95.第2回鉱山攻略 その4
「次、2時方向に笛吹き妖精だ」
「はいよ」
「よし、排除終わり。周辺に……怪しい動きはないな」
一度補給に戻って以降、笛吹き妖精を先に排除しながら進むことにした。
結果としてそれは大成功である。
進む速度は遅くなったが、今まで笛吹き妖精以外のモンスターとはエンカウントせず、奥の方まで進めているのだからな。
「それにしても、笛吹き妖精を倒し続けるだけでほかのモンスターと戦わないってなんなのよ」
「サイの嬢ちゃん。ひょっとすると、笛吹き妖精が召喚していた可能性があるぞ」
「笛吹き妖精にそんな能力あったかしら?」
「だからこそ、新種の可能性だってあるわけだがな」
「めんどくさいわねぇ……」
「そう言うな。俺たち全員そう思ってるんだから」
「はは……。お、あそこに採掘ポイントがあるぞ」
「本当だな。ってことは、笛吹き妖精も配置されてるんだろう?」
「1、2、3……3匹だな」
「採掘ポイントや採取ポイントの周りには、がっつり妖精も配置されているところがいやらしい」
「でも倒していくんだろう?」
「おう。準備はいいか?」
「もちろん」
俺は少しでも精度を上げるために伏せ撃ちの姿勢になる。
そして、弾丸を発射するごとに笛吹き妖精を一匹、また一匹と始末していった。
「お見事。じゃあ、採掘は俺らの仕事だ。任せてくれよ!」
「おう、腕がなるぜ!」
「採掘、採掘!」
文房具トリオがノリノリで採掘ポイントに向かい、アイテム採掘を始めた。
このフロアの採掘ポイントのすごさは、1回の採掘でパーティ全員のインベントリに採取結果のアイテムが増えるところだ。
普通は採取者自身にしか増えない。
その上、採掘可能回数も個人ごとに設定されており、採掘可能メンバーが多ければ多いほどアイテムが増えるという仕様である。
「よし、採掘終了! 全部で10回も採掘できたぜ」
「俺もだ! 美味しいな!」
「採掘を安全に行うための難易度が高すぎるけどな!」
「それで、入手アイテムはどんな感じだったんだ?」
「俺は精霊銀鉱が7つに魔銀鉱3つだったな。サイは?」
「精霊銀鉱が8つに、金鉱が1つ、魔銀鉱1つよ」
「やっぱり美味しいぜ、この階の採掘場所は! ただ問題は、とてもじゃないがスナイパーが使えるプレイヤーがいないと、採掘出来ないことか」
「帰ったらガオンに相談だな。これはほかのギルドに傭兵を依頼しても儲かる」
「それがいい。ちなみに、サイとフィートは……」
「私はパス。面倒だもん!」
「サイがパスなら俺もパスかな。俺の適正レベル帯じゃないし」
「だわなぁ。さて、奥に進もうか」
そのあと、奥に進んでいくと、薬草の採取ポイントが2つ、採掘ポイントが1つあった。
薬草の採取ポイントでは、ミドルポーションの材料が手に入るとあって、文房具トリオが大喜びしているな。
そのまま進んで行くと、フィールドの端までたどり着いてしまったらしく、それ以上進めなくなった。
さて、どうしようか?
