第10話 凱旋と言い繕っているが、実情は戦後の後始末である
《視点:早乙女天音》
大規模の狼型の魔獣の群れを撃退した【朝日之宮】は、一時の勝利の余韻に浸っていた。
迎撃部隊の援軍が到着した事もあるが、やはり今回の迎撃戦の功労者は鏡峰蓮司という青年だろう。
後で梶さんから援軍だと言われた時は、とても安堵したものだ。
彼が来た時、信頼できる僕のギフトが心の中でこう告げた。
『今すぐこの場から逃げろ』と。
幾つもの異なる死臭を、まるでコートでも羽織るみたいに平然と歩いてくる姿を見て。
僕は、彼が総長と同等かそれ以上の化け物に見えてならなかった。
そんな彼が味方と知って安堵すると同時に、僕は…………飢えた魔獣と共に檻の中に入れられたような恐怖を感じていたんだ。
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僕の【ギフト】は、狩人の能力を超人的なまでに引き上げる……ような力だ。
実際、僕は自分のギフトの力がよく分かっていない。だから感覚的に、狩人の能力を強化したような力としか、分からない。
連射式ボウガンで、狙った所には必ずとは言わずとも、当たる。
気配の消し方や、痕跡の見抜き方。痕跡の消し方。罠の種類。
他にも狩人として必須とされる技能が【ギフト】を得た時に、自然と理解できたのだ。
【獅子の
もう十分にこの世界を一人でも生き抜ける程度の力を、僕は持っている。それは確信できる。なぜなら、【獅子の床】のリーダーである総長からのお墨付きだからだ。
【獅子の床】を率いる指導者でありながら、総長は【獅子の床】に属する全ての戦闘向き【ギフト】持ちの中でも最強の存在だ。
あの梶さんでも、殺す気で戦わなければならないと言わしめる程に。
……二年前の【文明の落日】に迫る程の、魔獣の大発生。
一体で【朝日之宮】を一息で滅ぼせるような強大な魔獣が何十体も出現した、あの天災に迫る災禍。
それを収めた英雄の一人が、梶さんだ。
聞けば、本当に世界を滅ぼせるかもしれない魔獣もいたとかで、クランの先輩から話を聞いていた時の僕は憧れながらも恐怖したものだ。
嘘だと思えるような話の数々も、この手の話では嘘が嫌いな人だと知っていた為に、今では戦慄する。
たった一日で文明を崩壊させるほどの天災に近しい災禍を解決した、梶さんを含めた英雄はいったいどれだけの化け物なんだろう、と。
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《視点:鏡峰蓮司》
魔獣の群れの約半数を蹂躙し、気づいた時には俺の周囲には生きている魔獣は一匹もいなかった。
二百かそこらの群れだったので、半数程度では満足しない影も、この前の巨大魔獣を喰らった事で多少は満足したらしい。
途中、影に引きずられてハイになってた頭も、影がおとなしくなれば自然と頭も冷える。
俺は自分の身体にこびりついた返り血と、魔獣の肉片の生々しい死臭に顔をしかめる。
「生臭ぇ………」
乾いた返り血はどうしようもないが、せめて肉片くらいは何とかしたい。
影に命じて、俺の身体についた肉片やら何やらのグロテスクな何かを喰らわせる。
影は瞬時に俺の身体に纏わりつき、少し蠢いて離れた時には、乾いた返り血以外は綺麗さっぱり無くなった。
便利な能力ではあるものの、腹ペコになると狂暴性が増すのはとてもウザい。
常に飢えているような感覚が共有され、つられて五感が敏感になるのは、本当にウザい。
大規模な魔獣の群れが出てきた時、内心喜んではいたが……色々と疲れた。
逸る影を抑え込んだり、味方が巻き添えを喰らわないように影を操作したり、勝手に暴走しないように影を制御したり…………はぁ……。
「今回は精神的に疲れたな………はぁ、眠い」
目に見える範囲で魔獣の群れが見当たらないのを確認し、向こうの戦闘も終わっただろうと俺は狼の怪物に変異した影に身を預けて、そのまま帰還した。
………周囲に散乱する、既に事切れた魔獣の影が密かに蠢いた。
影は水が溢れるように蠢き、事切れた魔獣を呑み込む。
やがて影は、周囲の魔獣の影と繋がり一つの大きな影となり。
周囲に存在する様子を見に来た魔獣も巻き込んで、その場の全ての魔獣を呑み込んだ。
巨大な水溜まりのような影は、穴の中に水が落ちていくように小さくなり…………
(精神的に)疲れて眠る蓮司を運ぶ影の怪物に吸収された。
眠っている筈の蓮司の目が開き、ニヤリと顔を歪ませた。それは蓮司とは別人のようにも見えるが…………すぐに眠りにつくように
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