第31話 討入り
闇も深まった頃、ローズは国王夫妻の寝室の扉へと手をかけた。横に居るセリアへ目配せをすると彼女が大きく頷いたので、ローズも大きく頷いて部屋の中へと身体を滑り込ませた。
新月の今日は、窓から差し込む月明りもない。暗い寝室のなか、ローズは慣れた所作で寝台へと近づく。毎日掃除をしている部屋だ。そこに何があるのか、この部屋の主よりも熟知しているかもしれない。
国王夫妻の寝台に触れたことはあっても、身体を委ねたことはただの一度もない。ローズは緊張しながら布団をめくり、ごくんと喉を鳴らす。そして心を決めて、寝台へと身体を預けた。
それは、なんと心地の良い感触だろうかとローズは思った。国王夫妻が使っている寝台の布団は、パストゥール王国最高峰のものである。国王夫妻のためだけにつくられた布団だ。
侯爵令嬢であるローズも、パストゥール王国で流通している布団の中で最も素晴らしいものをつかっているが、それよりも段違いで寝心地が良い。「王妃になれば、こんな思いができるのね」とローズは思った。
しばらくすると、ヴィクトルの部屋の方の扉からノックがした。ローズは「陛下だわ」と思い、身体を硬直させる。ヴィクトルと一定以上の距離を保ってでしか対面したことはないというのに、まさか同衾するなんてとローズの口からは心臓が飛び出そうだ。
ローズが布団の中で身を固くしているうちに、布団がゆっくりと持ち上げられる。ローズははっとして「どうぞ」と言いながら、布団の中へと招き入れた。温かい体温に、さらにローズの熱はあがる。
少し身体を動かせば、手を伸ばせる距離に陛下が居る。ローズはそう思うと、嬉しくて楽しくて仕方がなくなってきた。寝返りをうち、彼の背中へと額をくっつける。そして、彼の腰へとローズは腕を回した。
「……こんなときに、申し訳ございません。でも、こんなときだからこそ、戯言だと思って聞いてください。わたくし……わたくしはずっと、陛下のことをお慕い申しておりました。陛下のお心が王妃殿下にあることは百も承知にございます。しかし、この惨めなオラール侯爵令嬢を、どうか……どうか、ただの一度で構いません。慰めていただけないでしょうか。」
そう言うとローズは、さらに自分の身体を彼へとくっつけた。そうしていると、彼の腰に回した彼女の手に、彼の大きな手が重なる。
「陛下……!」
その瞬間だった。
「討入りだ!」
「王妃殿下をひっ捕らえろ!!!」
オラール侯爵一行が国王夫妻の寝室へと討入りをしてきた。アリスの自室の方からは、待機していた侍女たちの悲鳴が聞こえる。
「アリス王妃殿下、そこにいらっしゃるのは分かっております!……ん?ローズ?」
寝台の布団を捲ったのは、アランだった。
「お父様!!!」
「これは、どういうことだ……?!ローズが国王夫妻の寝台に居るということは……?!一緒におられるのは、国王陛下か?!」
「お父様、お許しください!わたくし、わたくし……。侍女の身でありながら、国王陛下をお慕いしております。ただの一度でいいからと……。」
「なに?!では、お前は国王陛下のお手がついたというのか?!そうであるならば、王妃殿下を処刑した暁には、ローズを王妃に置いてもらわねばオラール侯爵家の名が廃るというもの。国王陛下、それでよろしいですな?!?!」
アランが連れてきた騎士たちも、皆が一同に動揺していた。まさか、国王夫妻の寝台で陛下とローズが同衾しているなど、誰も一縷も思って居なかったからだ。
「へ、陛下……。なにか言ってくださいませ……。」
ローズが彼の背中を揺らして発言を促す。
「……もし、わたくしが本物の陛下だとしたならば、あなた達は不敬罪どころの話じゃないぞ。」
「えっ?!」
「はっ?!」
ローズが背中を揺らした人物からは、ヴィクトルではない者の声がした。それに驚き、ローズもアランもその周りに居た騎士たちも恐れおののいて身体を寝台からのけぞらせる。
