第47話 リンチ(1)
(1)
サンタバーレでの生活の3日、4日目が流れるように過ぎていった。流石に城での生活に慣れたとまでは言わないが、一々驚くことは少なくなり、リョウとセイは要人との会談を着々とこなしていった。
5日目が過ぎると訪れる客も随分と減り、リョウとセイは専らサランの剣術指導に時を費やすことが多くなってきた。少し目を離している間に、サランの剣術は驚くほど上達していた。
きっと、サンタバーレ王家は武術の才に恵まれているのだろうと、周囲も驚愕の眼差しで王子達を見守っている。
「くっ!」
リョウは顔面目掛けて振り下ろされた木刀を何とか受け止めた。セイは一度更に強い力でリョウの木刀を押し込むと、突然リョウの押し返す力を受け流し、左足を軸に、体勢を低く立て直す。
「(来る!)」
リョウは木刀のハバキをセイの木刀の刀身にぶつける。
「(――下に、右に、と来て、右・下・左・上!)」
永年の修行で何とかリョウが身に付けたのは、セイの太刀筋のクセを読むことであった。
「チッ!」
セイが漸く間合いを取り、模擬試合が終了した。
「スゴイです!」
サランが二人に拍手を送った。
「(ひーっ!)」
リョウは冷や汗を拭った。セイとの手合わせで重要なのは『勘』である。これが少しでも鈍ると、打ち身や捻挫の原因になる。何せ、実戦から入ったというセイの剣術には、手加減という言葉が無いのだ。
「次はリョウとサランだ」
セイも汗を拭った。勿論「冷や汗」などではなく、晩夏の暑さから来るものだ。こうして剣を振るっている今でさえ、何処からかヒグラシの声が聞こえている。試合を、と言われたリョウとサランは顔を見合わせた。
「オレ、まだやるのォ?」
「僕、まだそんなレベルじゃないですよォ?」
ぶうたれている二人に、「さっさと動け!」とセイの怒号が飛んでくる。
「(オレの方が働いているような気が……)」
リョウは渋々木刀を取る。本人に自覚はないが、リョウは意識的に加減をするので、上達し始めたサランの相手には適役だったのだ。
「――にしても暑ィなここは」
もっとも、ちゃっかり日陰で涼を取っているセイが、そこまで考えているのかどうかは定かでは無いが。
そこへ、
「リョウちゃん、リョウちゃん!」
と賑やかにフィアルが走ってきた。城の中は闇魔法分子を通さない構造になっている為、彼の得意とする瞬間移動呪文(テレポート)は使えない。フィアルはセイから渡された水を飲み干してから用件を伝えた。
「リョウちゃんに、お客様」
「え? オレに?」
人と会う時は大体セイが同席するし、むしろ望まなくても同席を求められることが多い。リョウは首を傾げたが、そのまま木刀を下ろした。
「もう待合室に来てるよ」
息を切らしているフィアルを見るにつけ、取り急ぎ頼まれたのだろう。
「じゃあ、急がなきゃな」
と、木刀をフィアルに預けたリョウは、軽い気持ちでそのまま城内へと走っていった。
「誰なんですか? リョウさんのお客様って」
サランも一口水を飲んだ。
「あ、オレ言ってなかったや」
しまったな、とフィアルは呟く。
「何でも、リョウちゃんの育ての親だって。ベルシオラスから」
フィアルから出た「ベルシオラス」という町の名前を呟いたサランの視界を、栗毛が横切った。
「(セイさん?)」
その客とリョウとの面会に同席するかをセイに確認しようとしたサランだったが、何故だか、彼がいやに殺気立っていた為、声をかけそびれてしまったのだ。
ヒグラシの声が止む。風は弱いがどこか騒がしい。再び、ヒグラシが叫び声を上げた。殆ど唐突と言うべきタイミングで、セイが城を見上げた。
「……行って来る」
何かを察したのか、セイは足早に中庭を後にした。事情を知らないフィアルとサランは顔を見合わせるしかない。
