第8話

「ハンチョ、コンビニを発見。どうぞ」


「立ち入りを許可する。ヤツらと遭遇しても戦わずに逃げろ。車は使うな。どうぞ」


「了解。通信終わり」


 コンビニは窓が割られ、荒らされたような形跡があった。

 が、商品はたくさん残されている。

 ここで戦闘があったのだろう。


 食料品の棚を覗き込むと、床に血痕があった。

 まだ乾いていない。

 点々と奥の方へ繋がっている。


 私はナップザックに入るだけの缶詰や電池などを回収した後、血痕を辿った。


 それは、バックエリアへの扉の奥に続いている。


 静かに押し開けて、すぐに銃を構えた。


 赤茶色の怪物が、何かを漁っている。

 いや、人間を喰っていた。


!」


 思わず、私は発砲してしまった。


 怪物の肩口に命中したが、別段効いたような感じはない。


 振り向いて襲いかかってこようとするので、私はその場から飛び出した。


 撃ちながら道路を走る。

 とにかく振り切らなくては。


 ちょうど路肩に、ドアが開けっぱなしのSUVがあった。

 運転席から死体を引きずり降ろして乗り込む。

 幸いにも、スマートキーが助手席に転がっている。


 スイッチを押してエンジンをかける。

 車体は音を立てて震えるだけだった。


「お願い、かかって!」


 後ろからはが迫りつつある。

 時間がない。


 慌ててスマートキーを取り、パワースイッチにくっつけるみたいにして、祈りながら押下する。


「よし、かかった!」


 かつての聞き慣れた、車の正しい音。


 久々の運転だって、体が覚えている。


 すぐ後ろに迫ったを、ちょっとバックして小突く。


 そのまま前方へ発進!


「ふぅ。危なかった」


 ビルの間から次々と顔を出し、追いかけようとして諦める連中を見て、優越感を覚えた。


 バックミラーを見る。


 すると、鏡の半分ほどを占領する、の顔があった。


 後部座席。

 こいつは最初から乗っていた!?


「うわァァアアアーーーーーッ!」

 

 後ろから首を刈られ、私は死んだ。

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