25:そして、


「お、また来てくれたね、二人とも。いつもありがとう」


「繁盛してるみたいですね。パン屋さん」


「おかげさまでね。お嬢ちゃんには特にお世話になってるから、ドーナツ一個おまけだ」


「わーい、やった!」


「姐さんも呼んでこようか?」


「聞こえてるよ! 悪いな、今ちょっと手ぇ離せないんだ!」


「気にしないで! どうせまた、すぐに来ますから!」


「いつも悪いね」


「いえ、単純に美味いから、いつも食べたくなるだけですよ。それじゃあまた」


「うん、また」






「王国に、聖堂会の立て直し。まだまだこれからか。問題山積、って奴だな」


「他人事だと思って気安く言ってくれる」


「だって他人事だしな」


「運び屋、だったか?」


「ああ。ヴァストレムⅡ世だ。若い奴らを引き連れて気楽にやってるよ」


「よくもまあ、ふらふらと」


「妬むな、妬むな。お前だって好きでやってる事だろう」


「僕も手伝っている事ですしね」


「ああ、そうだな。お前には随分と助けられているよ。もう少し肩の力を抜いて、気楽にやっても良いとも思うがな」


「お前ですらそう感じるなんて相当だな」


「茶化さないでくださいよ」


「茶化してなんかないさ。若いのが真っ直ぐなのは当然だし、良い事だ」


「まあ、な」


「二人とも、そういう言い方って、すっごく年寄りっぽいですよ」






「お、どうした。そんなに慌てて」


「いや、陛下の姿を見かけなかったか?」


「また勝手に居なくなったのか。近衛騎士様も大変だな」


「笑い事ではない。見たのか、見ていないのか」


「見てない」


「なら手伝え」


「それが人にものを頼む態度かよ。それに俺はそんなに暇じゃないんだ。悪いがな」


「嘘をつけ」


「何が嘘なもんか。親父と共に騎士団と市警隊の組織再編に東奔西走する身だぞ」


「むむ、そうか。ならば仕方がない。では私は行く。またな」


「おう。またな」






「いっててて。もう少し優しくやってくれよ」


「そんなゴツゴツと大岩みたいな図体して、情けない声あげるなよ」


「ヤブ医者め」


「何か言ったかい?」


「いや、何も」


「大体、もう歳なんだから機械弄りなんてやめちまいなよ」


「馬鹿言えよ。ガキの頃からずっとやってるんだ、死ぬまでやめられるかよ」


「ふん。まあ、勝手にすりゃいいけどさ。こっちとしては儲けさせてもらってるしな」


「おっし、じゃあ帰るわ。また何かあったら頼む」


「ああ」






「お、今度はあんたか。どうした、何かやつれて見えるぞ? せっかくの美人が台無しだ」


「あ、いえ。そちらのお父上と、ちょっと……」


「ああ……。悪いが詳しくは聞かんぞ。巻き込まれたくはない」


「おい! 馬鹿息子は何処におる! そこか!」


「うわ!」


「おいこら、逃げるな! 馬鹿者!」






「街も大分復興してきましたね」


「だから言っただろう。彼らはしたたかだと」


「ええ。そして、彼も勝った」


「いや。彼の勝利というのは間違いだな。正しくは、我々の勝利、だ」


「確かに」






「あっ。もう、おっそいですよ、艦長」


「艦長じゃなくて、社長って言え」


「荷物の積み込み、全部終わってますよ、艦長。いつでも出発できます」


「お前もさあ」


「はは、良ければ出しますよ? 艦長」


「もう勝手にしろ。ヴァストレムⅡ世、出発だ」






「今年は豊作ですよ、味も良い。どうぞ試してみてください」


「おお、確かにこれは良い。皆が精を出して働いてくれたおかげだ。これほどの働きには、相当の報いで応じなければならんな」


「本当ですか? ありがとうございます」


「ははは。しかしまあ、まったくもって昔とは変わられましたな」


「い、以前の事は言わないでくれ。本当に心の底から反省しているのだ。許してくれ」


「冗談ですよ。意地悪して申し訳ありません」


「そうですよ。過ぎた悲劇に、いつまでも縛られていては不幸です。大事なのは、これからをどう過ごしていくかです。そうでしょう?」






「お前の遺してくれた娘も立派になったよ。私もようやく過ちを認める事ができた。すべてはあの子達のおかげだ。……ふふ、こんな私にも、陛下は宰相としての座を推してくれたがね、勿論辞退したよ。民の間にもまだわだかまりもあろうし、私ももう歳だ。助言を求められれば応じるつもりではあるが、もう老いぼれの時代ではないからな。これからは、彼らの時代だ」






「待たせてすみません、二人とも」


「いや。俺達も今さっき来たばかりだよ。仕事は大丈夫なのかい?」


「ええ、もちろん」


「はは、嘘だな」


「嘘なんかじゃありませんよ」


「駄目。そっちじゃなくて、ここ! 私の隣に来て!」


「ふふ、はいはい。私にも一つもらえるかしら?」


「もちろん。はい、どうぞ」


「ありがとう、オルヴァニス」






 穏やかな秋の風が吹く。


 少年の瞳の向こうには、どこまでも青い空が、広がっている。


 そして、彼ら人々の物語は、何処までも、続いていく、


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