87.探せ、金王林檎の木

「ふむふむ。つまり生産系プレイヤーに手を貸して恩を売っておきたいと」


 オジジから情報を得た翌日、サイと合流して状況を説明する。

 ……こいつ、人の話を聞いていたのか?


「そんな人聞きの悪いことは言ってないだろう?」


「冗談よ。それにしてもシロッコ氷河ねぇ……」


「なにか問題でも?」


「フィートのレベルじゃぎりぎりかなと思って。それにいまのメイン武器って氷属性よね? シロッコ氷河じゃ使えないよ?」


 確かにそうかも。

 シロッコ『氷河』なんだから氷属性に強い敵が多そうだ。


「うーん、困ったな。レールのところにでも行ってみるか」


「そだね。それが早いかも」


 サイの賛同も得られたし、ファストグロウのレールを訪ねる。

 レールはいつもの店の中にいて俺たちを出迎えてくれた。


「おう、今日はどうした?」


「フィートがシロッコ氷河に行きたいらしいの。いい武器ある?」


「……えらくいきなりだな。まあサイがいきなりなのはいつものことか」


「すまないな。でもシロッコ氷河に行きたいのは事実だ」


「ふーむ。となると炎属性か……前に売ったファイアバグのアサルトは持ってるか?」


「あるけど……どうするんだ?」


「俺の手持ち素材じゃ新しい炎属性武器は作れねぇ。でも武器強化ならできる。そういうわけだから少し貸してくれ」


「それなら……はい」


「おうよ。すぐ終わるから待っててくれ」


 レールはいったん店の裏手に消えたが本当にすぐ戻ってきた。

 手にしている武器は……かなり前と変わっている。


「マグマフライのアサルト、お待ち。攻撃力も属性値も強化できたぞ」


「さんきゅ、レール」


「いいってことよ。その代わり、シロッコ氷河の素材を仕入れてきてくれ」


「りょーかいです。さ、武器もできたしシロッコ氷河に向かおう!」


「わかった。レール、また」


「おう、頑張ってこいよ」


 サイいわく、シロッコ氷河に行くには沈黙の森を抜けねばいけないらしい。

 沈黙の森の上空を飛び抜けるには一度沈黙の森のボスを倒していないとだめなんだとか。

 そういうわけなので沈黙の森を進むわけだが……。


「なんだろう。まるで緊張感がないな」


「いまさら苦戦する場所でもないしねー。あ、でもボスは強いから注意ね」


「わかったよ。……でもサイならワンパンなんだろ?」


「時間かけてられないしワンパンします」


「……了解だ」


 やがてたどりついた沈黙の森最奥部。

 そこにいたボスはクワガタとカブトムシを合わせたような頭を持ち、炎を吹き上げながら飛び回るモンスターだった。

 ……突撃してきたところにサイがカウンターを決めて本当にワンパンだったけどさ。


 ボスを倒して少しばかり進むと気温が急激に下がり木々が凍り付いている。

 やがて視界が開け、そこにあったのは氷の平原。

 ここがシロッコ氷河か。


「たどりついたよ。それでフィート、目的の……きんおうりんごのき……だっけ? それってどの辺にあったの?」


「ちょっと待って。……ここからだと南西の方角だな」


「オッケー。じゃあ歩こうか」


「飛ぶんじゃなく?」


「あれ、見て」


 サイが指さした方を見上げてみると……氷でできた小型のトカゲが飛び回っている。

 飛ぶとあれと戦う事になるのか。


「フリーズフライっていうんだけどね。戦闘機動になると結構カクカク飛んであてにくいのよ」


「なるほど。ましてサイを抱えていると俺は攻撃できない、と」


「そうなるね。だから歩き」


「わかりました。行こうか」


「ゴーゴー」


 サイと一緒に氷の平原を歩き回る。

 なかなかどうして歩きにくいしモンスターもよく出るが……仕方がない。

 小一時間ばかりかけてオジジから聞いた場所までやってきたがなにもないな。


「聞いて場所ってこのあたりであってる?」


「ああ、間違いない。でもなにもないということは外れかな」


「うーん……そうとも限らないと思うんだよねえ」


「サイ?」


 サイにはなにか考えがあるらしい。

 俺はこのままサイの考えを聞いてみる。


「フィートの話だと地殻変動でなくなったんでしょ? ならやっぱりこの近辺にあると思うのよ」


「……見渡す限りなにもないが」


「設定の話をするとね。シロッコ氷河って氷の厚さが100メートル以上あるんだって」


「……まさか」


「多分そのまさか。金王林檎の木は氷の下に埋もれたんだと思うよ」


 さすがにそこまでは予測していなかった。

 ……いや、予測しておくべきだったのか。


「どうする? まさか氷を溶かして探すわけにもいかないよな……」


「そもそもゲームのオブジェクトだから壊れないと思う」


「……振り出しか?」


「そんなことないって。地下にあるんだとすればどこかに入り口があるはず!」


「でも、そんな入り口があるなら誰かが発見しているんじゃないのか?」


「このゲームってイベント進行していないと出現しないダンジョンがあったりするわけですよ。今回がそのタイプだと思うの」


「……また、凝った作りで」


「そういうわけだから、周囲の探索はじめるよ」


「承知した。捜索範囲が広がっていくなぁ」


 その日は印の地点から西側を重点的に調べたがなにも見つからない。

 調査クエストならよくある話だとサイは平気な顔をしていたので本当にいつものことなんだろう。

 翌日は東側の探索に向かったのだが……そこには不自然な盛り上がり方をした場所があった。


「……ふむ、あそこだね」


「飛んで探してたら見落とすような配置になってるな」


「捜索の基本は足で探すってことよ」


「らしいな。ともかく行ってみよう」


「ほいさー」


 不自然な盛り上がり方をしている部分の裏側まで回り込むと、そこは下り斜面になっていて地下まで続いている。

 転ばないように慎重に降りていくと、やがて氷の門がありそこから先はダンジョンになっているようだった。


「ふむふむ……ダンジョン名『樹氷の大森林』、クリア者なし……と」


「サイ?」


「よし、決めた!」


 なにを決めたのか知らないが、なにかを決心したらしい。

 それがなんなのか尋ねてみるとサイらしい答えが返ってきた。


「明日、このダンジョン攻略を生配信するよ! 誰も発見したことのない新規ダンジョン、わくわくするね!」

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