「さあさあ。どういうおつもりだったのか、お話を聞かせ願えますか、閣下。」
楽しそうに口端をあげながら、国王夫妻の寝台にローズと一緒に居たのは、ヴィクトルではなくクロードだった。
「ど、どういうおつもりだったのかは、こちらが伺いたいですな、クロード殿下。ここは国王夫妻の寝台。なぜクロード殿下が?まさか、アリス王妃殿下と密通……。」
「おや。とんでもないことを仰せになられますな。そこのローズから、閣下が王妃殿下への討入りをすると聞いたため、ローズにはアリス王妃殿下の身代わりになっていただき、わたくしがヴィクトル国王陛下の身代わりになったまでですよ。それのどこに問題があったのでしょう?」
「な……!」
クロードの話を聞いて、歯ぎしりをしたのはローズだった。
「おや?ローズはアリス王妃殿下の身代わりになったのではなかったのですか?それともはじめから、陛下のお手付きになったという既成事実もどきが欲しかったのでしょうか?父親である閣下に討入りをさせてまで貴女が欲しかったのは、王妃という椅子だったのですか?」
「な……!」
「クロード殿下!失礼ながら、我が娘を侮辱するのは止めていただきたい!ローズは仮にも、侯爵令嬢でありこの国の宰相の娘ですぞ!」
「なんの騒ぎだ。」
そこで、ヴィクトルとアリスそして近衛騎士団がヴィクトルの自室の扉から寝室へと入ってきた。彼らはオラール侯爵一行が寝室へと討入りしてくるのを、ヴィクトルの自室で待機していたのだ。
「ヴィクトル陛下!」
国王夫妻の登場に、オラール侯爵一行の騎士も一応は礼をとった。
「王妃殿下をこちらに受け渡しください!マリー殿下を毒殺しようとした疑いがございます!」
しかし、その礼もすぐにアランの一声で崩され、アリスへと刃が向けられる。
「まあ、怖いですわ。」
刃を向けられたアリスは一切動じることなく、あっけらかんとしてそう言葉を放った。あまりにもアリスの暢気な口調に、アランは顔を真っ赤にする。
「マリー殿下を亡き者にし、ご自分の権力を強めようとしたことは分かっているのですぞ!」
「まあ、どう分かっていらっしゃるのですか?それよりも、寝台に到着されたときに閣下がお話になっていたのは、ローズに陛下のお手がついたとかなんとかだったような気がするのですが……。わたくし達の寝室に討入りされた真の目的はなんですの?」
「ですから、先ほどから申し上げているように、マリー殿下を毒殺しようとした疑いにございます!」
「わたくし……そんなことはやっておりませんわ。第一、する理由がございませんもの。……そちらのローズでしたら、マリー殿下を殺す理由があるでしょうけれど。」
「は……?!」
アリスの言葉に、ローズは一瞬にして顔から血の気がなくなった。
「お、王妃殿下……。何を仰せになりますか……。」
「何を?なぜ貴女がわたくしを亡き者にしようとしたのか、そしてマリー殿下を鬱陶しいと思って居るのか……。わたくしには理解ができませんでしたが、先ほどの貴女の告白を聞いてすべて合点がいきました。オラール侯爵がすべておっしゃってくださいましたものね。わたくしを処刑した暁には、ローズを王妃にと。貴女の目的はそれだったのね。初めはオラール侯爵が権力欲しさに娘を王妃にしようとしているのかと思っておりましたが、でも違う。ローズ、すべて貴女の思惑だったのね。」
「王妃殿下、何を仰せになられているのかわたくしには理解できません。わたくしはこうして、王妃殿下を御守りしようと……。」
「あら。貴女は初めから、わたくしに毒を盛ったじゃない?悔しかったんじゃないかしら。貴方が初めてわたくしに淹れてくれた紅茶で、わたくしが一切口をつけなかった姿は。それから……そうねえ。初めてのわたくし主宰の茶会で貴女がオラール侯爵夫人に一言申したのも、茶番だったんじゃないかしら。自分は健気に王妃殿下のもとで働いているのだとご夫人方に印象づけるために。それから、マリー殿下がオラール侯爵と通じているというのも、嘘の報告ね。わたくしとマリー殿下が仲良くならないように。」
