第32話 新婚旅行

 ――その後、1週間もしないうちにアランとローズへの処刑が下された。罪状は国家反逆罪である。オラール侯爵家は取り潰しとなり、侯爵領地も没収となった。


「没収したオラール侯爵領は交通の要ですから、衰退させるわけにはいきませんね。早めにどなたかに領主へとなっていただかないと。」


 アリスとヴィクトルの昼食では、没収した領地の話題があがった。今日の昼食のメニューの中には、ジャガイモのポタージュが出ている。最近のヴィクトルのお気に入りなのだ。


「そうだな。それに、新しく作っていた宿屋街の運営と、宿屋街を作るにあたって追い出されていた小作人達の処遇も考えなければならない。」

「その後、小作人たちはどうされていたのですか?」

「実はオラール侯爵領に新しいスラムが出来ていた。それが、宿屋街を追い出された小作人たちが集まってできたものらしい。」

「まあ。それは早く改善しませんと。」


 経済を潤すことは大切なことだ。それによって救われる者も居る。しかしそれはすべて、食べる物があってのことだとアリスは思う。だからこそ、大切な農業従事者たちを一日も早く良い農作物を育てられるように支援したいと考えていた。


「……この件、アリスに任せてもよいか?新しい領主の選任も含めて。」

「えっ。」


 それは、目玉が落ちそうなほど、驚く提案だった。


「そ、そんな。わたくしのような未熟者に、お任せされてはいけませんわ。」

「アリスは未熟などではない。きちんと王妃として何をせねばならないのか分かっている。大丈夫だ。私も一緒に考えるから。相談にもいつだって乗る。」

「陛下……。」


 アリスは、戸惑った反面嬉しいと思った。ヴィクトルがここまで信頼してくれていることを。


「……分かりました。でも、本当に分からないことがたくさんありますので、ぜひお力をお貸しくださいましね。」

「力を借りているのは私の方だ。よろしく頼むよ。」

「承知いたしました。」


 ヴィクトルがあまりにもとろけそうな笑顔を向けるので、アリスは頬を染めて唇を尖らせた。ヴィクトルは、そんなアリスが可愛くて仕方ないな、と思う。


「そういえば、姉上たちが3日後には帰国すると申しておられた。」

「そうですか。寂しくなりますわ。」


 なんやかんやと滞在の伸びたミシェルたちと、アリスはすっかり仲良くなっていた。とりわけ、エリクとメロディとはそれはもう離れがたい思いになっている。


「……ブレソール殿下は廃嫡だそうですね。」

「ああ、姉上から聞いたか?」

「はい。」


 ミシェルたちを迎えに来たドナルドは、パストゥール王国への謝礼金を持参していた。レルカン国とアランが繋がっていたため、パストゥール王国としてそれを受け取ることはしなかったが、ブレソールとシドニーにはサブレ王国から処分が下された。


 それが、ブレソールの廃嫡とシドニーの除籍である。ドナルドの話では、シドニーは初め、納得していなかったそうだが、それをブレソールが鬼の形相で諫めたらしい。


「しかも、フルール殿下とルイ殿下を国王陛下の養子にされたとか。」

「そうだ。王位継承順位はドナルド殿下よりもルイ殿下の方が高いからな。フルール殿下のお力も王家に必要と判断されてのことだろう。サブレ王国で女性初の爵位を賜るかもしれないという話もあるそうだ。」

「まあ。そうなったらすごいですわ。」

「フルール殿にはそれだけの力がおありだからな。」


 アリスは黙って頷いた。そして、まだ会ったこともないフルールへと思いを馳せる。アリスにとってフルールには、勝手に同志のような感情を抱いているのだ。それは、それだけ王妃教育が大変なものであったことの証である。






 ミシェルたちが王城を発った日は、それは、それは盛大な見送りをした。前国王夫妻以外の王族全員が見送りに駆けつけたのだ。もちろん、公爵家もである。ミシェルとドナルドだけでなく、エリクもメロディも喜び、必ず再会を果たすことをお互いに誓い合ってから、サブレ王国の面々を送り出した。


