retry。
二階堂さんに一緒に帰ろうと、言いそびれた。前回は二階堂さんから言ってくれたけど、今回は特には無かったのだ。
もしかして、嫌われてないよね‥‥?
とにかく彼女を今日、一人で帰す訳には行かない。絶対に家まで送り届けなければならない。
幸いにも彼女は帰る様子もなく、席に座ったままでいる。
もう少し、人が減るまで待とう‥‥。
「むーなかーたくん」
後ろから肩を叩かれ二階堂さん呼ばれた。
「な、なに?」
「一緒に帰らない‥‥?」
「ぜ、是非‥‥」
なんだか心を見透かされたかのようで、僕の弱い内面を覗かれてるようだった。
今回も結局、彼女から誘ってもらってしまった。
とりあえず前回とは違う道で帰る事と、そして帰る時間をずらす事。これらの事を確実に実行したい。
「二階堂さん喉乾かない? 昇降口の前の自販機寄ってかない?」
「うーん。そうだね。寄ってこうか」
断られなくて良かった‥‥。
時間を少しでもずらすためには、校内に留まるのが一番だと思う。
何気ない会話をしながら飲み物を飲む。その缶を持つ自分の手が、汗ばんでいることに気づいた。
「じゃあ宗方くん。そろそろ行こうか?」
「うん! そうだね」
僕は飲み終えたその缶を力一杯握る。ーーが、その缶は軽くヘコむだけでまるでぴんぴんしているようだった。
その忌々しいアルミの物体をゴミ箱に向かって力強く放り投げ、下駄箱に向かうことにした。
僕はチラッと時計の針を確認する。前回の時よりもだいぶ時間がずれている。
予定通りだ‥‥。
この時、ふと脳裏をよぎったのだが、もし二階堂さんが轢かれなかったとしたら?
‥‥代わりに誰かが轢かれるなんて事はあるのか? 考えても答えの出ない事は考えるのをよそう。
今僕はがやらなくてはいけない事を達成しよう。
隣にはキョロキョロと、周りを気にしている様子の二階堂さんが歩いている。
こんな時でなければ、最高のシチュエーションなんだけどな‥‥。
「宗方くん。すこし回り道していかない?」
「え? 別にいいけど‥‥?」
僕が言おうとしていた事を先に言われてしまい、びっくりした。
少しでも僕といたいと思ってくれてるのだろうか?
そして前と違う道で帰ることに成功した。
再び時計の針を確認すると、前に二階堂さんが轢かれた時間はもう過ぎていた。
なんともない‥‥大丈夫なのだろうか‥‥?
「じゃあ、私の家こっちだからここまででいいよ?」
まずい‥‥一応家まで送って行きたいんだけど‥‥。
僕の気持ちを知るよしもなく、二階堂さんは髪の毛をヒラッと翻し、背を向け歩き出してしまった。
「あ、あの!」
僕は思わず二階堂さんの手首を掴んでしまった。
「何‥‥?」
「い、家まで送って行きたいかも‥‥」
これは気持ち悪い。下心が見え見えのような台詞を、チョイスしてしまった自分を殴りたい。
二階堂さんの顔を恐る恐るのぞいて見ると、不思議そうな顔をしながらも優しく答えてくれた。
「なんだか分からないけど‥‥送ってくれるなら嬉しい」
「ほんと!?」
「うん! じゃあお願いするね!」
よし! 時間は過ぎてるけどこれで何かあっても守ることができる!
「あれー!練馬と二階堂さんじゃん!!」
聞き覚えのある声。前とは違う道、そして時間も違うにも関わらずまたお前か‥‥。
「またお前か孝‥‥」
「またってなんだよ!! またって!」
わざわざ二回言わなくても良いだろう‥‥。
「ごめん。こっちの話だよ。」
「それより二人って‥‥もしかして付き合ってるの?」
「ぼ! 僕たち!?」
「お前ら以外に誰がいるんだよ‥‥」
「ぼ、僕なんかが二階堂さんと付き合えるわけ無いじゃないか!?」
「えーそうかあ? 仲よさそうに見えるし。」
二階堂さんを見ると、赤い顔で下を向いている。
孝が変なこと言うから怒らせちゃったかな‥‥?
