第2話

北方帝国 宮殿


この丸いセムナーベ大陸は主に三つの国に分かれている。

北方諸侯を纏めた北方帝国、共和制を敷く中央共和国、商人としての気質の強い南方王国。領地こそもっていないが、各国に影響を与えている教会勢力。共に大陸の西側から攻めてくる魔王に対抗しているとは聞こえは良いが、内情はあくまで魔王という強大な敵がいる為武力による衝突が起こっていないだけにすぎない。


故に、北方帝国の主であるダリミハ1世も北部の暗黒大陸が霧に覆われたと思ったら、まったく別の様相を呈したと言う報告を聞いて自分の正気を疑い、次に魔王が強大な魔法でも行使したのかと疑った。


魔物の進攻も魔素の類も検出されないと聞いて胸をなでおろした帝王の胃を痛めたのが、帝国各地から空を飛ぶ鋼の機械も目撃されたという知らせと人の形をした軍勢のようなものが接合部の向こう側でこちら側の様子を伺っているという報告だった。


 仮にあそこに新しい国が突然降ってわいたというのならば、軽率な行動を差し控えた国境部の辺境伯には感謝だ。ただでさえ魔王との戦が始まり早200年、北方帝国は西側大陸にあった豊かな大地を失い、山岳が多い東側で抗戦を続けてはいるが、国内は疲弊は無視できるほどではないし、南方王国への借金で首が回らないのだ。

 これで第2の戦線が構築されたなど悪夢の極みと言わざるを得ない。


「……向こう側から使者は来ていないのか?」


 ダリミハ1世は疲れ切った顔で、自慢のその髭を撫でながら大臣たちに尋ねた。


「一向に。ただ港町などでは潮の流れが変わった、航路が塞がれたなど様々な訴えが出ており、諸侯も足並みが乱れております。早めに手を打たねばもし向こう側に別の国があるとしたら勝手に使者を出す者や軍を出す物が現れかねません」


 腹心の大臣が書類を提出しながら答える。

 ダリミハ1世はそれに目を通すと、行方不明になった海運関係者の数やなんとかしてくれとの諸侯の陳情が書き連ねられていた。


 普段は利権でうるさいくせに、いざ危険が迫ると貧乏くじを迫る。

 まったくもって責任者というものは時代によるが、やるせないものである。


「……まず、偵察する部隊の選出を行え。こちらから決して手を出さないような分別のあるやつをな。それと特使の選出を進めておけ。この伯爵からの陳情についてだが……」


 しかし彼も一国の王。ここで不安や不満を見せては部下や民に示しがつかぬと顔を一度叩き喝を入れると、スイッチを入れ替え指示を飛ばす。

 先遣隊が選出されるのはそれから一週間の後であった。




 一方そのころ主人公


「う~ん????」


 ごきげんよう皆様。ルサルカでございます。

 人民服に身を固め、帽子を被ったワタクシめは、現在首都の大規模工事を行っております。

 ルテニア連邦首都モスクワの執務室から街を眺めていた私は、一つ気づいたことがあったのです。そう、そもそもこの世界は核戦争があった痕、街並みはほぼ廃墟であり、地面は荒野、水は放射能汚染され「戦争ごっこするためのインフラや工場」しかないのでございます。

 基本シェルターがありますから、そこが生活区域なのですが、それ以外はぶっちゃけ核戦争があった後のポストアポカリプス系のゲームをやった諸氏ならご存じでしょう。

 一応形は変われど国という体裁をとる以上は首都ぐらい何とかしたほうがよくない? 私は山積する問題から目をそらす意味で首都のリフォームを行っています。

 

 まぁ、幸い享楽にふけっていた旧人類の人が作っていたデータを流用して、後は工作機械さんたちに任せているだけどなんちゃってモスクワなんですけどね。


 私自身は椅子に座りながら機械が町を作り上げる光景をボケーッと眺めているわけで。作りながら気づいたんですがこれ住む人がいないです。


 肉人形さん……あぁ、設定上旧人類の成れの果てさんたちなんですが、彼らの外見なんですけどバケツみたいな頭に戦うための四肢と胴体がくっついた、ほぼ知能が退化した機械なんですよねぇ。住まわせるにはちょっと華がない。

 この国の特色として、「肉人形工場」から山のように最大動員数は3000万まで戦闘用の肉人形さんを作り出すことができますが、バケツヘッドが市街地をスーツ着てうろついてる国というのもそれはそれで……。

 とはいえ、明確な人間の形をできるのはクリアランスが高い各国の首脳と閣僚クラスしかできないし、観賞用に糞尿垂れ流す水と食料のいる糞袋を作るのは……


 ん? 観賞用?


「人から+αで何かくっつければ人間ではない……もしくは引くか」


 さて、話は少しズレますがなぜ私が現実逃避をしているかといいますと、先ほど対魔王討伐シミュレーションをしていたのですが、どうあがいても補給が間に合わない問題が出まして。

 まず偵察機で領土を見た所、北方の国々は山岳地帯、ヒマラヤとまでは言いませんが、とてもじゃないですがしっかりとした鉄道網をしかねば兵隊を動かすどころじゃありません。

 かといってこの時代は察するに封建制度が盛んな文化……そうでなくても、どこの馬の骨とも知らない武装勢力に土地に道をひかせてくれるわけないでして。

 魔王側の領土に強襲上陸して港を作る案も出ましたが、リスクがでかすぎて没。

 そも海軍がそこまでありませんからね。


 魔王討伐に関しては、転移などということができる上位存在がいるのです。サボっていればどうなるか分かったものではありません。

 一応そのことを知ってるわけではない他のメカ閣僚たちには誤魔化してはおきましたのですが。


 一応、各地の異常気象の調査や食糧工場や鉱物回収プラントへの被害報告、幅広くなってしまった沿岸警備への兵士の再配分を終えた後、こうして街づくりに没頭してたわけなのですが。


「魔王を倒せとは言われましたが別に人間に配慮しろとは言われませんでしたね」


 邪魔な連中は消してしまうか。

 とはいえここは謎の吹き荒れる転生異世界、突然戦闘能力が異常な勇者様とかが範囲魔法とか打ってくるかもしれません。

 慎重に行ったほうが良いのはもちろんですが、そも人間のご機嫌とりをわざわざする必要性は後に回してもいいかもしれませんね。


「観賞用の肉人形の制作を命じましょう、過去のデータバンクからかわいらしい少女たちに妖精の羽でも生やせてバケツ人形とはツガイということにして、あぁそうだ、ソビエトらしいポスターも作って、妖精型肉人形の部隊も作ってみましょう。美しい街にかわいいがあふれる冒涜の街、ふふふふふふふふふふ」


 髪をかきむしる。

 口が三日月のように割れ、瞳孔が開く。

 何かがカチリ、と外れた音がした。

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機械帝国は異世界を踏みにじる 鉄鎖 @zanthutablets

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