 サブレ王国の一行を見送ってから3日後、ヴィクトルとアリスは1ヶ月の休暇に入った。随分と遅くなりはしたが、新婚旅行に出かけるのである。元々、ミシェルたちを見送ってから休暇に入る予定であったため、彼女たちの滞在が延びた分、新婚旅行に出かけるのも延びた形だ。


「それでは行って参る。」


 頭を垂れる臣下たちにヴィクトルが声をかけると、アリスたちの乗った馬車が動き始めた。馬車には、ヴィクトルとアリスの二人きりだ。新婚旅行だからとセリアと近衛騎士が気を利かせたのである。


 ただ、もし成婚の儀をあげたばかりの頃の二人の仲であれば、セリアも騎士も同乗していただろう。今日こうして二人きりの馬車を楽しめるのも、二人が仲を深めたからなのである。


「はじめは城下町からですね。わたくし、陛下と訪れるのは初めてですわ。」


 ヴィクトルと結婚する前は、勝手知ったる街だった。しかし、王城に入ってからというものの、アリスが気軽に出かけられなくなり、城下町に足を運ぶこともなくなっていた。


「そうだな。ジケル商会に立ち寄る予定だ。他に見てみたいところはあるか?」

「たくさんありますけれど……。皆に迷惑をかけてもいけませんし。それに、また来られますわよね?」


 城下町の者たちも、今日から国王夫妻が新婚旅行に出かけることを知っている。そのため、馬車が止まった時点で人々に囲まれることになるだろう。そのことを考えると、気軽に行きたい店へと行くのは難しい。


「ああ。また来られる。が、アリスの行きたい店に私も行きたい。」

「わたくしの行きたい店ですか……。」


 そこで、アリスの頭に浮かんだのは、お気に入りのパン屋だった。甘いパンもしょっぱいパンも美味しくて、王城入りする以前は頻繁に訪れていた。


「……でしたら、セリアにお遣いを頼みましょうか。わたくし達がジケル商会でお買い物をしている間に、セリアに買ってきてもらいましょう。そうすれば、街の皆さんにもご迷惑をおかけしないはずですわ。」

「お遣いで手に入るものなのか?」

「はい。わたくしのお気に入りのパン屋のパンです。それをお昼ご飯に食べるのはどうでしょう。とても美味しいのですよ。」

「なるほど。それなら悪くないかもしれない。」

「……!」


 ヴィクトルは、蕩けそうな笑顔をアリスに向けた。たったそれだけで、アリスは頬を赤らめる。


「ああ、すぐに赤くなって可愛いな、私の奥さんは。」


 アリスの頬に伸びたヴィクトルの指先が、さらに彼女の鼓動を早める。親指がアリスの頬を優しくなぞると、彼女は睫毛を伏せた。その隙に、ヴィクトルは「ちゅっ。」と軽く音をたてて、アリスの唇に唇を寄せる。


「へ、陛下?!」

「アリスが可愛いのが悪い。」

「~~~~っ!」


 アリスは声にならない声をあげた。まだ城を出発して10分も経っていないというのに、すでに甘い空気全開だ。「この旅で心臓が止まってしまうかもしれないわ」と心配になるほどだ。


「ああ、もう本当に貴女という人は。そんな顔をされたら我慢できなくなるだろう。」


 口をぱくぱくさせているアリスへ、またヴィクトルの顔が少しずつ近づいていく。その時だった。


「ジケル商会に到着いたしました。」


 馬車が止まった。ヴィクトルは「ちっ。」と舌打ちしたが、アリスはほっと胸を撫でおろした。あのまままたキスをされていたら、どれくらいふやふやにされていたか分かったものじゃないからだ。


 先にヴィクトルが馬車を降りると、その時点で人々は歓声をあげた。その人々に向けてヴィクトルは軽く手を挙げた後、馬車の中に居るアリスへと手を差し出す。アリスがその手を握って馬車から身体を出すと、先ほどとは比べ物にならないほどの歓声が響いた。


