88.樹氷の大森林 1
新ダンジョン発見の翌日、サイは自分のファンスレに今日のことを書き込んでいたらしい。
おかげで攻略開始前だというのに配信の接続数が多い多い。
そして開始時間になるとサイが前説を始める。
「やあやあ、みなさんこんばんはー」
『こんばんはー』
『サイちゃんおひさー』
『最近いなかったよね』
「ちょっとリアルの方で用事がね。その間はフィートに頼んであったでしょ?」
『彼氏さんの配信も楽しかったよ』
『そうそう』
『まったり空の旅配信』
『それで今日はどこのダンジョン攻略するの? ダンジョン攻略としか書いてなかったけど?』
『だな。ってーかそこどこ? 背景が見たことないんですけど?」
「ふっふーん。今日の配信は新発見の初見ダンジョン攻略! 『樹氷の大森林』冒険記ですよ!」
スレは俺も確認したけど、ダンジョン攻略配信としか書いてなかったものな。
新発見のダンジョン攻略となれば訳が変わるか。
『なに!?』
『新ダンジョン!?』
『え、マジ?』
『そんなのどこで見つけたの?』
「場所はまだ教えません。私たちがクリアしたら教えます。とりあえず新ダンジョンの証拠にクリア履歴の画面見せるね」
サイはダンジョンデータの画面を配信上に載せる。
それを見ているリスナーたちは……なかなか珍しいものを見たという顔をしているな。
『……クリア者なし。マジモンの新規ダンジョンじゃ』
『誰かが見つけてクリアできていないとかは?』
『可能性は否定できないが……誰かさっきのダンジョン名知ってるか?』
『知らん』
『俺もだ』
『わからん』
『攻略サイトを調べてきた。該当するダンジョン名はなかった』
『有能。てことは正真正銘の新規ダンジョンの可能性か……発見者は彼氏さんだな!』
「半分正解! 見つけたのは私! フラグを立ててたのはフィート!」
『あー、フラグ管理系のダンジョンかー』
『そりゃ見つからないわな』
「ま、そういうことね。じゃあはじめるよー」
『おー!』
『いけいけ、サイちゃん!』
『ゴーゴー!』
「……ノリがいいな、お前のリスナー」
「昔はこんなのばっかりやってたからね。いやー懐かしいなー」
そういやサイは戦闘ガチ勢だったか。
俺に付き合ってる間にいろいろと騒動に巻き込まれた感があるけど。
「ほーら、ダンジョン入るよ」
「わかった。いこう」
ダンジョン内に侵入してみるとそこはほのかな明かりがともった鍾乳洞のような場所だった。
つまり。
『彼氏さん。今回も飛べない』
『サイちゃん。彼氏さんが飛べるダンジョンにも連れて行ってあげて?』
『彼氏さんが近接タイプじゃないだけマシだな……』
「うーん、やっぱり洞窟タイプだね。私が前衛バリバリ行くからカメラはフィートに預けるね」
「了解した。……というか、俺のレベルでこのダンジョンって戦えるのか?」
「装備的にはいける。レベル的には……微妙?」
『サイちゃん。彼氏さんに優しくしてあげて?』
『飛べないだけじゃなくレベル的にも無茶なところとか彼氏さんに同情が集まる』
『やっぱりサイちゃんの彼氏は無理だ』
「まあまあ。私が3人分働けば問題ナッシング! はりきって行ってみよう!」
そんな感じで始まったダンジョン攻略であったが、序盤からつまずくことになる。
具体的にはモンスターがめんどくさい。
「あーもう! 破壊しても破壊してもすぐ再生するスノーゴーレムとか反則でしょ!」
「炎属性攻撃で倒せば再生しないけどな」
「私は純粋物理火力で押すタイプだから属性武器はあまり持ってないの!」
『サイちゃんの準備不足に失笑を隠しきれない』
『どう考えても氷属性のダンジョンなんだから炎属性武器を持ち込もう、サイちゃん?』
『サイちゃんはやはり脳筋であった』
「うっさいわ!」
仕方がないのでサイがHPを削って俺がとどめをさす方法で進んで行く。
ここのザコ、ほとんどが属性ダメージ以外でとどめをさすと復活するからめんどくさい。
……サイの準備不足が最大の原因なのだが。
『お、洞窟が終わるな』
『まだ始まって10分だぞ。もうゴール?』
『いや、それはねーだろ?』
「んー中継地点かな? あそこにキャンプポイントがあるし」
「中継地点?」
「あ、フィートは本格的なダンジョン初めてだっけ。ダンジョン内にはね、全滅したときに戻される場所があるの。それがキャンプポイント」
「ふーん。でも10分でキャンプポイントってあり得るのか?」
「……普通はないね」
「どういう構造なんだろうな、このダンジョン」
サイと話をしながら洞窟を抜ける。
するとそこには視界一面に広がった氷の森があった。
「なるほど。確かに『樹氷の大森林』ね」
「だな。ここからが本番というわけだ」
『うわーきれいなダンジョン』
『彼氏さんの配信は絶景ポイント満載』
『今日はサイちゃんの配信だけどなw』
『細かいことを気にすんなしw』
『洞窟内のはずなのに空から光が注いでるのはなぜだぜ?』
『彼氏さん。上のほうにカメラ向けてプリーズ』
「はいよ」
カメラを上の方に向ける……つまり俺も上を向く。
そこには氷の大地を貫いて降り注ぐ光がくっきりと見えていた。
『うわー、天井も絶景だ』
『普通に観光スポット化しそうなダンジョン』
『……なあ、いまカメラにチラッと映ったんだけど森の奥の方に黄金の木が生えてなかったか?』
『えっ?』
『え?』
『えぇ?』
『彼氏さん、カメラお願いします』
「オッケー」
リスナーの要望通りカメラの向きを変える。
樹氷でできた森の中央部付近には小高い丘があり、そこには黄金の木が一本立っていた。
「うん、あれが今回の目標だね」
「ああ、外れでなくてよかった」
『サイちゃん、彼氏さん。説明プリーズ』
『そもそもなんなのこのダンジョン?』
『彼氏さん何のフラグを踏んでたどりついたん?』
「私たちが探していたのはなくなっていた金王林檎の木だよ。それがこのダンジョンにあると思ってきたんだけど、正解だったね!」
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