蒼紅の章第6節:つかの間の平和
心地よい朝の陽ざしが窓から部屋を照らし、冷えた空気が徐々に暖まっいく。
朝一の温もりを求める体に心地いい朝日がじかに当たれば布団から出るのに多大な時間を要してしまうだろう。浅い眠りから意識が戻ったイオは首だけ少し動かしてちらっと窓の方に目を向ける。とても平和で一日の始まりとしては理想的な朝。布団にくるまったまま今日の予定を考える。
──確か今日は土曜日だから少し遠出してピクニックに行くのもいいな…………。
「······なんて日が送れたらよかったんだけどな」
淡い期待をボソッと呟き、昨日の出来事が夢落ちならどれだけ平和だったかと心から落ち込む。
目覚めた直後でもしっかりフル回転してくれる優秀な自分の頭が今だけは残念に思える、朝一で現実を突きつけてくる
「…………現実か」
今五感で感じているものすべてを現実と再認識し体を起こそうとすると腹部の違和感に気づき布団をめくる。
「んんー……イオ……Zzz」
自分の体の上に感じる温もり、気持ちよさそうな寝言、猫のように丸く包まる少女が一人イオの上で規則正しい寝息を立てて無防備に寝ている。その長いピンクの髪は朝の日差しにより七色に輝いている。
普通の人なら目を閉じていると色で判別することが出来ないのでイアかロクか迷うところだが──、
「おい、ロク」
こうやって布団の中に勝手に潜り込んで来るのは早い者勝ちらしくイアの時もあればロクの時もある。しかしイオは一切迷うことなくこの少女をロクだと断定しベシッと頭を叩いて起こす。
「んにぁ……朝?」
頭に一撃をもらった少女は半分だけ目を開け間抜けな声を出す。
宝石の如く美しい紅の瞳、少女の正体は予想通りロクだった。ロクはこちらを見上げながら大きな欠伸をして軽く目をこする。
性格や考え方など見た目以外ほとんど別人とも言えるロクだがこういう何気ない仕草は似ていることが多い。
普段からこれくらい可愛げがあればいいのにと思いながら許可なく勝手に潜り込んでいたロクに状況の説明を求めるイオ。
「なにしてんだ?」
「いい……お布団……」
「…………ていっ」
「ッハゥガッ!?」
イオの質問を華麗にスルーし二度寝にはいろうとするロクを体をてこの原理でゴロンッと雑に放り投げた後ベッドから降り大きく伸びをしながら深呼吸する。
「@%"&*+”&%&#”%”#*$”ッッッ!!! っあ"あ"あ"……い"った"あ"あ"あ"い"っ!!!」
放り出された勢いそのまま壁に激突したロクは、当たり所が悪かったのか顔全体を抑えながら悶え苦しみ足をばたつかせゴロゴロと転げまわったり飛び跳ねたりする。
「%”$&%”@”*”? +%……ゴフッ」
「勝手に入ってきて勝手に上で寝てんじゃねーよ」
イオが足元をゴロゴロと転がってきたロクの体を右足で踏みつけ強制停止させてから見下すように注意する。
「だってベッドよりイオの体の方がよく寝付けるから、あと足どけて……地味に痛い……」
溝落ちを踵で押し込むように踏みつけているイオの足を両手で必死にどけようとしながらそれっぽい言い訳をするロク。
実際イアやロクが布団に潜り込んできた時は決まって今回のようにイオの上で蹲って寝ているしそういう日は基本寝起きが良い、よく寝付けるというのはあながち間違っては無いだろう。
「勝手に入って来るなっていつも言ってるだろ」
「イアは……あいてっ、よくてなん痛い痛い……なんで私はダメ……なの」
「そりゃお前…………イアだから許してるんだよ」
「解せぬ…………っしょっと。はぁ……まったくこれだからシスコンぎぇはっ!?」
ようやく足をどかすことに成功したロクが寝転がったまま愚痴るように煽ってきたので真顔でゲシッと脇腹に一発蹴りを入れてドアの方に向かう。
「えっ? イオどこ行くの?」
蹴られたれた脇腹を撫でながら上半身だけ起こしたロクに「散歩」とだけ言ってドアを開ける。
「イオ、ちょっといい?」
「よくない」
部屋を出ようとするイオにロクが手招きをして呼び止める。
正直面倒なことになる気しかしないので無視してそのまま部屋を出ようとしたのだがそうすると床をバンバン叩いて「話くらい聞けー!!!」とうるさいうえに下の階の迷惑になるので仕方なく用件を聞く。
「三文字以内で用件を言いな」
そう言ってロクの方に向き直った瞬間────、