(2)
ゲストルームで待っていた人物は、恭しくリョウに挨拶をして見せた。
「これはこれは第二王子、」
しかしその男は、リョウが記憶の中から何度も排除を試みた男だったのだ。聞き覚えのあるその高い声に、殆ど反射的にリョウの背筋が凍りついた。
「久しぶりだな、リョウ」
と男の薄い唇がニヤリと笑う。
「オレの顔くらいは覚えているだろう?」
親しげに話しかけられたのだが、名前を呼ばれた途端に血の気が引いたリョウは、もう会話どころではなくなっていた。
「……お久しぶり、です」
とにかく全身の動揺を隠すのが精一杯で、リョウの声は頼りない音にしかならなかった。
「ハハ、地位と図体だけはデカくなりやがったが、やっぱりお前は昔のまんまだ。安心したゼ」
随分久しぶりに会うにもかかわらず、怯え切っているリョウの様子に、男は満足そうに高く笑った。
「お前は昔のように素直な良い子でいてくれさえすれば良いんだよ」
男は震えているリョウの髪を撫で付ける。
「!」
左手の親指の爪が、かつての痛みを思い出してキリキリと疼いた。リョウは思わずその手を抑えて立ちすくんだ。
――そう、待ち人とは、リョウの養父であったのだ。
「つれないなァ、折角育ての親がわざわざ出向いてやったってのに」
男はリョウの髪を掴み上げた。リョウは強く目を閉じて恐怖に耐える。バチン、と木の爆ぜるような音がした。それには構わず、男はガタガタ震え始めたリョウの髪を掴んだまま、窓際の壁に押し付けた。
丁度、リョウを追って来たセイがゲストルームの扉の前に辿り着いたところだ。
「(あれが……)」
リョウの養父――身の丈は中程度か。一見細面の優男だが、眼の下の大きなクマが印象を貧相にしている。僅かに開いていたドアから、殆ど正面に見える兄と兄の養父を確認するなり、セイは眉をひそめた。
「(殴っちまえよ!)」
セイはそう思ったが、兄にそれができないこともよく分かっている。恐怖心もそうだろうが、何よりもそんなことが出来ないのがこの兄の性格である。
「(チッ、甘チャン!)」
セイはもどかしくて拳を握りしめた。いっそ乱入してやるべきか、とも思っていたが、
「セイ」
と、不意に肩を叩かれ、振り返ったそこにリナがいつの間にか控えていたので、何とか彼は部屋の扉をぶち破るのを思い留まる。リナは音を立てないようにゆっくりと扉に近付き、聞き耳を立てて会話の内容を探る。見ていられなかったセイは、扉から顔だけを背けた。するとすぐに、
「折り入って相談があるんだよ」
と切り出したリョウの養父の声が、セイの耳にも届いてきた。
「オレの事業に、投資して欲しいんだ。10万ゴールド程な」
会社などとうの昔に倒産し、借金を妻子に押し付けて、逃げるようにベルシオラスを出た男であることは、リョウもセイも知っていた。経営者としての信用も無いこの男を誰が取引先と認めるだろうか。
「(止めろよ、リョウ)」
セイは扉を睨みつけた。いくらリョウでも分かっている筈だ。この男は、リョウを金ヅルにしたいだけなのだ。『勇者』と崇められ、『王子』の肩書きを持っている――おまけに自分の言う事を何でも聞いてくれる――義理の息子を。
「リョウ、おい、リョウ! 聞いてんのかァ?」
男の怒号に、セイは再度部屋の中を見た。
「!」
義父に数度頬を殴られ、殆ど放心状態のリョウがセイとリナの視界に入る。
「簡単だろ? お前が国王様に頭を下げて無心してくれりゃア、すぐに手に入る端金じゃないか。お前の養育費よりはずっと安い」
それにしても、何という屁理屈だろう。リナまで眉を顰めたのが解る。
「何ならオレが直接請求するぞ?『勇者』サマの育児に随分カネ使ったから、返してくれってな!」
リョウは首を振った。首を振って座り込んでしまった。
