新しい仲間

新しい仲間1

「お願いします、仲間になって下さい!」


「え?」


 こんな会話から始まった侑の1日。


「すいません、いきなり言われても困りますよね」


「いや、それは大丈夫ですけど。何で僕に?」


「何故かというとまず、私たち2人の欠点として範囲攻撃出来る人がいなくて、昨日のように群れのモンスターに襲われると何も出来ないんです。そこで魔法使いの人をチームに招きたかったんです。侑さんは杖さえあれば魔法を使えるんですよね」


「まあ、上級魔法の一部までなら使えるけど……」


「上級魔法まで!? 凄いですね! 待ってください、今、パニクって話せそうにありません」


 そもそも上級魔法を使うことが出来る魔法使いは、全体の2%程しかおらず、そのほとんどが王宮の魔法使いとなっているのだからパニックになるのも仕方が無いだろう。


「レイナがこんな状態だから俺がもう一つの理由を言うよ」


 地味にまだ今日一言も喋っていなかったエレンが口を開く。


「もう一つの理由は侑自体に対しての興味があったからだ。元魔法使いなのにナイフでもオークの群れを倒せる人間なんてなかなかいない。あと、一緒に行動しとけば昨日の恩を返せるかもしれないからな」


「恩返しなんてそんなのいいですよ。仲間になるのはいいけど、僕はまだ杖を持っていないから魔法も撃てない。むしろ足を引っ張るかもしれない」


「そんなことないですよ! ナイフだけでも今の私たちより戦えていますし、何より杖を買って余るくらいのお金は冒険者になる前に集めてますし。なので仲間になって下さい」


 いつの間にか復活していたレイナにさらにお願いされる侑。


「分かりました。一緒に冒険しましょう! けど、あと5日待ってください。準備したいことがあるので。5日後またここに来て下さい」


「了解です! ではまた5日後に」


「じゃあ、またな」


 5日後に会う約束をしてレイナとエレンは外へ出て行く。


「よし、金を集めるか」


 25Sシルバーはあるのだが生活費もあるのでまだ杖が買えない。


「せっかくだからもう1ランク高い杖買おう」


 そう思い、昨日受けた依頼より報酬がいいものを探す。


「お、いいのみっけ。コボルト25体で10Sシルバーか。場所の指定があるな。ビクトル城周辺。多分大量発生みたいな感じでの依頼だよな。それにしても報酬が高いような気がする。なんかありそうだ」


 普通、コボルト25体の討伐の相場は4Sシルバーくらい。その二倍以上の金額である10Sシルバーというのは明らかにおかしい。このような依頼はすぐに無くなるはずなのだが、誰も受けていないのは、明らかに怪しいからだろう。


「特にすることは無いし、なんかあっても大丈夫でしょ」


 そんな軽い気持ちで依頼を受けることにした侑。


「これ、お願いします」


「分かりました。ビクトル城の場所は分かりますね」


「はい」


「じゃあ大丈夫ですね。それでは確認しますね。内容はビクトル城周辺のコボルト25体の討伐。報酬は10Sシルバーで、違約金は50Bブロンズ。今日から2日以内での討伐で成功となります」


「分かりました」


 手続きを終え、最低限の食料などを準備して早々とビクトル城へ向かう。ちなみにビクトル城は街の西側、9㎞離れた高台にある。城主はおらず、すでに廃城になっている城だ。歩きで大体2時間くらいで行くことが出来る。


 ビクトル城についた侑は違和感を感じていた。わざわざ廃城にもなった城の周辺のコボルトの討伐依頼を出すくらいなので、大量に発生しているのは分かっていた。それでも、相場の2倍以上の報酬を出すには物足りない。


「まあ、気にしてても何も出来ないか」


 そう思い、コボルトの殲滅をはじめる。しかし、13体目を倒したところで明らかにおかしいほどの報酬になっていた理由が判明する。


「キングコボルト!? そういうことか。ここにコボルト討伐しに来た冒険者が誰も帰ってこないからこの報酬額か」


 キングコボルトとはその名の通り、コボルトの長だ。通常のコボルトの大きさは1.9Μなのだが、長になると3Μ近くにもなる。そして、フルプレートの鎧を装備していて、武器はポールアックス。このレベルのモンスターになると、討伐依頼をメインにしている冒険者でも、中堅以上の実力が必要だ。


 それでも侑の敵ではなかった。しかし、それはゲーム時代の侑ならだ。


「全然刃がとおらない。流石に熟練度上げてないナイフじゃ、鎧に阻まれる。どうやって倒すかな」


 キングコボルトの動きはそこまで速くないので、攻撃は全て避ける事が出来る。それでも、こちらの攻撃もダメージを与える事が出来ないので、体力が減っていくだけだ。


「フルプレートとはいえ頭と関節は守れてない。けど、あまり近付くと反撃をくらいやすくなる。おまけに、守りに徹されると関節にも攻撃出来なくなる。逃げようにもすぐ追いつかれる。やばいな」


 完全に手詰まりになってしまった侑。分の悪い戦いはまだ始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る