第14話 セプテンバー調子はどうだい?俺は気楽にやってるよ
書いてたら楽しくなっちゃって、過去最大に長くなっちゃった………。
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鏡峰蓮司が用意した試練を早乙女天音が受けている真っ最中の話。
これは、一人の苦労人が更なる苦労を背負わされ、泣く泣く解決に奔走した時のお話である。
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【文明の落日】という天災によって出現した謎の建造物や植物群。
その中には、坑道や洋館に似た建物も含まれている。
俗に犯罪クランと呼ばれる組織【鉄火の牙】が拠点としているのは、その謎の建造物であった。
【朝日之宮】から徒歩で二日はかかる距離。そこには、岩山にしか見えない何かに呑み込まれたビル群がある。
そのビル群の一つの中には、坑道の入り口が存在する。入口を通って、迷路の如く張り巡らされた坑道を抜けた先にあるのが、【鉄火の牙】の
坑道を抜けた先には、岩山の中身をくり抜いたような空間がある。その空間は地面から壁、天井まで植物が覆いつくす緑の空間だ。
そこにポツンと佇む、洋館に似た建物。それが【鉄火の牙】の拠点だ。
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「ああ~~~~~~~~~~」
ズタズタに引き裂かれた壁紙、それを補完するように天井から垂れ布がぶら下がっている部屋の中に、男の呻き声が響いた。
「暇だぁ、とてつもなく暇だぁ、もうこれでもかってぐらい暇だぁ……」
その男は、赤い絵の具をぶちまけたようなデザインのポンチョを羽織っていて、垂れ布の一つに器用にぶら下がって、足をバタバタさせて呻き声を上げている。
不健康そうな白い肌に、目の下にべっとりと濃い隈を張り付けた男。
それが【鉄火の牙】を結成し、そのリーダーを務める存在。
「ひまひまひまひまひま~………ひ~まひ~まひまひまひ~♪わたしはとってもひまですよ~ひまで~ひまで~しかたない~♪ぶ~らぶら~ぶ~らぶら~♪」
変な歌を即興でつくって、それを歌いだして暇を誤魔化すくらいには、雨霧は退屈していた。
飽きたのか、雨霧は歌うことを止めて、垂れ布から垂れ布へと飛び移り始めた。
まるでターザンの如く。
「あ~ああ~」
本当にターザンになりきっているのか、気の抜ける声で叫びだす始末だ。
この部屋は無駄に広いため、かなりの量の垂れ布が天井からぶら下がっている。
そのため、雨霧は部屋中を飛び回り、ターザンごっこで遊び始めた。
「あ~ああ~あ~あ~あ~あ~あ~~~~あ~~~~~」
コンコンっと、部屋のドアをノックする音がして、執事のような恰好をした女性が入って来た。
「失礼します。ボス、お客様です――――――って、なにやってるんですか……」
燕尾服を着た女性は、部屋の主の遊ぶ様を見て呆れたように嘆息する。
部屋に入って来た存在に気づいて、雨霧は垂れ布の間を飛び回るのをやめる。
「あんれ~?須崎じゃん。どったのどったの?」
「………お客様がお見えになったので、ボスを呼びに来たんですよ。まったく……なにやってるんですか」
雨霧は垂れ布に逆さにぶら下がって、燕尾服の女性――――――
「ん~~~ターザンごっこ」
「はあ~~~~~~~~~~~~。もう、早く行きますよ?お客様を待たせてるんですから」
「え~?めんど~。適当な理由つけて帰しちゃってよ。てかお客様って誰?」
「……………梶様ですよ、梶灯歌様!」
須崎の口から出た〝お客様〟の名前を聞いて、雨霧の顔から表情が消える。
「……………嘘だ」
「残念ながら本当ですよ。うちの新藤を案内にして、わざわざこんな所まで来られたんですよ」
「嘘だぁ…………嘘だと言ってよぉ………」
「いいから、ほら!そんな所にぶら下がっていないで行きますよ!」
「行きたくな~い、行きたくな~い」
「………今すぐ行かないと、ここに梶様を連れてきますよ?」
須崎の脅しに、雨霧はすぐさま垂れ布から飛び降りて、部屋の扉まで小走りで歩き出した。
「よし行こう。今すぐ行こう。さっさと行こう。ほら、須崎!お客様が待ってるよ!早く早くぅ!!」
さっきまでとは打って変わって精力的な姿勢に、須崎は呆れたような視線を向けるが………すぐに困ったような笑みを浮かべて、雨霧の後を追った。
「はいはい、今行きますよ」
そこには、母親のような慈愛の目を青年に送る執事がいた……。
◆◆◆
向かうのは洋館の一階。ボロボロの洋館を、なんとか綺麗にして立て直した時に、一番きれいな仕上がりで、玄関からほど近い距離にあったからという適当な理由で決められた客間。
そこに、梶灯歌はいた。
付け加えるなら、顔を青褪めさせて引きつった笑みを浮かべる新藤も。
客間のドアを須崎が開けて、雨霧が中に入る。その顔は、いつも以上に病的な青白さだった。
客間に入って来た雨霧に向けて、灯歌は笑顔で手を振る。