「……っ。」
ローズは顔を伏せて震えた。その姿を見て、アランが激昂する。
「王妃殿下は何を仰せになりたいのですか!ローズが王妃殿下に毒を盛る?その証拠は?それに、マリー殿下を煩わしく思われていたのは、王妃殿下の方ではないのですか?!マリー殿下は、頑なに王妃殿下と直接口を聞こうとされておりませんでしたから、それが鼻についたのでは?三側妃が急に体調不良になられたのも、王妃殿下の仕業じゃないのですか?!」
「……ふむ。では、わたくしの潔白が証明されれば、オラール侯爵は不敬罪を受け入れてくださいますか?」
「もちろんですとも!わたくしはその覚悟で今日このように討入りしております。」
「だそうですわ、陛下。」
「なるほど。じゃあまず、マリーに来てもらった方が早いか。マリー!入って来てくれ!」
ヴィクトルがヴィクトルの方の自室へと声をかけると、試食会で倒れたはずのマリーが自分の足で国王夫妻の寝室へと入ってきた。見るからに健康そうで血色も良い。晩餐会で倒れた者と同じ人物とは思えないほど、マリーは元気だった。
「皆様ご機嫌麗しゅうございます。」
呆気に取られているアランやローズ、オラール侯爵一行の騎士たちを尻目に、マリーは丁寧に淑女の礼をとった。
「な、なぜマリー殿下が……!」
アランはやっとのことで声を絞り出した。マリーが元気であることに動揺を隠しきれていない。
「あら。なぜわたくしが元気だと驚かれるのですか?ああ、試食会でのことですか?あれは、まあ、その……。寝てしまっただけですわ。試食会が終わった後に、すぐに目を覚ましましたのよ。」
「な……!」
「陛下は、わたくしに毒が盛られたと断定されなかったはずですが、なぜ閣下はそのように思われたのでしょうか?」
「あ、あの場であのように倒れられたら、誰もがそう思うはずですが。」
「それならば、なぜ調査をお待ちにならなかったのでしょうか。まあというか、わたくしのデザートに睡眠薬をお入れになったのは、陛下御本人でございますけれど。あら、いけない。お兄様、これは申してよかったのでしょうか?」
「な……!」
アランは絶句した。マリーは茶目っ気たっぷりに、「おっとと」などと言いながら上品に口元を扇子で覆った。そこでアリスは、「陛下が睡眠薬をマリー様に?」と思い、懐疑的な眼差しをヴィクトルに向ける。
アリスの視線に気づいたヴィクトルは、苦笑を漏らした。ここでマリーに暴露されて分が悪い人物は、アランではなくアリスだったらしい。アリスは、マリーが睡眠薬を飲んだだけだったことを聞いてはいたが、まさかヴィクトルの指示だったとは知らなかったのだ。
「……そんな目で見つめないでよ、私の愛しい妻よ。」
「ですが。陛下がマリー様に睡眠薬を盛ったというのは?」
「正確に言えば、私じゃないけれどね。」
「それは言葉の綾というものですわ。」
「まあ、そう怖い顔で見ないでくれよ。私はむしろ、マリーを救ったんだよ。どうやらこの親子は、マリーを犯人として仕立て上げる予定だったようだからね。」
「え……?」
「な、なにを申しますか!濡れ衣ですぞ!」
「そうですわ!実際に倒れられたのはマリー殿下でしたのに、どうやってわたくし達がマリー殿下を犯人に仕立てるというのですか?!」
アランもローズも、まさしく憤慨という二文字が当てはまる怒り方をした。頭から湯気が出そうである。しかし、本当にそうでないというのならば、このように怒らなくても良いはずなのではないかとアリスは思った。
「証拠ならこちらで揃えているよ。本当は、毒見係だったローズが倒れる予定だったんだよね?君のデザートから死なない程度の微量の毒を検出している。」
「えっ……?!」
一瞬、ローズは青ざめた表情になった。しかし、彼女はすぐに気持ちを立て直した。