 城下町に居る人という人がこちらに注目し、拍手をして迎えてくれている。アリスはそれが、なにより嬉しかった。そして、この人たちの笑顔を守らなければならないと、改めて心に誓った。


 アリスとヴィクトルは笑顔で手を振りながら、ジケル商会へと入る。ジケル商会の中も興奮した空気に包まれている。商会の中では、ジケル侯爵夫妻が直々にヴィクトルとアリスを待ち構えていた。


「やあ、ジケル侯爵、夫人。今日は世話になる。」

「お二人の新婚旅行の出発に我が商会を選んでいただき、光栄に思います。少しの時間ではございますが、どうかごゆるりとお楽しみください。では、こちらにどうぞ。」


 ジケル商会の店先は、貴族なら誰もが購入できるジュエリーや洋服の販売を行っている。ショーケースにはいくつもの商品が並べられている。アリスはそれらに視線を配りながら、ジケル侯爵に案内された奥の部屋へと入った。


 商会の奥には、商談のできる部屋がいくつか設けてあるらしい。アリス達が案内された部屋は、その中でもとりわけ豪華絢爛な部屋だった。何でも、王族や公爵が立ち寄ったときのための部屋だそうだ。


 ヴィクトルとアリスはその部屋で出された紅茶とお菓子を楽しみながら、ジケル侯爵が持ってきた商品を目利きした。今回はすぐに試着のできるジュエリーや帽子ばかりだ。アリスが買った商品となれば箔がつき、流行となるのが目に見えている。


 そのため、ジケル侯爵はどれか1つでも良いから何かアリスに買ってもらおうと商品を紹介した。ヴィクトルもアリスもその思惑は承知しているため、丁寧にジケル侯爵の話を聞いた。流行ができることは経済が潤うことでもあるため、アリス達にとっても民にとっても大事なことであるからだ。


 一通りのジケル侯爵からの商品紹介が終わったタイミングで、アリスはセリアに耳打ちをした。アリスのお気に入りのパンを買うお遣いを頼んだのである。「良きタイミングで買いに行ってくれ」とセリアに頼んだのは、できればほかほかのパンをヴィクトルに食べて欲しいからだ。


「わたくし、決めましたわ。」

「どれにするんだ?」

「今回は帽子にしようと思いますわ。それなら、被ったままジケル商会から新婚旅行に旅立てますし、旅先でも被っていられますわ。」

「なるほど。それは楽しい旅行になりそうな計画だ。それならば、私も帽子をもらおうか。アリスと一緒に帽子を被れば楽しそうだ。」


 アリスとヴィクトルの提案に、ジケル侯爵夫妻はここで泣いてしまいたいほど喜んだ。国王夫妻が揃って帽子を被るとなれば、これから間違いなく国中で帽子を被るのが流行となるからだ。


「どの帽子が良いか。」

「そうですね。では、陛下がわたくしの帽子を選んで、わたくしは陛下の帽子を選ぶというのはどうでしょうか。」

「ああ。それは名案だ。」


 仲睦まじい国王夫妻の様子に、ジケル商会に務めている者たちは皆、うっとりしていた。「これが絵本で見る王様とお妃様か」と、夢にまで見た光景に涙を浮かべている者も居る。


 当の本人たちはというと、きゃっきゃうふふとお互いに帽子を被せ合いっこをしては、楽しそうに帽子を選んでいた。


「うむ。やはりこれが一番だな。」


 ヴィクトルがアリスに選んだのは、ゴールドのラインの入ったエメラルド色のリボンのついた帽子だった。帽子の生地は、今では廃れる寸前と言われているパストゥール王国伝統の織物で作られたものだ。


