第36話 ダークプリンス(1)
(1)
宣旨があったとはいえ、優勢下での停戦協定に向けての調整は慎重すぎるのではないかという意見も根強く、魔王軍は会議を繰り返しながら体制の引き締めにかかっていた。
「なぁ、アレス、」
闇の民の王が代々統治の拠点としたアンドローズ城という雅やかな場所でさえ、その日も会議はきちんとあって、きちんとフィアルも出席していた。
それは真っ当な社会人ならば当然なのだが、相手はフィアルなだけに、アレスとしては調子が狂う。話しかけられるのは会議の議事録と報告書を作っている最中なので、正直、アレスに会話を楽しむ余裕は無いが、彼なりの気遣いは有り難いと感じていた。
「何でしょう?」
気持ちの穏やかさとは裏腹に、アレスの返事は素っ気ない。こちらはいつもこうである。ただ、その日のフィアルの様子の方はいつもと違っていた。
それは、何とも不思議な質問から始まったのだ。
「アレスはさ、自分にとって大切な人たちがそれぞれ敵対していた、ってことがある?」
あまりにも悲しい話に、思わずアレスのキーボードを打つ手は止まってしまった。
「貴方にはあるのですか?」
逆に問い返してしまったのは、幸い、アレスには想像ができない例え話だったからである。それにしても、このアレスの問いに対する彼の答えは、実に抽象的だった。
「オレはいつも歴史の第三者。どうしていいのか判らなくなって、戸惑っている内に世界が勝手に回っていた」
フィアルの口から突如出てきた複雑な言葉の解釈に手間取り、アレスは言葉を失ってしまった。アレスの困惑を察したのだろうか、フィアルの次の質問はかなり具体的になされた。
「お前、敵がオレでも戦える?」
例えがあまりに唐突で、アレスは顔を上げてしまった。フィアルは窓の外を眺めている。肩まで伸びた亜麻色の髪の所為で、彼の表情までは見えない。アレスも彼に合わせて議長席隣の窓の外を見遣る。アンドローズ城の外堀の蓮の花の蕾が見える。
嫌な質問ですね、と前置きしたアレスは、
「なるべくなら、戦わずにいたいわね」
と白状した。そう短い付き合いでもなくなった二人である。最早誤魔化しようがないほど、お互いに動揺したことくらい解る。アレスは沈黙したままの彼の後頭部ばかりを見つめていた。今、フィアルがやおらこちらを見た。口を開いた。曰く――
「そっか」
やっと、フィアルは笑みを見せた。何故だろう、少し、アレスは不安感を覚えたのだ。
「取材協力、ありがとナ」
やがて彼はアレスにゆっくりと背を向けた。何故だろう、アレスの不安感はそれだけで募った。
――消えてしまうのではないか、と思ったのだ。そうして、それは現実になってしまう。
「あ、そうそう、オレ、」
顔だけは彼女に向けて、フィアルは上げた手を振ったのだ。
「次の会議から、欠席するから……」
戸惑うアレスを残し、フィアルはスッ、と消えていなくなってしまったのだ。
「(瞬間移動呪文!?)」
アレスは目を疑った。瞬間移動呪文(テレポート)など、現代では、殆ど使える者がいなくなってしまったという超上級呪文(ハイスペル)である。彼女の知る、睡眠と怠惰をこよなく愛し、口を開けばバカばっかりの不謹慎極まりないフィアルのような者には到底使うことのできない呪文だ。
「(フィアル、貴方は一体……)」
議事録作成中のコンピューターから文書作成作業も中途半端なまま、悪趣味と自嘲しつつもアレスは傭兵データベースにアクセスしてみた。ここでは、魔王軍に登録されている傭兵のプロフィールを引き出すことが可能である。しかし、アレスの期待を裏切り、画面には次のように表示された。
***
≪検索結果≫
――「フィアル・エド・ラス」に関するデータは見つかりませんでした――
***
(2)
