98.シナリオ『館の精霊』クリア

「ようこそ。やはり、思った通り今回の紋章作りには時間がかかりましたね」


 姫様の元を訪れると、苦労することがわかっていたかのように言われる。

 実際、苦労したけどね。


「そちらのおふたりは協力者の方々ですか?」


「はい。僕はガオンと言います」


「俺はレール。今回の紋章作りを担当させてもらった」


「あらあら、ということは『上級錬金術師』ですか。『中級錬金術師』ではほぼ作れませんので」


「ギリギリ、上がったという感じだけどな。それでもおいしい経験値をもらったよ」


「それはよかったです。さて、それでは3つの紋章をいただけますか?」


「はい、姫様。これが今回作った紋章です」


 俺は完成した『空の紋章』『樹の紋章』『大地の紋章』を渡す。

 姫様はそれを確認すると、満足げに頷いた。


「うん、これなら大丈夫です。これで、最後のステップに進めますね」


〈クエスト『空・樹・大地の紋章』が発生しました〉


〈シナリオ『館の精霊』は次の段階へ進みます〉


〈オンリーワンクエスト『館の開放』が発生しました。このクエストは、シナリオ『館の精霊』すべてに参加しているプレイヤーしか参加できません〉


 最後のクエストか……。

 って、このアナウンスを聞いた俺以外の3人が震えてるんだけど?


「おい、オンリーワンクエストってマジか!」


「今までユニークは聞いたことがありますが、オンリーワンの発見報告などありませんよ!?」


「ふっふーん! 最初からこのシナリオに参加していた、私たち勝ち組!」


 なんだか、オンリーワンクエストって部分で盛り上がってるな。

 いったいなにが違うんだろう?


「盛り上がってるところすまないが、オンリーワンクエストってなんだ?」


「うん? フィートは知らないよね。オンリーワンクエストって言うのは、一度発生すると二度と起きないクエストのことだよ!」


「しかも、その内容は基本的に失敗することがないといわれている。発生した時点で成功確定だな」


「似たようなイベントで『ユニーク』クエストというのがあります。ですが、あれはそのプレイヤーにとって一回というだけで、他のプレイヤーも受けられますからね」


「なるほど、ゲーマーにとっては盛り上がるだろうな」


「フィートだってゲーマーなんだから燃えるものがあるでしょう?」


「話を聞けばな。で、姫様。『館の開放』クエストってどうすればいいんでしょうか?」


「私と一緒に来てくだされば結構ですよー。残りのお二方も、報酬は出ませんが見学だけでしたらどうぞ~」


「話がわかりますね。ご一緒させていただきます」


「ここまで来たら、最後まで見届けたいよなぁ」


 ガオンとレールも一緒に来るようだ。

 そして、サイがなにをやっているのかというと……。


「配信しようとしているのか?」


「うん、でも生配信制限がかかっているみたいなんだよね? だから、録画配信になっちゃう。でも、自動でテロップが入って『公式承認:オンリーワンクエスト:館の開放』って出てるから信憑性は増す感じ?」


「そうか。ともかく、姫様を待たせても悪いし一緒に行くか」


「うん、そうしよう。では録画スタート!」


 姫様はいろいろな事を話しながら、塔の外へと向かっていく。

 玄関を出て、なにもない空中に足を踏み出そうとした瞬間……光り輝く足場が現れ、それを軽やかに踏みしめていった。

 俺とサイ、ガオンにレールもその後に続き、らせん状に降りていく姫様を追って階段を下っていく。


「これから行くお屋敷は、魔法を使って維持管理されているのですよ~。最初に集めてもらった『生命の粉末』はあるものを作るために、『空の紋章』『樹の紋章』『大地の紋章』はお屋敷を正常に稼働させる動力源、かつ鍵として使うのです」


「そうなんですね。もうすぐ地上ですが、あそこにあるのがそのお屋敷ですか?」


「はい、その通りです~。……さて、着きましたー」


 姫様の言うとおり、巨大なお屋敷の前にたどり着いた。

 ここはファストグロウの中でも一等地にあたる場所で、普段ならプレイヤーであふれかえっているはずだが……ほかにプレイヤーがいないあたり、インスタンスフィールド化しているのだろう。


「それでは門を開けますよー。えいっ」


 姫様が3つの紋章を門に投げると、それぞれの紋章が自動で適した場所にはまっていく。

 それと同時に、俺とサイの胸に光が当たりシステムメッセージが流れる。


〈アイボリーパレスの所有権を取得しました。これは譲渡・勧誘・破棄はできません。また、アイボリーパレスの維持費はかかりません〉


 これ、めちゃくちゃやばいやつでは?

