サプライズの代償は甘くて苦い口づけひとつ
郁子「はいはーい、今日の訓練はおしまーい。みんな、気をつけて帰ってね~」
ゴリマス「隊長殿!ありがとうございましたであります!」
クールフール「流石は田中隊長……我々ストライクフォース相手に100人組手をしても息一つ上がっていないとは…休んでなど居られませんね……このままフルマラソン3周してきます」
郁子「言っとくけどフルマラソンって、青藍島3周じゃないからね?」
クールフール「ふっ……田中隊長は相変わらず奇怪なことを仰る……では、行ってきます」
ゴリマス「待つでありますよ、クールフール殿ぉ~。私も行きますでありますっ!」
あーぁ、ありゃ島3周するなぁ…1周100キロあるんだけど……
ま、いっか。あの子たちなら大丈夫でしょ
バカだけど、体力は
郁子「っと…そだ。淳之介くんのお家に呼ばれてたんだった」
お付き合いして、最初のあたしの誕生日、ちゃんと汗くらい流してから行かないと…
郁子「ただいまー……?」
誰も……居ない?
礼ちゃんやとーかちゃんはともかく、他のSS隊員すら居ないなんて……
明らかにおかしい……
汗を流したかったが、今は学園に戻って礼ちゃんとーかちゃんと合流するのが先だ
考えるより先に身体は寮を飛び出していた――
淳之介「ぐっ………い………郁子………」
郁子「ダーリン!?どうしたの!?ねぇ、誰にやられたのっ!!?」
寮から急ぎ引き返し、グラウンドで見かけたのは…予想だにしない光景…
信じられない――
全身をおちんちんみたいに固く出来るダーリンがこんなに傷だらけになるなんて……
何で? 真・ドスケベ条例でこの島はもう平和になったんじゃないの?
また知らない間に別の世界に飛ばされたの…?
淳之介「わからない……ただ……奴ら……アッチ…に……」
郁子「あっち……ドスケベランドの方向?なにがあるの?」
今の世界でこれだけダーリンを傷だらけに出来る相手……油断出来ない
いや、そもそもさっきまで争いの気配すら感じなかった……
あたしが察知出来ないほどの手練れなんて……
淳之介「頼む……奴らを……止め……」
郁子「ダーリン!?ねぇ、ダーリン大丈夫!?あぁもう、なんで誰も通信出ないの!?」
迷ってるヒマはない―
郁子「ごめんね、ダーリン!すぐ戻るからっ!」
簡単な診断だけど、ダーリンへのダメージで深刻なものはないことを確認するなり、あたしはドスケベランドに向かった――
山を駆ける――早く、もっと早く――
それでも警戒は怠らない――大丈夫、誰もいない――
いや……果たして誰も居ないことは、大丈夫と言えるのだろうか……
それはつまり、この異変に対してSSもSHOも行動を起こしていないことの裏返し…
郁子「……っダメ!どうして誰も出ないのっ!?」
苛立ちだけが募る…
もうすぐドスケベランドだというのに、相変わらず気配を感じ――
郁子「――っ!!」
いや、気配は感じる。その数、30はくだらない――
郁子「…………あそこか」
全員がハメドリくんの姿をしているが……争いや殺気は感じない…
郁子「どういう……こと?」
いや……迷ってるヒマはない……
相手の力量もわからない上に、コチラはあたし一人……
いくら最強を自負していようと、先ほどの淳之介くんの姿を見ている以上は流石に冷や汗が伝う――
キュポッ――
興奮剤を頭から被り……心を
郁子「許さない……この島を……みんなを……ダーリンを傷つけるなんて……許さないゆるさないゆるさないゆるさないユルサナイユルサナイユルサナイ……」
郁子「ヒハッ……アッハハ……ハハハハハハハハハハハッ………ドウナルカ……オシエテアゲル…………」