今を遡ること20年――まだ光の民が戦勝の余韻に浸り、闇の民を窮地に追い詰めていた時代の話である。
魔族専住地(サテナスヴァリエ)の或る廃れた研究所の地下実験室に潜伏していた闇の民の皇女・バラーダは、光の民の英雄・ランダがリノロイドに施した封印を、とうとう解いてしまったのだ。
それは、秩序を破壊し魔族専住地にまで踏み込んできた光の民の暴挙を憂慮したバラーダの、「希望」ではあったのかもしれない。
「母上、報復しましょう! やって下さいますね?」
愛娘が光の民への報復心を持っていることに、リノロイドは満足していた。魔王・リノロイドの封印を奇貨として南へと侵略を続けた光の民達への復讐、即ち、光の民は殲滅すべきという結論に至るのは、闇の民の皇族としては自然の成り行きだったのだ。
しかし、リノロイドの腐蝕した身体では、復讐どころか、回復呪文の波動にすら耐えられそうもなかった。魔王には、新しい“身体”が必要だった。
「バラーダ、私の望みを1つだけ叶えておくれ」
そう、新しい“身体”が。
「はい。何なりと」
そして、愛娘もそう応えてしまったのだ。
「では、お前のその身体を……私に預けておくれ!」
然して、バラーダの身体から「バラーダ」は消えた。
「おのれ――光の民共め、今に見ているがいい」
若い娘の身体には高度の魔法分子が充溢していた。リノロイドが会得していた呪文を使いこなすだけのキャパシティーとスペックが、バラーダにも充分備わっていたのだ。それを確認したリノロイドは、早速光の民達を一掃し、民族浄化を図る基盤の早期完成を目論見、実行の着手に及んだ。
しかし、リノロイドを母と呼ぶもう一人の者が、その一部始終を見ていたのだった。
「ヴァルザード……」
リノロイドは息子の名を呼んだ。これからは、闇の民の世となる。それは、とても喜ばしいことだったが、彼の口からは、母である彼女も思いがけなかった言葉が冷たく言い放たれた。
「オレは、お前を二度と許さない」
ヴァルザードはリノロイドの前から姿をくらました。彼は今なお、母親に報復する機会を窺っているという。
(3)
セイは一気に剣を振り上げてラミアと呼ばれる魔物を切り裂いた。刹那、
「セイ、後ろ気を付けろ!」
まだ斬り残している魔物の攻撃を躱わしたリョウが、振り向きざまに叫んでお節介を発揮し始めた。
「一々うるせェ低能!」
左足を軸に体を反転させたセイは、その勢いを殺さずにミノタウロスと呼ばれる魔物の首を薙ぎ払い、胴体を蹴り倒した。兄を罵るついでに、ミノタウロスはあと2匹いることを確認するセイが、足鎧を装備した左足に重心を傾けた。これは合図である――
『瞬速呪文(クイック)!』
絶妙なタイミングでリョウからセイへ攻撃補助呪文が届いた。剣を収めたセイは一体のミノタウロス目掛けて一気に加速を付けて突進し、右の拳を突き出した。
『死神の微笑(デスクレスト)!』
詠唱こそ省略したものの、リョウの攻撃補助のお陰で加速による推進力も加わったセイの拳に、圧縮された高濃度の負の闇魔法分子が取り巻いているのだから、殴られた魔物はひとたまりも無い。セイは一体のミノタウロスの鳩尾に右のアッパーを叩き込むと、背後から迫っていたもう一体のミノタウロスに、その胴体を投げつけた。息をついたセイの後方から、やおら能天気な声が聞こえてきた。
「うんうん、終わった終わった」
すっかりリョウは警戒を解いている。
「コラ、勝手に安心すんな」
セイはリョウを睨んでみせた。ただ彼は、睨みはするが教育はしない。頚を傾げたリョウに、「今後のために」と、リナは教えてやる。
「洗脳魔物だよ」
――またか、とリョウが辟易した顔をした。そこに彼なりの優しさを感じたリナは口元を緩めた。
「魔王軍は人手不足なんだ。昔から生物兵器に頼る傾向がある」
首を失ったミノタウロスが手足をばたつかせている。もうそこらじゅうが血飛沫だらけである。