勢いよく腕を引かれそのままベッドへと引きずり込まれる。そしてそのまま抱き枕のように腕と足で完璧に挟み込まれ身動きが取れなくなってしまった。ロクは「二度寝」とだけ言うと有無を言わさずそのまま寝てしまう。
──はぁ……だるい…………
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「楽しそうだね兄さん」
抜け出す気力も起きずおとなしくロクの抱き枕になること三十分、閉め忘れて半開きになっているドアからワンがひょこっと顔を出しニヤニヤとした表情を浮かべながら茶化してくる。
「冗談言ってないで助けて欲しいんだが」
「えー、姉さん幸せそうだからいいじゃん」
「俺は全然幸せじゃないんだが?」
「あっ僕やる事あるからー」
部屋に入ってきたワンにだるさ全開で助けを求めてみるが案の定助けてはくれず適当にあしらいながらオニがまだ寝ていることを確認する。確認し終えると先ほどまでにやにやと緩んでいた顔が一瞬で真顔になりドタドタと自分の部屋へに戻っていく。
──ワンが帰ってくる前にこの部屋出たいな……と面倒臭そうに思うイオ。
「んん……おはー兄貴。今日はロク姉の抱き枕ですか」
ワンが部屋を出ていったと同時にオニが目を覚ます。まるでずっと前から起きていたみたいなタイミングの良さだ。起き上がって大きく伸びをしながら皮肉を込めた朝の挨拶をしてくる。
「おはよう、出来れば助けてくれると嬉しいんだが……」
あまり期待せずに……というより全く期待していないが、オニにも一応助けを頼んでみる。
「あのクソ野郎を返り討ちにする準備しないといけないから後でな」
──ですよねうん、知ってた
予想通りの返答に異世界でも恒例になるのかと思いつつ隣とかに迷惑かからない程度にしとくよう注意してロクが起きてくれるまで二度寝する。
『ドタバタガタンッ! ドガドガ……ガタッバン! ドタドタガンッ!』
あれからどれくらい経っただろうか、部屋の中に響く騒音で無理やり目が覚める。この騒がしい雑音の正体はわざわざ目で確認するまでもない地球にいた時も毎朝の日課となっていたイチャイチャ喧嘩。
「うるさいぞお前ら、騒がしくするなって言っただろ」
「……んん……なに? ……こっちでもやってるの?」
騒音の正体はやはりオニワンが部屋で暴れている音。
見慣れ過ぎて一種の朝の風物詩となっている光景だ。朝一で騒がしく暴れること自体は正直言ってもう慣れたのでやる分には構わないのだがせめて場所は選んで欲しい。
自分たちの家ならまだしも他の宿泊客もいるような場所で朝から五月蠅くしてクレームが来ても言い訳のしようがない。
「ごめん兄貴、今静かにさせるから」
「大丈夫兄さん、あと数秒で黙らせる」
そう言いって全くこちらの忠告を聞かずに睨み合っている二人の手にはいつの間に購入したのかダガーのような短剣が握られていた。
いつの間にとは思ったがおおかた予想はできる、どうせワンはクエストの報酬が出てすぐオニはみんなが寝ている間に仕入れたのだろう。
「今日も仲良しだね」
「「仲良くない(ねーよ)!」」
「仲良いのはいいけどもうちょい静かにな、あと部屋の物壊すなよ」
「「だから仲良くない(ねーよ)!」」
日本には「喧嘩するほど仲がいい」ということわざがある。
つまり毎日毎日飽きもせずちょっとしたくだらないことで喧嘩しているこの二人も本当のところとても仲がいいし相手のことをよく理解している。幼かった頃はどこに行くにもいつも一緒で年がら年中ベッタリとくっついていたくらいだ。
本人たちは全力で否定しているが、こうやって刃物を躊躇なく向けられるのも相手の実力、性格、考え方などを良く分かっているからこそ、本気で刺しに行ってはいるが殺そうとはしていない、なんだかんだちゃんと手加減しているところに本音を感じる。
「朝飯は?」
「「これ終わったら」」
「「真似すんな!!!」」
「くれぐれも騒がしくするなよ」
とにかく静かにやってくれれば何の問題もないので、もう一度しっかり注意し何故かついてきたロクと一緒にイア達の部屋へと向かう。
本来なら朝食を取りたいところだがイアオネを二人きりで部屋に寝かせておくのはあまりにも無防備すぎるのでそっちは後回し、朝食はとても大事だが二人の安全には変えられない。
ちなみに結構格安のこの宿は酒場からは離れているが朝と晩の食事付きで風呂や洗濯など生活に必要なものは大体そろっているコスパのいい宿で、この値段でここまで充実しているとこれより高いところは一体何があるのだろうかと逆に気になってくる。