 ゴールドのラインはヴィクトルの金髪を連想させ、エメラルドは銀髪のアリスによく似合う。今日のドレスはブラウン系のものを着ているため、ちょうど差し色にもなっている。


 ヴィクトルがアリスに帽子を被せてあげると、アリスはぽっと頬を染めた。その様子に、ジケル商会には小動物でも愛でるようなきゅんとした空気が漂う。


「似合ってますか?」


 アリスが上目遣いでヴィクトルを見上げる。


「ああ、とても。さあ、アリス。私にも被せてくれ。」

「はい。」


 アリスの選んだヴィクトルの帽子は、角度によっては黒にも見える濃紺のハットで、銀色のリボンがついている。こちらも、ヴィクトルがアリスに選んだものと同じ織物で作られたものだ。


 ヴィクトルもアリスもただ流行を作るだけではない。援助の必要なところに経済が発生するように考えかつ、デザイン性としても高いものを求める。


 帽子を被ったヴィクトルは、それは、それは世界中の女性を虜にするのではないかという美丈夫であった。ジケル商会の中に居る女性陣からは声にならない声があがり、皆がヴィクトルの美しさに当てられている。


 それはアリスも例外ではない。


「どうかな?似合ってる?」

「と、とてもお綺麗です……。」

「ははっ。それはアリスの方だろう。」


 ソファーに腰掛けるアリスの腰を抱いて、ヴィクトルは自分の身体の方へと彼女を引き寄せる。


「では、愛しの奥様。これで新婚旅行へと出発しますか。」

「は、はい……。」


 アリスの手をとり、ヴィクトルはそこに口づけを落とす。たったそれだけで絵になると、ジケル侯爵は直ちに店お抱えの絵描きに絵を描かせた。それをパストゥール王国国王夫妻の新婚旅行の記念品として売るつもりらしい。


 ジケル商会にたっぷりとサービスした後、ヴィクトルとアリスは商会を出た。するとまた、たくさんの民たちが彼らの様子を見守っている。アリスとヴィクトルは少しだけ足を止める。


「これから新婚旅行に出かけてまいります。皆様どうか、素晴らしい一日を。」


 アリスが言葉を発すると、城下町が割れんばかりの拍手喝采が起こった。そして「行ってらっしゃいませ」や「お気をつけて」など、旅の道中の安全を願う声が聞こえる。ヴィクトルとアリスは微笑み合った後、馬車へと乗り込んだ。


 ヴィクトルとアリスが馬車に乗り込むと、先にセリアが乗っていた。その両手には良い匂いのする袋が抱えられている。


「セリア。買ってきてくれたのね。ありがとう。とても良い匂いだわ。」


 匂いを嗅いだだけでお腹が空いてくる。


「それは?」

「先ほど申しておりました、わたくしのお気に入りのパンですわ。焼きたてを陛下に食べていただきたかったので、セリアに頃合いを見計らって買いに行ってもらいましたの。」

「そうか。セリア、それはありがとう。」

「とんでもございません。」


 一介の侍女にもこうして御礼を言う国王夫妻に、セリアは恐縮した。しかしそんな国王夫妻に仕えられることを誇らしくも思って居た。


「では、この先の湖畔で昼食とするか。買い物で少し疲れただろう。」

「ええ。楽しかったですけれどね。……陛下、少しだけお行儀の悪いことをしても良いでしょうか?」

「なんだ?」

「焼きたてのパン、1つを半分個にして味見しません?」


 ヴィクトルは、あまりにも可愛らしいアリスの提案に、「くくっ」と笑い声をあげた。そして、アリスの手に自分の手を重ねる。


「それは、お行儀が悪いな。しかし、興味がある。」

「焼きたてなので、湖畔に着くのを待つよりも良いかと。」

「それもそうだな。セリア、1つだけパンを。」

「承知いたしました。」


 セリアのチョイスで、最もシンプルなバタールが差し出された。焼きたてでほくほくしているため、それは簡単に手で2つにちぎり分けられる。その瞬間に、馬車内にはパンの良い匂いがたちこめた。


