長い数日の始まり3。
「痛てて……」
「大丈夫……? 宗方くん?」
さっきまで警察署で聴取をされ、今やっと解放された所。
ーー隣には二階堂さんが歩いている。
警棒で犯人を殴った後、僕は右の頬を思いっきり殴られた。正直言って、とても痛かった……。
「ありがとう。本当にありがとうね宗方くん……」
「いや、大丈夫だよ。通ったのもたまたまだし」
自分で言っていてふと疑問に思った。たまたま? 本当にそうだろうか?
そう言えばあの謎の衝撃が走った後、今度は謎の衝動が走り、そして、そこにはいつも二階堂さんがいた。
ーーこれは偶然なのか……?
全くを持って理解の及ばぬ不思議な話だ。
思い出しても前触れのようなものは全くなく、その時は突然現れていた。思い出しただけで身体には、ピリッと痛みが走るような感覚が走り、嫌な気分になる。
「でも宗方くん、今日は何度も私を助けてくれて本当にありがとう」
そう言って二階堂さんは僕に笑顔を向けた。
僕の印象としてはあまり彼女は笑わない。いつも熱心に何かをやっていて、それでもって、人とあまりつるまない。
そんな彼女は僕に、いや、僕だけに笑顔を向けてくれたのだ。
とても綺麗だ……。
思えばこの笑顔を見た瞬間に、僕は恋に落ちたのかもしれない。
恋に落ちた。と言っても別に穴に落ちたわけではない。だが、本当に落ちた。と言わんばかりの衝動に僕は駆られた。
ーー次の日から、後ろの席の二階堂さんと少しずつ話すようになった
席が前後ろと言うこともあり、頭のいい二階堂さんに、授業の分からないところを教えてもらったりもした。
そして話せば話すほど僕は彼女が好きなんだと、いつだって気付かされた。
これは……間違いなく恋じゃないか……?
だが、彼女はなんだかとても儚く清らかで、いつか消えてしまうかもしれないように、透き通っているようだった。
それでも僕には笑顔を向けてくれていた。
その笑顔を見たのが、僕はなんだか初めてではない気がしていた。
でもその笑顔を見てるだけで、僕は幸せでいっぱいになっていた。
ーー迎えた放課後、二階堂さんが一緒に帰らない? と言ってきてくれた。
奥手な僕は誘う事なんて出来ないため、二階堂さんから誘ってくれて本当に、凄い嬉しかった。
もちろん僕に断る理由なんて、あるはずがない。
彼女がいない歴、イコール年齢の僕にはまるで夢のような出来事なのだ。
「ごめんね。突然一緒に帰ろうなんて……」
「ううん。全然大丈夫だよ。僕凄い嬉しかったし」
「本当に? なら良かった。私も今凄い嬉しいんだよ?」
聞き間違いだろうか? 私も嬉しい? 僕の事を少しでも、良いと思ってくれている可能性はあるのだろうか?
「あのね……宗方くん。突然なんだけど奇跡って信じる? それとも運命ってもう決まってると思う……?」
二階堂さんは遠くの空を見ながら僕に尋ねてきた。大きい瞳の中の黒目が、いつもより黒く感じた。
「どうだろう。難しいね」
二階堂さんは変なことを聞いてごめんね。と謝った後で、寂しそうな顔をした。
「でも。……でも、僕は奇跡は信じていれば起こす事ができると思ってる!」
彼女は僕の方を見てニッコリと笑った
「何も変わってないね。本当に」
「え?」
言葉の意味は分からなかった。でも僕は胸がキュンと締め付けられたように苦しくなった
ああ、そうだ……僕は二階堂さんが本当に大好きだ……。
「あの……二階堂さん! 僕……」
言いかけた言葉は、彼女によって遮られた。
「いきなり大きな声でびっくりした‥‥。なあに?」
「あ、いや……」
二階堂さんがこちらを向いた時、僕は何故だかその先の言葉を紡ぎ出すのが、怖くなってしまった。
まぁ、まだ早かったかもしれないよね……。
「ふふっ。変なの。じゃあ私こっちだからまた明日ね!」
そして二階堂さんは小さく手を振り、僕に背を向けて歩き出した
「はぁ……、僕のチキン……」
自分の意気地の無さに、口から思わず独り言がでてくる。
ホッとしたような、悔しいような、微妙な感情が渦巻く。
ーービリリリリリリ!!
「痛っっっ!」
いきなり全身にとても強い衝撃走った。
ーーまたこれか……? 一体なんなんだよ……。この2日間でもう4回。流石に病院でも行ったほうが良いのだろうか。
そして当然のようにこの後、いつも通りの衝動に駆られる。
二階堂さんが帰っていった道の方に、行かなくてはいけない。僕はそんな気がとてもしていた。
その衝動に抗える訳もなく、そちらへ向かおうとすると、後ろから聞き覚えのある声に引き止められた。
「おーい練馬!」
「なんだ……孝か……」
「なんだよ。その残念そうな顔……」
「いや、別に……」
気づくと、とてつもなくそちらへ行かなくてはならない衝動は消えていた。
「じゃあ俺急ぐから!」
そう言い残し、恵比寿は去っていった。
いや、話しかけてきたのそっちじゃん……。と言いたいのを僕は堪えた。
謎の衝動は無くなったものの、僕は少しばかり気になり、二階堂さんの帰って行った方向に歩いていく。
考えてもこれまでそこには、二階堂さんが必ずいて、振り幅は大きいものの少なからず困っていた。今回も何かあったのではないかと僕は考えている。
少し歩いた頃、大勢の人だかりが前方に集まっていた。
ーー電柱にめり込む自動車。そして大量の血のようなものが飛び散っている。
なんだ?何があったんだ…!?
ーー心臓の鼓動がどんどん早くなる。
人だかりの中心。そこに倒れている人。ーーそれは二階堂さんだった。
彼女は血だらけで倒れていた。そのあまりの姿に、僕はもう助からないと思ってしまった。
二階堂さんは僕に気づき、何やらパクパクと何かを話していた。
「二階堂さん!! 大丈夫!?」
僕は彼女を抱きかかえ、必死に呼びかけた。
周りの人たちは救急車を呼んだり、スマホをこちらに向けたりしている。
だが僕はそんなものは全く気にならなかった。二階堂さんは何かを言っている。
しかし、必死に唇をパクパクと動かしているが僕には聞き取れない。
彼女は最後にポケットから、ペンダントを取り出して大事そうに握った。
僕はそのペンダントに見覚えがある気がした。何故か僕も同じ物を持っていたような気がする。
ーー二階堂さんはそっと目を閉じた。人は、こんなにもあっけなく生を終えるのかと、あまりに唐突すぎて僕は涙すら出てこなかった。
ーーそして僕の腕の中で彼女は絶命した。
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