今日も昼からジル先生のもと語学学習があるのでそれまで何をして時間を潰そうかイアの寝顔を眺めながら二人で考える。
「うーん……イアが昼まで起きないんだったらクエスト行きたいな」
「通訳なくて大丈夫か?」
ロクもワンも勉強は昨日始めたばかりでまだ他人とまともに話せるレベルには達していない。文字も半分くらいしか書けないので直筆でのコミュニケーションも難しいだろう、はっきり言ってジルかイオが通訳しない限り現状クエストは受けられない。
「イオが通訳してくれるから大丈夫」
「俺はイアが起きるまでここに居るから無理」
「オニに任せればいいでしょ」
「考え得るすべての可能性に対し完璧な対策をして初めて安全が保障されるんだ。どんなに確率が低くてもゼロでない限り油断してはいけない。予想外、思ってもいなかった、そんなこと言ってるやつはまだまだ半人前だ」
「そんなことが出来る変態を私はイオしか知らないけどねー」
こちらの安全理論に飽きれながらもちゃんと理解はしてくれるロク。まだまだ未知の世界に加えジルという男の存在、いつも以上に警戒し神経をすり減らしていることに気を遣ってくれたのか昨日の損失分を補うための朝のクエストは諦めてベッドに大の字に横たわる。
「暇なら街中でも見て回って装備も買ってきたらどうだ? 今夜もクエスト行くんだろ」
「装備ねぇ…………ナパーム弾とか?」
「お前らは昨日どんなダンジョン行ってきたんだよ……」
装備と聞いて剣や防具ではなくナパーム弾と答えるロクに昨日何があったのだろうと疑惑の目を向ける。しかしロクはこちらの質問には答えず気難しそうな顔をして黙り込む。
「…………武器とかはいらないかな、ロケランとかは欲しいけど」
「なんか矛盾してない?」
「昨日のクエスト魔獣倒すだけなら武器はいらなかったんだけど、めっちゃ重くてこう、ドッカ―ンって爆発させないと開かないような扉があったんだよね」
「なるほど確かに入って出ることはできても中のものを持ち出すことはできないもんな」
膨大な経験と自分たちの身体の性質から昨日のクエストでその扉の中にお宝には近い何かがあってロクワンはそれを回収することが出来なかったことを察する。たしかに目の前にある宝を回収できないのはもどかしかっただろうがだからと言って扉を壊す一択にこだわるのはどうかと思う。
「あっでもー、イオが全部好きにやってもいいって許可を出してくれるなら────」
「許可するわけ無いだろ」
「別に使うのがダメって言ってるわけじゃない、ただ今の俺達にはあまりにもリスクが高すぎる。ちゃんと自分を大事にしろ」
「‥‥‥イオ……そこまで私のこと心配してk」
「イアの為にもな」
「ですよねー」
「あぁあと昔から言ってるけど、自分を過信しすぎるなよ」
「私だってもう子供じゃないんだからそれくらい分かってますぅ」
そんな割と重要ともとれる話などをイアが起きるまでの暇つぶしとしてお互い話半分に聞き流しながらダラダラとした時間を過ごす。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「………………」
「………………」
「…………まだやってたのか」
オニワンが迷惑かけて無いか気になりイアオネはロクに任せ一旦部屋に戻ってみた。
扉を開けると、朝じゃれ合っていた二人がお互いの喉元に短剣を突きつけ拮抗している光景が真っ先に目に入ってくる。
左手に逆手持ちで握った短剣を相手の喉元に突き刺そうとしつつ、自分は刺さらないよう右手で相手の左手首を抑えている。拮抗して小刻みに震える腕がお互い本気で刺そうとしていることを物語る。
普通なら慌てて止めに入るような場面だがこっちでは日常中の日常もう見慣れ過ぎてどちらかが倒れていない限り止める気にもならない。
「もしかしてこのためだけにその短剣買ったのか? 別にいいけど迷惑かけてないだろうな」
「まだ苦情は来てない」
「まだ何も汚してないし壊してないよ」
これか苦情が来るかもしれない又はこれから散らかすと言わんばかりに『まだ』を強調し保険をかけてくる。
本人たちも十分気を付けてはいるが万が一苦情や物が壊れるなんてことになったら他人のふりをしようと思ったイオであったがワンに容姿が似ているオネにまで飛び火が行く気がするのでそろそろまじめに止めに入ることにする。
「…………続きするなら外でしろ。あとワン、ロクと一緒になんか装備でも買ってこい今日もクエスト行くんだろ」
