第七話 休日の猫巫女 後編

 昼食を済ませてゆっくりスマホを見てみると、沙莉と綾乃からメッセージが入っていた。

 受信時刻を見るに朝の段階で返信があったらしく、ゲームに夢中で全く気付けなかった。急いでポチポチとタップして返信をした。


『ごめん、ゲームしてたり寝てたりしてた! ていうか待って、うち来るの?』

 数分して既読が付き、すぐに返事が返ってきた。

『そやで〜、一杯お見舞いしたるから、ゆっくり待っとき。あ、映画おもろかったって自撮り送っとくわ』

『マジか! ありがとう。ところで映画に私誘われてないな?』

『綾乃とデートしたかってん、ごめんな! 今度一緒にクレープとか食べに行こ!』

『ありがとう。愛してるよ』

 そこで返事が途切れた。沙莉は本当に可愛いやつだ。


 それにしても家に来るのなら、ちょっとでも部屋を片付けておきたい。

 少し重い身体を起こして、自室に向かおうと階段を上がった矢先に家のチャイムが鳴り響いた。


「は、はやない⋯⋯?」

 家事をしていたお母さんが歩いてきて玄関の扉を開けると、案の定沙莉と綾乃がお見舞いにやってきてくれた。二人を見て私も玄関まで駆け寄った。

 

「初めましてお母さん。小夏の友達の、香山沙莉です」

「綾乃です、こんにちは⋯⋯。小夏ちゃんのお見舞いに来まして⋯⋯あ、小夏ちゃん」

「二人共、わざわざありがとう⋯⋯」

「おお、こなっちゃん。大丈夫? 寝てなくて平気なん?」

 珍しく真面目な声色で私を心配する沙莉に、私は少し安心を覚えて頬が緩んだ。

「うん。平気だよ、明日にはバッチリかもね」

「そっかそっか⋯⋯あ、綾乃。お菓子、渡しいや。色々私たちで買ってきてんで、暇やろうしな」

 沙莉がそう言うと、綾乃はお菓子を沢山詰まったビニール袋を私に渡してくれた。

「はい、小夏ちゃん⋯⋯。沢山食べて」

「うわ、めっちゃ一杯あるね! 今月これだけで足りそうや⋯⋯。ありがとね、二人とも」

「どーいたしまして。じゃあ、あんまりジッと居るのもアレやし、帰ろか。お大事にな、こなっちゃん」

「お大事にね、小夏ちゃん⋯⋯」

「うん、大好きだよ、沙莉。勿論綾乃も!」

 なはっと含みが漏れるような照れ笑いの沙莉とは対象に、顔を紅潮させながら微笑む綾乃。私の友達が彼女たちで良かったと改めて思う。

 玄関越しに二人と別れを告げた後、私は満足げにお菓子を片手に自室へと戻った。


 自室に入ると私は早々にテーブルの上にお菓子を置いて、その中のクッキーを口にしながらラオシャを抱いてベッドへ戻った。

「沙莉と綾乃が来てくれたお陰か、結構元気になれたかも」

「それは良かったのう」

「なんていうかさ、猫巫女を続けてきたから、こうして仲良くなれてるのかな〜なんて思うんだよね。もし猫巫女になってなかったら、ずっと独りでゲームしてて、そして時々友達に会うような、薄い関係性になってたのかもって思うんだ⋯⋯」

「恐らくそれは違うな。猫巫女なんぞ、お前が積極的になるきっかけにしかなっておらんじゃろう。時折見せるお前の決断力の堅さは、硬派なゲームを数多と攻略していった影響であるはずじゃ」

「そのきっかけをくれたのは、他でも無いラオシャだよ。お陰で今の私があるし、出会う前とは全く違う考え方になったりもしてる」

「まあ、ワシも小夏を猫巫女として選んだのは、大正解じゃと思っとる⋯⋯」

「⋯⋯」

「ん? ⋯⋯どうした?」

 静かにラオシャを抱き寄せて、その温かみに心を預ける。

「猫巫女が終わってもさ、私と⋯⋯一緒にいて?」

「⋯⋯。気が向いたらな。小夏はワシの依代じゃ。この浄化活動が終われば、ワシはまた次の町へ派遣されるのじゃろう。そういう繰り返しで、ワシたちは仕事をこなしておるのだから」

「⋯⋯帰る場所、必要じゃない?」

「普通の猫では無いのじゃ⋯⋯。ワシには帰る場所など⋯⋯小夏よ」

「ん?」

 私の腕の中でくるっと身体を回し、私に顔を合わせてラオシャは言葉を口にした。

「ワシの全てを知っても、そしてこの先の、未来のお前の宿命を知った後でも、そうやって同じ様に言ってくれるのであれば⋯⋯考えても良い。」

 スッと肉球を前に差し出して、私に約束を提示してきた。私は肉球を即座に掴んで即答してみせる。

「⋯⋯魔法少女みたいな事してるんだもん。沙莉の件から、私は覚悟して来てるよ。それに最初から言ってるけど、私は、泣かないから」


「それなら、良い。最後まで、よろしく頼むぞ」

「相棒やから、当然です」


 そう、私はこの先何があっても、ラオシャと共に猫巫女を続けて、隣にいてみせる。たとえそれが終わろうとも、紡がれたこの縁は離さない。離してやらない。もう依代と喋る猫という関係では無いのだから。


「⋯⋯そんな訳でお菓子食べたいからどいて」

「良い雰囲気じゃった気がするが」

「⋯⋯特別に今日はサバちゅ〜りんを添えてあげよう」

「よし、一緒に食べるぞ」



     ✳︎


 夜になり、寝る準備を済ませてスマホを覗いていると、一件のメッセージが入っていた。早速それを覗いて確認すると、紬先輩からのメッセージだった。


『紬です。夕方に綾乃から聞いたよ。風邪大丈夫ですか、あと私からはメッセージをいただいてません、ちょっと悲しいです。次からは一番最初に伝えてくれたらなって思います』

 これは紬先輩ではなく花子だ。絶対長くなるし面倒くさいのでそのままスマホを閉じて、大きく布団を被って明日を迎えることにした。紬先輩には明日謝っておこう。


 それにしても、告白するには、少し早すぎた気がするな──

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