第3話 旧友との再会、それは何かの始まりか

 無数の瓦礫が転がる大通りから暫く歩いていると、ある程度、瓦礫が片付けられた道がある。

 その先は一つのクランが運営するコミュニティ【朝日之宮】と呼ばれる、かつての自然公園がある。


 混沌としたこの世の中で、ごく僅かに存在する人々の安住の地だ。


 何らかの【ギフト】によるものなのか、瓦礫を材料に灰色の樹木で築かれた攻勢の壁は、魔獣に対して有効的になっている。


 そして何より、この街では米が食える。何らかの対価を渡せば、生産された米を利用したご飯にありつけるのだ!


 頭の中で、どんな飯を食おうかと妄想している間に、もう壁のところまで着いたようだ。


 だが、不思議なことに門は閉じられ、常駐している戦闘向きの【ギフト】の人間がいない。


「妙だな………」


 何か大きな魔獣の群れの進行でもあるのか、それとも犯罪クランとの抗争中なのか………いずれにしろ、ここは諦めた方が良さそうだ。


 俺は踵を返してその場から立ち去ろうとし、


「待て!!」


 その足を止めた。


 ゆっくりと顔だけ振り返ると、14、5歳くらいの少年がこちらのボウガンらしきものを向けて、こちらを睨んでいた。


 俺は身体ごと少年の方に向けて、両手を挙げて無害アピールをする。


 それでも少年は油断の無い目つきで、こちらの一挙一動を警戒している。


 ………若いのに大したもんだこと。いっぱしの戦士じゃないの。


「あなたはどこから来た!」


 意外と張りのある声音で、少年が叫んだ。


 俺はそれに正直に答える。


「この道を真っすぐ行った瓦礫が転がる狼通りの方から」


 僅かに少年の顔が疑わし気に歪む。


 ちなみに、狼通りとはさっき、四ツ目狼の魔獣を狩った大通りの通称だ。

 狼型の魔獣ばかりがいるからそう呼ばれるようになった。


「仲間は?もしかして一人で来たのか?」


「ああ、そうだ。俺は一人で旅をしている。だから仲間はいない」


 ボウガンを持っているとはいえ、あれが【ギフト】によるものだと確信が持てない限り、嘘はつかない方が良いだろう。何せ、なんて【ギフト】もあるんだし、少年がその【ギフト】を持っているかもしれない。


 念には念をって言うし。


「じゃあ、【朝日之宮】に誰か知り合いはいないか?いるならば確認を取らせてもらうが!」


 おっと、知り合いと来たか。

 うーん、別にどうしても米が食いたいって訳じゃないし。

 それに知り合いは~・・・・いるにはいるけど、なるべく会いたくない。


 さて、どうしたもんか。



「――――――どうしたー早乙女!!そこに誰かいるのかー!!」



 げっ、いま一番聞きたくないやつの声が聞こえた・・・。


「梶さん!いえ、外から一人の黒コートの男性が来てまして…………魔獣らしきものの返り血を浴びていたので、一応、警戒してまして(小声)」


「なに!?そいつはこう………目つきの悪くて、まあまあイケメンじゃなかったか?あと、顔に傷があったら完璧なんだが………(小声)」


………なにやら話しているようだが、声が小さすぎて聞き取れない。


「まあ、取り合えず私も見てみよう。もし私の知り合いなら、ちょうど会っておきたいしな」


「分かりました。梶さんにお任せします」


 待たされるのも嫌だし、こっちから声をかけるか。


「おーい!!内緒話は終わったのかー!!」


「おっと、どうやら私の知り合いのようだ。ここは任せて早乙女は見張りに戻ってくれ」


「はい、梶さんのお知り合いなら………僕は戻らせていただきます」


「うむ、頼んだよ」



 灰色の樹木で出来た壁の上から、懐かしくも憎たらしいやつの顔が見えた。

 予想通りであったことに内心で舌打ちをするが、米にありつけるならと、苛立ちを我慢する。


「おー!やはりレンレンじゃないか!いやはや、久しぶりだなー!!」


 前に会った時と変わらない、長い黒髪を後ろに結った女性の顔が見えた。そいつは嬉しそうに、こちらを見て大げさに手を振っている。


「その呼び方はやめろって、前に言わなかったか?灯歌とうか


「はっはっはっはっは!!いいじゃないか、久しぶりに会ったんだし。ほら、門を開けるから入ってきなよ、歓迎するよ?」


 灯歌が指を鳴らすと、ひとりでに灰色の樹木が避けていって、人が一人通れそうなくらいの穴が開いた。


 俺は彼女の導きに従って、ため息をつきながら、穴の中に足を踏み入れた。




 そうそう、忘れていた。俺の名前は鏡峰蓮司かがみね れんじ

 この崩壊した世界を、ただ一人で旅をしている。


 平たく言えば………この物語の主人公だ。


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