第29話 それでも違和感は拭えない
《穂高塁視点》
俺の名前は
俺達のクランは俗に言う〝盗賊クラン〟と呼ばれる不良集団だ。
その活動は、自分達の襲えそうなコミュニティを狙って、主に食料を強奪すること。
こんな世界になってから、俺達のような強盗行為は、唾棄されるような所業だが、こいつらを制御するためには、それしか方法がない。
控え目に言って、俺達はクズだ。根っからという程じゃないが、他人から搾取してる時点で、俺達がクズな事に変わりない。
こんな俺達も、あの日の以前は単なる不良少年で、毎日バカみたいに喧嘩して、男臭い友情とか漫画みたいな日常を送るようなやつらだった。
俺達だって、悪人という訳じゃない。社会や大人、ルールに反抗するだけの不良で、ほんの少しだけ人の役に立ちたいと考えてたガキだっただけなんだ。
それが、あの日を境に世界がこんな【魔獣】とかいう化け物共が蔓延るようになって、【ギフト】なんて力を手に入れちまったあの時から。
俺達は、世間ってやつに役に立てんじゃねえかと錯覚して、人の醜い本性を知った…………それだけで、俺達はクズになり下がった。
人助けがしてみたかった。自分が役に立てることを証明したかった。
それでも、人に裏切られた。
誰かのせいにする程、俺達は落ちぶれちゃいない。
だが、そう………俺達は、弱かった。
あんまりにも、俺達は普通のガキで――――――――心が未熟だったんだ。
そのことに後から気付いて、俺は自分が許せなくなった。
だからだろうか。俺は、こいつらがこれ以上〝クズ〟にならないよう、人殺しなんてさせねえと思うようになったのは。
こいつらを、単なる外道に落としたくねえと、そう思ったのは。
なんだかんだ言っても、俺はこいつらが好きだから。どうしようもない奴らになって欲しくなかったんだ。
俺の親父みたいに、本当のクズになって欲しくなかったんだ。
俺達に、善良なコミュニティに入れるなんてこと、考えられねえ。
それに、食料を確保できるような能力なんてねえ。
だから、俺は【魔獣】の死体を手土産にして、半ば強引にでもコミュニティと食料を等価交換することを提案した。
意外にも、このやり口は俺達のやりやすい手口だった。
当然、これは褒められた行為じゃない。偽善と言われても仕方のない行為だ。
それでも、俺はこういう方法でも良いと思った。
例え善意の安売りだろうと、強引なやり方だろうと。
こいつらが外道に落ちなければ。
俺達がやりたかったことを、少しでも実感できるのなら。
俺は、こいつらの為なら何でもやろうと思っていたから。
だから、【鉄火の牙】の庇護下にあるコミュニティをターゲットにしようと提案した時は、本気で止めた。
だが、あいつらは勝手にやってしまった。
その結果が【鉄火の牙】の報復だ。もう、俺達はここで終わりだと思った。
そう、思っていたのに――――――
「あん?お前、塁じゃん。なんでこんなクランに入ってんの?」
――――――忘れていた。
【鉄火の牙】を率いていたのは、あの雨霧だったことを。
雨霧は、俺の親父が馬鹿をやらかした時からの縁だった。
特に、それ以上の関係は無かった。なのに、あいつは。
「お前ら、うちの傘下に入らねえか?」
あいつは勝手に俺を親友扱いし、あまつさえ本拠地で働く構成員に俺を選びやがった。頭の悪い俺でもわかった。引き抜きだと。
俺の【ギフト】は応用力の高い能力だからか。あいつが何を考えているのかは分からない。
それでも、俺の仲間を助けるためには、俺が真面目に働くしかない。クランへの、有用性を示して【剣狼団】を生かしてもらうように、雨霧に土下座してでも頼み込める人材になるしかない。
そう考えて、俺は【鉄火の牙】で一心不乱に頑張った。
雑用だろうがパシリだろうが、何だってやった。
俺の努力のお蔭か、あいつらがミスをしても俺がペナルティを負って頑張るから。仕事に励むから、そう組織の幹部に近しい人にかけあって、なんとか【剣狼団】は生かして貰っている状況だった。
俺が頑張れば、あいつらが死ぬような場面に会わずに済む。
あいつらが助かるなら、俺はそれでよかった。
なぜか、仲間の情報は俺に知らせてくれなかった。色々と警戒していたのだろうか。いや、たんに面倒事を増やしたくなかったのだろう。
俺は勝手に納得していた。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
ある日、あいつらから連絡が届いた。どんな方法を使ったのかは分からないが、恐らく、電波を利用して情報をやり取りできる【ギフト】を持っている瀬川だろうと当たりを付けた。
あいつは本拠地にいる仲間だが、電子機器を利用すれば距離を伸ばすこともわけないからな。
実際、瀬川の【ギフト】によって俺達は外の仲間とやり取りすることができたのだ。
頭の中で会話する、電話みたいなもんだが、俺は【剣狼団】のリーダーを務める