「わたくしの皿に毒が盛られて居たというのであれば、わたくしは尚更潔白ではございませんか!むしろ、被害者ですわ!だとしたならば、王妃殿下もしくはマリー殿下のどちらかがわたくしに毒を……?!」
それはまさしく、悲劇のヒロインも真っ青の迫真の儚げな乙女だった。松明で明るい室内で、ローズの瞳の端にきらりと光る物が誰からも明らかだ。その姿を見て、ヴィクトルは大声で笑った。
「へ、陛下……?」
ヴィクトルの大笑いに呆気にとられたローズは、涙が引っ込んだらしい。
「お前が被害者だと?ここまできても猿芝居を続けるなど、面の厚さに笑いが止まらんな。こちらはきちんと申しただろう。死なない程度の微量の毒と。それに、初めからお前の毒見係としての役割は期待などしていない。お前のところに運ばれるまでに毒の混入がされないために、あえてお前を毒見係にしていたのだ。ここまで言って分からないのであれば、王妃どころか侯爵令嬢としても危ういおつむだぞ。」
つまり、ローズのところに運ばれるまでに毒の混入がされなかったというのであれば、彼女が自分で入れた他はないということだ。
「そ、そんな……。嘘だわ!」
「ローズ。貴女は何度もわたくしの命を狙っていたものね。だから、貴女が自分の身を挺してでもわたくしの座を奪おうとすることは何ら不思議じゃないと思って居るわ。でもまさか、レルカン国の残党まで使うとは思わなかったけれど。」
アリスがそう言った瞬間、オラール侯爵一行の騎士までもが、「レルカン国の残党……?!」「先の戦いか……?!」と騒ぎだした。
「な、なによ?!証拠でもあるの?!」
「何よりの証拠は……。貴女がわたくしの湯浴みを手伝ってくれているときに発した言葉です。貴女ははっきりと“レルカン国の残党にこのような仕打ちを受けるなんて”と申しました。まだ、ただの賊にやられたとしか発表していなかった段階で、です。なぜ現場に居なかった貴女がそんなことを知りえるのでしょう?城内でも賊にやられたという噂しか立っておりませんでしたわ。さらに言えば、わたくしはきちんと、誰にやられたのかまで見ておりました。貴女の幼馴染の近衛騎士の者です。厳密に言うと元近衛騎士ですね。彼はすべて薄情しました。そして何より……。貴女が我が近衛騎士団の騎士にわたくしに向けて飛ばした弓矢には、貴女が最初にわたくしの紅茶へと盛った毒と同じものが塗られておりました。あれは、オラール侯爵領で採れるスズランで作られるものだそうですね。」
「……っ。」
ローズは何も言えないのか、歯ぎしりだけをしている。
「さらに言うと、オラール侯爵とレルカン国の残党との繋がりもこちらですでに把握している。まさか、彼らをおびき寄せてまで、王妃の椅子を欲しがるなど、馬鹿げている。」
ヴィクトルが溜め息をついた瞬間、ローズはかっと目を見開き、アリスへと食って掛かろうとした。それを、近衛騎士たちが押さえつける。しかし、ローズはなりふり構わずに、アリスの方へと身体を突っ込ませる。
それはもう、獣のような姿だ。
「なによ!なにが悪いのよ!あんたさえいなければ、私が陛下の隣に居られたかもしれないのに!なんでなのよ!!!どんなことをしてもその座を欲しがって何が悪いのよ!!!それにまだ聞いてないわよ!三側妃が居なくなったのは、あんたのせいじゃないの?!」
「残念ながら、アリスを欲しがったのはこの私だ。三側妃だってアリスを迎え入れるためのただの措置だ。それに、今この国に王妃へとなれる者は、アリス以外誰も居ない。もし、アリスが居なかったとしても、お前のような者が座れるほど王妃の座は甘くない。アリス、何か言いたいことはあるか?」
震えるアリスの肩にそっとヴィクトルは手を回して、アリスの身体をそっと彼の方へと寄せた。それだけで、アリスはほっとした気持ちになる。醜いローズの姿を見て、自分でも思っていた以上にショックを受けていたらしい。