シューベルト「いやぁ、淳之介も隅に置けないなぁ~。これは中々粋な演出じゃないか」
蘭「流石は教官。また皆さんでパコリリズムを踊るだなんて、とっても花丸で素晴らしい考えだと思います」
礼「郁子は殊更この曲を気に入っていたからな。いいか耳に詰まったマンカスかっぽじってよく聞けザーメンマンコ共!今日のお前らはハメドリだ!成りきれないパチドリくんは即刻マスコットの墓場に送ってやるパコ!」
SS隊員「ハメ!イエス!パコオ!」
ヒナミ「みんなでいっぱい練習したからねぇ。郁子ちゃん、喜んでくれるといいねぇ」
桐香「えぇ、そうですね。みんなでお祝いしたら郁子も喜んでくれると思うわ」
奈々瀬「というか、アタシたちまでこの格好する必要、あった……?」
美岬「それにしても遅いですねぇ…せっかくのお料理が冷めてしまいますよ?じゅるり」
ゴリマス「大食い対決でありますか!?うっほほーい!負けないでありますよーっ」
麻沙音「あぁん?今日はおにゃぶた先輩が主役だぞこのEverEats! 食ったらタダじゃおかないからな?」
スス子「アーサーちゃんの言うとおりっすよ、ゴリマスちゃん。SS全部を敵に回すことになりますっすからね」
文乃「……っ!!」
スチャ――ダンッッ
麻沙音「ちょっ文乃!?いくらなんでも撃つことは……」
奈々瀬「――っ!アサちゃん!こっちに!」
桐香「これはっ!……皆さん、下がってください!私が足止めを――」
郁子「ヘェ………スコシハヤレルンダァ………ヒハッ……アッハハ……」
礼「郁子!?ちょっ……待て、落ち着け郁子!!」
クールフール「これは――!?カミを纏って…」
郁子「ユルサナイユルサナイユルサナイイィィィィィ!!!」
文乃「――!!?」
ヒナミ「文乃ちゃん危なっ!!――わひゃあっ」
ガキィンッ!! すんでのところでパイプ椅子が刀を弾く――!
郁子「アッハハハハハ……ハハハッ……ヒハハッ!!」
桐香「くっ……ごめんなさい、郁子っ。今だけは――っ……ゲロゲロ」
礼「桐香様!?SSに…郁子に対して糸を使うなんてムチャですっ!くっ!!―2番隊と3番隊は対象の無力化をっ!!」
郁子「ググググッ……ホン……ット、ジャマ……しない…っでぇ!!!」
スス子「ちょっ!!?会長の糸をっ!?」
郁子「アハハハハッ……ハハハハッ」
ファァァーーーン
美岬「どけどけどけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
奈々瀬「――美岬!?」
美岬「このマジカルミラー号であの世かアナルか選びなさぁぁぁい!! あの世 オア アナル!!!」
郁子「ヒハッ……ハハハハハハハハッ……アーッハッハッハッハッハッハ」
しかし郁子は動じない――その場で一閃
美岬「はわああぁぁぁぁぁ!?!??」
真ん中から綺麗に二つに割れたトラックが制御を失いあさっての方向へ走り去る――
奈々瀬「美岬!!?あの刀で真っ二つにしたって言うの!?」
凛「ちょっと筋肉バカ共!!アンタのトコの隊長でしょう!?なんとかなさい!!」
ゴリマス「そ……そう仰られましてもぉぉ~~っ」
クールフール「ふっ……あぁなってしまった隊長を止めるなど……ムリだ」
凛「はぁっ!?アンタたちのその筋肉は飾りですか?役立たずも大概にしておけってもんですよっ!?」
郁子「ハハハハハッ……アーッハッハッハッハッ」
奈々瀬「――しまっ!!?」
迂闊だった―アサちゃんと美岬に気を取られ過ぎたっ
奈々瀬「――っ」
間に合わないっ―恐怖に目を瞑るが……痛みが……ない?
