第61話 マスカレード(1)

(1)

 セイ、と名を呼ばれた剣士が顔を上げる。しかし彼の鋭い眼光は、現れた上官の顔面を確認するなり、驚きと共に穏やかに緩む。

「……アリス?」

起き抜けに現れたアレスを、思わず「アリス」と呼んでしまうこの男である――神よ、と運命を呪う代わりに、アレスは一度天を睨みつけた。

「残念ですが、違います」

とても見ていられなかったアレスは、セイから目を背けた。それにしても、

「あ……いや……」

思わず上気した顔を背けて絶句してしまった彼を見るに付け、妹・アリスが甲斐甲斐しく彼に世話を焼いていたのだろう絵面は容易に浮かぶ――何とも言えない気持ちを持て余したまま、アレスはあえて冷静に徹した。

「それより、何故貴方が此処に?」

何故主君はワザワザこの男を自分の配下に付けたのかを、アレスは探ることにした。

「そういうことは、お前達の主にでも聞いてくれ」

セイは自分に付けられている手と足の枷の鎖を引っ張って続けた。

「オレの頭は、呪文一つでイカレちまうらしい」

「(成程、副脳ね)」

副脳について、ディストの件でソニアから聞いて知っている事くらいの知識しかなかったが、あまり使用に気の進まないツールである。アレスは思わず眉を顰めてしまった。いや、今は使用にためらっている場合ではない――中枢の意図を何とか汲んだアレスは、淡々と新入隊員に置かれた状況を説明し始める。

「貴方は、私の部隊の副隊長に任命されています」

「は?」

怪訝な表情を向けたセイの心情は更に複雑だろう。いきなり連れてこられた魔王軍で高官のポストが与えられ、しかもそのポストがよりにもよってアレスの副官なのだ。

「勅令が出ています。悪しからず」

アレスだってこの人事を認めたくは無かった。最早、ランダの子孫と戦う大義名分は風前の灯である。そこのところはよく承知しているのだろう、セイは押し黙ってしまっている。

「さあ、長居は無用です」

ここに彼を拘留しても仕方が無いだろう。“ラディオン”の使用に副脳が必要的ならば、“ラディオン”の存在自体を公にする事は可及的に避けた方が良い。しかし、主君から第三部隊副隊長という大きなポストが与えられていることを考えると、“ラディオン”は休戦終了直後のサンタバーレ遠征に利用したいという思惑が見える。

「これから、貴方を第三部隊本部基地へ連行します」

“連行”と言う言葉をあえて使ったのは、アレス自身、この男に対する敵意を拭いきれていないからである。

「一つ部屋を与えますが、許可無く外出する事は禁じます」

まるで格納される兵器のようだ。アレスもセイも、ツェルスによって“兵器”に変えられたアリスを思い出していたところだった。

(2)

 アンドローズ郊外に乗り捨てられた、飛空艇の左翼にて。

 リョウは眠るわけでもなくそこに寝そべり、ぼんやりと空を見上げていた。

「直射日光は肌によくないぞ」

ひらりと白い鳥が飛んできたと思ったら、それはリナだった。いつの間にか傍らに控えていた彼女に合わせて、リョウは何とか起き上がった。

「リナ……」

彼女の名を呼んだきり言葉を失っているこの幼い『勇者』は、丁度今、無力感に苛まれているところである。半年程度の付き合いだが、そのくらいはリナにも判る。

「ずっと前にも、同じことがあったよな」

一つ一つ単語を並べ、リョウはそのように切り出した。呟くようなその声が、何とも痛々しい。彼が言うように、リョウの眼前でセイが魔王軍に連行されたのは、これで二度目である。自分を追い詰める余り、本能が危機を感じて健忘させるほどの深刻なショックを、リョウは受けていた。

「ジェフズ海のことか」

実は、その戦いをリナも思い出していたところだ。たった今、セイがアレスの部隊に配属されている事をフィアルから聞きつけたからだ。それが本当なら、セイは勿論、アレスの心境もさぞや複雑なものだろうが。

