第19話 起きたら鎖でグルグルにされてました
今回は、ちょいとコンパクトに、抑え目にしました。
◆――――――◆――――――◆――――――◆――――――◆――――――◆
『―――――――――全ての盗聴などの機器を発見、指示通りに破壊しました』
「あいあい、りょ~かい。んじゃ、後は手筈通りに頼むな」
『―――――――――はい、では準備に取り掛かりますので、失礼いたします』
「あ~い、よろしく~」
須崎との通信を切り、雨霧は通信機を赤石に手渡す。
「ボス~、本当に拠点を捨てちゃうの?」
赤石が不安そうに雨霧の顔を見上げる。
「しゃ~ねえよ。場所が割れちまったんだから。この際、親父ん所に身を寄せようと思ってるよ~」
「【釼龍会】の本部に?ここからじゃあ遠いじゃん………」
「あっはっはっは、船使うから問題ないじゃん」
「あれ、酔うから嫌なんだけど………」
「我慢しろ~」
蓮司と灯歌の戦いを終わらせて、蓮司が眠りについた時を頃合いに【鉄火の牙】の捕縛グループは、灯歌と彼女の部下の黒田に後を任せて、簡易拠点の廃ビルまで戻っていた。
雨霧はそこで一先ず今後の予定を確認し、本拠地の須崎からの報告を聞いてから、どう動くかを思案していたのである。
裏切り者の捕縛は失敗したが、それに関しては失敗してもいい事だったので、苛立っていても雨霧は別に気にしていなかった。
雨霧は、薄汚れた椅子に腰かけ、裏切り者からの手紙を広げて、その内容を口に出す。
「〝悪いな、俺達は美味い方を取りに行く。てめえの施しはもういらねえ。だから安心して引きこもってろよ、蝙蝠野郎〟……………」
手紙にはそれしか書いてなかった。
蝙蝠野郎、というのは【文明の落日】以前の世界での雨霧の通称にして蔑称だ。
夜の世界しか行動せず、一線を越えてまで非合法に手を染めた裏切り者を粛正するという仕事をしていた時の、雨霧の通り名。
その時から【釼龍会】に属していた雨霧は、組織のためならと、汚れ仕事を平然と行っていた。
ある意味、雨霧は夜の世界の監視人にして処刑人のような役目を担っていた為、彼は多方面から恨まれていた。
だが、今ではその通称はその通りになっている。雨霧は【ギフト】を得た事で手に入れた力は、まさに彼に相応しい能力だからだ。
雨霧は手紙を握りつぶし、地面に投げ捨てる。
「だったら蝙蝠らしく、てめえらを粛正しますかね」
雨霧は、長い前髪で隠したその顔に、うっすらとした笑みを浮かべる。
その口元には、鋭い牙が覗いていた。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
――――――――――――――場所は変わって、【朝日之宮】
《蓮司視点》
俺が意識を取り戻した時、最初に自分がベッドか何かに寝かされている事に気づいた。
そして、次に自分が紐か何かに縛られている事に気がついた。
自分がどんな状態になり、何をしたのか覚えているだけに、なぜそうされているのか理解できて、自虐するように笑みを浮かべた。
「あ、起きたのかい?」
聞き覚えのある女性の声が聞こえて、俺は越えのした方に顔だけ向けた。
「灯歌………」
「大型魔獣程度なら一週間くらいはぐっすり眠る睡眠薬なのに、相変わらず人間離れした回復力だな」
くつくつと、灯歌がいたずらっ子のような顔で笑う。
なんともないと、元気そうな態度だが……よくよく見れば、右腕に包帯が巻かれている。他にも手当ての跡があり、俺は罪悪感から目を背けそうになるのを耐える。
「灯歌……俺は」
「いいんだよ。最初から分かっていて君に挑んだんだ。私は後悔していないよ」
「……すまない」
どれだけ謝ろうとも謝りきれない。俺はそれだけの事をした。
「そんなに私に謝りたいなら、ほっぺにチューでもして貰おうかな?」
そんな些細な事で良いのなら、俺に否はなかった。
「……ああ、分かった。この件が終わったら、ちゃんとするよ。約束する」
「ふぇ?……あ、ああ!もちろん、そうして貰うよ!約束だからね?」
灯歌がどこか恥ずかしそうに赤面する。だが、すぐに嬉しそうに両手を胸の前で握りしめた。
それでも、隠しきれないとばかりに、頬はほんのり朱色に染まっているが。
………なんだか、今の灯歌を見ていると、昔を思い出す。
楽しかった、あの頃の一時を。
「――――――蓮司?蓮司?おーい」
「っ、ああ、すまない。少しぼーっとしてた」
「大丈夫かい?あの姿になった影響でもあるのかい?」
灯歌が心配そうにこちらを見る。俺は彼女を安心させようと、灯歌に微笑んだ。
「問題ないよ。俺は
「それなら良いんだけど………」
灯歌は不安げな表情を顔に残しながらも、いつもの顔に戻った。
「あ、喉は乾いてないかい?といっても、水しかないけどね」
「いや、いい………それよりも灯歌。話してくれ。鞠火になにがあったのかを」
灯歌がビクリと肩を震わせる。
「……話しても、大丈夫なのかい……?」
「ああ、だが念のために、俺はこのままでいい。この紐、和人のものだろう?なら大丈夫だ」
ああ、そうだ。和人にも礼を言わないとな。最後の最後、俺を止めてくれたのはあいつだろうから。
「聞こえていたのかい?雨霧が来た声が」
「薄っすらとだけどな。どこか嗅いだことのある甘い血の匂いがしたから、そうだと思ったよ」
「そうか………もう一度、聞くけど。本当に大丈夫なんだな?」
「覚悟はできてる。もうあれにはならないよ」
「わかった………なら、話すよ。君のかつて仲間の一人―――――五月女鞠火に何が起きたのかを。そして、彼女が今、何に利用されているのかを」
俺は必死に内から湧き上がる激情を抑えて、灯歌の話に耳を傾けた。
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