第1話 文明の落日 後日譚
あの日――――――世界は崩壊した。
突如として出現した謎の建造物や植物群、または原因不明の災害によって、瞬く間に人の世は終わりを告げたのである。
黒い嵐と共に来訪した異形の化け物たちによって街は蹂躙され、人はその余波であっさりと何百人も死んだ。
今や数えるのもバカバカしいと思えるほどの人が死に行き、俺は運が良かったから生き残れた。
学校に行かず、ただただのうのうと時間を浪費していた俺が生き残り。
真面目に学校に通い、真面目に勉学に励んでいた同級生が死んだ。
……………いや、違う。そこに差別など無かった。そこに区別など無かった。そこに選別は無かった。
ただ平等に、無差別に。運の無かったやつが死んだだけなのだ。
だからこそ、この天災に理由などなく。俺が生き残ったことに理由など無いのだろう。
でも、俺は生き残ったから。これから生きていかなくちゃいけない。
理由など存在しなくても、生きているならば、俺は生きていかなくちゃいけないんだ。
それが―――――――――――死に際に交わした初恋のあの子との約束なのだから。
◆◆◆
あの日、世界が崩壊して間もなく、不思議な力に目覚めた人が続出した。
ある人は斬撃を飛ばし。
ある人は火球を放ち。
ある人は獣人となり。
ある人は視線だけで生き物を止めた。
異能とも超能力とも言える、科学で説明がつかない超常を起こす者達。
生き残った俺、そんな彼らが起こす数多の現象を目の当たりにして、こう呟いた。
――――――――――まるで、ゲームみたいだ。
日頃からゲームを嗜み、ゲームが日常と化していた俺にとって、その一言はどこかしっくりくる言葉だった。
そして、まだ辛うじてインターネットが利用できた短い期間に、これまでの出来事の名前が付けられた。
世界が崩壊したあの日を【文明の落日】。
異形の化け物を【魔獣】。
人が発現した異能の力を【ギフト】。
【文明の落日】から数日、まるで予定通りとでも言うように、世界各地で様々な種類の門が次々と出現、または発見された。
SNSに投稿されたそれは、不自然の塊だった。建物も無いのに、あるのは門だけ。
どこかの誰かが、その門を開けた時、その門の向こう側には別世界が広がっていたという。
砂漠のど真ん中にある門を開けた者が目撃した光景は、青々とした草原だった。
植物群に飲み込まれた廃ビルの中の門を開けた者が目撃した光景は、天井に太陽の如く輝く水晶がある地下空間だった。
湖の湖底に佇む門を開けた者が目撃した光景は、青い石で出来た神殿のような遺跡だった。
それらの門の向こう側には、地球とは全く異なる異世界が広がっていたのだ。
それらは悉く、人が今まで常識としていたこの世の理を大きく逸脱した環境だった。
門の向こう側へと足を踏み入れ、そして帰って来た【ギフト】を得た者が言っていた。
門の向こう側は地獄のようだった。しかし、向こうには夢があったのだ、と。
後に、その門と向こう側の世界は【ダンジョン】と名付けられた。
【ダンジョン】は、【ギフト】を得た人々の胸の奥に熱い何かを宿らせた。
【ダンジョン】はまるでは蜜を求める蜂の如く、あるいはゴミに
人は未知というものを本能的に恐怖するものだが、同時に未知は人の好奇心を刺激する。
止められよう筈が無い。人の欲望に果てが無いのと同じように。
果ての見えない未知は、力を得た人に夢を持たせるのに、十分過ぎる程に膨大だった。
………一方で、戦闘向きでない【ギフト】を得た者もいた。そうした人々は独自のコミュニティを築き上げ、持ち前の【ギフト】で日々の生活を守っている。
それでも限界があるからこそ、戦闘向きの【ギフト】を持った人に食料や家を提供する代わりに【魔獣】から守って貰うよう依頼した。
こうして、生きるために何かを生産する者と、生きるために何かと戦う者の構図が出来上がったのである。
彼らは協力して、かつて住んでいた街を【魔獣】から少しずつ奪還し、遂に安住の地を築き上げた。小さなコミュニティから大きな集団組織へと。
結束を高めるためにも、彼らは自らのコミュニティに名前を付けて、明確な組織となった。
これが後に【クラン】と呼ばれるものである。
彼らは自分たちが生き残るためには数が必要だと考えた。打算ありきの善意であったが、彼らは自分たちの手の届く範囲の人々を助けていった。
しかし、誰もが彼らのように善意ある者とは限らない。
【ギフト】を得て犯罪に走る無法者もまた、続出していたのである。
そうした無法者の彼らにもコミュニティがある。戦えない人々から搾取するだけの、最悪の【クラン】が。
【文明の落日】以前の世の中と違い、今に世の中は混沌としている。
弱肉強食が明確となり、人もまた獣なのだと再認識させられるような世の中だ。
力が無くては何もできない、そんな素晴らしくも糞ったれな世界。
以前のような平和な世界との決別によって、人は初めてこの崩壊した世界で生きる人に生まれ変われる。
だからこそ、俺は【ギフト】を得て生まれ変わったのだと自分に教えるために、その言葉をSNSで呟き、現実でも口にしたのだ。
「
俺の物語は、世界が崩壊してようやく始まった。
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>最悪に【クラン】×
>最悪の【クラン】〇
誤字報告ありがとうございます。修正いたしました。
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