「あー! クソ情けねえ!」

リョウはまた仰向けに倒れ込んでしまった。良くも悪くも、何でも背負い込む性格の所為だろう。リョウの怒りや悔しさのベクトルは、常に自分自身を指している。

「オレ、何にも変わってねえよ! 森を砂漠に変えることができるようになっただけだ!」

結局、与えられたチカラではセイを守りきれなかった。ただ怒りに任せてあらゆるものを破壊するだけの手段にしかならなかった――リョウはそれを悔いていた。

「落ち着け、リョウ」

リナは口元を緩めた。

「アンタは、よく耐えたんだよ」

少し強い風が吹いた。砂塵が辻風を白く染めて消えていくのを見送って、リナは続けた。

「もしも、私やフィアルがお前のようなチカラを持っていたら、間違いなくリノロイドに対して行使していただろう」

そしてそうなれば、リョウの目指す魔王との“交渉”は破綻を余儀なくされてしまっていただろう。更に、リナは続けた。

「ジェフズ海の戦いでは、まだセイはアンタを頼り切れていなかった。せめて全滅は避けようとして、アイツは自分が一人捕まることで事態を打開しようとしていたんだ。助っ人を買って出た私としては悔しいが、結局アイツは、あの時だって独りで戦っていたワケだ」

顔を向けたリョウとしっかり目を合わせ、リナが口元を緩めた。

「断言しておくが、今は、違うからな」

セイの強さを当てにすることなら、これまでも何度と無くあった。しかし、リナの見立てでは、今回はその逆である。

「そう不思議そうな顔をするな。アイツのことだ。絶対に口には出さんだろうから、私が代わりに言ってやるよ」

リナはそう言ってニヤリと笑って見せた。

「そういえば……」

リョウは取り戻したばかりの記憶を辿る。

 遡るのは、リノロイドから逃れようとしていた最中である。呪詛によって半殺し状態のセイから、散々と指図に罵声まで添えられた挙句、取って付けたように放たれた、下記の言葉がリョウの脳裏を過ぎっていった。

“お前の役目は他にある”

ふと、リョウは思った。もしこれが、リナの言う“今は、違う”の意だとしたら……

「野郎、随分上から見てくれてるじゃねえか!」

声を荒げて飛び起きたリョウを見、伏線があったようだと察したリナは笑い転げる。皆、いつまでも落ち込んでいる場合ではなさそうだ。

「サンキュ、リナ。大分落ち着いた」

落ち込んだ時や苦しい時、こうして傍に控えて元気付けてくれる彼女に、もう何度救われたか知れない――謝意を伝えたリョウは両手で顔面を数度拭った。所作はそれだけだが、幾分気が晴れてすっきりとした。

「そうだな、後ろ向いてる場合じゃない」

リョウは立ち上がった。そう、今、考えなければならない事を考えなければならない。

「セイに付けられてるのは、ディストにも付いてた“副脳”という懐柔ツールだ」

リナはリョウを見上げてニッと笑った。

「頼んだぞ」

副脳を解除するツールを持っているのは、全世界中でリョウのみである。魔王軍がセイをこちらにけしかけてくれさえすれば、奪回のチャンスはある!

「ああ」

リョウは口角を引き締めた。

(2)

 夜は深まり、程なくして、アンドローズから明かりが消えた。何はさておき魔王軍の為に、明かりを作るためのエネルギーは、なるべく軍の武器生産や基地の夜間照明に利用されることになっている。

 民がそれで納得しているのは、魔王の持つカリスマ的ヘゲモニーのお陰であった。もっとも、納得できない民の勢力も近年増し続けているのだが……


 「そろそろ、アンドローズにいらっしゃる頃だと思っていましたよ」

少女の声が闇の中から聞こえてきた。

「ああ。休戦中って聞いたから、今がチャンスだな、って思ったんだ」

フィアルは闇に向かって話し掛けた。

「それより、ちゃんと部隊の連中と上手くやってるか?」

「ハイ。本当に、フィアルさんには感謝しています。」

闇の正体は、魔王軍第二部隊隊長・ヤカ。ヒトとマゾクのハーフである彼女は、前隊長ディストの養女であったが、彼が刺客としてランダの子孫達の元に派遣され、そのままソニアと共に消息を絶った後は、フィアルがディストに代わって保護責任者の役を引き受けていたのだ。

