96.第2回鉱山攻略 その5

 俺たちは準備をしっかりと行い、再びトロールの軍勢の元へと向かう。

 その道中、笛吹き妖精はしっかり復活していたわけだが……。


「スナイパーで倒すとこんなに楽だったのか……」


「これは今度からここに来るとき、スナイパー使い必須だね」


「問題はスナイパーを扱うガンナーの少なさか」


 スナイパー、扱いこなせればかなり便利なのだが、ほとんどのプレイヤーは匙を投げるらしい。

 こんな便利な武器を諦めるなんてもったいない。


「ともかく、このままトロールの軍勢まで向かうぞ。そこからが本番だ」


「そうよね。それまで私たちは温存させてもらいましょう」


「そうしてください。俺はトロール戦だと逆に役立てませんから」


「攻撃力不足と相性問題だもん。仕方がないってフィート!」


「そうなんだがな、サイ。それでもへこむものはへこむ」


「気にしない、気にしない。ささっ、先に進むよ!」


「そうするか」


 俺たち冒険者の集団はトロールの軍勢に向け、少しずつ着実に歩を進める。

 そして、ついにその場所までたどり着いた。


「……確かに、トロールの軍勢だな」


「トロールリーダーにトロールが10匹以上。厄介ね」


「切っても潰しても再生するから苦手なのよねぇ……」


「槍なんて最悪だぞ。下手すると、再生に巻き込まれて抜けなくなるからな」


「ここから見える位置に笛吹き妖精はいないようだ」


「じゃあ、一気に攻め込んでトロールリーダーを撃破。そのあと、連携の乱れたトロールを撃破していく感じでオーケー?」


「そうしよう。問題は増援があるかどうかだな」


「そこんところは、試してみないとだよ。1回で勝てなくてもいいわけだし」


「それもそうだな。まずは一戦してみて考えるか」


「よーし! 一番槍、ゴーゴー!」


「おい、サイ!」


「やはり、あの娘は変わらないな!」


「でも戦端は開かれたわ! 急いで加勢しないと!」


「ああ、行くぞ!」


 俺以外の冒険者たちが一斉にトロールに襲いかかって行く。

 だが、トロールリーダーがいると連携が取れるというだけあって、なかなか攻め込めないでいるな。

 そんな中、トロールリーダーに最初に襲いかかったのは……やはりサイだった。


「ふっふーん! いっちばーん!」


 サイはブーストスピアからブラストハンマーへと持ち替え、遠心力も使った一撃を食らわせたようだ。

 だが、その一撃もトロールリーダーにはほとんど効かなかったようである。


「な……こいつ、アイアントロールリーダー!」


「なんだと!? 討伐ランクが一気に跳ね上がるじゃないか!」


「作戦変更よ! まずは取り巻きのトロールを全滅するわ! アイアントロールリーダーだと、全員でかからなければ倒せない!」


「ちょ! 私、思いっきりタゲもらってるんですけど!」


「その分、トロールどもの連携も乱れた! 突撃姫、頑張れ!」


「はーい! 頑張ります! だから、さっさと増援プリーズ!」


 あのアイアントロールリーダーというモンスターは、サイでも厳しい相手らしい。

 となると、俺が手出しをしても邪魔なだけだな。

 俺にできることはなにかないものか……。


「あ、状態異常ポーション!」


 そういえば、ポイズンポーションとパラライズポーションを持ってきていたな。

 これを使えば、サイの援護ができるんじゃないか?


