第21話 元凶たるやつらの話

《語り手:梶灯歌》


 ………さて、休憩がも終わった事だし、始めようか。


 起きた時期に合わせて、順を追って説明するよ。


えーっと、どこまで話したのかな…………ああ、そうそう。【剣狼団】のメンバーが大規模な魔獣の群れの原因だったって話で終わったんだったよね。



………こほん。えー改めまして、続きを話すよ。




 レンレンが【朝日之宮】に来る二日前。既に兆候は確認されていたんだ。

 

 狼通りの奥深くにしか生息していない筈の種類の魔獣の発見。そして、【鉄火の牙】と思しき人間の目撃情報。


 【朝日之宮】周辺に生息している魔獣の、突然の消失。


 人間と違って、魔獣共は敏感だからね。異変に気付いた魔獣の動きを調査することで、簡単に狼通りの深部を避けている事が判明したのは、そう遅くなかったよ。


 それと、これは雨霧から提供された情報なんだけど。どうやら【鉄火の牙】も異変には気づいていたようだけど、異変が収まるまでの間は内と同じく移動と防衛の準備をしていたようなんだ。


 そして、同時期に………【鉄火の牙】と【朝日之宮】が防衛の準備を整える一週間前。【剣狼団】のメンバーは姿を消した。


 連中は恐れ知らずなのか、手土産に【鉄火の牙】の宝物庫から人数分の武器と防具、それとダンジョン産の回復薬の原液が数本、持ち出されたそうだよ。


 驚く事に、彼らには頻繁に連絡を取り合う手段が無い筈なのに、簡易拠点と本拠点の両方のメンバーが同時に、だ。

 彼らがどんな手段を使ったのかは目下、調査中という事だが……これは私の予想なんだけどね?

 多分、盗聴器などの情報を収集手段を使って、事前に連絡を取り合っていたのでは?と思うんだ。まあ、こんな何の根拠もない妄想みたいなものでも、【ギフト】以外の理由ではそれしか思いつかないんだよ。


 連中がどんな【ギフト】を持っているのか、どんな能力なのかは【鉄火の牙】との協力関係を盾に手に入れたよ。


 ………あ、今更だけど私が【鉄火の牙】と協力関係にあることはオフレコで頼むよ。



 それでね。【剣狼団】のメンバーがどんな【ギフト】を持っているのか調べてみたけど………びっくりする位に普通だったんだ。珍しいので回復系の【ギフト】持ちがいるくらいでね。


 彼らの事を、この世界がこうなる以前から知っていた雨霧としては、【鉄火の牙】の監視部隊の眼を逃れて、常備部隊にバレずに逃げおおせるなど、不可能だと言っていた。


 細かなデータが記載された資料を見れば、それは分かるけど………あ、それは後でレンレンに見せるよ。




 さて、次になぜ彼らが【鉄火の牙】を裏切ったのか………すまない。これに関しては我々も分からないんだ。簡易拠点に飛ばされた事以外でが、特に不遇などされていなかったのに。そもそも、彼らに【鉄火の牙】を裏切る理由がない。

 そうするメリットが存在しないんだ。


 【鉄火の牙】は、雨霧は裏切者に容赦はしない。それが、一度温情をかけてやった者達なら、なおさらだ。

 もし、彼らがレンレンの逆鱗に触れていなかったら、彼らは内々に処分されていただろう。情報をたっぷりと聞き出した後にね。


 今、思い出すと、あの時のアマカズは凄い顔してたな~。視線だけで人を殺せるなら、大量虐殺でも出来そうなくらい、殺意ましましの眼光の鋭さだったよ。




 すう――――――…………ふぅ~~~~~。


 ここからが本番だね、蓮司。心して聞いてくれ。




 君のかつての仲間の一人、五月女鞠火は間違いなく【剣狼団】に利用された。

 これは確実だ。


 なぜ、大規模な魔獣の群れが起こったのか………その原因こそ五月女鞠火。

 彼女によるものだ。


 彼女の【ギフト】が、能力がなんなのか。それは私よりも蓮司の方が詳しいだろう。

 だが、私の予想では彼女の力があれば、あの程度の魔獣の群れくらい、簡単に【朝日之宮】にけしかける事ができるだろうと考えている。

 どうだい、蓮司?……………そうか、私の予想は、正しいか………。



 できれば、当たって欲しくなかったけど………いや、止そう。



 恐らく【剣狼団】は、【鉄火の牙】に吸収されるために解体した訳ではなく。

 彼らは、何らかの目的を持って【鉄火の牙】に入ったのだと思われる。


 そうでなくては、彼らが危険を犯してまで【鉄火の牙】の支配領域に侵入する訳がないんだ。それくらいの頭は、あるだろう。



 私も雨霧も、【剣狼団】が何らかの目的を持って行動している事は理解した。

 後手後手に回っているがね。


 だが、どうにもきな臭いというか、おかしいんだよ。


 【剣狼団】には、あの程度の連中にはそれ程の計画を立てる事も、それを実行して成功できる能力も、無いんだ。


 そもそも、それほどの能力があるのならば、盗賊行為なんてチンピラみたいな行動はしない。

 もっと賢い選択をして、違う生き方ができた筈だ。


 雨霧から彼らの情報を得て、確信したよ。私以上にその世界を知っていて、その人物がどれほどの物か区別がつく彼は、最初から察して、瞬時に理解したようだよ。だからこそ、彼らを受け入れたんだと。


 彼らは、【剣狼団】は正真正銘のチンピラだ。なんてことない、普通の不良に過ぎなかったんだよ!!!



 そんな彼らが、君のかつての仲間で、あのクランのメンバーで!

 間違いなくこの世界でも普通ではない強者であった彼女を!

 なぜ利用できたのか!なぜここまで緻密と思える計画を持ち、実行できたのか!


 そうだよ、蓮司…………彼らの更に裏には何かがいる。


 協力者が、彼らをそそのかして利用する存在がいる、絶対にだ。



 蓮司………私には、いや、雨霧でさえも…………どうやって五月女鞠火を利用したのか。全く見当がつかないんだ。


 私と雨霧の能力を持ってしても、入手できなかった情報がある。


 だが、これだけは言える。確信して言えるよ。



 私も、黒田を伴ってこの目で確認して来たからね………。



 蓮司、君のかつての仲間………五月女鞠火は――――――――――――





「狼通りの深部に存在するダンジョンにいる」





 蓮司、行動を起こそう。


 これを知ったからこそ、私は雨霧と………【鉄火の牙】と協力することを決めたんだ。【剣狼団】に関しては雨霧たちに任せるんだ。


 まずは――――――君の仲間を救い出す所から始めよう。





 


 

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