第20話 原因たるやつらの話
話のタイトルを『話を聞いた。その上で俺は殺意の意思を再確認した』から
『原因たるやつらの話』に変更しました。
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《語り手:梶灯歌》
発端は、【鉄火の牙】に所属する前のとあるパーティだった。
そのパーティの名は【剣狼団】。無名の戦闘集団だよ。
構成人数は………十人くらいだったかな?
ただ、彼らはただの戦闘集団ではなくってね。いわゆる〝盗賊〟って言われる、半端に悪事を重ねる迷惑野郎だったんだ。
彼らはある時、ふらりと狼通りまで来てね。ここでも随一のコミュニティである【朝日之宮】に目をつけたんだ。だが、レンレンも知っての通り【朝日之宮】は【獅子の床】が運営するコミュニティの一つ。
チンピラ風情が入り込む余地なんて無い、下手なクランよりも強力な戦闘系【ギフト】持ちが大部隊を形成している。
こちらの防衛を突破する戦力なんて、【剣狼団】には無い。もちろん、私がここにいる間なんて言うまでもないだろう?
だが、他のコミュニティは違う。我々ほどの戦力を備えているわけじゃない。
【剣狼団】はそうしたコミュニティを狙って強襲していたようなんだ。
ある時、彼らは【鉄火の牙】が支配するテリトリーに侵入してしまった。更には【鉄火の牙】が庇護するコミュニティに襲撃未遂を犯してしまってね。
その結果、彼らは捕まって殺されそうになったんだけど………彼らのメンバーの一人が雨霧の級友で、それなりに仲が良かったやつらしくてね。
情が沸いたのか、どういう訳か。雨霧は彼らを【鉄火の牙】に新入りとして加入させたんだ。
それから、【鉄火の牙】に吸収されるという形で【剣狼団】は解体。
メンバーを散り散りにするように役割を分けて、【剣狼団】による盗賊行為は解決した事になった。
これが、レンレンが来る2か月前の出来事だよ。
………問題はここからさ。
【鉄火の牙】では、一週間の魔獣討伐のノルマが新入りに課せられていてね。
なかなかノルマが達成できなかった彼らは、焦って狼通りの奥まで魔獣討伐に向かったんだ。雨霧に禁じられていたにも関わらずね。
そこで、彼らは偶然にも見つけてしまったんだ。
狼通りの奥深くに存在する【ダンジョン】を。
彼らが何を思ったのかは知らない。だが、平然と盗賊行為に手を染めるような連中だ。彼らは【ダンジョン】を攻略しようとして、失敗した。
抜かりなかったのか、魔獣討伐のノルマを達成した彼らは晴れて新入りを脱却した。少数は本拠点に残り、それ以外の殆どのメンバーが簡易拠点での狼通りの魔獣の監視の役目を与えられた。
…………ここからだよ。彼らの不自然な行動の始まりは。
監視任務を真面目に全うしていながら、魔獣の間引きには非協力的。
簡易拠点を防衛した時に、主力級の仲間の負傷を理由に魔獣討伐の参加の拒否が多数。
彼らの中には治癒系の【ギフト】持ちがいたようだけど、簡単な傷しか治癒できない事から、彼らには過去【鉄火の牙】が【ダンジョン】から入手した回復薬を薄めた物を支給されていたようだよ。
正直言って、ここまでなら単に魔獣と戦いたくない腰抜けってことで終わるんだけどね………話はそこで終わらないんだ。
彼らの不審な行動が増した。
それまでは魔獣討伐を渋っていたのに、急に簡易拠点の周囲の魔獣の間引きに積極的になったり、本拠点に送る魔獣の死体を得るために遠方まで狩りに行くようになったんだ。
実際、怪我をしてでも魔獣を討伐しようとする、かなりゴリ押しのやり方だっようで、大きな怪我はしなくても小さな怪我は増えていったんだ。
ただ、何度か大きな怪我……例えば出血多量になる程の深手だったり、足の骨が折れたりね。任務の遂行に支障を来すという理由で、回復薬の支給の一時的な増加を要求し出したんだ。
ダンジョン産の物には劣るけど、一応【ギフト】によって回復薬の量産には成功してる訳だからね。彼らには、練習用に作られた余り物の回復薬が支給された。
倉庫を圧迫していたようだから、あちらは大助かりだろうけどね。
だが、負傷の多さから簡易拠点の監視任務から外すことはしなかったようだけど。
【鉄火の牙】にとっては、監視任務と銘打ってるが、あれは事実上の左遷のようなものらしくてね。
彼らのメンバーの中でも使える人材だけ引き抜いて、本拠点から追い出したようなものだと、雨霧から聞いているよ。
不審な行動はそれまでだったんだけどね。だが、変わりに虚偽の報告が増加した。虚偽報告に関しては、後々から判明したらしい。どうやら本拠点にいるメンバーの画策によるものらしく、判明が遅れたんだと。
ああ、安心して欲しい。これまで話した事もこれから話す事も全部、雨霧から聞き出した真実と事実だから。必要な情報を渡さないなら、今後【朝日之宮】及び私の個人的な協力は切るって脅したから。
彼らが簡易拠点で何をしていたのか。一体どんな行動をしていたのか。
簡易拠点での監視任務は、名ばかりの役職だからね。彼らの監視に本拠点の人材を充てる程、【鉄火の牙】に余裕は無かったようだ。
だが、一度だけ虚偽報告がバレた事があってね。本拠点の査察官の視察が入ったんだ。だが、これは彼らのミスという事で片付けられた。
虚偽報告ではなく、魔獣の発見ミスという形で、視察は終わった。
……大丈夫かい?一度、休憩をいれるかい?
ん?私?私は大丈夫だよ。既に回復してきている。
私の【ギフト】が何なのか、忘れたのかい?
―――――――ふふっ、冗談だよ。私は大丈夫さ。
何せ、椅子に座って話しているだけだからね!
続きを話すよ。
視察が終わってからは、特にミスはなく。それどころか、視察が終わった時点から虚偽の報告をしなくなってね。
彼らは真面目に魔獣の動きの監視任務に努めたそうだよ。
ここまで話したけど、不明な点がある事は理解できたよね?
そう、回復薬の支給を増加する要求、魔獣討伐の行動、虚偽の報告。
私と雨霧の持つ情報を擦り合わせて、照らし合った結果――――――――――
「【朝日之宮】を襲撃した、大規模な魔獣の群れの発生。その原因に、【剣狼団】のメンバーが関わっている事が分かったんだ」
………ふう。まあ、途中から薄々感づいていたようだけど。
間違いなく【剣狼団】のメンバーは、狼通りの魔獣が大規模な群れを形成する原因になっている。
少し、疲れちゃったかな。すまないレンレン、休憩させてもらうよ。
ああ、そうだ。私が休憩している間、話した情報を噛み砕いておいてくれ。
休憩した後に話す内容は、蓮司にとって最も必要だろう情報に、繋がるだろうから。
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