 とはいえ、その安全保障も彼女が第二部隊で独自に“信頼”を得ている事で担保されるまでになった。だからフィアルも心置きなく軍を脱退できたのだ。

「休戦中とはいえ、第二部隊は活動中なんです。アンドローズ中にフィアルさん達を狙って、配置を完了しています」

「やっぱり?」

フィアルは大きな溜息をついた。

「ご安心を。此処なら暫くは安全ですから」

乾いた音を立てた闇からフィアルの手元に、幾らかの機密書類が回された。

「アレス元帥が第三部隊本部に到着したみたいです。でも、新入隊員の件は全く公になっていませんでした。彼はやはり、サンタバーレ遠征で戦力として利用されるみたいです」

ヤカの報告に、フィアルは小さく唸る。

「何とも厄介だな……」

セイとリョウが接触しない限り、セイの副脳を外してあげられない。フィアルは渡された書類を睨み付ける。

「第二部隊はサンタバーレ遠征直前までアンドローズを見張っていますが、後は第一部隊と共に前線に向かいます。アンドローズ城を攻めるなら、休戦協定破棄後が良いでしょう」

ヤカはそう進言してくれたが、それではセイと擦れ違ってしまう。

「何とか、今の警備を手薄にできないのかい?」

「フィアルさんもご存知の通り、第二部隊は、仕事に当たる人数が変わっても、仕事量は一定でこなす連中ばかりです。そうじゃなくても、ターゲットがランダの子孫や貴方だから、みんな張り切っちゃって……」

第二部隊は少数精鋭部隊である。一歩間違えれば「四天王」候補が大量にいるこの第二部隊を敵に回してゲリラ戦を展開していれば、リノロイドに到達する前に大怪我をするだろう。それは避けたい。

「開戦まであと15日間だから、それまでに何とかセイと接触できれば良いんだけど」

しかし、その可能性は微妙なところだ。結局のところは、アレスがどのタイミングで、何に向けてセイのチカラを利用するかに全てかかっている。

「私がアレス元帥に勧試してみましょうか?」

フィアルの手詰まりを察したのか、ヤカから何とも魅力的な提案があった。

「……できるのかい?」

しかし、それは危険な賭けだ。アレスは察しが良い。ともすると、この少女の安全保障にも陰りが出る。それではディストに申し訳ない。

「父からは、貴方の恩に報いるようにと強く念を押されています」

ヤカはそう言ってくれた。

「それに、それができなければ、私が軍で守られる資格なんか無いと思っています」

その言葉だけを残し、少女の気配はフィアルの返事を待たずに消えてしまった。

ヤカが無茶をしなければ良いが、ともう一つ唸り、フィアルはやけに星がギラつく空を見上げた。

「どう出る、アレス?」

昨日の戦友は今日の敵――理解はしていても、肌に馴染まないものである。

(3)

 魔王軍第三部隊本部は、丁度地図上で正方形の形をしたアンドローズの町の左辺に位置している。セイの軟禁されている部屋の大きなガラス窓からは満天の星空と海が見えた。しんと静まり返った真っ暗な空間を波の音が支配しているそこは、ついこの間まで、セイが監禁されていたジェフズ海の基地ともよく似ていた。

 ただ、かの基地には、敵方であるセイのために、いつも甘い物をわざわざ土産に持ってくる、話好きな女がいた。

 ――彼女はもういない。何処にもいない。

「セイ、」

ノックの音とアレスの声がしたと思ったら、鍵を開ける音が聞こえてきた。セイは何とか起き上がる。

「うっかりしていました」

一言詫びて、食事を運んできたアレスは白衣である。魔王勅命軍元帥という彼女の具体的な仕事が何なのか、セイにはやおら見えなくなってしまったのだが、忙しいだろうことはよく判った。そう言えば、半年前に出会ったときよりも、アレスはやつれて見える。

