24:輝く星
「ストレ!!」
少年を思う少女の悲痛な叫びが、人々の心に最後の一押しをする。
人々から、光が溢れ始める。
相変わらずそれらは淡く、弱々しい光だが、互いに連鎖し、指数関数的な速さで、爆発的に大地を覆い始めた。
シオンドールの大地を、アルカナの輝きが満たす。
アルゼリーゼはその光景を驚愕し、見つめる。
「何が起きているというの?」
突然強い衝撃を受け、のけぞる。
すぐに態勢を立て直し、その衝撃の来た方へ向く。
胸に風穴を開けたオルヴァニスが、動いている。
馬鹿な、と思い、すぐに気付く。
ストレを機体に取り込むことで、死を回避したのか。
「だからなんだと言うの? それならその機体の全てを消し去るだけ」
光線をオルヴァニスへと放つ。
敵はそれを盾で受けつつ、自分が弾き飛ばされる形で回避。
やはり動きは鈍くなっている。
当然だ。如何にアルタモーダといえど、胸に穴が空けば致命的だ。
「苦しいでしょう? 今、楽にしてあげる」
全力での光線を敵に放とうとして、アルゼリーゼは異変に気付く。
機体が上手く言う事をきかない。
自分の中で、カオンが足掻いている。
ストレと、リリのおかげで、ようやく分かった。
自分がどうあるべきか。
孤児の自分を拾い、育ててくれたセス。
今でもその事実には感謝している。
しかし、あの男は歪んでいた。
歪んだ精神で自分を支配し、利用していた。
今ではその事をしっかりと、受け止める覚悟ができていた。
ありったけの力で雄叫びを上げ、精神を集中させる。
カオンの変化に、基幹システムが気付く。
パイロットが精神的に極めて不安定な状態にあると判断し、クオレの自由にさせていたが、パイロットの精神感応値が閾値を超えた。
プロトコルに従い、パイロットへ操縦権を戻す。
「僕は、償いをしなければいけない」
すぐさま異変に気付いたアルゼリーゼにより、欺瞞信号が送られ、またも機体の制御が奪われる。
カオンはすかさず、それを更に奪い返す。
せめぎあうカオンとアルゼリーゼ。
「そして僕は! 前に進む!」
ストレは敵機の異変に気付く。
今ならあいつを止められるかもしれない。
莢を全て砲に変え、残り少ないエネルギーの全てをそこに注ぎ込む。
アルゼリーゼは、オルヴァニスが攻撃態勢に入った事に気付き、力ずくで機体の制御を奪う。
まだ敵は準備を整えきっていない。隙だらけだ。
勿論、発射されたとしても何の脅威でもないが、いい加減に目障りだ。
どいつも、こいつも。
「大人しく消えなさい!」
そう叫び、今度こそ敵に光線を浴びせかける。
今度こそ、終わりだ。
ストレの視界が、光に包まれる。
間に合わなかった。
悔しさに歯を食い縛り、目を固く瞑る。
しかし、まだ生きている。
目を、ゆっくりと、開ける。
白い巨人が目の前にいる。
ヘゼルファインが、盾になってくれている。
やがてその姿が光の中へと消滅していき、暴力的な光の輝きも、消えていった。
「ヘゼルファイン!」
カオンの絶叫が響く。
直後、その足元で変化が起き始めた。
大地の輝きが渦を巻き、オルヴァニスへと集まっていく。
人々の祈りが、オルヴァニスに力を与える。
アルゼリーゼがまたも光線を放とうとし、カオンがそれを必死に抑え付ける。
そのカオンの心も、光を放ち、輝く。
オルヴァニスの砲が力強く輝く。
アルゼリーゼが焦りだし、叫ぶ。
「放しなさい!」
「よく見るんだ! この輝きを! この光と共に僕達は! 前へ進む!」
そしてカオンは叫んだ。
「ストレ!!」
カオンの覚悟がストレへと響き、ストレは引金を引く。
人々の心の輝きが、アルゼリーゼへと射ち込まれる。
アルゼリーゼは半狂乱になり、カオンを振り切り、渾身の光線をその輝きへとぶつける。
「こんなもの! 私は認めない!!」
強大な二つの輝きが衝突し、世界が揺れる。
大地が砕け、砕けた大地の欠片が、突風に舞う。
空が割れ、歪んだ大気の中で放電が唸りをあげる。
「まだだ! まだ足りない!」
オルヴァニスの中でストレが叫ぶ。
その傍らに少女が立ち、二人は視線を交わし、頷きあう。
二人の心も、眩い輝きを放つ。
「オルヴァニス!!」
機体を構成する質量もすべて、アルカナの輝きへと還元し、砲へと注ぎ込む。
漆黒の宇宙空間で、一つの星が一瞬だけ、強く、明るく、輝いた。
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