第四話後日談 猫集会 一

 人間達が寝静まり、町の明かりも消えて、暗闇で世界が覆われる時間。

 

 そんな夜ばかりの時間に私達は、不定期に屋根の上に円を作るように並び、集会を開いている。


 私含め六匹の"猫"が、今回の議題について話している。

 議題は、猫巫女の素質について。

 各担当の猫が契約している依代の素質を、各々ここで評価し合っているのだ。


 真向かいの名前も知らない黒猫が、今回依代に選んだ猫巫女の素質について愚痴愚痴と言葉を並べて、周りも口を挟みながら評価をしている。


 そして今度は隣の見知った三毛猫に順番が回って、彼の依代について話しだした。


「梵彼方は四年間で大きく成長している。基礎も応用も申し分無い。私無しでも長時間魔術を使いこなしている」

 三毛猫の依代の評価に周りの猫が次々と口を挟んでいく。


 私はそんな集会を終始無言で眺めていた。

 今日のお盆での出来事に比べれば取るに足らない事ばかりだ。


「四年努力した末に、現在は基礎がCで、応用がB+といった所だな。この集会には何度も参加しているので特段話す事は無い。以上だ」


 隣の三毛猫が話し終わると、今度は私の名前を呼ばれて、視線が集まる。手短に終わらせて帰りたいものだ。


「パートナーは西野小夏、町の中では一番適性が高く、また応用も自在に効く。教えていない事までやってのける為、ワシ自身も評価しきれておらん。ユーと同じ様に評価するなら、基礎 B 応用 A +とかになるな」


 案の定、一斉に興味を持たれ始め、小夏の話題で盛り上がった。

 そいつはどんな奴なんだ、出生が特別なのではないか、魔女の生まれ変わりかと、何度も言葉を浴びせられる。


 そんな言葉を振り切って、私はもう一人の依代について議題にあげた。


「うるさいうるさい、依代はもう一人おる。野尻綾乃のじりあやの此奴は小夏より大した奴ではない、一般的な適性を持つ猫巫女じゃ。」


 落ち着く訳もなく、猫達のざわつきは止まらない。

 当然だろう。本来は依代の契約は一人までとされている所、私は二人契約をしているのだから。


 しかしあのお方の耳にも入るこの集会では嘘をつく事も、秘匿することもできないので、私はありのまま事実を話すしかない。

 猫達は私に問いかける。


「小夏という秀でた人間と契約しておきながら、なぜ一般的な素質の人間とも契約を結んだんだ」


 私は嘘偽りなくそれに答えた。


「友達を手伝いたいと言うのじゃから、そんなの当たり前じゃろう」


 その言葉に猫達は静まり返り、私と依代が距離を縮めて過ごしている事を察した様な顔をし始めた。


「事例がない訳では無いじゃろう。それに、迷魂を還す事が我々に与えられた仕事なのだから、その上で契約者を増やそうと大した問題では無いはずじゃ」


 隣の三毛猫が口を開く。

「梵彼方から忠告を受けていたはずだがな」


「うっ⋯⋯」


 言葉に詰まる私に、別の猫が問いかける。


「西野小夏という人間の影響を大きく受けているのだろうな。──の魔術に支障が無いのなら、あのお方も目を瞑ってくれる」


 私は同調して続ける。


「そういう事じゃ。ではワシは帰るとする⋯⋯。明日も色々あるのでな」


 そう言って私は屋根から降り、塀を伝って小夏の家へ戻っていった。


 集会での内容は、後日あのお方まで話が行くはずだ。そこで小夏の能力の高さも目に止まるだろう。


 別にそんな事はどうでも良かった。魔術に秀でた人間が居たところで特別扱いは受けない。 "神衣"を身に付けられる程の素質であれば話は別だが。


 早く布団で眠る小夏の顔を見つめながら、毛繕いでもしたい物だ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る