「別に」

セイはトレーを受け取ると、そのままそれをガラステーブルの上に置いた。此処に来てから動いていないこともあり、彼はずっと食欲が無いのだ。

「しっかり食べなさい。別に毒など入れてはいませんから」

仇を討つならばフェアに戦うつもりであるとアレスは思っているし、毒を警戒して食事を摂らない訳ではないとセイは思っている。そこに言葉が無い為、お互いに誤解したままであるが、構わず、二人は波の音を聞いていた。

「此処では、貴方は“兵器”なのです。遠征に出かけていって使い物になれなければ、貴方は此処ですら存在価値を無くしてしまいますよ」

アレスはそうセイを戒める。

「その時は、」

セイは視線を落とす。

「その時は、お前に殺されるのか?」

流石の『勇者』も、こんな場所に軟禁されては少々弱りもするのだろうか。

「まだ、そんなコトを言っているのですね」

アレスはセイを睨んでみせた。もっと楽に妹の仇を恨む事ができたらと、つい、思ってしまったのだ。

「神の恵みの作物です。きちんとお食べなさい」

返す言葉を失い、セイは仕方なく運ばれてきた食事に手を伸ばす。別に彼に合わせた訳ではないが、アレスも口をつぐむ。

 「(皮肉ね)」

アレスにとって妹の仇であるこの男にだって、ディストという父の仇は討たなかった経緯がある。戦争が報復の連鎖なら、この場にいる二人は種族は違えどもかなり奇特な部類だといえる。

 餓死されても困るので、アレスはセイが食事を摂り始めるのを確認するまで、暗い海を眺めていた。波の音が絶え間なく部屋に響いている。

「(此処はあの基地と似ているのね)」

つい、同情的に目の前の妹の仇を見てしまうのはその所為だろう――忙しさのあまり忘れてしまっていたが、アレスは妹とそんな会話を交わしたこともあった。

「オレは、此処で何をすれば良いんだ?」

妹の敵の声は想像よりも穏やかである。感傷に浸る気にもなれず、アレスの返答は事務的になった。

「栄養補給と、基礎体力作り。これは毎日欠かさない事」

淡々とそう指示したアレスは、やっとセイの顔をしっかり確認した。成程、涼しい目付きや素っ気無い口調や態度とは裏腹の、赤みの強い褐色の熱情的な髪や目の色を見るにつけ、妹の好みそうな顔立ちではある。アレスは一つ、溜息をついた。

(4)

 リョウ達、とりわけフィアルが身体的に負ったダメージが深刻で、丸2日の間、飛空艇から動く事はできなかった。幸い、飛空艇の近くには森が残っており、その森の中にアンドローズの主水源となっている大きな湖があったので、飲料水には困る事は無かった。


 「結局、お前の言った事がホントになった感じだな」

この日の晩の献立はククルの実の入った粥とリェダの茎のピクルス。その下準備に使う水を湖から汲み上げながら、リョウはフィアルに話しかけた。

「オレ、何か言った?」

リョウが汲み上げた水を受け取り、フィアルが首を傾げるが、当のリョウはすぐに飛空艇に積む飲用水のタンク2つに水を汲み入れるという重労働に手を着けてしまった。こうなっては私語もままならないので、リョウが話し始めるまで、フィアルも夕食の下準備をすすめることにした。まだ剣を掴めないフィアルとしては、夕食の下準備とはいえ、リハビリである。リェダの葉や茎に染み込んだ酸味の強い香辛料を湖の水で洗い始めたところ、漸く、リョウが話の続きをし始めた。

「お前に、何でリノロイドのコト嫌いなのか訊ねた時に、……」

“目の前で、セイちゃんが殺されちゃったら”

