16:英雄の勝利


 カオン一行はそのまま王都へと向けて進み、途中でヴァストレムの発進を知る。

 そこで、手前の旧オシレム領都で留まり、待ち受ける事にした。


「あーあ、退屈。はやくあいつら来ないかな」


 アリオが気だるげに言う。


「ね、ね、オリア。やっぱオルヴァニスって、強いのかな?」


「さあね。それなりなんじゃない? バースト使えるんでしょ」


「私、戦ってみたいな」


「駄目だよ、アリオ。それは隊長さんの役目だろ」


「ちぇー」


「二人とも、少し黙っててくれないか」


 カオンはたまらず注意する。


「はーい」


 二人が同時に応え、回線が切られる。

 まあ、まだ二人だけの閉回線でくっちゃべっているのだろうが。


「まったく」


 カオンはぼやきつつ、王都方面を見やる。


 本当に、このままストレ達と戦う事になるのだろうか。






 ヴァストレムは旧オシレム領都へと差し掛かる。


「ヘゼルファイン! 新しい奴も二機!」


 ブリッジにメニスの声が響く。すぐさま全機発進。


 三対三。巨人達が街の外で向かいあう。

 街からは民衆の声が響いてくる。カオンを讃える声。ストレへの罵声。


 オルヴァニスとヘゼルファインは互いに向き合ったまま、宙へ浮かび、街から離れるように移動を始める。


「何あれ?」


 アリオが言う。


「街に被害が出ないように離れるんだろ。あの隊長、甘ちゃんだから。ま、僕達も英雄ごっこはしてみせなきゃいけないんだけどさ」


 オリアが説明する。


「なるほどね」


 そう言いながらベリテンティスとガリオンデュアの二機も続き、更にバーダネオンとファシュトカも続く。






 街から十分に離れたところで、どちらからともなく戦いの幕は切って落とされた。


「じゃあ、私はこいつもーらい!」


 アリオが、ベリテンティスをファシュトカへと飛ばす。

 それを察知したファシュトカも大剣で斬りかかる。

 その一撃がベリテンティスの肢の一本をかすめ、防壁を侵食し、傷を付ける。


「そうか。あんたのはそうだっけ。敵の防壁の弱体化と、自分には厚い防壁。いかにも中途半端。そういうのはさ、器用貧乏、って言うんだよね」


 ベリテンティスは態勢を立て直し、傷を付けられた肢をファシュトカに向け、光線を発射する。


 細身でそれほど強力には見えない光線に油断したのか、自機の防壁によほど自信があるのか、ファシュトカは避けようとはせずに、そのまま向かってくる。


「ばーか」


 アリオがニヤリと笑い、光線がファシュトカの肩の装甲を貫く。


 敵は慌てた様子で一旦距離を取った。

 残念。肩の関節にはダメージは無いようだ。


「甘いんだよ。ベリテンティスの攻撃は絶対なんだ。相手の防壁は弱体化なんかじゃなくて、完全に無効化する。絶対攻撃!」


 ベリテンティスは両手を掲げ、全ての肢を展開。その先端を敵に向けた。


「死ねよ」






「なら、僕はこいつか」


 オリアはそう言いながら、ガリオンデュアをバーダネオンへ向ける。

 間髪いれずにバーダネオンからの銃撃が浴びせられるが、ガリオンデュアは微動だにせず、それを受けた。


「通常防壁で十分に防げる。つまんない攻撃だね」


 そう言うとオリアは、ガリオンデュアに二丁拳銃を掴ませ、バーダネオンへと飛ばす。

 一気に懐へ飛び込み銃を撃ちこむが、バーダネオンは跳んで逃げようとする。


「逃がさないよ!」


 ガリオンデュアはその場で大きく回転し、その勢いを使い、肢の一本でバーダネオンを殴打し、叩き落す。

 バーダネオンは勢いよく吹き飛ぶが、途中で態勢を整えた。

 そこにガリオンデュアは拳銃を撃ちこむものの、バーダネオンは小刻みに飛び跳ね、避ける。


「あーもーイライラするな。ちょこまか逃げ回っちゃってさ」


 オリアがいらついた様子で言う。


 その隙にバーダネオンは小さく屈み、脚の強力なバネを使い、銃剣を前に構え跳躍、突撃する。

 オリアは咄嗟にガリオンデュアの全ての肢を前面に展開。猛烈な突進を真っ向から受け止める。