「おい、そっちは大丈夫なのか?【魔獣】がごろごろいるんだろう?」
『ああ、問題ねえよ。こっちはなんとかやれてる。それよりもよ、なあ穂高。いっちょ【鉄火の牙】に泡を吹かせてやらねえか?』
「?どういうことだよ」
『言葉通りの意味だよ。俺達がここから自立して、俺達が本当にやりたいことをして生きていくために。【鉄火の牙】に反乱すんだよ』
「お前………馬鹿か?そんなこと出来る訳が『出来る』……あ?」
『出来るんだよ、穂高。それにはお前たちの協力が必要だが、上手くいけば俺達はここから出れる。また【剣狼団】になれるんだよ』
「川瀬………」
『なあ、頼むよ穂高。お前もむしゃくしゃしてんだろ?毎日毎日、こき使われてよ。いい加減、目を覚ませよ。あいつらは鼻っから俺達を許す気なんてねえんだよ』
「そんな、そんなこと!」
『穂高、うじうじすんのもめんどくせえ。今ここで決めろや。今まで通り、あいつらの言いなりになるのか、俺の計画に賛同して自由を得るのか』
「お、俺は……」
『なあ、なろうぜ穂高?昔に夢見てた善人ってやつによ……お前も、親父みたいにはなりたくねえだろ?』
「!!」
川瀬の最後の言葉が決定的となり、俺は川瀬の計画に賛同した。
それから、仮拠点のやつらがミスをする度に、本拠地にいる俺達がペナルティと称して、本拠地の雑用をこなす。
それに乗じて、様々な仕掛けを本拠地に施す。
計画は順調だった。表向きはあいつらに従う振りを続けながら、俺達は工作を続けていった。
全ては俺達が自由になるために、クソッタレな盗賊野郎から、本物の善人になるために。
それだけのために、俺はこの日まで暗躍を続けてきたんだ。
◆◆◆
計画は、無事に成功した。俺達は【鉄火の牙】という檻をぶち破り、自由を手に入れたのだ。
いや、それだけじゃない。俺達は力を手に入れた。
【鉄火の牙】が今まで集めてきたダンジョン産の武器防具、または様々な魔法のような薬や道具など。
それらを強奪することで、俺達は強くなった。
そう、この【深部】に潜れるようになるまでに。
道中、【深部】を進んでいると、嫌でも緊張感が肌に張り付く。
俺は後衛も前衛もこなせることから中衛を担っているが、それでも恐怖は拭えない。初めての経験の数々、深部の強大な【魔獣】と独りでに動く木々。
深部が〝魔境〟と呼ばれる所以が分かった気がする。
だが、俺達の中から一人も死者は出ていない。それどころか、重傷を負ったやつさえいない。
「すっげー!この鎧、全然ダメージ受けねえぞ!」
「こっちの剣もやべえよ!まるでバターみたいにスパスパ斬れちまう!」
「俺なんて、【ギフト】の威力がすげー事になって、一撃で魔獣の群れを蹴散らしちまったよ!」
「いやー、やっぱり透に着いて行って良かったな!」
「透のお蔭で、俺達ここまで強くなれたんだからよ!」
仲間の純粋な賛辞に、川瀬が照れたように頭をかく。
「よせよせ、こんなに成功したなんて偶々なんだからよ。俺だけの力じゃねえって……なっ、穂高?」
川瀬が俺の方を振り向き、無邪気に笑いかける。俺はひらひらと片手を振って、こいつらに乗っかって川瀬を褒める。
「いや、これも川瀬が頑張った結果だろう。俺は少し手伝いをしただけだ」
「おいおい、お前までそこまで言うのかよー……まっ、俺って天才だし?ここまで上手く行っちゃうなんて、それも俺の立てた計画が完璧すぎたのかなー!」
だっはっはっはっは!と、いつもと何ら変わらない川瀬の姿に、俺はいつも通りに突っ込みを入れる。
「あんまし調子乗んなっての」
「あでっ」
いつもの漫才みたいなやり取りに、俺達はどっと笑う。
そう、いつも通りだ。こいつは、いつも通りのお調子者で、俺達のリーダーで、なにより俺達の大切な仲間で、友達だ。
なのに、なんで。
「(お前からは、熱意を感じないんだ?)」
いつも川瀬は熱意に溢れていた。お調子者であっても、バカみたいなことをしても、こいつの胸の奥には誰よりも熱い熱意があった。
俺達の現状をなんとかしようと考える、熱意があった。
それが、今の川瀬からは感じない。どこか冷めたような感情が窺える。
それが、俺にどうしようもない違和感を抱かせる。
だが、それでも俺は決めたんだ。こいつがどんな人間になろうと、絶対に見捨てねえって。
例え外道に落ちたとしても、こいつと一緒に、仲間と一緒にどこまでも生き様を貫いてやろうって。
俺は違和感を呑み込んで、目的地である【ダンジョン】を目指して歩き出す。
今は、夢のために、俺達がやり直すために。この道を歩いて行こう。
そう決意して、魔獣と動く木々を警戒して、俺達は進んだ。
だからだろうか。
森の中を進んでいる途中で、ふと一瞬だけ川瀬が浮かべた歪んだ笑みを、俺達の誰も気づくことはなかった。
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