「えええぇぇ装備ー? いるうぅー? …………あっでもTNTとかなら欲しいかも」
オニとの喧嘩を続行しつつもしっかりこちらの話に答えてくれる。つまりそれだけ余裕があるそれだけ相手が手加減してくれているという事だろう。
「ロクと言いお前と言い装備って言ってるのになんで爆発物を挙げるんだよ」
「頭ん中爆発して思考回路ぶっ飛んでるからだろ」
「あ”ぁ”?」
オニの挑発によりお互いぶっ刺す力が数段増す。それでもまだまだ余裕たっぷりといった感じだ。
「さっきロクにも言ったけどお前ら自分の事過信しすぎてるところがあるからな。俺たちの力が通用しないモンスターがいるかもしれないんだから」
そう、ここはチートモンスターしかいないカオスな異世界。
昨日はモンスターのレベルがたまたま二人より劣っていたとかチート能力の相性が悪かっただけという可能性も十分あり得る。
ロクとワンは自分で生み出した武器以外を使いたがらない傾向にあるが、今後二人の体質や能力と相性最悪のモンスター又はダンジョンギミックに遭遇する可能性がある以上もしそうなってしまった時のために戦略のバリエーションを多くしておかないといけない。
「…………そんな生命がいるとは思えないけど」
「ここはチートな異世界だぞ、それだけで可能性としては十分だろ」
「そうだけど……しばらくはコレ一本でいいかな」
そう言うとワンはオニの喉元に突き立てている短剣に目を向ける。出来ればもう少し選択肢を持って欲しいところだがどうせそう言うとは思っていたのでそれ以上は強要せず無いよりかはマシと捉える。
「兄貴、俺も行っていい?」
ワンが行かないと分かったからなのかそれとも単に異世界の武器に興味があるのかオニが興味津々といった目で首だけをこっち向ける。
装備にさして興味がないロクワンと違ってオニはかなり武器好きだ。腕前も相当なもので近距離遠距離もどちらも神業レベルに極めており剣術や狙撃などを大抵オニに教わってるイオとロクには師匠的立ち位置でもある。
本人はなかでも和風武器がお気に入りのようで地球にいたころは真剣も何本か持っていた。
「…………おう、いってらっ」
少し考えてからあることを思いつきオニの買い物を許可する。
許可が下りるとオニは後ろに身を引きながら腕の力を緩め、勢いそのまま前に倒れ込んでくるワンをヒラリとかわし、短剣を仕舞うと昨日の報酬金片手にワンを放置して部屋を出ていく。
一方試合放棄されたワンは少し間をおいてから「べ~~~」っとドアに向かって舌を限界まで出してあっかんべーをする。毎日飽きるほどイチャついているくせに途中で放棄されるのは嫌らしい。
そんな消化不良、フラストレーション溜まりまくり、イライラマックスのワンに午前中の予定を聞く。
「僕は……久しぶりに兄さんと手合せしたいかな」
真顔で目のハイライトを消したワンが静かに答える。
これは直訳すると「ストレス発散したいから兄さんサンドバックになってよ」という意味で体を思いっきり動かしたいときや今回のような消化不良が続いた時によく言ってくる。
今さっきのオニのイチャ付き放棄に加え昨日のクエスト完了の速さからダンジョンでの消化不良も原因だろう。あとは地球での平和な日常が続いたことによる訛りの解消といったところか。
イアオネをロクに任せれば一応相手はできるがやる気がいまいち出てこない、もっと言えばワンの相手は一番めんどくさい。勝負は自分が勝つまで続けさせられるし少しでも手を抜くとものすごく怒られる、絶対に昼間でに終わらないと分かっているストレス発散に付き合うのは絶対にごめんだ。
だからお願いにすぐには答えず沈黙して考える。
「…………」
「…………」
「…………」
「なーんてっ、どうせ兄さんは二人が起きるまで部屋出る気ないんでしょ。僕は一人でその辺ぶらついてくるよ」
しばらくの沈黙の後「冗談冗談」とへらへらした態度でワンの方から提案を取り下げると鼻歌を交えながら部屋を出ていく。
マジ顔マジトーンで言っておいて冗談とは悪戯にしても質が悪い、背筋が凍ったのはいつぶりだろうかとそう思うほどの圧力。
半分くらい八つ当たりが含まれてそうと思いながらイア達の部屋へと戻る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