「まぁ俺忙しいから行くわ! じゃあね二人とも!」
面白いくらいに前回と同じだな、あいつは‥‥。
「じゃあ、行こっか‥‥?」
「う、うん。」
相変わらず二階堂さんは下を向いたまま歩いている。
「ごめんね。孝が変なこと言って‥‥嫌な気分にさせたよね‥‥?」
「嫌じゃないよ!? あの‥‥他の人から見たら付き合ってるように見えるのかなって‥‥?」
なんだこの反応‥‥まるで、僕の事が好きみたいじゃないか‥‥。
「そう見えるのかな‥‥? そんな風に見られて僕は嬉しいけど‥‥」
恥ずかしくて僕は歩く速度を少し早める。
「私も‥‥嬉しいよ‥‥」
後ろで二階堂さんは呟いた。二階堂さんも僕の事を‥‥?
「あの! 二階堂さん! 僕!!」
硬い決心をし、二階堂さんの方を振り向いた時、背後で小さな少年がボールを追いかけるのに夢中になりながら、道路に入って行くのが見えた。
ーー危ない!?
その道路は交通量が多く、この時間は特に仕事帰りの車などで、バンバンに速度を飛ばしている人が多い。
そして案の定、遠くから車が少年に迫ってきてるのが見えた。
何かを考えるよりも早く、身体は動き出していた。
間に合え! 間に合え!!
ボールを拾った少年に、覆い被さるように僕は抱きかかえる。
車はもう目の前まで迫っていた。
ダメだ‥‥轢かれる‥‥。
そう覚悟し、目を強く瞑った時‥‥。
何かに横から強く押され、道路の脇に、少年を抱き抱えたまま押し出される。
「え?」
突然のことで訳がわからず目を開くと目の前で‥‥
ガン!!
ーー人が轢かれた。
目の前で見た。人が轢かれるのを‥‥しかも、僕を庇って。
何トンもある巨大な塊に、しかもあの速度でぶつかられた人は、あんなにも道路をバウンドするのだ。衝撃で20〜30メートルは吹き飛ばされた。
遠くから見てもわかるその人はうちの高校の制服を着ていた。その瞬間、僕は状況をすぐに理解した。
「‥‥二階堂さん!?」
急いで彼女のもとに向かう。まだ助かるかも知れない。
急いでるはずなのに、その少しの距離なのに、足がうまく動かない。膝が震えていた。
その先の彼女はピクリとも動かない。
僕は地を這うように彼女のもとにたどり着いた。
「二階堂さん!! ねぇ! 二階堂さんっ!!」
大量の血を流しながらぐったりとしていた。
彼女の手や足は見たことのない方向を向いていた。
「二階堂さん‥‥にがいどうざん‥‥!!」
その時、彼女は目を薄く開き、静かに口を動かした。
そういえば前回も何かを言っていた。僕はその口の動きをしっかりと見た。
僕に何かを伝えた瞬間、彼女は動かなくなった。
「うわぁぁぁぁあ!!」
時が戻っても、結果は変わらなかった。この2日間は何の意味も無かったのだ。
僕はポケットから乱暴にペンダントを取り出し、握りしめた。
なんで前回、時間が戻ったのかは分からない。でもこのペンダントが光り出したのは覚えてる。
「戻れ! 戻れ! 戻れよお!!」
その赤くべっとりとしたペンダントは、なんの反応も示さなかった。
なんで‥‥? あの一回きりってことなのか!?
「うわああ! うわあ! うう!!」
自分で自分が制御できなくなり、両手を激しく地面に叩きつける。
その後、救急車とパトカーがやってきて彼女は運ばれて行った。
それらが来る前に僕はその現場を離れた。
また血だらけになった。でもこれは僕から出てる訳じゃない。
玄関の扉を開け、乱暴に階段を駆け上がる。
何のために時間が戻ったんだ。二回もの絶望を味あわせるため? ふざけんなよ‥‥。
‥‥二階堂さんは僕を庇って代わりに轢かれた。しかも今回は目の前で轢かれた姿を見た。
いつものあの綺麗な容姿はぐちゃぐちゃになり、見る影もなかった。
「僕が轢かれれば良かったんだ‥‥。何なんだよこのペンダントは!!」
さっきポケットにしまったペンダントを壁に投げつけようと取り出した瞬間、全身に燃えるような強い衝撃が走った。
「うぅ‥‥‥。」
薄れゆく意識の中でペンダントが光っているのが見えた。
時間が戻るのか‥‥?
ーー僕の意識はそこで途絶えた。
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