「おお。」


 ヴィクトルも思わず、感嘆の声をあげる。


「これは美味しそうだな。」

「そうでございましょ。陛下、早速食べてくださいまし。」

「ああ。いただこう。」

「ここは、思いっきりお行儀悪くかぶりついてくださいまし。」

「おお。それはいいな。」


 アリスの進めで、ヴィクトルは思いっきりバタールをちぎった部分へとかぶりついた。すると、口の中いっぱいに小麦のいい香りともちもちとした良い食感がひろがる。


「……上手い。」

「そうでしょう。わたくしが子供の頃から大好きなパンですわ。」

「アリスも子供の頃、こうしてかぶりついたのか?」


 ヴィクトルがからかったような笑顔をアリスに向けると、アリスは咄嗟に「いえ、それは……。」と口をもごもごさせた。それはもう、図星と言っているようなものである。そんなアリスが可愛くて、ヴィクトルは「ははっ。」と笑った。


「さあ、アリスも食べなさい。大好きなのだろう?」

「……陛下の意地悪です。」


 アリスは口を尖らせながらも、バタールにかぶりついた。すると、幸せな味が口の中に広がる。


「んー。」


 それはもう、頬っぺたが落ちそうだった。焼きたてというのが、また良い。冷えても美味しいパンではあるが、焼き立ては格別なのである。


「アリスの提案に乗って正解だな。湖畔につくのを待っていたら、パンが冷えていたところだ。」

「そうでしょう。鉄は熱いうちに打てというやつです。」

「確かに。良きものを良きタイミングで取り入れるのが、最も大切なことだな。」


 ヴィクトルとアリスはバタールを頬張りながら、「ふふふ」と微笑み合った。その微笑ましい光景に、セリアは胸を熱くした。


 半分個にしたバタールを食べ終わる頃に、予定していた湖畔へと到着した。バタールを半分食べたくらいではお腹も満たされないし、侍女や騎士、御者や馬たちの休憩も必要だ。


 ヴィクトルとアリスが馬車を降りると、侍女たちが昼食の準備を整えていた。今回の旅行には、セリアだけではなくソフィとアンナも着いてきてくれている。ヴィクトル側は、マクシミリアンの他に数人の従僕が着いてきていたので、準備はお手の物である。


 二人が楽しく昼食をとった後に、彼らも食事をとらなければならないため、この湖畔では1時間半ほど休憩をすることにした。ヴィクトルとアリスはパンを食べ終わると、少し散歩に出かけると言いつけ、二人だけで湖畔を楽しむ。


「アリスが王城へやってきてもう半年を過ぎるのか。」

「早いですね。でも、これからもずっとずっとヴィクトル様と御一緒できると思うと、まだほんのわずかなんだなと感じますわ。」


 アリスの人生の中でも、濃密な半年だった。初恋もこじらせ、命も狙われ、戦まで起きた。これからはできるだけ平穏なパストゥール王国で居られるように努めなければならないと、身の引き締まる思いでもある。


「アリス。」


 湖畔が綺麗に見える場所へと着くと、ヴィクトルはふいにアリスの名を呼び、立ち止まった。そして、アリスの手を優しくとったまま、アリスの前で片膝をつき求愛の姿勢をとる。


「ヴィクトル様……。」

「アリス。貴女を愛し、守り、幸せにすることを私の生涯の誓いとする。どうか、二人の生死を分かつ時まで、一緒に居て欲しい。私と結婚してくれるだろうか。」

「ヴィクトル様……。」


 アリスのコバルトブルーの瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。プロポーズを改めてする心意気に、感動せずにはいられない。


「アリス、返事は?」


 分かっているくせにあえて返事を促す意地悪なヴィクトルのことも、大好きだと思ってしまう。


「もちろん。ずっと、御側にいさせてくださいまし。」


 アリスの返事に満足気に笑ったヴィクトルは、腰をあげるとアリスの身体をぐっと引き寄せた。そして、アリスの顎に手を添えてヴィクトルしか見えないようにする。


「共に幸せになろう。そして、この世界で一番幸せな国をつくっていこう。」

「はい。」


 琥珀色の瞳は可愛い真っ赤な唇をとらえると、そこに吸い寄せられるように唇を寄せた。錦秋の穏やかな太陽の日差しは、二人を祝福するかのように湖畔を煌めかせていた。






初恋こじらせ編 完結




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