「洗脳されていなければ、人を襲うこともないんかな」
うごめき続ける屍に目を向けたリョウに、「甘チャン」と声が飛んできた。
「コイツ等は本能のままに光魔法分子を持つ光の民を敵とみなし、襲う」
セイは屍と言って良いかもよくわからないその代物に向け、舌打ちした。
「オレ達が理性のフィールドで同情したところで、コイツ等が救われはしねぇんだよ」
何度も魔物と剣を交えたからだろう。セイはセイなりに合理的な哲学を持っていた。
「そうなのかもな」
光と闇は相反するもの。しかし、光があるから闇があり、闇があるから光があるわけで――リョウは覚えたばかりの呪文の詠唱を呟いた。
『解放呪文(ディスベル)』
リョウの詠唱に呼び寄せられた正のチカラを帯びた光魔法分子が、解放の光を放つ結晶となり、うごめき続けるそれを照らした。
屍は動かない。“当たり前”になった。
「(誰を救ったつもりだ?)」
リナは口元を緩めた。成程、戦わないリョウを、セイが責めない理由が少し分かった気がした。そのセイは、やっと動かなくなった死体からステッカーを剥がし取ったところだ。
「ステッカーか。街が近いのかな」
リョウの声が弾んだ。
(4)
フィアルが消えたその翌日、アレスは主君に緊急にアンドローズ城に召喚された。
「お前には、第三部隊隊長ではなく、元帥の地位を任せたい」
切り出されたのは、突然の出世話だった。
「私が、ですか?」
急なことで、アレスも戸惑って聞き返してしまうほどだった。今まで、魔王軍は四天王を頂点とする4つの部隊毎に役割が完全に分化されていた為、特に元帥という総括ポストを置く必要が無かったのである。
「フィアルを……第一部隊隊長を差し置いてのこの昇格に、全軍から承認を得られるでしょうか?」
その答えは彼女なりにもう分かっていたのかも知れないが、アレスは念の為、主君に確認した。案の定、主君は表情を曇らせた。
「此処に残ったのは、最早お前だけだ」
やはり、フィアルも軍を去ったというのだった。
「まぁ、」
しかし、主君はディストやソニアの謀反の時とは違う、冷静な反応を返した。
「あの子はいて、いなかったようなものだ」
溜息交じりの主君の呟いた声は、何処か諦めているようだった。その表情は、冷徹な闇の民の王と言うよりも、もっと感情的なものが窺えた。
「リノロイド様、」
そこで、アレスは核心に迫ることにした。
(5)
リョウは夏草の上に寝転んだ。「勇者」といえども17歳。絨毯のような夏草が堆く生い茂っているような場所には、とりあえず寝転んでみたくなる。方や、彼の同い年の弟は、休憩よりは先を急ぎたいようだが。
「町には、あと2,3日くらいで着くよ」
リナは地図を確認した。次の町はレンジャビッチ。神の都と呼ばれる観光名所である。
「ん?」
セイは水筒を振ってみた。
「水が無い」
――今朝川から水を汲んでおいたが、使った覚えはない。セイは少し引っかかった。
「川からはまだそんなに遠く離れてない。私が戻って汲んでくるよ」
リナは難しい顔をしていたセイの手から軽やかに水筒を取り上げる。「サンキュ」と相も変わらず愛嬌のあるリョウの声を背に、リナが飛び立った。
「……。」
セイはどこか腑に落ちないままだったが、とりあえず、夏草に埋もれるリョウの横に座ってみた。
「暇だな……」
こういう意味のない時間は、セイには堪らなく苦痛だった。彼には取りとめも無い考え事が多過ぎて、目を背けられなくなるからだ。
「じゃあ、さっきの続きやんねえか?」
リョウは弟を睨みつけた。
「ケッ、懲りない奴だ」
兄の睨んだ顔を見たセイは、鼻で笑ってやった。
「先攻はオレで良いな?」
「低能は好きにしろ」
此処の風はすっかり晩夏だった。乾いた風に吹かれる背の高い草がさらさらと音を立てている。リョウは一つ呼吸をおき、思い切って声を上げた。
