ……頼まれると断れない、損な性格なのだわ、アタシ」

淳之介「じゃあっ!」

奈々瀬「一回だけなんでしょ?わかった、わかったわよ。それに、真・ドスケベ条例のせいだー、なんて言われたら手伝わないわけにはいかないでしょう」


美岬「えっ!?どうしたんですか橘さん!?いつもおかしいですが、今日は特におかしなこと言ってませんか?何か落ちてたものでも拾って食べたんですか?」

淳之介「俺だっておかしなこと頼んでるとは思ってるよ―」

というか、お前にだけは言われたくない

美岬「それに、アイドルってことは露出も増えますよね。私、最近太っちゃって……こんなお腹、人様にお見せできるシロモノじゃありませんよっ!?」

淳之介「今更その設定持ち出すの……?」

淳之介「そうか……実は終わったら盛大な打ち上げをしようと、島中の飲食店も協賛してくれる予定だったんだが――」

美岬「やりましょう、橘さんっ!!時代はアイドル! 小娘には真似出来ない大人の魅力で魅了してやりましょうっ!!」

美岬……少なくとも今のお前からは”大人の魅力”とやらは伝わってこないけどな……


ヒナミ「アイドル…?よくはわからないけど…青藍島の為に必要なこと、なんだよね?」

淳之介「えぇ、ですから”先輩”であるわたちゃんの力を是非借りたくて……」

ヒナミ「先輩――っ!! ふ…ふふん、そーだよねぇ、なんてったって、”先輩”、だものねぇ」

淳之介「えぇ、ですから――」

ヒナミ「かわいい後輩が困ってるんだものねぇ、先輩が助けないわけにはいかないねぇ」


文乃「あいどる、にございまするか……」

淳之介「あぁ……文乃、こんなことを頼むのは心苦しいのだが……」

文乃「いえ……それが淳之介様のお望みなのであれば、この琴寄文乃、全力であいどるを務めあげてみせましょう――ふんすっ」

淳之介「そうかっ!やってくれるかっ」

文乃「えぇ…淳之介様が、文乃にあいどるになれ、と命ぜられるのならば、それに応えることこそ、琴寄文乃の誉れにございます」


礼「はぁっ!!?? バカか、お前は!? いい歳して全世界の笑いものになれっていうのかっ!?」

淳之介「ですが、仁浦氏の提案で――」

礼「関係あるか!!なんだ?死滅してるのはその毛根だけじゃなく、脳細胞もなのか!?」

淳之介「髪の毛のことは言うなぁぁっ!!」

礼「あ……あぁ、すまない、少しお前がヘンなことを言うから動揺していたようだ……」

淳之介「しかし、そうか……久しぶりに”みんな”で一緒に出来ると思ったんだけどな――」

礼「みんな……?ヒナミは?ヒナミも出るのか?そのアヤしい企画に!?」

アンタのトコのトップ発案の企画なんだけどな――

礼「出るぞ、私も出る!あぁ…ヒナミの歌が間近で聴けるだなんて……ヒナミヒナミヒィ~ナァ~ミィ~」


郁子「それ、イクがやるメリットがなくない?そ・れ・と・も…ダーリンが、何かエッチなご褒美、くれるのかなぁ~?」

ふっ…やはりそう来たか――

淳之介「お前の元上司の旦那さんに色仕掛けしちゃダメだろ……」

淳之介「それとも何か、郁子は他のメンバーに魅力で”負ける”ことが怖いのか」

郁子「カッチーン……アタシが負ける?逃げる?」

郁子「アタシね……誰にも負けたくないし、誰からも逃げるつもりなんてないからね?」


麻沙音「はぁ?なんだよ久しぶりに会ったと思ったらもうボケ始めたのかこの男は?」

麻沙音「大体、アイドルなんてあいつらちょーっと人より顔が良いからってアタマ弱いくせに愛嬌だけ振りまいてりゃ生きていけるみたいな甘っちょろい考えした人間がするようなことを妹にさせようってのかこの兄は」

