第3話 お姉さん系黒ギャル(前編)
――再びラブコメを演じて欲しいんですよ。
神ガラムドからいきなりそんなことを言われてしまった訳だけれど、しかしながら、そう簡単にはいそうですか、と言える訳がない。というか、前回だって良く自分はそれでOKを出したものだな、と思う。普通なら不審がって即警察に通報するだろ?
という訳で、のぞみとひかりとの勉強会もほどほどに済ませたところで、僕はジュースを買いに外に出ていた。ジュースを買うには二つの選択肢がある。コンビニに行くか、自動販売機を使うか、だ。ジュース一本買うためだけに、スーパーを使う人間は居ない。レジ袋も有料化したしな。という訳で選択肢のうち一つは自然消滅。結果的に、僕は自動販売機に行くことになる訳だった。
自動販売機までは歩いて三分、といったぐらいだろうか。公園の前に置かれている、青いカラーリングの自動販売機だ。お茶からスポーツドリンク、栄養剤からエナジードリンクまで、割と豊富なラインナップが揃っている。とはいえ、あまり色々と選り好みはしないんだけれどな。
と、まあ、そんな感じで独りごちりながら、僕はなんとかかんとか自動販売機に辿り着いた。交通系ICカードも使える、割と新しいタイプの自動販売機だ。公園の前にある床屋さんがそこのオーナーらしいけれど、新しもの好きなのかな? いずれにせよ、有難いことではあるけれど。
「うーん……何にしようかなあ……」
そんな自動販売機の前に、一人の少女が立っていた。
いや、少女と呼ぶのはどうだろうか。見た目からして僕と同じぐらい。高校一年生ぐらいと言っても良いだろうが――しかしながら、その見た目が奇抜過ぎる。
その少女の肌は浅黒く、髪の毛も金髪にしている。
ギャルだ。それも、黒ギャル。
何処からどう見ても、絶滅危惧種の存在になりつつある黒ギャルが僕の前に立っているのだが――?
「ん。何見ているのさ、さっきから」
目が合った。メイクは……薄いな。あんまり濃いメイクはしていないらしい。昔はヤマンバ? なんてものが流行ったらしいけれど。僕が生まれる前のことだから、はっきりと覚えていない。というか、それもそろそろ歴史の教科書に載る頃合いだったりして。
「おーい、君だよ、君。返事してくれないと、困るよ」
……どうやらこれ以上無視を決め通すことも出来ないらしい。諦めて僕は頷くことにした。
「そうそう、君だよ、君。で、君は一体どうしてここに居る訳? 出来れば理由を教えて欲しいなあ」
「……それ、全く同じセリフをあなたに返したいところではあるんですけれど」
「警戒しているのかな? だとしても、警戒するのは良い選択だろうねえ。会ったこともない人間と、こうして壁をなくして話している訳なんだから。普通は、ある程度緊張して話すべきだろう? でも、私はあなたに対してなーんにも緊張していない。緊張することが、相手への失礼に値するとも思っている訳だしね」
それにしても。
良く喋る黒ギャルだ。
出来ることならさっさとジュースを買ってここから立ち去りたいところではあるのだけれど。
「おいおい、聞いているか、君ぃ。それとも、少年と呼んでやろうか? 少年とお姉さんの話が流行っているらしいじゃないか。私もお姉さん属性がある存在としては、良い流れであると思うけれどねえ」
……お姉さん属性?
聞いたことないぞ、そんな属性。一体何処の誰が提唱したものなんだ。
「……聞いたこともないし、別に僕は弟になる筋合いはありませんから。それと、あなた、ジュースを買いに来たんじゃないんですか?」
「ああ、そうだ」
まるで今まで自分の役割を認識していなかったかのような、そんな感じ。
……いかんいかん、随分とあの神様に毒されているような気がする。
「私、ジュースを買いに来たんだよね。どれが良いかな? 普通にカルピス? それともコーラ? それとも変わり種の椰子の実サイダー?」
何だよその手からレールガン打ちそうな少女が出てくる作品に出てきそうな飲み物。
「……ねえねえ、何を購入するのか見せて欲しいなあ。私、この辺りに来たの初めてでさ。ここでいつも購入しているであろう、あなたのチョイスが気になるんだよねえ」
言い回しに所々変な箇所はあったものの、それを違和感としないで飲み込むことにして、僕はそれを了承した。別に断る理由なんて、何処を探してもない訳だし。
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