 サイもすごい興奮してるし……。


「所有権は無事に手に入りましたね~。それでは中にどうぞ~」


「あ、ああ。ガオンやレールを招きたいときは?」


「今なら誰でも入れますよ~。普段は、はいる人の許可を出してあげてくださいね?」


「りょーかいです! 次はなにをするの?」


「おふたりのお世話係になるホムンクルスを製造に行きますよー」


「ホムンクルス! なんだか燃える単語きた!」


「そうですね! これは是非見学させていただかないと!」


「おう! 錬金術の到達点とも呼ばれてるしな!」


 3人のテンションが怖い。

 ともかく、姫様の後を追えば階段から地下へと降りていき、その奥にある厳重そうな扉の前で立ち止まった。


「ここがホムンクルスを生み出す生産室になります~。屋敷の住人ではないおふたりはここまでですね~」


「いえ、ここまでも十分に見せていただく価値はありましたよ」


「そうだな。ホムンクルスが完成するまで待たせてもらっても?」


「構いませんが……場合によっては数時間かかりますよ?」


 それを了承したふたりを置いて、ホムンクルスの生産室へと入っていく。

 内部は……なんだか、ファンタジーと言うよりもSFの世界だな。

 サイも珍しそうに、あっちこっちをキョロキョロ見回している、


「さて、ここが生産用コンソールですよー」


 姫様が案内してくれたのは、二台のパネル式モニターのようなもの。

 俺たちが近づくと起動し、周囲の空間にさまざまな情報が表示される。


「今回はクエストで集めた『生命の粉末』を利用してホムンクルスを生産しますね~。本来は『生命の粉末』だけでは足りないので、ホムンクルスを増やしたい場合、自力でそれらの素材も集めてください~」


 姫様がなにげに爆弾発言をしてくれるが、こっちはそれどころではない。

 キャラクターメイキング画面が表示されているのだ。

 選べるキャラクターは14歳くらいまでの少女限定。

 年齢上限が設定されている以外、種族や容姿、口調といったさまざまな設定が可能らしい。

 これは、こだわり出すと時間がかかりそうだな……。


「できた!」


 横を向けば、サイはすでにホムンクルスを完成させていた。

 あちらは少年を作れたみたいだな。


「さて、俺はどうしようかな……」


 キャラクターメイキングなんて、こだわりだしたらキリがない。

 なので、デフォルトセットの中からよさげなものを選び、それを修正していく。

 それでも20分くらいは余裕でかかったけどな!


「お、フィートも完成?」


「ああ。サイはずいぶん早く完成したんだな」


「まあね~。最後に名前をつけてあげなくちゃいけないらしいから、フィートは『アイ』ってつけてあげて!」


「なんでまた……」


「私が『リーボ』ってつけたから!」


「『アイボリー』な。了解した」


 最後の設定、名付けをすませると、ホムンクルス『アイ』は起動した。

 性格設定などもしっかりしたけど、どういう反応になるんだろう?


「おはようございます、ご主人様。これから屋敷の管理を担当させていただきます、『アイ』です。なんなりとお申し付けを」


「ぶーぶー! フィートってば性格設定が面白くない!」


「別にいいだろうに……」


 さて、初期設定はこれで完了かな?


「うん、これで正式にこのお屋敷はおふたりのものですよ~。おめでとうございます~」


〈オンリーワンクエスト『館の開放』をクリアしました。アイボリーパレスの無期限使用権を手に入れました〉

〈シナリオ『館の精霊』を完全クリアしました〉


 システムメッセージも流れたし、今度こそクエスト終了かな。

 さて、外に出てふたりにホムンクルスのことを説明するか……。

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