くっ…流石、我が最愛の妹だ…

恐ろしいほどの偏見と敵対心に満ちている……が

淳之介「そうか……せっかく奈々瀬や郁子も参加するのに、アサちゃんは留守番をするのか」

麻沙音「――っ!!?」

淳之介「仕方ない、娘を巻き込むのは本意ではないが、霧香にお願い――」

麻沙音「いやぁ、誰もが一度はアイドルになりたいって思うものだよねぇ。流石は兄、妹の望んでることを深くまで理解しておられるどぅえへっへ」


淳之介「――と、いうワケで連れて来たぜ、おっさん」

仁浦「おっ――…まぁいい。よくやってくれた、青年。……諸君、この企画の為に本島よりさる高名な作曲の先生にお越し頂いている」

礼「高名な先生……?はっ……もしかして、あの有名なえ――」

桐香「あら、礼は存じているのね。なら、詳しい話は後ほど礼に聞くことにしましょう」

仁浦「うむ。そこで、君たちには先生と話し合ったうえで歌詞を決め、後日各々の歌を発表してもらおうと思っている」

美岬「菓子っ!?収録にお茶菓子まで出るんですか?いやぁ~、アイドルって至れり尽くせりなんですねぇ~」

奈々瀬「……はぁ。でもま、歌詞はアタシたちで相談しながら作れるのね。そこは安心したわ」

美岬「無視ですかっ!?」

麻沙音「んだようっせぇなぁ、毎度毎度どすこいに突っ張り決めてるヒマなんてないんだよ」

仁浦「う”ぅ”ん……TVはそのための特別番組、ザ・ベスト19を作り、その番組をYukakuTubeでも配信、更にCDの発売をする。今回お願いしたいことはそれだけだ」

ヒナミ「テレビでお歌を歌うと、島が助かるのかな?んんぅ~…イマイチよくわかんないな?」

郁子「ま、なんでもいいや。ようはこの中で一番アイドルっぽく出来た人が勝ちってことでいいんだよねー」

文乃「あいどる…っぽい、にございますか?」

淳之介「じゃ、とりあえずリーダーである俺から――」

仁浦「あぁ、青年。待ちたまえ。今回は”女性”アイドルとして売り出すつもりだから、君の出番はここまでだ」

―――ッ!!

礼「落ち着け淳之介っ!今ここで仁浦様とやり合っても何も解決しないぞ」

郁子「そーだよダーリン、とりあえずその物騒なものしまって話し合おうよ、ね」

淳之介「どいてくれ!コイツをやらねばならないと本能が言っているんだっ」

穿き丸を握りしめ、とびかかろうとしたところを礼と郁子に止められる

奈々瀬「こら淳、落ち着きなさい!アンタが取り乱してたら誰がアタシたちをまとめるのよ」

麻沙音「そうだよ兄。兄はこのメンバーの総監督なんだからさぁ……」

淳之介「総…監督!?」

郁子「あ、大人しくなった」

淳之介「ふっ……はっはっは…」

礼「おいどうした淳之介。どこか頭でも打ったのか…?」

美岬「橘さんがおかしいのはいつものことだと思いますけど…」

淳之介「そうか……確かに、優れた作品には優秀な監督が必要だものな」

淳之介「仕方ない…俺様の美声はまたの機会に披露するとして、今回はお前たちの”総監督”として、携わることにしよう――」

麻沙音「……咄嗟にでまかせ言ったら納得しちゃったよこの人」

文乃「文乃は元より主様の命に従う所存であります」

桐香「さて……淳之介さんの理解も得られたところで、皆さん。早速その作曲家の方とお話しに行きましょう」


郁子「よろしくおねがいしまーす。んー…そうだなぁ……特に要望とかは……ただ、どうせ歌うならみんなに負けないように、とびっきりアイドルっぽい感じで!あとあたしね、歌も明るく楽しい方が好きだなー」


美岬「はい、よろしくお願いします。私、アイドルとして”ミサッ☆”って決めゼリフ、絶対いいと思うんですよねぇ~。……え?好きなものですか…?それはもうあんな食べ物やこんな食べ物、あ、あとあれですね、あの国の伝統料理として有名な―」