フィアルがそのように例えたのは、「相手に殺意を覚える」という薄汚い感情である。

「オイオイ、勝手にセイちゃん殺すなって!」

フィアルは苦笑してみせたが、セイの生死はアレスのご機嫌一つで変わる。よりによって、アレスなのだ。これが如何に危険な状況なのか、リョウも理解しているのだろう。

 二つ目のタンクにも水を入れ始めたところである。まだ握力の戻らないフィアルの代わりに、水をたらふく飲み込んだ一つ目のタンクを引き上げようと、リョウが冷たい湖に右の手を突っ込んだ。その途中だが、

「でも、分かっただろ?」

とフィアルは幼い『勇者』に声をかけた。

「リノロイドは、目的の為に手段を選ばない非情な女だ」

――魔王の布いた呪詛が消えて、漸くこの森にも生気が戻り始めていた。集い始めた鳥の声が宵の時刻を告げる。

「正直さ、」

350オンスのタンクを水の中から引き上げて、リョウは口を開いた。

「可哀相なヒトだとは思ったよ」

引き上げたタンクの水が大きく揺れたのに合わせて、プラスチック製の容器が地面の上でカタカタ音をたてて震えている。丁度、二つ目のタンクもフルになった頃合だ。リョウはもう一度右の手を湖に付けた。「これ、腰に悪ィよな」とか何とか、彼は言っている。

「リョウちゃん、リョウちゃん、」

釘を刺しておかなければならないが、彼の優しさは責めるべきではない――フィアルはリョウに声をかけた。何事か、と思ったリョウがフィアルを振り返ったところである。

「……この甘チャン!」

腕を組み、突き放すような鋭い口調で、フィアルはセイの真似をしてみせた。

「フィアル、それ、激似!」

リョウは湖にタンクを落として笑い転げてしまった。

「似てるっしょ? 本人からは薪で殴られたケドな」

汲むべきは湖の水であり、酌むべきはフィアルが誤魔化した部分である。

「何につけても、申し訳ない」

故に、リョウの詫びの言葉は、かなり複雑な一言になってしまった。

「リョウちゃんの、そういうトコ好き」

まだ調子の悪い両手両腕を何とか伸ばして、フィアルはリョウが湖の底に落としたタンクを引き上げにかかった。

「できれば女子から欲しいセリフだな」

ここはフィアルに任せ、所在をなくしたリョウは、大きく溜息をついて、空を仰いでいる。今すぐにだって動きたいのに、身動きの取れない状況が、無駄に息を詰まらせるのだろう。

 やおら、

「アレスって、どんな人なんだろ」

などとリョウが呟いた。

「んん?」

フィアルの手から、タンクは無情にも滑り落ちる。鈍い音を立てて容器が沈む音が遅れて聞こえてきた。動揺した、と思われたのだろうか。

「フィアルの場合は、アレスも心配なんだろ?」

と、リョウが詰る。返事を、と思って振り返ったフィアルの視界に、ヒメグリと呼ばれる妖鳥が南から西へと飛んで行くのが見えた。そろそろ日が沈む。

「……だァれがあんなゴリラ女っ!」

心配には及ばない、と逞しい彼女は言うだろう。策士である彼女の頭の中は全く読めないが、彼女が言い出しそうなことは大体解る――フィアルとしては、それが悔しいのだが。

「オイオイ、ムキになるなよ」

リョウがニンマリ笑って見せた。普段は『勇者』という肩書きに塗り潰されて、影を潜めた「17歳の少年」の顔である。

「いーや、この際だからハッキリしておく!」

「おうよ、ハッキリ好きだと言っちまえ!」

「だから違うって!」

自分の想像以上に、ポーカーフェイスは難しい――特にここ最近、フィアルは、この幼い『勇者』と話をしているとそれを痛感させられてしまうのだ。

 暫く、湖の底に沈んだタンクはなかなか引き上げられずに、ぽかんと口を開けて揺蕩っていた。

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