「サイ! ポイズンポーションとパラライズポーションだが、アイアントロールリーダーに効くか!?」


「効くけど、今はまだ使っちゃだめ! ヘイトがフィートに移っちゃう!」


「わかった! 使えるタイミングになったら教えてくれ!」


 通常のトロールたちはほとんどすべてが、冒険者たちによって討ち取られていた。

 あとは、アイアントロールリーダーだけになったが、こいつがまた硬いようだ。


「くっそ! 俺たちの武器じゃほとんどダメージが通らねぇ!」


「わずかずつでもダメージは入ってるけど……突撃姫頼みね!」


「突撃姫が打撃系武器を持っていてくれて助かった!」


「私だってつらいんだよ! 余裕があったらポーションくらい投げて!」


「お、おう!」


 サイの装備は俺と同じく、現状最高レベルの防御力を誇るはず。

 それなのに、ポーションを要求するだけのダメージを負っているということは、相当相手の攻撃力が高いんだろう。

 実際、サイに向かって振り下ろされた拳が外れて地面を叩くと、小さなクレーターができるし。


「こいつ……本当にタフ! フィート、そろそろポイズンポーションをお願い! パラライズは効いてもあまり意味ないからパス!」


「わかった! てりゃ!」


 俺の投げたポイズンポーションは、アイアントロールリーダーに直撃し、毒の状態異常を与える。

 毒は固定ダメージではなく割合ダメージなので……うん、結構ダメージが入っているな。


「お? 普通の武器でもダメージが入るようになったぞ?」


「毒状態にすると防御力が下がるのかも」


「なんでもいい! 今のうちに倒せ!」


 今までまともにダメージを与えられないでいた、ほかの冒険者たちも一気に攻撃を始める。

 これによってアイアントロールリーダーのHPは一気に減ることになり、残り3割程度まで削れた。


「フィート、ポイズンポーション、お代わり!」


「はいよ!」


 今度は1本だと毒状態にならなかったが、3本あてると毒になる。

 あとはサイも含めた冒険者がたこ殴りにしてアイアントロールリーダーを討伐完了だ。


「よっし! アイアントロールリーダー、討伐完了!」


「だな。しっかし、疲れたぞ」


「なんだって、このクラスのモンスターが鉱山ダンジョンなんかにいるのかしら?」


「さあなぁ……。ん? あれって……」


「あ、下り階段」


「これ見よがしに現れたな」


「つまり、アイアントロールリーダーがこの階のボスだったわけだ」


「それで、このまま進む? 引き返す?」


「下の階の様子だけ見てこよう。そのあとで、すぐに引き返そう」


「降りた途端に階段がなくなる可能性も考えて、数人だけだな」


「言い出した以上、俺は行くぞ」


「私も行くよ!」


「サイが行くなら俺もいこうかな」


「わかった。この3人で行ってこよう」


 とりあえず、休憩と回復を済ませた俺たちは下り階段を降りていく。

 するとそこに待っていたのは……。


「海だね」


「海だな」


「どう見ても海だよな」


 そう、砂浜と海が広がるフィールドだった。

 これ、どうやって攻略すればいいんだ?


「階段は消えてないし、もどろっか」


「そうだな。どちらにしても、今日はこれ以上深入りできない。ガオンに状況を説明して解散だな」


 階段を上って元の場所に戻っても、トロールの軍勢は復活していなかった。

 1回しかわかないのか、それともなにか別の条件があるのか。

 そこはガオンたちが検証するだろう。

 帰り道も笛吹き妖精を退治しながら戻り、ガオンにトロールを倒せたことと、下の階が海のフィールドだったことを説明する。

 ガオンは、下の階も調査したがっていたが、さすがに時間が時間だからな。

 これ以上の探索は不可能となり脱出することになった。


「ああ、そういえば。多分、皆さんがトロールの軍勢を倒した頃なんでしょうが、地上との行き来ができる魔法陣が出現したんですよ」


「そいつは便利だな」


「ええ。これで十階から十二階までは通らなくて済みます」


 帰りは全員がこの魔法陣を使って脱出。

 それぞれドロップアイテムなどを精算し、今日の冒険は終了だ。

 サイもアイアントロールリーダーの素材で新しい武器ができると喜んでいたし、まあまあかな。

 とりあえず、疲れたから今日はログアウトして寝よう……。

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