奏の前に何思う?
@novelism
第1話 俺
今日は部活は無く、5時半には学校を出られる。
そんなことを窓から見える体育中の奴らを見て考えていた。
以前から意味を見いだせない毎日に嫌気がさしていた。
家にいても、学校にいても、友達といても、特に変わらない。
将来の夢について、大人たちは聞きたがる。
そんなもの考えてどうなるというのだ。
目標なんてあってないようなものじゃないか。
そんな屁理屈も大概に、四時間目の終わりをチャイムが告げた。
「購買行こうぜ」
「俺はなんでもいいから買ってきてくれ」
「手数料20円な!」
このやりとりもお決まりである。
クラスではまだ仲の良い佐川は、毎日飽きずに俺を購買へと誘う。
よくあの戦場に赴けるものだな。
有るか無いか分からないもののためによくあそこまで頑張れるものだ。
窓の外を見ると、体育終わりの奴らが更衣室に向かっていた。
今日はやけに鳥が騒いでいる。
あいつらは意味のない毎日をせっせと生きている。
「いっそのこと、俺も鳥になりたいものだな。」
自分でも下らないと思った。
「緊急地震速報です。大きな揺れに備えてください。繰り返します。大きな揺れに備えてください。」
数秒後、視界が途切れるほどの揺れが足元から俺を投げ飛ばした。
四つん這いにすらなれない。
必死で壁に張り付いた。
どれくらい経ったのだろう。
ただ静寂が漂っている。
教室内はまるで爆発でもあったかのように物が散乱し、窓は割れていた。
割れると粉々になる仕組の窓だったらしく、破片は刺さらなかった。
遠くの方から教員の声が聞こえる。
安全確認でもしているのだろうか。
なんとか立ち上がり、窓の外を見て言葉を失った。
無駄に広い校庭に、大きなヒビが入っていた。
「世界格…大規模な地震が発…模様です。現在状況を確認していま…その場に、とど…ださい。」
クラスの誰かがスマホでラジオをつけたようだ。
未だに考えがまとまらない。
世界規模の地震とかいってなかったか?
突然?
家族は?
家も崩壊したのか?
どれくらいの被害があったんだ?
「もう日常は終わり…」
ふと思ったその言葉には、微かに期待がこもっていた。
この非日常が、自分の日々を変えてくれるかもしれない。
今後訪れるであろう激動の時代が俺を!
「日本国…さん。こちら内閣総…平総悟です。先程世界共通でこの地震の原因が知…ました。原因は、地球の地殻が突如活…のことです。現在落ち着いてはいるものの、いつ活…かりません。早急に最も近い安全な場所へ避難してく…。繰り返します…」
落ち着いた口ぶりだった。
首相として、焦りは見せられないということだったのだろう。
とにかく次また起こる可能性があるなら、ここにいるべきではない。
そのことに気づいた多くの生徒は慌ただしく階段に向かって走っている。
俺もその波に乗った。
人混みに揉まれながらたどり着いたのは学校から程近い山の中腹にある神社だった。
そこには生徒以外の一般の人達もいた。
泣いているやつ、怯えているやつ、様々な奴らがいるが、多くはスマホであたり一面崩壊した様を撮影していた。
俺もその悲惨な光景に呆然としていると、突然鳥たちが飛び立った。
その異様なまでの激しさは、第二の地震が来ることを、その場にいた全員に告げた。
数秒後、大きな揺れと共に空が赤くなった。
突如として塗り替えられた空は無言で語っていた。
“終わりが来る“
遠くの山の隙間から、白い光が漏れていた。
直視できないほどの明るさに思わず目を瞑った。
あたりは地響きの音、鳥の鳴き声がごちゃ混ぜになっている。
突然体に痛みが走った。
辺りの気温が急激に上がり、身体が焼けているのだと瞬時に理解できた。
嫌気のさしていた日々が終わる。
意識が飛ぶ瞬間、心によぎった。
「俺はま…」
奏は終わった。
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