97.三種の紋章作成
鉱山攻略が終わった数日後、ガオンから例のアイテムが用意できたというメールが届く。
まだ用意できてなかったのか、というツッコミは置いておいて、サイと一緒に受け取りだ。
「それにしても、今回のクエスト。本当に長くなってるわよねぇ」
「開始は早かったが、その間、炭鉱に2回潜って、黄金樹の守護者と戦って、みすふぃをオババの弟子にしたりしてたからなぁ」
「ほんと、そこまでするか! って感じの内容だったわよね」
「黄金樹の守護者はサイが戦いたがったんだけどな」
「そこは目の前に未踏破ダンジョンがあったら、クリアしてみたくなるのがゲーマーのサガってやつですよ」
「よくわからないな。にしても、なんで準備に時間がかかったのやら」
「そこんところ、ガオンをきゅっと締めて聞き出しましょう」
「やめておけ。生産職連合協同組合に着いたぞ」
なんだかんだ、こことも付き合いが長くなってきた。
俺は自分で作ったポーションを売るつもりがないから、助かってるんだけどな
「いらっしゃい、フィートさんにサイさん。ガオンを呼んでくるよ」
「ああ、よろしく」
勝手知ったるなんとやら。
俺たちがここを訪れるときは、ギルドマスターのガオンに用事があるときと相場が決まっている。
みすふぃは相変わらず、オババの弟子を喜々としてやっているからなぁ……。
「お待たせしました。フィートさん、サイさん。準備に手間取ってしまい」
「本当よ。鉱山の攻略が終わった次の日には用意しておくものじゃないの?」
「いろいろと事情があるのですよ。どうぞこちらへ」
ガオンに案内されたのは打ち合わせ用のテーブルだった。
そこでガオンはいくつかのアイテムを取り出す。
「まずは各アイテムに必要となる『銀』ですね。こちら、全部で15個精製させていただきました」
「15個って……サービスよすぎじゃない?」
「話の続きも聞いてください。ほかに紋章作りに必要なアイテム、『剣岩の欠片』、『空気の鼓動』。『大樹の結晶』も5つずつ集めてあります。これで、各5回ずつ試せることになります」
「……ずいぶん、至れり尽くせりだな」
「実はですね。生産職連合協同組合のお抱え錬金術師に頼み、これらのアイテムから紋章を作れないか試してみたのです。結果は惨敗でしたけどね」
「なるほど。それで、ずいぶんとサービスがいいわけ」
「はい、その通りです。ダメだった場合、追加の素材を準備いたしますのでご連絡を」
「本当にサービスがいいな?」
「鉱山攻略をあれだけ手伝っていただけましたからねぇ……。そのお礼です」
「そういうことならありがたく受け取っておくわ。ちなみに、草原の奥、海フィールドはどうだったの?」
「惨敗です……」
「傭兵はもうしないからね?」
「タコやイカ、魚などのモンスターばかりですので、サイさんとは相性が悪いです。なので、ある程度下調べができないと傭兵にも呼べませんよ……」
「なら結構。……さて、フィート。キーアイテムを作るための素材は手に入ったけど、キーアイテムを作れる職人はどうしよっか?」
「うーん、俺の知り合いで錬金術師と言えばレールしかいないんだけど」
「それもそうよね。レールのところに行きましょう」
「レール、ですか。私もご一緒してもよろしいですか?」
「レールがそれで不機嫌にならないならね」
「多分大丈夫でしょう。それでは移動しましょうか」
そういうわけで、俺とサイにガオンを加えた3人でファストグロウにあるレールの錬金術工房を訪ねてみる。
幸い、工房の主は在宅のようだ。
「レール! いる!?」
「ああ、いるぞ!」
レールが工房の奥から姿を現す。
そして、ガオンの顔を見るなり顔をしかめる。
「ガオン、何度誘われても俺は生産職連合協同組合には入らねぇからな?」
「ああ、今日は勧誘に来たのではありませんのでご心配なく。おふたりの依頼を見学にきたんですよ?」
「フィートとサイの依頼……ひょっとして前に聞きにきていた精算素材か!?」
「うん、それが集まったからレールに錬金してもらおうと思って」
「ああ? 生産職連合協同組合にも腕利きの錬金術師はいるだろう?」
「それが、全部失敗したのですよ。失敗原因はおそらく、スキルレベルの不足です」
「なるほどなぁ。それなら、俺がなんとかできるかも知れねぇ」
レールの力強い宣言に、全員が驚きの表情を見せる。
彼の表情は自信に満ちあふれているぞ。
「本当か、レール!?」
「おう、この間『上級錬金術師』に上がったばかりだからな。なんとかなるんじゃねぇかな?」
「ガオン、生産職連合協同組合の錬金術師って?」
「『中級錬金術師』ですね。いやはや、これは頼もしい」
「というわけで、素材を貸してくれ。錬金出来るか試してみる」
「うん、わかった。……これが素材だよ」
「ほう。……俺でも成功率80%強か。これ、中級じゃ成功しないだろ」
「中級と上級ってそんなに隔たりがあるのか?」
「あるぞ。さて、奥の部屋にある設備も使えば、成功率95%くらいまでなら引き上げられるな。ちょっくら行ってくる」
「ああ、待って。残りの素材も渡しておくよ!」
「そういや、三種類だったか。……よし、素材は受け取った。ちょっくら待っててくれ」
レールが店の奥へと姿を消すと、なにかがぶつかったり、はじけたり、あるいは砕けたりする音が響き渡る。
これ、本当に大丈夫なんだろうか?
サイとガオンは平然とした顔をしているし、上位の錬金術ってこんなものなのか?
どちらかと言えば、鍛冶みたいな音なんだが……。
「おう、キー素材全部できたぞ」
やがて音が止むと、レールがアイテムを持って出てきた。
持ってきたアイテムにはそれぞれ『空の紋章』『樹の紋章』『大地の紋章』と書かれている。
「いやー、いい経験値になったわ。それぞれ、一回成功したら作れなくなっちまったが、おいしい依頼だったぜ」
「サンキュー、レール。それじゃあ、後はこれを姫様に渡すだけだね!」
「姫様、って北の姫様か? そいつは俺も同席したいな」
「できれば僕も同席したいですね。北の姫様にお目にかかる機会もないですし」
「イベントマップにはいるとき、はじかれても知らないよ?」
というわけで、この場にいる4人で姫様が待つ塔へと向かうことになった。
クエストの続き、ないといいなぁ。
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