第12話 彼らは強さを求めて、その心身を奮い立たせる
魔獣の群れを蹂躙した帰りに少々、ひと悶着あったが………諜報員の三人とはそれから何事もなく。
むしろ友好関係を築くことができた。
三人と合流してからの帰りは、カゲロウを収納しても特に魔獣に襲われることなく【朝日之宮】に帰還することができた。
灰色の樹木の壁には、少年とは別の人が見張りを担当していた。
その人はちょうど、あの時の会議に出席していた一人だったので、すんなりと中に入ることができた。
顔見知りって大事だな。
石田さん達は一度、詰所の方で調査結果を報告した後、情報の修正や彼らが不在時の間に判明した情報の擦り合わせをするそうだ。
そして、帰ってきて早々、俺は――――――――――――
「はあああ!!」
「脇が甘い」
「ぐえっ」
―――――――――なぜか、【朝日之宮】の戦闘訓練に参加していた。
………どうしてこうなったんだっけ?
そうして、訓練とはいえ多対一の模擬戦を
「てやぁぁぁぁ!」
「背中ががら空き」
回想を浮かべようとしている時に、奇襲を仕掛けてきた女性の戦闘員の背中から身体を影で縛り付けて拘束し、そのまま遠くの方に投げ飛ばす。
………ちょっと、うるさい。
とゆわけで、中断された回想をもう一度、思い浮かべた。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
『お帰りレンレン!さあ、訓練しようぜい!』
『は?いや、ちょっと待て。なんで俺がお前と訓練することになってんだ?』
『私が決めた!』
『お前が決めたのかよ!いや、それよりも三つ目の原因は何なんだ?』
『訓練してくれたら教えるよ!』
『お前な………』
『私がルールだ!』
『どこのAUOだよ!………っはぁ~~~~~、あーもう分かった、訓練すりゃいいんだな?』
『おお!珍しく素直だな、レンレン』
『もう、色々と精神的に疲れてるんだよ………めんどくせぇ』
『がんばれ、レンレン!負けるな、レンレン!それいけ、レンレンンンン!!』
『うるさいよ!?お前のテンションが一番疲れるわっ!』
『わはははははは!!とゆうわけで、頼んだぞレンレン!』
・・・
・・・・・
・・・・・・・
回想終了。
「(あんちくしょう………後で覚えてろよ?)」
しかし、ここの連中は個々の強さはそれなり程度だが、連携には目を見張るものがる。時には囮として俺と一対一で戦い、その間に遠距離から攻撃を仕掛けたり、俺が背中を見せた瞬間を狙って奇襲するなど、色々と戦い方に工夫がなされている。
だが、対人戦はまだまだ甘い。
魔獣との戦いに慣れ切っているのが丸わかりだ。
だからこそ、こちらは戦いやすいし、楽できているのだが。
「お前たちが相手にしているのは人間だぞー。対人戦は相手との読み合いだ。相手の行動を予測した上で戦い方を変えるんだ」
模擬戦は数十分くらいか。俺はまだまだ余裕だが、周りはもう立てないやつが殆どだ。
何人かは地面に寝転がって死にそうな顔だ。
しかし、俺は彼らに容赦なく酷評というか、これまでの彼らの評価を感じたままを、嘘偽りなく叩きつける。
「何人かは俺への攻撃を躊躇していたな?最初に言った筈だが、俺はお前らが束になってかかって来ようが、数秒でお前らを殺さずに制圧できる。この意味、分かるよな?」
俺よりも年上の戦闘員は、渋面をつくりながらも納得したように小さく首肯している。
だが、反対に若い連中は納得できていないのが殆どだ。悔しそうに歯を食いしばっている。
「今の時代、魔獣だけが敵とは限らないんだ。人の中にも悪意を持った存在はいる。その証明が三年前の
意地が悪いようだが、思い出させるためにも今は説教の時間だ。
こいつらは少々、平和ボケが過ぎる。
三年も経ったと安全を確保できた人間は言うが、それは違う。
まだ三年しか経っていないんだ。俺達はもう、この世界の支配者なんかじゃないんだ。
魔獣と同じく、弱肉強食の世界で生存競争を争う、ただの弱い動物でしかない。
それを分からせるには、まあ言葉だけじゃ足りないだろう。
だから俺はその口を閉じずに、平和ボケしているこいつらの目を覚まさせようと、容赦なく言葉を叩きつける。
「忘れたのか?人間の愚かさを、人間の悪意の深さを。混迷期の時、何をしてもいいと考えた人間が何をしたのか………お前らは忘れたのか?