「シリトリ!」
馬鹿馬鹿しい。実に馬鹿馬鹿しいが、この光の民の希望である双子の勇者が、現在、最も白熱しているゲームはこれだった。
「料理」
セイはニヤリと笑った。
「り……リンゴ」と、リョウ。
「ゴマすり」と、セイ。
「り、……リス」
「スリ」
「り……リアカー」
「アリ(蟻)」
「り……竜!」
「ウリ(瓜)」
「り……り……っ!」
リョウは「り」に散々貶められていた。
やはり双子だからだろうか。何とは言わないまでも見つめているものは何となく似通っていて、互いに自分を重ねては溜息を吐くのだが、同時にそこに安心したりもしているのだった。それはもうお互いに、そんなことは口が裂けても言わないが。
「どうした? もう降参か?」
それにしても、セイの脳内回路は性格の曲がったところで発達しているようである。
「いや、待て」
基本的に低能に徹して苦しんでいるリョウの耳に、聞きなれた声が聞こえてきた。
「『り』はリノロイドの『り』ってとこかなぁ」
声の主は空から降ってきた。亜麻色の髪を後ろで結んだ、「ゴキゲン」なお兄さんの名は……
「フィアル!」
リョウは歓声を上げた。
「お久しぶり!」
弾むような明るい声でフィアルは挨拶をした。
(6)
どうやらフィアルは、リョウ達が座っていたところに立っていた大きな楠の木で眠っていたらしい。彼は一度大きな背伸びをして首や肩の筋肉をほぐす。
「何だ肩こりか。回復呪文(ヒール)してやろっか?」
などと愛嬌たっぷりにフィアルに微笑みかけたリョウに、
「この老体を労わってくれるか、リョウちゃん!」
などと抱きつくフィアルのこの時は、いつもと同じように見えたのだった。
「痛ッ! この抱きつき魔め! 離せって!」
ちなみにフィアルは、6尺はあるリョウとセイよりもはるかにタッパがある。しかも、ウィザードという割には力もある。抱きつくというよりは絞め技に近いそれにもがき苦しんでいる兄に向かって、
「一回死んで、その低能を治して来れば良いだろう」
と、セイはしっかり毒を吐いた。
「こんな死に方、浮かばれねえよ!」
フィアルの腕からの脱出を試みながら、リョウが突っ込む。
「あ、それで思い出した!」
一体何を思い出したというのか、フィアルは急にリョウから手を離した。
「どうした? また刺客でも来るの?」
リョウは、圧迫されていた喉の不快感を咳とともに吐き出すと、眉をひそめた。
「そう、その刺客!」
フィアルの返事にリョウは溜息をついた。
――今度は一体誰が傷付くのだろう。そしてそれはいつか立ち直れる程度の傷で済むものなのだろうか。いつまで、それは続くのだろう。
「で、今度は何者だ?」
セイは淡々としていた。つくづく逞しい奴だ、とリョウは思う。いくらか気を取り直して、リョウはフィアルの答えを待っていたが、彼はニヤリと笑ったまま、沈黙していた。
「フィアル?」
不審に思ったリョウが、彼の名を呼びかけた瞬間、辺りの木々がざわめきだし、明らかに風の温度が熱く変化した。
「まさか――」
セイは息を呑んだ。一方のリョウは、まだ、きょとんとしている。
「そうだよ、セイちゃん」
フィアルは両手を素早く横に広げた。そのほんの一瞬で、フィアルとリョウとセイは炎に取り囲まれてしまったのだった。
「今日は、オレが刺客なんだ」
熱い風が吹き付けてきた。
一見、怠惰が服を着て歩いているようにしか見えないフィアルであるが、彼の持つ他を圧倒する強烈な負のチカラは健在である。顕になった殺気は、これまでの戦いの中で個々にそのレヴェルを上げてきた筈の双子達ですら、身が竦みそうなほどであった。同じ四天王のソニアにも、アレスにも、ディストにも感じなかった「不気味」とも言えそうな力が、このフィアルにはあった。