「やっほーアマカズ。元気?」
灯歌に対面するソファーに腰かけて、雨霧は憂鬱そうな表情で灯歌の顔を見た。
遅れて入ってきた須崎は、雨霧の後ろに控える。
「梶さ~ん………今度はなんのようなんですか~?」
「なに、ちょっとした野暮用だよ」
もう既に疲れたように雨霧はため息をつき、ふと目に入った新藤にじろっとした目で睨みつける。
「し~ん~ど~う~?」
「しょ、しょうがないじゃないっすかー!もともと
雨霧はなおもジトっとした目で新藤を睨み続けたが………脅した相手が相手だったので、仕方ないと溜飲を下げる。
「それで、野暮用ってなんなんですか?」
「なに、本当にちょっとした野暮用だよ……………ねえアマカズ、君んとこに新入りが入っただろう?」
「? それがどうかしたんですか?」
「はっはっはっ、
すっ―――――と、雨霧の顔から表情が消える。灯歌の背中で控える新藤の顔から、冷や汗が滝のように流れる。
「あ、言っておくけど新藤からは何も聞いてないよ。うちの黒田から聞いたから」
「ああ、あの人か……なら、しょうがないですね。あの人が相手じゃあ、うちの情報も筒抜けか……じゃ、新藤」
びくりと新藤の肩が震える。
「お前、一週間ここのトイレ掃除な。一人で」
「ええ!?一人でええ!?」
「あ"あ"?」
新藤を、まるで狂犬のような暗い表情の雨霧が睨む。
「はい、喜んでやらせていただきます」
二人の様子を見て、クスクスと灯歌が口元を抑えて笑う。
雨霧はそんな灯歌を見て、雨霧が泣きそうな顔で灯歌の顔を見る。
「っはあ~~~~………勘弁して下さいよ梶さん。それ、できれば内密にして欲しいんですけど~」
「いや、それはできない相談だね」
「……なんでです?」
「もし、私の予想通りなら………彼ら、レンレンの逆鱗に触れたよ。それも盛大にね」
ガタッ……と、雨霧が勢いよく立ち上がる。その目は、驚くほどに見開かれている。灯歌の発した言葉が信じられないと、暫くその場に立ちつくしていたが………。
「新藤」
「は、はいっ!!」
「お前は今すぐあいつらの顔が分かるものを用意しろ。念写でだ」
「あの~ペナルティは……?」
「この件が終わるまでは保留だ。だが、今後のお前の働き次第では帳消しにしてやる」
「わっかりましたー!男、新藤!行ってきまああああああああす!!」
雨霧の指示を受けて、飛び上がりそうない勢いで、新藤がドアを開けて走り去って行った。
「須崎、お前は幹部会の準備だ。いいか、幹部会に招集に応じない奴は蓮司さんに殺されるか、この俺に殺されるかの二択を選べと伝えろ」
「かしこまりました」
新藤と違い、須崎は丁寧に一礼して指示に応じ。
「失礼いたします」と目礼してこの場から出ていった。
指示を出し終えた雨霧はソファーに座り、真剣な表情で灯歌の顔を見つめる。
「梶さん、説明……して貰えますよね?」
「ああ、それはもちろん。ただ……」
「ただ?」
「この件、レンレンを説得する代わりに、私のお願いを聞いて欲しいんだ」
この場において、全てにおける主導権は灯歌にある。ならば、お願いと銘打っているが、それは完全な命令だ。だが、雨霧は従うしかない。
これは、身内の存続をかけたものなのだから。
だからこそ、雨霧の返答は一つしかない。
「聞きましょう」
悪魔のような微笑みで、灯歌が口を開いた。
「近い内に〝大進攻〟がある。【鉄火の牙】には、その手伝いをして欲しいんだ。ああ、勘違いはしないでね?別に協力しようって訳じゃないから」
「………何をするつもりなんですか?」
「【朝日之宮】を捨てる」
「――――――は?」
灯歌の口からはっきりと発せられた言葉に、一瞬、聞き間違いか?と雨霧は自分の耳を疑う。
「だーかーら、【朝日之宮】を捨てるんだよ」
「………正気ですか?」
「黒田の調べと、私が直接見て判断したことだよ」
続きを促すように雨霧が灯歌の顔を見るが、それ以上は喋る気が無いことを察して、雨霧はため息をつき、短く頷いた。
「………なるほど、詳細は明かせない、と……」
暫くの間、考え込む仕草をした雨霧は……やがて、その顔を上げた。
「いいでしょう。【鉄火の牙】はあなたに協力します」
雨霧の返答に、灯歌は満面の笑みを浮かべる。
「良い答えだ」
………それから、二人の間で秘密の話し合いが行われた。
最終的に、双方にとって利益のある選択を取り、お互いに納得した。
誰にも明かされずに行われた密会は何事もなく終わり、灯歌は【鉄火の牙】を去って行った………。
坑道の出口までの案内人を伴って出ていく灯歌を、客室の窓から眺めていた雨霧は、一言呟いた。
「………喰えない人だな、本当に、喰えない人だ……」
数回のノックのあと、客室のドアを開けて須崎が入ってくる。
「ボス、幹部会の準備が整いました」
「あいあ~い、今行く~」
その時には、いつもの飄々とした雨霧に戻っていたが………その目だけは、まるで狂犬の如く狂暴な目つきになっていた。
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