ここはまさか……

 次に起きたのは、ある森の中でだった。


「ここは……始まりの森!? さっきまで洞窟に居て、いきなりモンスターに囲まれて、謎の奴に首を絞められて気を失って……」


 ここまで思い出したところで一旦その思考を止めさせられる。


「クレイジーベア! よりによってこんな時に」


 クレイジーベアはその名の通り狂った熊だ。思考レベルは低いものの、始まりの森の中では1番高い攻撃力と俊敏性を兼ね備えた初心者の最初の壁である。初心者では、出遭うと9割以上の確率で負ける。そんな面倒なモンスターなのだ。


「なんで初期装備になってんだよ。魔法職なのにナイフしかないとかなんの縛りだよ」


 クレイジーベアの攻撃を避けながら愚痴をこぼす。自分の動きを確認するとステータスは変わっていないようだが、魔法が使えないので今は意味があまりない。


「ナイフのスキル1個しか持ってないんだよなぁ。けど、これで頑張るしかないか。『スラッシュ』!」


 LAST・BRAVEにはいろんな武器の種類があり、武器に応じて使えるスキルが変わる。詳しくはまた後で説明するが、ナイフ系は全ての武器種の中で一番軽いのが特徴だ。攻撃力が低いのが欠点だが、誰でも扱いやすいので初期の武器として設定されている。


『スラッシュ』は、剣やナイフの最初に覚えているスキルだ。ただただ斬る時の速度と威力が上がるというものだ。後の方になっていくと速度と威力の問題で全く使われなくなるが、序盤ではかなり重宝する。


「さすがに一回じゃ倒せないけど、意外とけずれたっぽい。このまま行けばすぐ倒せそう」


 この言葉どおり侑は、この後わずか30秒でクレイジーベアを倒すのだった。


「どう考えてもここって絶対LAST・BRAVEの世界だよな。攻撃受けたら痛いし。実際に疲れるし。しかもメニューが開けない。さっきまでLAST・BRAVEを普通にやってたのに、いきなり初期装備になってクレイジーベアに襲われたし」


 ゲームの世界に入ったかもしれないというのに、ここまでパニックにならないと侑の正気を疑う。


「とりあえず街まで行くか。装備も武器も揃えないとだし、ここに居ても何も出来ない」


 街に行くことを決めた侑。しかしここで最初の試練が待ち受ける。


「あ! メニュー開けないから街の場所が分からない」


 そんな状態でなんとか街を目指して歩いた侑。結局街に着いたのは、これから約2時間後、本当なら15分もあれば行ける場所なのでかなりかかったと言える。


「やっと着いた。こんなにかかる道じゃないんだけどな。まぁ最初は宿の確保だな。大体この街の宿は2Sシルバーで使えたよな」


 Sとはこの世界のお金の単位だ。単位はGゴールド、Sシルバー、Bブロンズの3つだ。1G=1000S、1S=100Bとなっていて、1Bは日本円で10円と同じだ。なので宿の料金は約2000円となる。ちなみにプレイヤーの初期の所持金は20Sだ。


 こうして無事宿を取ることか出来た侑は久しぶりに来たこの街をぶらぶら回りいろんな事を明日にまわすのだった。

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