「マジかよ……」
リョウは冷や汗を拭った。圧倒的な力の差はあるだろうにしても、それ以前に、フィアルとは、何だか戦いたくないのだ。
「マジだよ」
フィアルは片腕を高く上げた。
『ジュノーによる赤き制裁(レッドバースト)!』
フィアルの手から炎の魔法球が二つに分かれ、リョウとセイのそれぞれに向かった。勿論、そんなものは難なく躱わす二人だが、魔法球は軌道を変えて、なおも二人に襲い掛かってくる。
「なぁ、セイ。前にもこんな状況無かったっけか?」
リョウは、セラフィネシスでのアデリシアとの戦いを思い出していた。
「無駄口叩かねえで打開策考えやがれ!」
この怒鳴りようを見るに付け、どうやら、セイにもデジャヴがあったようだ。
「お? 流石にこのくらいじゃ余裕だね」
多くの死闘を勝ち続けた二人にとって、このフィアルの攻撃はまだ余裕だったが、そんな二人よりもフィアルには余裕があるようだった。
「舐めんじゃねえよ!」
セイは足を止め、3人を囲んでいる炎の壁に向かって、簡易魔法球を放った。
「ハイ、正解」
フィアルはニッと笑った。セイが放った簡易魔法球は地表を削りながら炎目掛けて突進し、炎魔法分子の壁でカモフラージュされていた結界を壊した。二人を追っていた魔法球は軌道修正能力を失い、晩夏の風に撒かれて消えていった。
「思った以上に小賢しいじゃねえか」
セイはフィアルを睨んだ。フィアルは、詠唱をさせぬように、2,3魔法球を投げたが、セイはそれらを躱わしながら詠唱を開始する。
『闇よ、その黒き殲滅の力を経て、今ここに降臨せよ――』
しかし、ふと、セイは思った。詠唱はしたものの、あまり戦いたい相手ではない。彼には少なからず借りがある。顧みると思い知らされるのだが、闇の民がいわゆる「悪」では無い事を旅の始めに教えてくれたのはこの男でもあったのだ。
「セイ!」
リョウが声を上げた。――撃つのか? と言い出さんばかりにその表情は戸惑っている。
「くっ……!」
セイは咄嗟に詠唱を中断した。しかし、集約された闇魔法分子結晶が呼び寄せてしまった負のチカラが行き場を失いそれなりに危なっかしく、簡易とも強化ともつかない中途半端な魔法球を、セイは投げやり気味に差し出した。やおら、闇魔法分子の結晶は脆く崩れる。それでも間延びした負のチカラは、地表を削り取りながら真っすぐにフィアルに向かって突進していった。
「……。」
フィアルはただじっとその脆い結晶を見つめていたが、いつの間にか、フィアルのいたところに、フィアルはいなくなっていて、セイの放った闇魔法分子の結晶は、草原の上を転がるように通り過ぎただけだった。
「どうしたの?」
その声は、リョウとセイの背後から聞こえてきた。
「オレは、ここだよ?」
フィアルは、見当違いの場所に立っていた。瞬間移動呪文である。彼に瞬間移動呪文を使わせることがない程の速いテンポで攻撃を繰り出さなければならない事など、百も承知のことである。ただ、それができなかっただけである。そして、その所為で攻撃の機会を逸したというだけのことである。
「セイちゃん、意外と優しいんだね」
フィアルは、やはり、笑っていた。
「うん、オレも心が痛いよ。結構、オレ二人のコト気に入ってるんだ」
でもね――フィアルの笑みは冷笑というものに変わっていた。
「一応、オレ今日は刺客だし、ちゃんと相手されたい方なんで、そこんトコはヨロシク」
フィアルの殺気が増したのはリョウとセイにも分かった。
「それにね、今度はマジになんないと、」
炎魔法分子が集まってきている。それは、フィアルの詠唱を待たずに次から次へと結合して、たくさんの魔法球になった。
「死ぬよ?」
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