淳之介「落ち着けっ!郁子っ!!」
郁子「ハハハ……ハ……は……だ……りん……?」
目を開けると、数センチのところでハメドリくんが女部田さんの刀を受けとめていた―
奈々瀬「……で?」
淳之介「ごめんっ!!俺はただ、郁子にサプライズをと思って……」
郁子「ごめんなさい……。だって、ダーリン、傷だらけで倒れて、コッチに行ったっていうから敵かと思って……」
麻沙音「そもそもなんで兄はそんなに傷だらけなのさ……いやまぁ、大体想像つくけどもね」
淳之介「ただ倒れてるだけじゃ郁子をビックリさせられないと思って……」
ゴリマス「コチラに向かう途中偶然、隊長殿の彼氏に会って頼まれたであります!!」
クールフール「頼むからボコボコにして欲しい、など……てっきりドMプレイなのかと……」
スス子「じゃあゴリゴリとフルフルは悪くないってことっすねー」
礼「…で、淳之介がやられたのを見た郁子が”アレ”を使って、本気で敵を潰そうとした結果……」
美岬「私たちを敵だと思った、ってことですか…」
郁子「……ごめんなさい」
淳之介「いや、郁子は悪くないんだっ!俺が余計な演出をせずに普通に迎えに行けば……」
郁子「そんな!ダーリン悪くないよ!イクが確認もしないで暴れたから―」
麻沙音「いーや、これは兄が悪いね」
奈々瀬「そうねぇ……。これは淳が悪いと思うわ」
ヒナミ「悪いことしたなら、ちゃーんと謝らないとね」
美岬「ホラ、何やってんですかこの男は!ちゃんとケジメをつける」
淳之介「あ……あぁ、モチロンだ。どう、謝罪すればいいのか……どうすればいいのか……本当にすまないと思っているっ……だから――」
スス子「いや、バナさん、そうじゃないっすよ」
礼「あぁ、そうじゃない。お前は誰に謝ってるんだ?」
淳之介「――え?」
下げてた頭をあげると、一様にみんなが笑顔で俺を見ていた―
桐香「幸い、コチラも被害は最小限で済みましたし、怪我人も出ていません」
奈々瀬「いや、トラック一台壊れてるんだけどね……?」
ヒナミ「それよりも淳くん、ちゃーんと謝らないと、ね」
わたちゃんがウィンクで示していたのは―あぁ……
シューベルト「ホラ、淳之介。こういうのは待たせるもんじゃないぞ?」
淳之介「――みんな、ありがとう」
淳之介「郁子…ごめん。こんなことになるなんて……」
郁子「ダーリン……ううん。あたしこそ、ダーリンがあんなにされたって思ったら冷静じゃ無くなっちゃって……あはは…修行、し直さなきゃだなぁ」
スス子「やれやれ……手のかかる先輩たちっすねぇ~」
シューベルト「まったくだ。僕のデータも呆れてしまっているねぇ」
ヒナミ「うんうん、よかったねぇ」
文乃「むべむべ…」
美岬「さて…じゃ、仕切り直しと行きましょうか」
桐香「えぇ、そうですね。皆さん、グラスの準備はよろしいですか?」
奈々瀬「はい、淳、女部田さん」
礼「それでは、郁子の誕生日を祝して」
「「「かんぱーーーーーい」」」
飲めや食えやのドンチャン騒ぎから少し酔いを醒ますようにみんなと距離を置いていると
郁子「……こういうのって、なんかいいよね」
淳之介「ん?」
郁子「なんかねー……今、すっごい幸せだなぁ、って」
郁子もコチラに来て、不意にそんなことを言ってきた
郁子「あたしも、ちょっと夜風にあたろうかなって…隣、いいかな?」
淳之介「……珍しいな、郁子が酔うなんて」
郁子「別に…酔ってなんかないよ。ただ、ちょっと淳之介くんとお話がしたいなー、って」
淳之介「――そっか」
郁子「……うん」
何となく、お互いに目を合わせられず二人して外を眺める
郁子「とーかちゃんがいて、礼ちゃんがいて、SSのみんながいて…。ナナセちゃんがいて、ミサキちゃんもヒナミちゃんも、アサネちゃんもフミノちゃんも居て……隣に淳之介くんが居てくれて…」
郁子「みーんなで、あたしのこと、あたしの誕生日のことをお祝いしてくれて……」
郁子「今までもね、嬉しかったよ。とーかちゃんも礼ちゃんもお祝いしてくれて…」
淳之介「――あぁ」
郁子「でもね……今年は隣に淳之介くんが居てくれる…もっと多くの人があたしのことを祝ってくれる……」
郁子「幸せ過ぎてこわいーなんて、バカじゃないのかな、って思ってたけど……」
郁子「これは……怖いね。こんな幸せ、失いたくないもん」
淳之介「――郁子」
きっと、思い出してるのだろう
この島を訪れる前の暮らしを……境遇を……
淳之介「失わないさ。失わせない」
必ず守る――
強い意志、自分へ言い聞かせる
彼女を手放さない……この幸せを失わせない
郁子「うん……そうだよね。淳之介くんは、イクのダーリンだもんね」
淳之介「あぁ。こんなんじゃ満足できないほど、これからいくらでも幸せにしてやるさ」
郁子「ふふっ。そりゃー大変だ。これ以上の幸せが待ってるんだ」
淳之介「あぁ。これからもっと、毎日幸せをプレゼントしてやるさ。」
だから――
言いかけてお互いに目が合う。
郁子「…………」
淳之介「…………」
言葉なんて要らなかった。
ただ、惹かれ合うように――口づけを交わし
淳之介「誕生日、おめでとう、郁子。」
郁子「……うん」
そう笑う郁子の顔は、やはり少し酔ったように赤らんでいた――
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