麻沙音「あ……あの……よ、よろしくお願いしましゅ……。えっ…!?リラックスして…あ、はい。えっ…さっきの…って…あのデブですか?いやいやいやいや、あんな歩くオイルヒーターと友達なワケないじゃないですかてか何アイツあれで存在薄いとか設定にムリがありすぎるでしょ設定と言えばそもそもお腹を見られたくないとか言ってたくせに今では口を開けばアナルアナルって頭おかしいんじゃねーのかって―」


桐香「失礼します。はい、よろしくお願いします。えぇ…なるほど。それは困りましたね。私、淳之介さんが欲しいということ以外に欲が無いのです。ですので先生の仰る問いに答えることが難しく―あぁ、そうだわ。あなたー?あなたー?…え?淳之介さんを呼ぶのもダメなのですか?そうですか…私、人の心がわかってない、とよく言われますから…先生の望むものがよくわからないのです。どうしましょうか―」


片桐「失礼します。よろしくお願いします。え…えぇっ!?どどどどうしていきなり淳のことを聞くんですかっ!?そりゃぁ…アイツとは長い付き合いですし…?好きか嫌いかで言われれば…その、好き……ですけど?でもそんな、アイツはもう他の人の旦那で、娘だって居ますし…え?アタシ?アタシは…その…まだ独り身ですけど…み、未練とかそんなんじゃなくて―」


礼「っす、よろしくお願いしまっす。え?いやなに、アイドルと言えばクールでニヒルが大事でしょう?先生もその方が曲を作りやすいんじゃないかな、なんて。え?いや、アイドルは誰も愛さない、好きも嫌いもないでしょう。曲?あぁ…それもいいっすね。普段がクールなヤツがしっとり聴かせるバラード…流石っすね、先生。えぇ、それで進めてください―」


ヒナミ「あ、はい、よろしくお願いします、渡会ヒナミです。って、ロリじゃないですけどっ!?ちゃんと性人してますけど!?なんでかなぁ…なんでみんなアタシをロリって言うのかなぁ…えっ?あ、はい、ごめんなさい、えっと…好きなもの…ですか?んー…今のこの青藍島は好き、かな?淳くんも礼ちゃんも、みんなが笑顔になれることが一番だからね、だから、今のこの毎日が明日も続いていくといいなぁ、って思うよ―」


文乃「失礼致します」

仁浦「文乃ぉーっ」

文乃「――っ!ぷいっ」

仁浦「――くぅっ!え、いや先生でも…待ってくれ、後生だ……どうか……どうか私も一緒に――」

文乃「――ほんっとに、恥ずかしい人。…あ、これは先生、失礼しました。あと…その…父が……ご迷惑を…あ、はい、好きな時間にございますか……むべむべ……。―っ!い、いえ、むべむべといいまするのは…その……――」


仁浦「くっ……何故だっ!何故、文乃の歌詞を決めるのに私の立ち合いが許されないのだっ」

光姫「そういうことしてるから文乃ちゃんに避けられるんですよ、もう」

仁浦「……まぁいい。作詞のためと言ってあんなことやこんなことを質問する作戦は失敗したが、とにかくこれで文乃の歌が遂に、遂に私の手の中に――」

光姫「もう、仁浦様!そもそもこれは、青藍島の問題を解決するための案だったじゃありませんか!」

仁浦「あ、あぁ、わかっておるっ。あとは適当な歌番組を作って、この文乃の可愛さを全世界に発信すれば、アイドルに会えるとこの島に観光客がドッと押し寄せてくるはずだ――」

光姫「……ホントに大丈夫かしら」

仁浦「……だが、文乃を1位にしてしまうとまた私が疑われかねんな……ふむ……何か、カムフラージュを用意するとしよう――」


スス子「ちょっとちょっと、なんすかなんすかみんなでスス子をのけ者にして楽すすうなことすてるっすね?って、なんすか、そこの人?え?私っすか?私はスス子すよ。んで、コッチがチュパちゃん。え?作曲家?はぁ……いや、みんな楽すすうにすてるのに、私も混ざりたかったなって…って…え?アイドル?…いい歳してなにしてんだアイツら…え?私も……すか?――」

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