決して少なくない食料を奪い、欲望を満たそうと略奪の限りを尽くした。糞ったれな連中を。
同じ人間だからって、味方とは限らないんだぞ?むしろ、敵である方が多いくらいだ。こんな世界だ、弱いやつは搾取されるだけ。平和だったあの頃とは違い、誰かが守ってくれるなんて保障は無いんだ。
自分で守るしかないんだよ。守りたいものがあるなら、自分自身で守るしかないんだ」
俺が言っていることなんて、こいつらも分かっているだろう。頭の中では、自分がやるしかないと、理解できているだろう。
だが、対人戦を理解しきれていないようじゃ、不足し過ぎだ。
「お前らは守りたいから戦っているんじゃないのか?だったら、なぜ躊躇した?」
地面にへばっている数人が
「その躊躇が何に繋がると思う?…………守りたいものの死だ。お前の躊躇が、仲間の死を、守りたいものの死を招く。そしたらお前は一生後悔するだろう。
なんで?ってな。自分を憎むだろう」
泣いている者もいた。怒りに震える者もいた。覚えがあるのか表情に影のある者もいた。
「そんな失敗はしたくないだろう。だが、周りは容赦なくお前を責めるか優しく
…………はっ、そんな失敗なんて糞くらえだ」
黙りこくって俺の話に、この場の全員が聞き入っていた。
……へぇ、一人か二人くらいは反発すると思ったんだけどな。
なら、大丈夫か。
「平和な時代なら、いや、どんな時代だろうが人は〝失敗してもいい〟だとか〝乗り越えればいい〟だとか勝手なことを
俺が言ったことが意外だったのか、誰もが驚きに目を見開く。
「こんなものは単純だ。恐ろしく単純明快だ。失敗しなければいい、後悔しなければいい、そのために強くなればいい…………簡単とは言えねえ。だが、実際そうだろう?」
俺は彼らに問いかける。
「強さだ。守れる力を持っている、強靭な精神力を持っている、それらをひっくるめて強さだ。強いってのは力が強いだけじゃねえ。何が強さだとかじゃねえ。全部だ。お前らが想像しているだろう、その全てが強さだ」
俺は、俺なりの答えを彼らに伝える。
「同じ人間と戦える、同じ人間だろうと、己の守るものの障害なら何だってやってみせる。それが人殺しだろうとだ!それもまた〝覚悟〟という名の強さの一つだ!」
ふと、頭に初めて人を殺した時の情景が浮かぶ。
殺した相手の血に濡れた手は暖かくも、俺の手は冷たかった。
ただ、恐怖に震えていた、自分が変わったことに怯えていた。
それでも、守れたものがあったなら、それにも意味があったんじゃないかと思うことができた。
「お前らはどうだ!人を殺せる
一人、地面から立ち上がった。
「お前らには、自分が弱いという自覚はあるのか!」
また、一人、二人………何人も立ち上がる。
「強くなりたいか!」
「……おお」
「強くなりたいか!!」
「「「おお!」」」
「強くなりたいか!!!」
「「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」」
「なら、戦い方を教えてやる。死ぬ気で俺にかかって来い」
「「「「「「はいっ!!!」」」」」
もう、地面に這いつくばる者は、誰もいなかった。
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