「……ローズ。わたくしはずっと貴女のことを止めたいと思っていました。貴女が畑でミミズを触れるようになったときは、本当に嬉しかった。最初に毒を盛ったのも、気の迷いだったのだと思いたかった。だって貴方にも幸せになって欲しいと思って居たから。でも、貴女の心の闇は、わたくしが思っている以上にずっと、ずっと深いものだったのね……。寄り添ってあげられなくて、ごめんなさい。しかしここからは、王妃としての矜持です。王妃というのは、誰よりも陛下に忠誠を尽くし、パストゥール王国の民と心中する者であらねばなりません。皆の命を脅かした貴女をわたくしは一生許すことはできません。貴女が王妃に?ばかばかしい。弁えなさい。王妃とは、なりたくてなるものではありません。国に選ばれるものなのです。国と共にあり、国と共に死んでいく。自分のことよりも国のことを考える。それが王族であり、王妃です。」
アリスがそう言うと、ローズはがくっと項垂れた。アランも意気消沈している。
「……オラール侯爵。そなたは愚かだ。娘が愛しいのは分かる。しかし、それを諫めるのが親というものではないのか。」
「……なぜ、我が娘ではダメだったのでしょうか……。」
「王族が権力にしか見えないのであれば、その椅子に座る資格はない。私はこの国の令嬢の誰よりもそして前妻であるバルバラよりも、アリスが欲しかった。ただ、それだけだ。」
ヴィクトルの言葉に、アランはもう何も言わなかった。見苦しい姿を見せたローズに、もう何もかもを諦めたのだろう。
「連れて行け。」
静華に響いたヴィクトルの声に、近衛騎士団がオラール侯爵一行とローズを連行した。ヴィクトル、アリス、マリー、クロードだけが国王夫妻の寝室に残される。パチパチと揺れる松明の音だけが響く室内の静寂を破ったのは、マリーの笑い声だった。
「ま、マリー様?」
いつまでも笑いの止まらないマリーに、アリスは困惑する。クロードは額に手を当てて、溜め息を零した。
「……マリー。笑いすぎだぞ。」
「だ、だってクロードお兄様……。面白すぎません?あんなクソ小娘に振り回されていたかと思うと……。ヴィクトルお兄様もまだまだですわ。」
そう言った後も、マリーは「くふふ」と大声で笑うのを堪えながらも、しっかりと笑っている。アリスは拍子抜けして、その様子がなんだか可笑しくて「ふっ。」と笑いを零した。
「なっ。アリスも笑うのか?」
「だ、だって陛下……。なんだかわたくし達、間抜けなようなそうでないような……。」
たった一人の小娘の思惑に振り回されたわけではないことは、アリスも分かっている。ヴィクトルがアランとローズをあえて泳がせて、レルカン国との関係という膿を出させる目的もあったであろうとは考えている。
それにしても、なのである。あそこまで狂気的にヴィクトルへと愛の告白をするローズの姿が、頭からこびりついて離れない。
「……陛下、熱烈的な告白をされておりましたね。」
クロードも笑いを堪えながらヴィクトルをからかう。
「……やめろ。あいつは私ではない。王妃の座を慕っていただけだ。」
ヴィクトルがアリスへと視線を落とすと、アリスもそれに気づいて目を細めた。
「陛下もわたくしに熱烈な愛の告白をしてくださいましたね。大変嬉しゅうございます。わたくしも陛下を望んでおります。」
「な……!」
アリスがそう言うと、ヴィクトルは一気に頬を蒸気させた。耳まで真っ赤である。そんなヴィクトルの様子を見て、クロードもマリーもさらに笑った。
「なっ、お前たち、笑うでない!」
「わたくし達には笑う権利がありますわ!ね?クロードお兄様!」
「そうだな。どれだけ、兄上の恋路へと協力をさせられたか。」
容赦ない兄弟のやりとりに、アリスは心からほっとした。そして、「ようやく終わったのね。」と安堵の笑みを浮かべた。
気づけば闇夜だった窓の外は、少しずつ黎明を感じさせていた。
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