新しい仲間2
キングコボルトに出遭ってから、すでに30分が経っていた。お互いにダメージは0だが、完全に侑の方が不利だった。
キングコボルトは1回でも当てることが出来たら勝ち。この30分の中でだんだん侑の動きを読めるようになってきていて、あと15分もすれば攻撃が当たりそうだった。さらに、キングコボルトは、他のコボルトを呼ぶ事も出来る。近くのコボルトは先に侑が倒していたのでまだ来ていないが、もう少しでコボルトが集まりそうだ。
それに対して、侑は、どれだけ攻撃を当てても自分の体力を減らすだけの状態になっていた。攻撃していなくても、キングコボルトの攻撃を避けるために動かなくてはならないので、避けるのと同時に攻撃しているのだ。
正直、勝ち目は全くない。それどころか、この状況でまだ生き残っているのが異常なのだ。簡単に殺されるわけにはいけない。すぐに殺されたくない。ただ、その考えだけで動いている。
しかし、それももう限界だ。30分以上相手の攻撃を避けながら、相手に攻撃するという、かなりの集中力を使う戦いを続けていたのだ。
「魔法さえ使えたらすぐ終わるのに。やっぱ、怪しい依頼は受けちゃいけないな」
戦いはじめて30分以上。ここでやっと反省する。まあ、キングコボルトに出遭ったところで、すでに手遅れなのだが。
実は、杖がなくても魔法は使えた。しかし、使えるのは生活魔法だけで、攻撃魔法は使えなかった。生活魔法は、その名の通り生活に使う魔法だ。攻撃魔法と違い、誰が使っても同じものしか使えない。効果的には、水を生み出す、ランプに灯りをつけるくらいのことしか出来ない。なのでこの生活魔法がなんかの打開策になることはなかった。
「もうなんも出来ないな。諦めて殺される訳にもいけないから、街までダッシュでもするか」
スピードでは全然勝てない上に、残っている体力もキングコボルトの方が多い。それは侑も分かっている。
かなり低確率の奇跡にかけて走り出そうとしたとき、あるものは現れた。
「侑さん、これを!」
後ろから、いきなり声が聞こえ、何か棒状のものが飛んできた。
「これは……杖! 何で杖が」
「侑さん、今はキングコボルトを!」
後ろから聞こえた声はレイナの声だ。
「杖があるならこいつを倒せる。『タイダル・ストーム』」
「大丈夫でしたか!?」
「うん、大丈夫。攻撃は一回も受けてないから。けど、あの時レイナが来てなかったら多分死んでた。ほんとにありがとう」
「いえいえ。侑さんが無事なら」
「そういえば、何個か聞きたいことがあるんだけど、まず、何でここに居るの?」
「それは、侑さんが『赤い依頼』を受けていて、ナイフしか持っていなかったので」
「『赤い依頼』?」
「『赤い依頼』を知らないんですか!? そういえば、昨日冒険者になったばかりでしたね。『赤い依頼』というのは、明らかに内容がおかしい依頼の事です」
「おかしいのは分かって受けたけど、ここまでとは思わなかったな」
「それが『赤い依頼』なんです。自分の実力なら多少変な依頼でも、この報酬なら受けていいやと思う人が受けて死んでいく。だからいつまでも掲示板に残っているんです。依頼主からしたら、この場合、キングコボルトの討伐の依頼を出さなくても、コボルトの討伐の依頼を出しておけばキングコボルトに出遭う確率は高いです。なので、キングコボルトの討伐依頼を出して倒させるより、コボルトの討伐依頼を出した方が安くすむんです。」
「そっか。依頼を受けた冒険者がキングコボルトを討伐してくれたら、成功だし、もし失敗しても、報酬は払わなくていいから、どっちに転んでもよかったわけだ」
「はい、それが『赤い依頼』です」
「じゃあ2つ目。この杖は?」
「この杖は祖母の杖です。その祖母はもう亡くなっていないんですけど」
「そんなものを使ってよかったの!?」
「母親にこの家じゃ誰も使えないから、助けたい人がいたらその人に渡しなさいと言われていましたから。なのでその杖は侑さんにあげます。自分で持ってても宝の持ち腐れですから」
「この杖って
「最初に出会って助けてもらってから、決めてた事なので」
「では、お言葉に甘えて、大切に使わせてもらいます。そういえばエレンは?」
「エレンは、侑さんが怪我していたときのためにポーションを買いに行ってもらってます」
「うわー、なんかめっちゃ迷惑かけてた」
「大丈夫です。5日後からとはいえ仲間ですから。とりあえず街に戻りましょう。エレンが心配して待ってます」
「あ、ちょっと待って。コボルトをあと10体討伐しないと。『ウォーターカッター』」
キングコボルトのせいで25体は倒せていなかったので水を円盤状にして、回転させながら飛ばすウォーターカッターで残りのコボルトを倒す。そうして終わった後、侑は10体もの数のコボルトが一瞬で倒された事に驚いているレイナと共に街に戻るのだった。
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