「どうするんだ。さすがに、フィールドの端までたどり着くことは想定してなかったぞ?」
「俺たちだって想定してなかった。仕方がないから少し北側にまわって。そこから、上り階段まで戻るとしよう」
「構わないけど、マッピングって大丈夫? 私たちはしてないよ?」
「俺たちの方でしてるから気にすんな。じゃあ、こっから先もフィートの旦那、頼んだぜ」
「はいはい。任せてくれ」
ペンの希望に従ってフィールドの端をぐるっと北側にまわる。
マッピングが正しければ、そろそろ上り階段の真北にあたるところで今までと様子の違う場所に出た。
「……明らかにこれまでのパターンとは違う場所だよな?」
「だな。最初からモンスターが配置されている。って言うか、配置されているのはトロールばかり。しかも、奥に見えているのはトロールリーダーじゃねぇか」
「ペン、知っているのか?」
「私でも知っているよ。普通のトロールの何倍も生命力がある厄介なモンスター。しかも、腕や足を切り落としても、生命力がある限り再生するっておまけ付きね!」
「うわぁ……めんどくさそう」
「どうする? 消耗してないわけだし、戦って見るのもありだが……」
「うーん、私はパス。今までの採取アイテムを天秤にかけてまで無理をする相手じゃないよ」
「……それもそうか。こんだけの採掘や採取アイテムをなくすのは痛すぎる」
「じゃあ、迂回するぞ」
俺たちはトロールどもに気付かれないように、かなり距離をとって上り階段への道を目指すことにする。
途中、採取ポイントや採掘ポントを見つければ、その周りの笛吹き妖精を全滅させてアイテム入手を忘れずにね。
そして、上り階段付近にある補給ポイントまで戻ると、俺たち以外すべてのパーティが揃っていた。
「ああ、サイさんたち。戻ってきましたか」
「うん、戻ったわよ。……で、なんなのこの雰囲気?」
「ああ、皆、笛吹き妖精にやられてまともな戦果を上げることができなかったんですよ」
「仕方がないだろう……笛吹き妖精に気付かれれば、大量のモンスターが襲ってくる。笛吹き妖精は逃げ回って倒しにくいし、モンスターの追加はどんどん出てくる。戦闘経験値はおいしいが……ちょっときつすぎるぜ」
「それに全滅したらこの階段まで戻される上、この階で拾ったドロップアイテムをすべて失うって仕様も厳しいわ。ハイコボルトやハイオークの素材はほしいけど、それを持ち帰れないんじゃねぇ……」
「……とまあ、こういう感じなのですよ。それにしても、サイさんたちのパーティはずいぶん戻りが遅かったですね。しかも、全滅による強制帰還じゃありませんし」
「そいつについては俺から話すぜ。まず、この階のモンスターだが……」
ペンが俺たちに代わってこの階の仕様を説明してくれる。
その話を聞いたほかの冒険者たちは……疲れた表情を更に曇らせているな。
「ふむ、そうなると。先手必勝で笛吹き妖精を攻撃できれば、ほかのモンスターに襲われることもないわけですね」
「そうなるな。実際、俺たちは一度も襲われなかったしよ」
「ふーむ。そうなると、今後の調査ではスナイパー持ちをひとりずつ各パーティにつける必要がありますか」
「その方がいいだろう。……あと、奇妙なエリアも見つけたな」
「奇妙なエリア?」
「今までは、笛吹き妖精がモンスターを呼ばなければほかのモンスターは出てこなかった。なのに、そのエリアは最初からトロールの軍勢に守られていたんだよ」
「軍勢とはどの程度ですか?」
「私が見た限りだと……8匹くらい? ただ、トロールリーダーも混じってるから面倒だけどね」
「リーダー付きですか。確かに面倒ですね」
「トロールリーダーがいるとそんなに面倒なのか?」
「ああ、フィートさんは知りませんよね。『リーダー』と名前のつくモンスターがいる場合、モンスターも規律をとった行動をしてくるのです。こちらの弱点を的確に狙った、ね」
「それは面倒そうだ」
「はい。しかし、そのエリアは気になりますね」
「だろう? これだけの戦力も集まっていることだし、一度せめて見ねぇか?」
「……採取アイテムをなくさないように、一度他のプレイヤーに預けましょう。その上で、全パーティで戦闘を仕掛けます。それでいいですか?」
「いいね、面白そうだ」
「今回は煮え湯を飲まされっぱなしだったから、ストレス発散によさそうね」
「というわけです。フィートさん、道中の露払いはお願いしますね」
「了解だ」
俺としても、あの奥は気になっていたし、問題ないかな。
サイが暴れすぎないか心配だけど。
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