後日談 猫集会 其の二
沙莉から迷魂を引き剥がしたあの日、神衣を使った事をユーが他の猫達に共有したのか、すぐに集会に来るように呼び出されてしまった。
しかし神衣の影響もあり小夏の身体で向かわなければならない。もし小夏が起きてしまったら何と説明すればよいか⋯⋯。
屋根を伝い、集合場所の公園へ向かう。お前なら怖いなどと言うだろうか。
最近、お前の事を何回も考えてしまっているな、お前を利用して魔術を刻んでいると言うのに、お前は平気な顔で応えてくれる。私の魔術を余す事なく受け入れて、自分の物としている事が、お前の身体の中にいて実感出来る。
変と言うのは控えようか、猫巫女としても、お前は最高だ。
もし、ワシが普通の猫で、魔術など使えなくても⋯⋯。
必要としてくれるだろうか。
⋯⋯。
集合場所に着いた。思い馳せるのは止めにしよう。そんな思いは胸に仕舞って、永久に蓋をしてしまえば良い。ワシは⋯⋯普通の猫にはなれないのだから。
着くや否や、他の猫共が騒ついて、その中の黒猫がワシに問いかけてきた。
「神衣⋯⋯使ったのだな」
「ああ、愛らしいじゃろう、神衣の羽織りが良く似合っている。耳もツンと立っていて、チャームポイントとしてバッチリじゃな」
「そんな軽々しい言葉を返すな! 神衣を扱えてしまったからには、依代は、次の任を与えられる。お前も知ってるだろ、──!」
真名に違和感を持ったのは、これが初めてかもしれない。
「無論。我が主もそれを望むだろう。それ程に小夏の才能は素晴らしい」
ユーを含めた他の猫共もようやく口を閉じた。
「だからこそ、この才能をこの町に留めておくのは惜しい⋯⋯。ワシもそんなに乗り気では無いが、我が主がもう、小夏をこのままにはしておけないだろう。お前たちは見ておけば良い、我が依代は、いや、相棒は、最高の──だと!」
隣に居たユーがついに口を開いた。
「信頼とは、時に痛みを伴う物だな⋯⋯その答えは、ラオシャの飼い主に問うといい。答え次第では、彼方が黙ってはいなさそうだが」
「ああ⋯⋯では失礼する。あまり長居しては、風邪を引いてしまう」
そう言い残して、猫の集まる公園を後にした。神衣を身につけられた猫巫女の運命、それらを小夏に話すのも近いだろう。
だからそれまでは、静かな日常を──
暖かな幸せを──
✳︎
小夏の部屋へ帰ってきた。
しかし制服のまま寝るのもアレか。たしか小夏は、パジャマに着替えていた筈だ。
クローゼットを開けて、記憶を辿りながら着替えを探す。
小夏の匂いがするな。
ん、この胸の窮屈な物は外した方が良いか。小さいのに付ける必要は有るのだろうか。
下を脱いだ時に何かが落ちた音がするが、これは小夏がいつも片手に持っている端末だ。
二十三時五十四分。ふふふ、大体ワシがコッソリ小夏の寝顔を伺っている時間帯だな。肉球で鼻を突いてやると、鼻の穴が小刻みにヒクヒクして面白いのだ。
お、この棚にある青く薄い箱は、小夏が今遊んでおるゲームでは無いか。どれどれ、ワシが進めておいてやるか。
ふむ、気付けば一時間経ってしまったが、このくらい進めておけば喜んでくれるじゃろ。さて、ベッドに入り込んで眠るとするか。
✳︎
「う〜ん⋯⋯あれ⋯⋯朝⋯⋯」
「早めの目覚めだな小夏よ。何時ものうるさい時計より前じゃ」
「ああ、うん⋯⋯は、そうだ、沙莉は? あの後どうなったの?」
小夏がベッドから飛び起きてワシに顔を合わせる。
「安心して良い、沙莉は元通り、迷魂も皆の活躍で空へ送られたぞ。お前の身体は神衣中にワシが動かして部屋まで送ったのだ」
「そっか⋯⋯ん、ちょっと待って」
「ん?」
「ゲームつけっぱなしじゃん、何で⋯⋯ああ! 何かすごい進んでる⋯⋯!」
「お前が寝てる間に、下手くそ過ぎて進めなかった所をクリアしてやったぞ。ま、日頃頑張ってくれておるから、このくらいは⋯⋯な、なんじゃその顔は」
鬼の様な、今にも髪が浮き上がりそうなオーラを纏いながら、ワシを思い切りこねてきた。
「ラオシャ〜! 私の身体で好き勝手したでしょ! しかもゲーム進めちゃうなんて⋯⋯!」
「な、なんでじゃ! 喜ぶ顔が見たかっただけじゃ! 別に良いじゃろ進んだんじゃし!」
小夏はこねる手を止めて、大きくため息を一つ付くと、無言でコントローラーを手に取って、そのゲームの記録をリセットした。
「何しとる! 消す事はなかろう!」
小夏はゆっくりワシに振り返って口を開いた。
「⋯⋯全部、己の手でやり切らなきゃ駄目なんだよラオシャ。こればっかりは分かって欲しい、もしも次やったら⋯⋯」
「や、やったら⋯⋯?」
「当分サバ缶抜き」
しっかり反省して、明日まで大人しく過ごしたのは言うまでもない。
相棒といってみても、まだまだ分からない事もあるのだな。
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