「じゃあ、お前が頼んでくれるんだな?」
「どうなんだ!?」と、リョウの髪を掴み上げで怒号を浴びせる。リョウの恐怖心を煽ってマインドコントロールするのだ。
「お金は、」
兄の声が細く、震えていた。
「お金は、オレが出します。だから、もう、ここには来ないで……」
「(バカ)」
セイは思わず溜息をついた。サンタバーレ城に通告すれば良い。左手の親指の変形した爪は虐待の証拠になる。その男を二度とリョウに近づけなくさせる事だって出来る筈だ――セイは再び拳を握り締めた。リナも小さく溜息をついている。
「(確かに)」
リョウは分かっているのだ。サンタバーレに通告すればお咎めが養母や姉にも及ぶ事を。そしてリョウから金を得られなくなった養父が最終的に頼りにするのは、その養母や姉であることを。
「まあ良いだろう」
この場でただ一人、リョウの義父が笑っていた。
「今日の夜、アルメニア大聖堂の最後の鐘の刻に、10万ゴールドを持って城下に下りて来い」
リョウの声は聞こえなかったが、同意したのだろう。リョウの義父の満足そうな高笑いが聞こえてきた。
「(野郎――)」
セイは拳を突き上げた。本気で此処でリョウの義父を殴り飛ばしてやろうと思ったのだ。
「(止せ!)」
それに気付いたリナが強引にセイの腕を引っ張って、その場を急いで離れた。二人が向かい側のゲストルームに飛び込んだすぐ後に、扉の閉まる音と、革靴の音が響いてきた。
(3)
リョウの養父が城を出たのを確認したリナは、まだ機嫌の悪いセイにそれを告げた。
「レジェス殿の前では、あの男も猫を被っていてね。私もベルシオラスにリョウを迎えに行くまで、あの男の本性を見抜けなかったんだ」
サンタバーレ城御用達の看板が欲しかったのだろうが、その当時、第二,第三王子の存在はサンタバーレ城でも機密事項であった。その為、上手くコネクションを利用できないことを知った彼は、その腹いせにリョウに辛く当たったのだろう。
「それでも、あんなになったあの子、初めて見たよ」
リナも相当苛立っているようだ。
「あんな傷を隠していたなんて、全然……」
ベルシオラスの人魚の住処で、セイがリョウの傷を垣間見たのはついこの間の話である。傷付けられ過ぎてすっかり変形したリョウの左手の爪が、セイの瞼に焼きついて離れない。
「今晩か」
と、リナはぽつりと呟いた。
「どうするつもりだ?」
セイはベッドに座り込んだが、ウォーターベッドのグニャグニャした感じが、更に苛立ちを募らせるだけだった。
「今、私も冷静になれない」
それだけ呟いたリナから、セイは何かぞっとするものを感じ取った。彼女は一度強く首を振って、窓の外を見て、一度、大きな溜息のような深呼吸をした。
「あの男はリョウの心の傷を利用して、金をたかり続けるだろう。だから、決してリョウをあの男に会わせてはならないね」
それだけはハッキリした。
「(アイツ……)」
軽い目眩を感じたセイは、一度強く目を瞑った。息が詰まる感じがして、胸が苦しく、気が滅入ってきたような錯覚を覚えた。兄の意識が自分にも流れ込んできたのだろうと思い至ったところ、為すべきことが見えてきた。
(4)
部屋の照度が低くなってきたが、リョウはずっとうずくまったまま、窓の明かりを見上げていた。
「いつまで……」
呟いた視界の先で、リョウはまだ、今でも消し去ることの出来ない義父の残像に責められ続けていた。
「(このまま、……いつまでも?)」
萎縮した神経が助けを求めて頭を叩きつけてくる。強い頭痛と吐き気に苦しむ今の姿だけは誰にも見られたくなくて、リョウは這うようにドアノブにすがり、鍵を探した。しかし、鍵をかける前に、ゲストルームに様子見に来たフィアルと出くわしてしまった。
「フィア、……」
