私の時間2

 次の日、今までまったく話すことのなかった、私の前の席の男の子と、少しだけ話すようになった。



 授業中に分からないところを聞いてきたり、些細な事でも恥ずかしそうな素振りで、私に話しかけてきてくれた。



 私はすっごい嬉しかった。きっと私の事は覚えていないのだろうけど、それでも構わないくらい。また新しい関係でもいいと思った。



 そして私は少しだけ勇気を出すことにした。放課後に一緒に帰ろうと宗方くんを誘ってみるという事だ。



 これはとてもドキドキした。そもそも異性と話す機会のない私からしたら、大変なことなのだ。



 宗方くんは私の問いにすぐに、「いいよ」と答えてくれた。



 その瞬間にきっと私の表情は、一気に明るくなっただろうな……。気づかれてたら恥ずかしい。



「ごめんね。突然一緒に帰ろうなんて……」



「ううん。全然大丈夫だよ。僕、凄い嬉しかったよ」



「本当に? なら良かった。私も今凄い嬉しいんだよ?」



言っちゃった……。でもこれで少しでも気持ちが伝わってるといいな。



 こうしてまた会えたのは、奇跡と言ってもいいんじゃないだろうか。



「あのね……宗方くん。奇跡って信じる? それとも運命ってもう決まってると思う……?」



これはなんとなくで私の個人的なエゴだ。でも宗方くんは、宗方くんならきっと……。



「どうだろう。難しいね。」



 普通いきなり訳の分からないこと聞かれたらそうだよね……。



「ごめんね。いきなり訳の分からないこと聞いて」



少しだけ悲しくて、でも私はそれを表情に出すことをしないようにする。



「でも。……でも、僕は奇跡は信じていれば起こす事はできると思ってる!」



 悲しそうな顔をしてたのがバレちゃったかな……? 優しいなあ本当。



「何も変わってないね。本当に」



「え?」



 やっぱりそうだったんだよね。分かっていたけど、本当に何も覚えて無いんだね。



 こうやってちゃんと知ると悲しいかな。




「あの……二階堂さん!僕……」




「ん?なあに?」



 しまった……。ショックを受けてたあまりに、彼がまだ何かを言いかけてたのを、私が遮ってしまった……。



「あ、いや……」



 何を言いかけたのだろう?



「ふふっ、変なの。じゃあ私はこっちだからまた明日ね!」



 この2日の間でこんなにも、話せるようになった。もっと仲良くなれたら私は嬉しい。



 私は小さく手を振り、自分の家の方向へ足を向ける。



 また明日も明後日もあるし、焦んなくても大丈夫だもんね。



 親しい友達もいなくて、特に楽しみのなかった学校がこんなにも楽しみになった。



「ふんふーん」



 危険な目にはあったけど、結果的には良いことづくしだった。



 そして明日からの楽しみに胸を膨らませて、私はらしく無い鼻歌まで歌っていた。



 もう宗方くんも見えない距離まで歩いた時、突然大きな音が耳に響いた。



 ーーピイイイイイイ!!



 なに!? クラクション!?



音の方へ振り返ろうとした時、私の身体は重く、大きく、とても速い物体に吹き飛ばされた。



 身体が宙を舞い、転がるように地面に叩きつけられる。



 なにが起こったのか、なにもわからない。



 ただなにか赤い液体が、私の全身からとめどなく流れている。とだけ認識した。



 死んだ。この三文字の言葉が頭の中を支配した。



 周りの人の声が途切れ途切れなんとなく聞こえる。



 私は……車に轢かれたのか……。



 こんな事になるなら好きって言えばよかった。



 もう目の前には何も見えない。何も聞こえない。力も入らないけど……届いてくれるかな……。



 こんな時なのに、なんか温かくて心地いい。口を動かそうとしたけど声はもう出せなかった。



 私は最後の力を振り絞り、思い出の大切なペンダントを、ポケットから取り出して精一杯の力で握る。





 ーーそして私は絶命した。



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