オニとワンが街に行って途中まで一緒に部屋でのんびりしていたロクもぶらついてくると出かけて行ってしまってから二時間が経過しようとしていた。
その間これといった出来事はなくイオはずっとイアの寝顔を見ながら黙って起きるのを待っていた。
部屋に設けられている時計の針はそろそろ十二時を指そうという時間。
「…………3、2、1、0」
『くきゅ~~~っ』
十二時になると同時にオネの可愛らしい正確な腹時計が鳴りそれに反応するように本人が目を覚まし体を起こす。
髪は寝ぐせでボサボサ、身に着けているのは左右で長さの違うソックスと第一・第二ボタンの開いた制服の白シャツだけ。
普通なら萌えイベント突入なのだが、オネは学校から帰ってきてそのままゲームに没頭した挙句寝落ちすることがたまにあるのでこういった格好で朝を迎えることは珍しくない。
それに兄妹ということもあるのか、イオには見られてもさほど羞恥心は感じないらしい。
「……ふわぁ~~~……おはよ~お兄ちゃん」
大きな欠伸と、どこかイアに似ているゆるふわな口調の挨拶に、こういう所は似てるなぁと思うイオ。
「おう、良く寝れたか?」
「んん~……い@&、$んひぃ……?」
「ちょうど12時になったばっかだ」
「……*#%?」
体は起こしているがまだ意識が夢の中にあるようで、全然呂律が回っていないし目もほんの少ししか開いていない。
「とりあえず顔洗ってこい」
「うん~……」
「ちゃんと下履いてから行けよ」
「うん~……」
イオの指示に従いベッドから降りてスカートを早着替えのごとく履いてから壁を伝ってゆっくりふらふらと一階に降りていく。
この調子だと階段で足を踏み外しそうな気がしたのでイオも一階まで同行する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……さてと。お~いイア、そろそろ起きろ~」
オネを無事一回まで送り届けて帰ってきたイオ。今度はイアを起こしにかかる。
いつも通りぺちぺちと頬を軽く叩きながら意識を徐々に現実へ引き戻してくる。
「……んん? ……朝?」
「昼だ」
「……何時?」
「十二時」
「…………んん十二? ……まだ朝……」
「ハズレ、ガッツリ昼だ」
「お昼……お昼寝~……おやすみ~……Zzz」
「は~い起きようね~」
この一連の会話は休日の昼になると必ず行われ、イアの両頬をぷにぷにびよ~んびよ~ん弄って眠気を飛ばすまでがテンプレとなっている。
「ん~っ……ほひふ~(起きる)……ほひるはら~(起きるから)」
全然強く摘まんでいないので痛くはないのだが、問答無用で弄られ続けるので目を覚ませざる負えない。
んん~~~っとけだるそうに体を起こしたイアもオネと全く同じ格好で、こっちはシャツのボタン全開で肩からずれ落ちそうになっている。
はぁ~っと小さい溜息を漏らし、ちゃんと着せてボタンを留めてあげる。
「な~に朝からイチャついてるの」
ボタンを留め終わった直後ドアの方から声がする。振り向くとまだ寝ぐせは治ってないが、顔を洗ってさっぱりしたオネが異世界に来ても変わりなくイチャつくイオイアをドアの隙間からのぞき見していた。
「おっ、目ぇ覚めたか?」
「うん……お腹すいた」
イオに空腹を伝えながら部屋に入って自分のベッドに腰掛ける。
「すぐ終わらせる。ほらイア、髪解くから向こう向いて」
慣れた手つきで寝起きのイアの髪を手櫛でササッとほぐして整えると、ものの数分でボサボサだった髪が元のふんわりとした髪に戻る。
「よしっ、終わり~」
手櫛が終わるととても満足しているのかアホ毛がピロピロ動いている。
「じゃあ次、オネ」
イアの髪を整えた後今度はオネのところに移動し同じように手櫛で整える。イオの手櫛は少しくすぐったいのかオネは時折「んっ」と小さく変な声を出し髪型として両サイドに跳ねている髪がピコピコと動く。
「はいっ、終わりぃ~。お昼はどこで食べる?」
「酒場! 酒場がいい!」
昨日の晩ご飯でなにかお気に入りのメニューでも見つけたのかオネが即答する。
「イアもそれでいいか?」
「うん」
昼食をとる場所を決めイアオネが制服に着替えたあと、昨日ロクワンが稼いできた報酬金の入った金貨袋を持って宿を出る。
語学学習が始まるまでのつかの間の平和、この平和がつかの間ではなく永遠に続くものになるよう今一度気合を入れ直すイオであった。
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