リョウは何とか唇に笑みを引っ張ってみたものの、すぐに崩れてしまう。
「気分悪そうだね、大丈夫?」
倒れこんでしまいそうなリョウをしっかり支えてやって、フィアルが問う。ここで誰と何があったのかを彼が問わなかったから、良かった。
「大丈夫だよ」
同じセリフを、かつてリョウは、養母や姉に何度も言っていた。
「部屋に戻ろう。歩けるか?」
「ああ」
大丈夫だよ、大丈夫だよと――
しかし、
「あ……!」
視線を下に落としたフィアルは気付いてしまった。リョウの左の親指から血液が滴り落ちていた事に。
(5)
乾いた鐘の音が暗い森の中に響く。アルメニア大聖堂の今日最後の鐘だ。
リョウは重たい足取りで、城門を抜けた。心が折れそうになるのは、迷いがあるからではなく、恐怖心にまだ打ち克てないからである。ただ、いつまでも利用され続ける訳には行かないのはよく分かっているので、とにかく足を進めることにした。珍しい夜道の歩行者に、冬越しの卵を産んだ蟲たちが警戒して一斉にさざめき始めた。
丁度、その時だった。
「リョウちゃん!」
と、突然フィアルの声が聞こえたと思ったら、リョウが振り返る間もなく、身体は宙に浮かび、足が地面から離れて行くのが分かった。
「え……」
あまりにも急な展開に、リョウは自分の置かれた状況を飲み込むのに多少時間がかかったが、どうやら自分は、フィアルの炎鳥(フレアフェニックス)の上にいるのだということは分かった。炎鳥に何とかしがみつき、リョウが振り返った先で、微笑む亜麻色の髪の青年が地面に合図を送っていた。
「フィア?」
リョウは慌てて、フィアルが合図を送っていた地面方向を確認する。
「え!?」
何故かそこにも“リョウ”がいる。いや、そんな筈は無く、その“リョウ”はリョウと同じ髪型と服装をしている双子の弟――
「セイ! アイツ、何を……」
身を乗り出すリョウを制するように、フィアルが抑え込む。「任せておけ」と、彼は言った。戸惑うリョウに、
「オレ達は、お前が何をしに城を下りようとしていたのか、知っていたんだ」
フィアルは炎鳥に上昇命令を出した。
「そしてオレ達は、お前とあの男を会わせてはならないと判断したんだ」
「でも、オレが行かなきゃ……何も解決しないんだ」
リョウは森に消えたセイを目で追う。
「お前が行っても、何も解決しないよ?」
フィアルは断言した。
「お前自身が一番良く分かっていたんじゃないか?」
現に、リョウは養父に指示された金を持って来てはいない。しかし、
「せめて……」
リョウは言った。
「フィア、せめて、セイの後を追ってくれ!」
リョウはフィアルの黒の外套を掴んで嘆願した。
「フィア、頼む! 確かめたいことがあるんだ!」
今更何を確かめるのか、とフィアルは困惑した。それに、行かない方が多分、彼にとっても良いだろう。しかし、尚もリョウは引き下がらない。
「――何で、って……上手く言えないんだけど」
何とも詮無い理由だが、それでもリョウが望むなら、とフィアルは城へと戻りかけていた炎鳥を旋回させ、森への低空飛行を指示した。
「これだけは約束してくれ」
フィアルはセイの闇魔法分子を追う。
「何を見ても、アイツを責めないであげてくれないか?」
フレアフェニックスが着地した。茂みに分け入ること数分、リョウとフィアルの耳にも、聞き慣れた声が聞こえてきた。
(6)
耳障りな声に呼び止められて、セイは足を止めた。
「リョウ、遅かったな」
昼間見た男は、案の定、セイを「リョウ」と呼んだ。セイはニッと笑った。
「がっつくんじゃねぇよ。金の亡者め」
セイは麻の大きな袋を足元に置いて言い放った。
「何だ、リョウ? オレにそんなデカイ口叩ける身分じゃないだろ?」
動揺するリョウの養父を鼻で笑ったセイは、
「一度言ってみたかったのさ」
とだけ言った。