 弾き返されるバーダネオン。


「今のは良い攻撃だったね。褒めてやるよ。でも無駄。ガリオンデュアの防壁は絶対なんだ。残念だったね」






 周りで熾烈な戦いが繰り広げられる中、オルヴァニスとヘゼルファインは静かに向かい合ったまま動かない。


「もうやめるんだカオン。俺達仲間だろ。ずっと一緒に戦ってきたじゃないか。一緒に、平和な世界を作るために。戻ってこいよ。そんな奴らに手を貸しちゃ駄目だ」


 ストレの声が響く。


 カオンはたまらずに通信を一方的に遮断する。

 ストレはまだ自分を仲間だと言ってくれている。今ならまだ戻れるのだろうか。


 ふいにセスの顔が脳裏をよぎる。孤児の自分を十五年間育ててくれた”親”の顔。


 カオンは苦悩する。

 セスを裏切る事なんてできやしない。でも、その為にストレを裏切るのは……。


 操縦桿を握るカオンの手が小刻みに震え、ぽつぽつと涙が零れ始める。

 オルヴァニスが動く気配は無い。


 カオンは絶叫し、ヘゼルファインに剣を構えさせた。






「どうしてこうなるんだよ、カオン!」


 ストレが悲痛に叫ぶ。

 ヘゼルファインの突剣の攻撃を盾で受け、一旦距離を取る。


 止まらないのなら、止めるしかないのか。


「いけるか?」


 ストレは少女に聞く。


「うん。いつでもいける!」


 少女の返事が聞こえ、ストレは少女と心を重ねる。


 バースト!


 オルヴァニスは赤く輝き、ヘゼルファインへと向かう。






「お、バーストだ。もう奥の手を使うんだ」


 アリオが面白そうに言う。


「でも残念でした。私達もできるんだ。それ」


 アリオの赤い瞳が、更に赤く光る。






「一気にケリをつける!」


 ストレが叫び、ヘゼルファインを取り押さえに掛かる。

 しかし、横からガリオンデュアが飛び出し、オルヴァニスを突き飛ばす。


 態勢を立て直しつつ、敵もまた赤く光っている事にストレは驚く。


「こいつらもか!」


 ガリオンデュアの陰からベリテンティスが飛び出し、光線を発射。

 オルヴァニスはそれをどうにか避ける。


「先にこいつらを何とかするしかないか」


 ストレは莢を放出しつつ言う。


「邪魔を、するな!」


 叫びながら突進。バーダネオンとファシュトカも別方向から攻撃を仕掛ける。






「だからさ、甘いんだって」


 アリオとオリアは同時に言い、機体を背中合わせにする。

 無数の肢が複雑に絡み合い、全方位に対して絶対攻撃と絶対防壁の網を張る。


 猛攻の隙間を縫い、砲を撃ちこんでも防壁に阻まれる。攻めるに攻められない。

 油断していると敵はバーストの凄まじい速さで迫り来る。


 すぐにオルヴァニスは攻めるどころか、仲間を守る事で精一杯になる。


 ギリギリの戦いの中、莢を一つ、二つと失い、バーダネオンも右脚を、ファシュトカは左腕を、失う。


 そしてついに、オルヴァニスから輝きが消える。時間切れだ。


 すぐに敵の二機からも光が消えるが、もちろんそれで形勢が変わるわけでもない。

 二機が肢を使い、オルヴァニス達三機を地面に叩き落す。

 地に墜ちた三機はダメージが大きく、身動きが取れない。


「さあ、隊長さん。貴方の、英雄のお仕事だ。逆賊に相応しい最期を」


 オリアがカオンに明るく言う。


 ヘゼルファインはしばらく空中で静止していたが、やがてゆっくりとオルヴァニスへ向けて降下していった。

 仰向けに転がるオルヴァニスの胴体をまたぐ形で着地。また動きを止める。


 その様子をアリオとオリアは興味深げに見守る。






 オルヴァニスの中でストレは手を伸ばす。

 ヘゼルファインへ、カオンへ、向けて。


「カ……オン」


 映像の中のヘゼルファインが、剣を掲げる。


 そして、その剣はオルヴァニスの胸へ、ストレへと、真っ直ぐに突き立てられた。






 戦場に、絶叫がこだまする。


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