「まァ、良い。――それより、金はあるんだろうな?」
リョウの養父は早くもセイの持ってきた大きな麻袋に関心があるようだ。
「バカにするんじゃねェよ。テメエの倍は稼いで来たさ」
動機はさておき、本日もセイの“毒”は攻撃力抜群であった。
「ふざけるな!」
逆上し、殴りかかろうとするリョウの養父の拳を難なく躱わし、セイは隙だらけの彼の足元に足払いをかけてやった。体勢を大きく崩されたリョウの養父の身体は、何の抵抗もなく地面に頭から激突した。
「気を付けろよ。御老体には森の足場も厳しいだろう?」
セイは冷笑して、痛みにうずくまるリョウの養父へと麻袋を放る。
「クッ!」
リョウの養父はセイを睨み付けたまま、麻袋の中に入っている筈の10万ゴールドの小切手を探した。しかし、
「あ!?」
麻袋の中に入っていたのは小切手ではなく、ありふれたダガーナイフであった。
「!」
茂みの陰で様子を窺っていたリョウも驚いて声を上げそうになった。
「懐かしいか?」
セイは言ってやった。
「リョウ、貴様!」
リョウの養父の目が怒気を帯びてきた。
「テメェに渡す金など無いが、折角の再会に手ブラも何だから、オレとテメェの思い出の品を持って来てやった」
かつて刃は、リョウに傷と痛みを教育させる為のツールとして用いられていたという。「売っ払えば、10ゴールド程度にはなるんじゃないか」と笑ってやったセイ扮するリョウに、養父はあからさまに脅迫的な態度をとり続ける。
「リョウ、貴様、オレを裏切るつもりだな?」
「テメェに与した覚えは無えよ」
挑発的なセイの態度に激高する養父を見た刹那、条件反射で震え始めたリョウの身体を、フィアルはしっかり支えてやった。
散々リョウへの恨言をわめき散らしたリョウの養父が、ふと、口角を上げた。
「オイ! 出てきてくれ!」
とリョウの養父は声を張り上げた。その瞬間、殺気を感じてセイは慎重に気配を辿った。
予め、セイは周囲に多くても6人の気配を察知しており、この展開は想定していたので、特に驚きは無い。その中には、潜伏中のリョウとフィアルも含まれているので、実質、敵は4名である。
「プロにしては雑な潜伏だな」
セイの周りを、数名の男が取り囲んだ。金の無い傭兵達が副業でやっているケンカ屋のようなものだろうか。リョウとフィアルも固唾を飲んで敵の動向を観察する。
「残念だよ、リョウ」
リョウの養父は冷笑混じりでそんな風に切り出した。
「お前がちゃんと良い子でいてくれないから、オレも『お仕置き』をしなくちゃならなくなるんだゼ?」
「こんなゴロツキ共に支払う報酬があるんなら、ベルシオラスのパン屋に押し付けてそのままの借金を返してやればどうなんだ?」
セイは男達を睨み付けたまま皮肉る。そこへ、
「ゴロツキ呼ばわりとは流石だなァ、勇者様ヨォ」
男達の一人がそんな事を言って笑った。どうやら、彼らは目の前の男がランダの子孫である事を知っているようだった。
「テメェ……」
セイはリョウの養父を睨みつけた。
「勇者サマが一般民間人を傷付けちゃったら、これは相当な事件ですよね?」
男達は笑った。
不意に、小さくうめき声を上げてリョウが倒れこんできた。
「リョウちゃん?」
リョウは、フィアルの肩に顔を押し付けたまま、小さく震えているだけだった。
「(あ!)」
“確かめたいことがあるんだ!”――そう言ったリョウの辛そうな表情の意味を、今やっと、フィアルは悟ることが出来た。
「やれ!」
リョウの養父の合図で、男達は一斉に仕掛けてきた。相手は全部で4人。1人がセイの動きを封じる為後ろから掴みかかる。と同時に、二人の男達が殴りかかってきた。
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